オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第一章 転生者二人の高校生活

罪と罰

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 淡い想いを抱くも直ぐさま打ちのめされた一八は頭を抱えて嘆く。
「あああ、何てことだ! 儚すぎる! 運命の出会いには間違いなかったけども!」
「フハハハ! 貴様なんぞに殿下は落とせんよ!」
 何か二人して楽しそうにしている。少なくとも玲奈たちを見守る者にはそう思えた。
 流石に気になった舞子が玲奈に近寄っていく。

「ねぇ、玲奈ちゃん。奥田生徒会長とどういう関係なの?」
 玲奈に限って色恋沙汰の話はないだろうと考えていた。だから余計に舞子の好奇心を刺激してしまう。
「ああ、そういえば紹介がまだだったな……」
 両校の交流は今回が初めてだ。よって舞子たちが一八を知るはずもなかった。
 クルリと振り返って玲奈は一八を指さす。大きな笑みを浮かべながら、彼女は一八の簡単な紹介を始めた。
「こいつは一八だ。不幸にも我が岸野家の隣人であり、私はその昔……」
 ここまではまだ良かった。しかし、続けられた玲奈の話は一瞬にして全員を凍り付かせてしまう。

「一八に強姦されるところだった!」
 予期せぬ紹介に室内は急速冷凍された。誰もが口を半開きにしたまま固まっている。
 だが、次の瞬間にはズササと後退していく女性陣。使いっ走りの土居でさえも完全に引いていた。
「玲奈、てめぇっ!」
「事実だろうが!?」
 もう一八にはどうしようもなかった。前世の話だと口にしたところで信じてもらえるはずがない。基本的に魂は前世の記憶を有していないのだから。

 凍り付いたこの場の解凍方法は存在しないだろう。あらゆる手段を講じようとも絶対零度に達した雰囲気が温まるとは思えない。
「俺の青春もこれまでか…………」
 ポツリと呟き再び頭を抱える一八。どんなに言い訳を並べたところで取り繕えるはずもない。それでなくとも彼女たちは暴力的な男子生徒を目撃したばかりなのだ。彼らを束ねる自分が聖人のようなイメージであるとは考えられない。

「玲奈ちゃん、それで異常なまでに敵視していたのね……」
「玲奈さん、辛かったでしょう……。心の傷は簡単には癒えませんから……」
 一八には現状を打破する起死回生の台詞など思いつかなかった。女性陣の同情によって状況はいっそう悪くなる。

「いや、私はもう気にしていないから……。とうの昔に済んだことだ。あのことは忘れようと思っている……」
「玲奈ちゃん!」
「玲奈さん!」
 健気な玲奈の台詞は完全に一八を悪者にしていた。決して謀ではなかったものの、明確に一八は追い込まれていく。

 下手をすれば通報されそうな雰囲気である。一八は何とか言い訳を口にした。
「あの、玲奈とは家が隣同士なんで……。だからその……」
「貴方は幼馴染みという立場を利用したの!?」
「純粋な信頼を利用するなんて酷すぎます! それにわたくしも何だか嫌な感じがしてきました。何やら背筋が凍るような……」
 どうにも解決を見なくなってしまう。記憶を引き継いでいない恵美里でさえも、魂に刻まれた記憶を読み取ったかのようだ。このままでは前世がオークキングであったことがバレてしまいそうである。

 三人が何の用事で来たのかを一八は聞かされていないが、正直にもう帰って欲しいと思った。用事があったとして、まともな話し合いなどできるはずもなかったからだ。
「それで一八よ。我々は併合について話し合うために来たのだ。私としては学び舎が豚小屋と一緒になるなど反対であるのだがな……」
 ここでようやく来訪の理由を知る。それは一八も知っている話だ。今まさにその件について話し合っていたところである。
「話し合いは構わねぇが……」
 玲奈以外の二人が激しく警戒している状況で話し合いが成立するとは思えない。まともな会話は玲奈としかできそうにもなかった。
「貴様がケダモノすぎるのが悪い! 要件は私が伝えよう。両校が合併するにあたり交流を深める行事を貴様らも考えておけ!」
 こうなると玲奈の存在が有り難かった。恐らく玲奈がいなければ何の話もできなかったことだろう。元々の原因が彼女の不用意な発言であったとしても。

「ああ、俺もそれは読んだ。折を見て学園の方へ行こうかと考えていたところだ」
「け、結構です! 我々が足を運びますので、どうか学園には足を踏み入れないようにお願いしますね!?」
 警戒感マックスである。流石に犯罪未遂を聞いたあとでは受け入れなど困難だろう。まして恵美里は生徒会長である。彼女は生徒たちを守る立場なのだ。
「では、どうやって連絡する? 俺が警戒されてるのは理解しますが……」
 どうにも面倒臭くなってきた一八だが、生徒会長である以上は通達に逆らえなかった。また問いを投げてはいたものの、その解答が多くあるとは考えていない。
「申し訳ないですけれど、その役は玲奈さんにお願いしてよろしいですか? わたくしはその……ちょっと……」
 まあそうだろうなと一八。やはり予想通りに玲奈が伝令役となった。
 恵美里の要請に玲奈は頷いて見せる。どうやら彼女も異論はないようだ。
「殿下、了解であります! そのような雑務は玲奈めにお任せください!」
 一八が動かずとも理想的な形で落ち着いた。よく知りもしない女生徒とまともに議論できるとは思えなかったし、事務的な話をするだけならば玲奈で充分なのだ。

 結局、カラスマ女子学園勢はそれ以上の話もなく去って行った。
 嵐が過ぎ去ったかのような静けさに包まれるアネヤコウジ武道学館生徒会役員室。取り残された気さえする役員たちは互いに視線を合わせていた。
「奥田さん、一体あの女は何者なんですか?」
 土居が聞いた。知り合いであるのは彼も分かっている。名前で呼び合っていたのだ。柔術部の主将でもある一八を呼び捨てにできる者など学校内にはいないというのに。
「まあ、古い知り合いだ。ただあいつは俺を恨んでいる……」
 寂しげに語られる二人の関係。土居も何か察するものがあった。
「あの女が話してた強姦とかいう話っすか……?」
「それもある。だが、それ以上に酷いことをした。俺はあいつの生まれ育った地を……」
 話し始めたところで一八は口を噤んだ。詳しくは話せなかった。口にしたとして理解されないのは明白なのだ。異世界にあった事実を話したところで少しですら伝わるはずがない。

「でも、あんな強え女を抑え込んだとしたら、やっぱり奥田さんは最強っすね?」
「どうだか……。きっと玲奈はもう負けたくなかったんだろうな。守るべきものを守れなかった後悔が今のあいつを動かしている……」
 土居の思う雑談とはかけ離れた話が続いた。まるで懺悔しているかのようだ。誰もが一目置く一八が、強いとはいえ一介の女子高生に許しを請うような姿はある意味新鮮だった。
「あの頃の俺には他人を思いやる気持ちなんか少しもなかったんだ……」
 人に転生してから一八は感情というものに鋭くなっていた。オークであった頃には決して気付けなかったこと。欲望に忠実だった自分はどれだけ他人を傷つけていたのかを今になって理解していた。
「俺にとって記憶の引き継ぎは罰であるのかもしれん……」
「はあ? 何すか、それ?」
 ポカンとする土居に構うことなく一八は溜め息混じりに続けた。

 いや、違う……。玲奈にとっても罰でしかないな――――。
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