19 / 212
第一章 転生者二人の高校生活
武道学館の異変
しおりを挟む
アールヌーボー様式の美しい校舎を出て、キャンパス全面を彩る芝生を通っていく。
カラスマ女子学園はどこを見渡そうがゴミ一つなく、目に潤いを覚えるほどに壮麗であり煌びやかだった。
だが、学園をあとにしアネヤコウジ武道学館の校門前まで来ると世界が一変する。とても同じ法人が経営しているとは思えない。無機質なコンクリートの壁。黒ずんだ校舎が醸し出す荒廃感はある意味新鮮である。加えて窓には鉄格子まで取り付けられており、全体的な印象は学校というより刑務所だ。
「やっぱ凄いね。アネヤコウジ武道学館は……」
「まったくですね。魔道車通学ですので普段は通り過ぎるだけ。武道学館がここまで荒れ果てているとは考えていませんでした……」
改めて戸惑う恵美里と舞子。その一方で玲奈は周囲に視線を投げながら彼女たちの前に立つ。
「全力でお守り致しますが気を付けてください。こんな豚小屋に住むようなやつらです。性癖が歪んで当然なんですから……」
三人が校門の前で話をしていると黒い影が視界に飛び込んできた。かといって、それは武道学館生ではない。とても小さな黒い生き物だった。
「あああっ! 玲奈ちゃん、黒い柴犬の子供よ! 可愛い!」
三人に駆け寄ってきたのは子犬である。出迎えようとしているのか、愛らしい尻尾を小刻みに振っていた。
直ぐさましゃがみ込んだのは舞子だ。目的も忘れて子犬とじゃれ始めている。
「癒やされるわぁ。校舎の方から走ってきたけど、もしかして武道学館で飼われてるのかな?」
「舞子殿、それはあり得ません。恐らく、それは緊急時の非常食でしょう。でもなければ、豚共が餌を与える理由はありませんからね……」
またそんな冗談をと舞子。玲奈の忠告をまるで聞いていないようだ。抱き上げては柴犬の頭を撫でている。
「子犬のように見えますが、実は地獄の門番ケルベロスやもしれません。舞子殿、懐柔されるのであれば慎重にお願いします。今のうちに手懐けておれば、不意打ちを避けられるやもしれません」
玲奈の分析にアハハと笑う恵美里と舞子。少しも心配していないようである。
しかし、グルリと校内を見渡せばガラの悪そうな連中が目に入った。如何にも不良といった感じ。恵美里と舞子の二人は流石に尻込みしてしまう。
「玲奈さん、本当に大丈夫ですか……?」
恵美里の問いかけに、玲奈は一歩前へと進む。まあ任せてくださいと玲奈はドンと胸を叩き、戦いの準備なのか長い黒髪を後ろで纏めて竹刀を右手に握った。
既に放課後である。従ってアネヤコウジ武道学館も大勢の生徒が帰宅しようとしていた。
玲奈を先頭にして三人は歩いて行く。恵美里と舞子は過度に緊張していたけれど、そんな二人も校門を潜るや異変に気付いた。何やら様子がおかしいことに。
「玲奈さん、お疲れさまっす!」
「玲奈さん、お先に失礼します!」
「玲奈さん、ご苦労様です!」
明らかに前回とは異なった。全員がすれ違い様に頭を下げて玲奈に挨拶している。どうやら、この二日で彼女の名前は全校生徒に知れ渡ったらしい。
「玲奈ちゃん、いったい何をしたっての? たった一日で……」
堪らず舞子が尋ねる。少なからず揉め事を覚悟していた舞子にとって、お姫様のような扱いの玲奈は完全に予想外だ。
「風神と雷神を倒したら、全員が大人しくなったのだ!」
「何それ!? 人間よね……?」
話を聞いたあとでもさっぱり分からないが、とりあえずは喧嘩に発展する危険がなくなったのだと理解している。
校庭を抜け、三人は古びた校舎の入り口へとやって来た。
「玲奈様、ご機嫌麗しゅう。奥田会長は生徒会役員室にいらっしゃいます。ご案内いたしましょう」
校舎の前にいた大男が頭を下げた。これには舞子も恵美里も唖然としてしまう。凶悪そうな顔と体格。だというのに彼はとても丁寧な対応をしていた。
「雷神、気が利くな! それで風神はどうした?」
「は、風神めは玲奈様の一撃に耐えきれなかったようで入院中でございます。何でも頭蓋骨を骨折しているのだとか……」
しれっと恐ろしいことを聞いてしまい恵美里は青ざめ、舞子は震え上がっている。
二人は昨日の放課後に何があったのかを察していた。これ程までに男子生徒の態度が一変したのは、それだけのことがあったから。頭蓋骨骨折などカラスマ女子学園では聞いたこともない大怪我である。
「見舞いは必要か?」
「いえいえ、とんでもございません! 風神めが未熟であっただけ。玲奈様にご足労いただく必要など少しもございませんので!」
それならば結構と玲奈。相手の大怪我にもかかわらず彼女は大きな声で笑っている。
正直に恵美里は人選に失敗したと思う。玲奈の剣術を知っていたからこその抜擢だが、男の子相手にここまで圧倒してしまうなど想定を遥かに超えている。
雷神こと来田の案内により、三人は何事もなく生徒会役員室へと到着。小さく二回ノックをしてから、玲奈が徐に扉を開いた。
「頼もう!――――」
カラスマ女子学園はどこを見渡そうがゴミ一つなく、目に潤いを覚えるほどに壮麗であり煌びやかだった。
だが、学園をあとにしアネヤコウジ武道学館の校門前まで来ると世界が一変する。とても同じ法人が経営しているとは思えない。無機質なコンクリートの壁。黒ずんだ校舎が醸し出す荒廃感はある意味新鮮である。加えて窓には鉄格子まで取り付けられており、全体的な印象は学校というより刑務所だ。
「やっぱ凄いね。アネヤコウジ武道学館は……」
「まったくですね。魔道車通学ですので普段は通り過ぎるだけ。武道学館がここまで荒れ果てているとは考えていませんでした……」
改めて戸惑う恵美里と舞子。その一方で玲奈は周囲に視線を投げながら彼女たちの前に立つ。
「全力でお守り致しますが気を付けてください。こんな豚小屋に住むようなやつらです。性癖が歪んで当然なんですから……」
三人が校門の前で話をしていると黒い影が視界に飛び込んできた。かといって、それは武道学館生ではない。とても小さな黒い生き物だった。
「あああっ! 玲奈ちゃん、黒い柴犬の子供よ! 可愛い!」
三人に駆け寄ってきたのは子犬である。出迎えようとしているのか、愛らしい尻尾を小刻みに振っていた。
直ぐさましゃがみ込んだのは舞子だ。目的も忘れて子犬とじゃれ始めている。
「癒やされるわぁ。校舎の方から走ってきたけど、もしかして武道学館で飼われてるのかな?」
「舞子殿、それはあり得ません。恐らく、それは緊急時の非常食でしょう。でもなければ、豚共が餌を与える理由はありませんからね……」
またそんな冗談をと舞子。玲奈の忠告をまるで聞いていないようだ。抱き上げては柴犬の頭を撫でている。
「子犬のように見えますが、実は地獄の門番ケルベロスやもしれません。舞子殿、懐柔されるのであれば慎重にお願いします。今のうちに手懐けておれば、不意打ちを避けられるやもしれません」
玲奈の分析にアハハと笑う恵美里と舞子。少しも心配していないようである。
しかし、グルリと校内を見渡せばガラの悪そうな連中が目に入った。如何にも不良といった感じ。恵美里と舞子の二人は流石に尻込みしてしまう。
「玲奈さん、本当に大丈夫ですか……?」
恵美里の問いかけに、玲奈は一歩前へと進む。まあ任せてくださいと玲奈はドンと胸を叩き、戦いの準備なのか長い黒髪を後ろで纏めて竹刀を右手に握った。
既に放課後である。従ってアネヤコウジ武道学館も大勢の生徒が帰宅しようとしていた。
玲奈を先頭にして三人は歩いて行く。恵美里と舞子は過度に緊張していたけれど、そんな二人も校門を潜るや異変に気付いた。何やら様子がおかしいことに。
「玲奈さん、お疲れさまっす!」
「玲奈さん、お先に失礼します!」
「玲奈さん、ご苦労様です!」
明らかに前回とは異なった。全員がすれ違い様に頭を下げて玲奈に挨拶している。どうやら、この二日で彼女の名前は全校生徒に知れ渡ったらしい。
「玲奈ちゃん、いったい何をしたっての? たった一日で……」
堪らず舞子が尋ねる。少なからず揉め事を覚悟していた舞子にとって、お姫様のような扱いの玲奈は完全に予想外だ。
「風神と雷神を倒したら、全員が大人しくなったのだ!」
「何それ!? 人間よね……?」
話を聞いたあとでもさっぱり分からないが、とりあえずは喧嘩に発展する危険がなくなったのだと理解している。
校庭を抜け、三人は古びた校舎の入り口へとやって来た。
「玲奈様、ご機嫌麗しゅう。奥田会長は生徒会役員室にいらっしゃいます。ご案内いたしましょう」
校舎の前にいた大男が頭を下げた。これには舞子も恵美里も唖然としてしまう。凶悪そうな顔と体格。だというのに彼はとても丁寧な対応をしていた。
「雷神、気が利くな! それで風神はどうした?」
「は、風神めは玲奈様の一撃に耐えきれなかったようで入院中でございます。何でも頭蓋骨を骨折しているのだとか……」
しれっと恐ろしいことを聞いてしまい恵美里は青ざめ、舞子は震え上がっている。
二人は昨日の放課後に何があったのかを察していた。これ程までに男子生徒の態度が一変したのは、それだけのことがあったから。頭蓋骨骨折などカラスマ女子学園では聞いたこともない大怪我である。
「見舞いは必要か?」
「いえいえ、とんでもございません! 風神めが未熟であっただけ。玲奈様にご足労いただく必要など少しもございませんので!」
それならば結構と玲奈。相手の大怪我にもかかわらず彼女は大きな声で笑っている。
正直に恵美里は人選に失敗したと思う。玲奈の剣術を知っていたからこその抜擢だが、男の子相手にここまで圧倒してしまうなど想定を遥かに超えている。
雷神こと来田の案内により、三人は何事もなく生徒会役員室へと到着。小さく二回ノックをしてから、玲奈が徐に扉を開いた。
「頼もう!――――」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる