転生勇者は連まない。

sorasoudou

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1 目覚めし勇者と中の人

第4話 勇者の器

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「その分じゃ、まったく思いもしてなかったってことか」


 神剣を我が名にした勇者バイロは、こちらへ顔を上げている世話役セオを見下ろした。


 覚醒する前、祭壇の上に横たわっていた時。もし、勇者が目を開けたままでいたのなら、そんな瞳をしていたのではないかとセオに思わせるような、心情が何も見えないまなざしだった。
 ことのほか冷たい金色こんじきの視線を受け、世話役にして神官長補佐官の青年は緑の目をしばたかせた。先ほどの勇者の発言まで数秒か。質問されてから今の今まで、まばたきすら忘れていたところだ。


「まあ、そうなってもおかしくはないか。勇者様が言うことは鵜呑うのみにしろって言われてたんだ。そりゃ、中身が違うなんて気付きもしなけりゃ、それが本当に勇者として相応ふさわしいか、疑うこともしないだろうな」


 あーあ、と呆れた声を上げて勇者バイロは神剣を置くと、かたわらの椅子へ腰かけた。セオは思わず腰を浮かし、主人の行動を制ししかけてやめる。

 勇者様のなさることは絶対なのだ。

 円卓の正面にある豪奢な椅子こそが主のために用意された物だとしても、その足置きの方に座られることを勇者様が選ばれたなら、それを止めることは非礼にあたる。
 勇者はけげんな顔をして世話役が再び腰を下ろしたのを見たが、訳に思い当たり、また小さく呆れたため息をついた。


「徹底してるな。でも、だめなことはだめだと教えてくれると助かるよ。この世界でのやりようは何も知らないし、こっちが困るんで」


 そのお言葉にまたしても自身の未熟さを謝罪せねばと思った世話役は、次の一言にほうけた。


「まあいいや。失敗から学ぼう」


 そう言いながらも居心地がいいのだろう、足置きから腰を上げない勇者にしびれを切らせたか、慌てて立ち上がった世話役が忠告する。


「なりません! 勇者様に失敗など! このセオ・センゾーリオ、この命にかけましても勇者様の行く手に間違いのなきように計らいますうえ、ご安心ください!」


 いや、それがもう、間違いなんだわ。


 今にもそんな心の声を言葉にしそうな目をした勇者は、さすがに勢いに押されてか、わずかに身を引き、セオ・センゾーリオの必死の表情を見やった。

 そういえばそんな名前だったなと、勇者は改めて、ようやく名前を覚えた自分の従者の顔を見る。

 歴代勇者の好みを反映してか、直近に置く者は容姿端麗で揃えられているらしい。作り物みたいに整った顔は、部屋の窓から飛び降りる寸前とでもいうように悲壮感を漂わせている。


 ここで飛び降りられても寝覚めが悪くて困るって!


 頭をよぎった嫌な想像に、付き添いは要らないと情け容赦なく発言しかけた人嫌いな己を制し、勇者は努めて穏やかに、少し慌てながら話を変えた。


「そんなことより、この、勇者の器についてのことなんだけれど。説明の時に聞いたけどね、いまいちどういうものか分からなくてさ。神様の加護っていうのは、常に発動しているってことでいいのかな?」


 勇者の器というのは、この世界を創造した神々によって造られたもので、人々を守り導くために特別な力が与えられた、魂の入れ物だ。
 神々が勇者の器に込めた特別な力を加護という。この世界の人々は勇者の強さにあやかりたいと神々に願い、我らにも御加護をと祈るのだ。

 セオもようやく落ち着いたか、祈るようにしばし目を閉じた後、小さくうなずき答えた。


「はい。神の加護と呼び表されるその御力は、常にその御体に宿り、魂を守るために働いていると聞いております。ただ、魂が宿っていない状態であっても発揮されているのは、不朽の力だけであるとも言われています」


 不朽、いつまでも残る朽ちない体。絶対に腐らないということだろうか。まだよく分からないな。


 勇者バイロが眉根を寄せて黙っていると、セオが説明を足した。


「伝説では、剣で切られ突かれても傷ひとつ負わず、炎で焼かれることも泥で汚れることもないとされています。先代の魂が勇者様の器をお離れになってから百と七十年経っていますから、あくまでも文献に残るものでのことですが。詳しく調べておきましょうか?」


「ああ、頼む。お願いします」


 これでしばらく厄介払いができると思った人嫌い勇者だが、もうひとつ気になっていたことをたずね忘れていたと気付いて、セオに問いかけた。







 
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