オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第一章 転生者二人の高校生活

事後報告

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 翌日は早朝から生徒会の臨時会議が開かれていた。スケジュールはハンディデバイスにより通知され、昨日あったことの詳細が報告されると伝えている。

「役員の皆様、数日に亘って議論してきました武道学館との共同開催についての続報をお知らせしたいと思います」
 生徒会長の恵美里が集まった役員たちに話し始める。
 間違いなく不満が噴出するだろう。行事として含まれていない体育祭が共同開催のプログラムとなるだなんて。

「武道学館側は体育祭との主張を譲りませんでした。共同開催を成功させるには体育祭しかないのだと。文化祭では武道学館生の興味など惹けないという理由でした……」
 まずは経緯から説明する。戦いによって決めるしかなかったこと。言い訳でしかなかったのだが、恵美里は順だって口にしている。

「議論は平行線を辿りました。そこで奥田会長が提案をされたのです。玲奈さんと奥田会長が一騎討ちをし、勝った側の提案を呑むといった話を……」
「まさか七条会長はその提案を呑まれたのですか!?」
 書記の木幡秀美が声を上げた。流石に聞き流せない。武道では名を馳せているアネヤコウジ武道学館。その頂点に君臨する生徒会長に女生徒が勝てるはずもなかったのだ。

「選択肢は他になかったのです。秀美さん、もしも強引に文化祭を開催したとして彼らは納得しませんし、協力すらしてくれません。それでは我がカラスマ女子学園の評価が下がってしまいます。貴方も騎士学校を受験するつもりなら、それがどういうことを意味するのか分かってもらえるでしょう……?」
「ですけど!?」
 秀美にも分かっていたけれど、それとこれとは話が別だ。勝敗で決めるにしても戦いの結果だなんて秀美には受け入れられない。

「結果は玲奈さんが負けを認めて我が校の主張は通りませんでした。しかし、奥田会長は完全に伸びていましたし、戦いの内容は玲奈さんが勝っています。従って玲奈さんを責めないでいただきたい。責任を負うべきは生徒会長であるわたくしなのですから……」
 恵美里が言った。責任は自分にあると。代理で戦った玲奈は何も悪くないのだと。
「しかし、議題を持ち帰りもせず、その場で決めてしまうなんて横暴ではないでしょうか?」
 秀美が質問を続ける。彼女は昨年度末にあった生徒会長選に敗れた者だ。次点であったことから書記として指名されているが、その役割には不満を覚えている。

「秀美さん、異議があるのなら貴方自身が武道学館へと赴いてください。あの雰囲気を味わってなお意見を口にできるのでしたら、わたくしは生徒会長を辞任し貴方にその座を譲りましょう」
 強く返された秀美は口を噤んだ。聞く限り武道学館はかなり荒れ果てている。もしも自分が一人で交渉に行くとしたら無事に戻れる気はしない。

「結果に対する意見は幾らでも聞きましょう。けれど、過程から理解してもらえればと存じます。わたくしとてこの結果は不本意であります。ですが玲奈さんは全力で戦ってくれましたし、彼女の代わりを他の誰も務めるなんてできなかったでしょう。元より文化祭では必ず失敗すると奥田会長は申しておられました。受験を控えるわたくしたちカラスマ女子学園の評判が地に落ちるとも。だからこそ武道学館生にも分かりやすい決着を望まれたのだと思います。武道学館生が文化祭を受け入れる唯一の手段。武力を示さなければ誰も従わないのだと奥田会長は分かっていたのでしょう」
 過度に美化された解釈であったものの、その説明に秀美は黙り込んだ。確かに相手を納得させられなければ協力など得られない。強制したとして文化祭が成功するとは思えなかった。

「秀美殿、全ては私の責任です。私はどのような罰も受ける所存であります。誠に申し訳ない……」
 続けて玲奈が頭を下げた。これには流石に恐縮してしまう。戦いの勝敗にて決定するのが前提であったとして、彼女以外が代表するなどできなかったのだ。
「岸野さん止めてください。私は別に罰など望んでいません。貴方は精一杯戦ってくれたと聞きましたし、敗北を認めた理由も騎士として相応しいと思います……」
 秀美の不満は議論がなかったことだけだ。また同行していない自分にとやかくいう筋合いがないことなど始めから分かっている。即日の決定に少しばかり腹を立てていただけであった。

「他にご意見はありますでしょうか? わたくしとしましては結果を受け止め、良い方向に向かっていくよう議論したいと考えております」
 ここで恵美里が話題の方向性を変えた。決定したことについて話し合うのは不毛な時間でしかない。停滞するよりも彼女は前へと進みたかった。

「はい恵美里会長! 学園には体育祭などありませんけど、私の中学には体育祭がありましたし、誰もが一度は経験しているのではないかと思います。プログラムすべき競技について意見し合いませんか?」
 副会長である小乃美が手を挙げて発言する。それは恵美里の意図通りに前向きな意見であった。
「小乃美さんは経験があるのですか? わたくしたちエスカレーター組は初等部の運動会くらいしか経験しておりません。どうか経験談をお聞かせ頂けたらと存じます」
 どうやら恵美里は体育祭を経験したことがないらしい。同じくエスカレーター組である舞子と玲奈も必然的に経験がなかった。高校からの編入組である小乃美と秀美しか体育祭なる行事を知らないらしい。

「そういえばお三方はカラスマ女子中の出身でしたね……。私の母校では徒競走や幅跳びとか高跳びなんてのもありましたよ」
「このみん、体育祭って個人競技ばかりなの?」
 ここで舞子が聞いた。テレビで見るような知識では団体戦などもあったと記憶している。だからこそ小乃美が挙げた競技には疑問を持ってしまう。
「団体競技もあるにはあるけど練習が必要かなぁって。綱引きくらいなら分かりやすいけど、リレーとかはバトン練習しなきゃだし……」
 小乃美はできるだけ時間を割く必要のない競技を挙げただけのよう。可能な限り簡潔に失敗のない競技が望ましいと考えている。

「このみん殿、私はセーラー服とガトリング砲というアニメで見たことがあるぞ! 体育祭は男女でダンスとかしちゃうんじゃないのか!?」
 次に手を挙げたのは玲奈である。彼女は恵美里と同じ中学であったために体育祭の実状を知らないが、アニメによって知識を持っているらしい。
「そのアニメは知らないけど、ダンスする場合もあるね。私の中学ではなかったけど」
「なんとセラガトを知らないのか? 名作だから見た方がいいぞ! 激しい銃撃戦が繰り広げられつつも、青春の甘酸っぱいシーンもちゃんと描かれている。血みどろでありながらも美しい作品だから、このみん殿も見るべき!」
「まあまあ玲奈さん、アニメの布教はそれくらいに……。確かに少しでも練習に割く時間は短い方がいいかもしれませんね。小乃美さん、貴重なご意見ありがとうございました」
 このあとも経験者である小乃美と秀美に質問をし、恵美里はスラスラと何かを書き上げている。

「さて、一応は体育祭ということで理事会には報告させていただきます。それで玲奈さんには悪いのですけれど、学園としての提案を奥田会長に伝えていただけませんか? あと共同開催実行委員会の設置が必須です。少なくとも四名の実行委員を武道学館生から募るようにお願いしてください。またそれは別に生徒会の役員でなくても構いません」
 言って恵美里がメモを手渡す。それには実行委員会に関する要望と体育祭で行うべき競技が羅列してあった。玲奈はそれを読み上げるだけでいいらしい。

「お安い御用です。この玲奈にお任せあれ!」
 ここで会議は終了となった。恵美里は早速と理事長に会いに行き、此度は玲奈一人がアネヤコウジ武道学館へと向かうことに。

 意気揚々と玲奈は学園をあとにしていく……。
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