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第一章 転生者二人の高校生活
成長著しい一八
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四ヶ月が過ぎていた。もう季節は夏の終盤に差し掛かっており、夏休みも数日を残すだけとなっている。
学校行事である体育祭の準備も滞りなく済んでおり、既に両校を区切っていた壁は夏休み期間中に取り払われていた。
今日も今日とて一八は剣術の稽古中。たった一週間で素振りの課題をクリアした彼は技を習いながら少しずつ成長を遂げていた。
「よっしゃ、素振り一万回終わり!」
四時間というノルマは達成したものの、素振りは稽古を始める前に必ず課せられていた。当初は正面素振りだけであったけれど、跳躍などの動きを取り入れた素振りや左右面素振りといった応用的な振り方まで一八は学んでいる。
素振りのあとは一時間の打ち込み。例によって鋼鉄製の打ち込み台に力一杯打ち付けるという苦行である。
道場生の誰もが驚く一八の上達ぶり。同じような真似は誰にもできなかった。
「師範、一八君は本当に凄いですね。鋼鉄の打ち込み台にも全力で振り抜けるなんて。正確に芯を捕らえねば身体がバラバラになってしまうはず。彼は確実に竹刀の面で捕らえていますよ。また跳ね返る力をも剣圧で押しつぶしている。誰にでもできることではありません」
「ふはは、清水よ。一八は毎日一万回大竿を振っておるのだ。これで上達しなければ才能などない」
「大竿を振り抜けることが既に才能かと思いますが……」
社会人クラスの清水が感心している。彼もアマチュアでは名を馳せた剣士だが、一八の成長は異常だと感じた。過酷な稽古は単なるイジメかとも思えたけれど、全てを消化した一八を見てはそれが正解であったのだと分かる。
「彼は騎士学校を受験するつもりなんでしょうか?」
清水の質問が続く。興味はその一点のみだ。四ヶ月前であれば笑い飛ばしただろうが、既に社会人の部に混じっても引けを取らない。持ち前のパワーと正確な太刀筋は経験のある剣士が相手でも十分に戦えたのだ。
「見て分からんか? 何の目標もない者がどれほど頑張れる? この数ヶ月に亘り一八に課した稽古は倫理的に問題があるものばかり。けれど、一八は全てをやり遂げた。筆記試験さえどうにかなれば儂はあり得ると考えておる」
明確な返答ではなかったが、試験という話が出てきては疑問など残らない。一八が受験するつもりなのは明らかである。
「しかし、これほどまでの逸材だとは思いませんでした。確かに体格は優れていましたけれど、剣術はセンスが求められます。お嬢のような類い希なる才能がなければ高みには到達できません」
「清水よ、一八は高校柔術界を無敗で牽引した男だぞ? 格闘センスは申し分ない。相手の間合いを計ることに関しては抜きん出ておる。お前も対戦したとき苦戦しただろう? それは一八がお前の間合いを潰していたからだ」
辛くも勝利したのは二ヶ月前のこと。清水はその記憶を掘り返している。
その頃の一八はまだ上下振りばかりであり、細かなテクニックを使ってこなかった。それでも苦戦したわけは一八のパワーにある。とてもいなせない強烈な一撃は踏み込む勇気を奪うものであった。
「今はもう敵わないかもしれませんね……」
「落ち込まんでもいい。何せ儂は試験官をのしてやろうと考えておる。憎たらしい騎士共が泡を吹くところを見たいだろ?」
冗談のような話だが、清水には武士が本気なのだと分かった。筆記試験が問題という一八は内申点も期待できない。学校のレベルが低すぎるのだ。どれほど絶賛されようとも、必ず割り引かれてしまうはず。
「私も受験した経験があります。師範の仰る通りですね。彼には試験官を失神させて欲しいです。ケチのつけようがない結果を期待しています」
一八には圧倒するしかなかった。善戦したくらいでは目に留まらない。試験官に勝利する以上のことを成さねば合格などあり得なかった。
稽古を続ける一八を清水は羨ましそうに眺めている……。
学校行事である体育祭の準備も滞りなく済んでおり、既に両校を区切っていた壁は夏休み期間中に取り払われていた。
今日も今日とて一八は剣術の稽古中。たった一週間で素振りの課題をクリアした彼は技を習いながら少しずつ成長を遂げていた。
「よっしゃ、素振り一万回終わり!」
四時間というノルマは達成したものの、素振りは稽古を始める前に必ず課せられていた。当初は正面素振りだけであったけれど、跳躍などの動きを取り入れた素振りや左右面素振りといった応用的な振り方まで一八は学んでいる。
素振りのあとは一時間の打ち込み。例によって鋼鉄製の打ち込み台に力一杯打ち付けるという苦行である。
道場生の誰もが驚く一八の上達ぶり。同じような真似は誰にもできなかった。
「師範、一八君は本当に凄いですね。鋼鉄の打ち込み台にも全力で振り抜けるなんて。正確に芯を捕らえねば身体がバラバラになってしまうはず。彼は確実に竹刀の面で捕らえていますよ。また跳ね返る力をも剣圧で押しつぶしている。誰にでもできることではありません」
「ふはは、清水よ。一八は毎日一万回大竿を振っておるのだ。これで上達しなければ才能などない」
「大竿を振り抜けることが既に才能かと思いますが……」
社会人クラスの清水が感心している。彼もアマチュアでは名を馳せた剣士だが、一八の成長は異常だと感じた。過酷な稽古は単なるイジメかとも思えたけれど、全てを消化した一八を見てはそれが正解であったのだと分かる。
「彼は騎士学校を受験するつもりなんでしょうか?」
清水の質問が続く。興味はその一点のみだ。四ヶ月前であれば笑い飛ばしただろうが、既に社会人の部に混じっても引けを取らない。持ち前のパワーと正確な太刀筋は経験のある剣士が相手でも十分に戦えたのだ。
「見て分からんか? 何の目標もない者がどれほど頑張れる? この数ヶ月に亘り一八に課した稽古は倫理的に問題があるものばかり。けれど、一八は全てをやり遂げた。筆記試験さえどうにかなれば儂はあり得ると考えておる」
明確な返答ではなかったが、試験という話が出てきては疑問など残らない。一八が受験するつもりなのは明らかである。
「しかし、これほどまでの逸材だとは思いませんでした。確かに体格は優れていましたけれど、剣術はセンスが求められます。お嬢のような類い希なる才能がなければ高みには到達できません」
「清水よ、一八は高校柔術界を無敗で牽引した男だぞ? 格闘センスは申し分ない。相手の間合いを計ることに関しては抜きん出ておる。お前も対戦したとき苦戦しただろう? それは一八がお前の間合いを潰していたからだ」
辛くも勝利したのは二ヶ月前のこと。清水はその記憶を掘り返している。
その頃の一八はまだ上下振りばかりであり、細かなテクニックを使ってこなかった。それでも苦戦したわけは一八のパワーにある。とてもいなせない強烈な一撃は踏み込む勇気を奪うものであった。
「今はもう敵わないかもしれませんね……」
「落ち込まんでもいい。何せ儂は試験官をのしてやろうと考えておる。憎たらしい騎士共が泡を吹くところを見たいだろ?」
冗談のような話だが、清水には武士が本気なのだと分かった。筆記試験が問題という一八は内申点も期待できない。学校のレベルが低すぎるのだ。どれほど絶賛されようとも、必ず割り引かれてしまうはず。
「私も受験した経験があります。師範の仰る通りですね。彼には試験官を失神させて欲しいです。ケチのつけようがない結果を期待しています」
一八には圧倒するしかなかった。善戦したくらいでは目に留まらない。試験官に勝利する以上のことを成さねば合格などあり得なかった。
稽古を続ける一八を清水は羨ましそうに眺めている……。
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