【R18】貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

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第12章 身分は超えられない?

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一方で、コラリー様の婚約者、セザール様は1週間に1度、アルノ―家を訪れていた。

「久しぶりだね、コラリー嬢。」

「セザール様。」

2人は、会うと皆の前で、うっとりしながら抱き締め合う。

まるで、周りの人は目に入っていないようだ。


すると、セザール様は私を見て、目をキラキラさせた。

「やあ、アンジェリク。恋の方はどうだい?」

「えっ?」

私が目をパチパチさせると、セザール様はニコッと笑った。

「いつもコラリー嬢から、話を手紙で聞いているよ。オラース殿と恋愛をしているのだろう?」

「は、はあ……」

セザール様の後ろで、コラリー様がごめんと、謝っている。


まあ、上手くいっていれば、こんな時にも、明るく笑えるのだけど。

「その様子だど、上手くいっていないみたいだね。」

「ははは、まあ。」

セザール様は、私の背中に手を当てた。

「コラリー嬢からは、君の家が経済的に困っているから、アルノ―家はあまりいい返事をしないと書いてあった。」

「そうなんです。」

「でも、コラリー嬢が私と結婚すれば、アルノ―家だって経済的に安定する。そうすれば、話も変わるだろう。」

「セザール様……」

なんて、お優しい人なんだろう。セザール様!


「じゃあ、私はコラリー嬢とデートを楽しんでくるからね。」

その時、私はふと、エリクが言っていた事を思い出した。

「あの、セザール様。」

「ん?」

セザール様は、面倒な顔もせず、振り向いてくれた。

「私、コラリー様と恋愛をして下さいって、セザール様に頼みました。」

「うん。そうだね。」

「友人に言われたんです。下手に恋愛すると、気持ちが冷めたらどうするんだって。」

「はははっ!」

セザール様は、笑い飛ばした。


「何を言うかと思えば。そうだね、そういう事もあるね。でも、私とコラリー嬢は、会う度に気持ちが燃え上がっているよ。」

私は嬉しくなった。

ほら、エリク見なさい!

そういう恋愛もあるのよ。

何より、コラリー様がそんなに思われていて、嬉しかった。

「心配しなくてもいいよ、アンジェリク。」

「はい。ありがとうございます。」

私はセザール様に、頭を下げた。


そして、セザール様はコラリー様の元へ行く。

よかった。

コラリー様、お幸せな時間を。


その時だった。

後ろから誰かに、肩を叩かれた。

振り返ると、そこにはオラース様が、立っていた。

「アンジェ、君の思う通りになって、よかった。」

「オラース様……」

「僕もね。本当は、結婚前に恋愛するなんて、無駄だと思っていた。でも、君と出会って違うと気づいた。姉さんも同じように恋愛する相手がいて、良かったよ。」

「はい!」


私の胸に、嬉しい気持ちが、湧き上がってきた。

オラース様もコラリー様も、恋愛して幸せになって欲しい。

その為には、私もしっかりしなきゃ。


「そうだわ。せっかくセザール様が来ているのだから、スペシャルブレンドを飲んで頂かなくては。」

私は張り切って、キッチンへ向かった。

ティーカップも、ちょっとハートっぽい柄にしよう。

そして私は、茶葉も用意すると、コラリー様の部屋にティーセットを運んだ。


「セザール様、コラリー様……」

部屋のドアを開けようとすると、中の二人の会話が聞こえてきた。


「オラースとアンジェは、結婚できるのかしら。」

「難しいだろうね。」

難しい?

さっきは、自分達が結婚したら、話は変わるって言っていたのに。

「貴族と言うのは、身分を重んじるからね。私とコラリー嬢が出会えたのも、同じ公爵家だからだ。」

「でも、アンジェリクの実家のフェーネル家も公爵家よ?」

「同じ公爵家でも、微妙に差がある。フェーネル家は成り上がりだからね。先祖代々続いているアルノ―家とは、格式が違う。」


気づいたら、私の手は震えていた。

やっぱり、私達フェーネル家は、こういうところでも、格式は低いとみなされるんだ。

だったら何で、フェーネル家は公爵になったの?

その下の身分でもよかったじゃない!


「アンジェリク嬢。」

気づくとエリクが、側にいた。

「どうしたのですか?」

私は、頭を横に振った。

「ううん。何でもない。」

私が部屋の中に行こうとした時だ。

エリクが、私の手に触れた。

「……辛いなら、俺が行こうか?」

真っすぐなエリクの瞳。

私を守ろうとしてくれているのね。

「ううん。今日は、セザール様にスペシャルブレンドを飲んで貰わなきゃ。」

「そうか。アンジェリク嬢のスペシャルブレンドだったら、セザール様も気に入って下さるよ。」

「ありがとう、エリク。」

エリクが後ろに下がると、私はコラリー様の部屋のドアを開けた。


「失礼します。紅茶をお持ちしました。」

「アンジェ!」

コラリー様は驚いていた。

きっと、今の話を聞いていたかもしれないと、思ったから?

「今日はセザール様に、スペシャルブレンドをご披露します。」

「おお、それは楽しみだ。」

セザール様は、さすがだ。

何があっても冷静だ。

そして私は、二人の前でスペシャルブレンドを、調合した。

お湯を入れ、茶葉を浮かす。

そして、用意したハートに見える柄のティーカップに、紅茶を注いだ。

「うん、いい香りだね。」

セザール様は、目を瞑って、香りを楽しんでいる。

「お待たせ致しました。スペシャルブレンドです。」

コラリー様とセザール様の前に、ティーカップを置いた。

「わあ。」

コラリー様は、スペシャルブレンドに喜んでいる。

よかった。

何より、コラリー様が嬉しそうにしてくれるのが、私も嬉しい。


問題は、セザール様だ。

せっかく作ったスペシャルブレンドも、セザール様が気に入って下さらなければ、水の泡だ。

そして、セザール様が紅茶を飲んだ。

「うん、いい味だね。」

けれどセザール様は、そう言ったきり、紅茶に手を付けなかった。

失敗だ。

また新しいスペシャルブレンドを、来週まで考えなければ。

その前に、ノーマルな紅茶を飲んで貰って、反応を見る?

うーん。難しい。

「アンジェ、アンジェ。」

コラリー様が私を呼ぶ。

「はい。」

「眉間にシワが寄っているわよ。」

私は慌てて、眉間をマッサージした。

「ははは!アンジェリクは、面白いね。」

それを見たセザール様も、笑っている。

いい雰囲気だ。

私はここで、退散しよう。


「紅茶のお代わりは如何ですか?」

「頂こう。」

セザール様は、一口だけ飲んだ紅茶を、一気に飲み干した。

「何になさいますか?」

「そうだな。ダージリンにしようか。」

「かしこまりました。」


もしかしてセザール様は、ノーマルな紅茶がお好き?

「お砂糖やミルク、レモンは入れますか?」

「いや、そのままでいいよ。アンジェリク。」

やはり、その可能性高いわね。


淹れ直した紅茶を、セザール様は楽しみながら飲んでいる。

あまりいろいろ入れない方が、セザール様好み?

そして、お砂糖、ミルク、レモンを入れないで楽しめる紅茶?

ふむふむ。


その瞬間、コラリー様が笑った。

「また眉間にシワが寄っているわよ、アンジェ。」

「すみません。」

眉間をマッサージしながら、ちらっとセザール様を見た。

コラリー様を見て、微笑んでいる。

恋をする二人には、邪魔者はいらないって事か。


「では、私は失礼致します。」

「あら、アンジェ。もっといてもいいのに。」

「後は、お二人でごゆっくり。」

そして紅茶セットを持って、コラリー様の部屋を出た。


ああ、二人はいいなぁ。

想い合っていて、そして両親にも許されているから、結婚もできる。

それに比べて私は……

足が止まった。

胸が痛い。


その時だった。

「アンジェリク嬢。」

顔を上げると、エリクがいた。

「どうでした?セザール様にスペシャルブレンドを、差し上げたのでしょう?」

「ああ……セザール様、ストレートティーがお好きなようで、ブレンドはあまりお好きじゃないみたい。」

「そうでしたか。せっかく、いろいろ勉強したのに。」

「ねえ。」

無理して笑った。

でも、エリクには分かったみたい。


「アンジェリク。無理して笑うなよ。」

「エリク……」

「やっぱり俺じゃダメか?」

私は、セザール様の言葉を思い出した。

「私とエリクは、身分が違うでしょ。」

「でも、一生懸命説得すればっ!」

「身分は超えられない。それは、エリクを選んでも一緒よ。」

「アンジェリク……」

私はエリクの側を通って、歩き始めた。


そう。セザール様が言う通り、身分は超えられない。

でも、同じ公爵家のオラース様なら、超えられそうな気がするの。

なんだって、私達には愛があるんだから。


「めそめそしない!」

私は両頬を手で叩いた。

「来週までに、セザール様に気に入って頂ける紅茶を、考えなきゃ。」

私は心機一転、キッチンに向かった。
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