【R18】貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

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第4章 恋愛とか

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そしてしばらくして、アルノ―家にコラリー様の結婚相手のセザール様から、家を訪ねたいという話があった。

「どうしましょう、アンジェ。セザール様がいらっしゃるなんて。」

「落ち着きましょう、コラリー様。」

そうは言ったものの、私も興奮している。

だって、コラリー様の結婚相手は、公爵様。

私だって貧乏じゃなければ、会えたかもしれない人だもん。

ああ、どんな人なんだろう。


「日程は……明日ですって。」

「きっと思い立ったら、素早い人なんですよ。」

明日か。

「そうだわ、アンジェ。紅茶のスペシャルブレンド。思いついた?」

「はい!今から早速、お淹れしましょうか?」

「うんうん。楽しみだわ。」

まるで姉妹のように、私とコラリー様は、キャピキャピ言っていた。


「こらこら、アンジェリク嬢。いつも言っているでしょう。コラリー様の前では、お控えなさいと。」

どこからか、エリクが現れる。

エリクはオラース様の従事なのに、何でコラリー様の元まで来るのかしら。

おかげで私はいつも、お叱りを受けてばっかり。

もうエリクは、意地悪なんだから。

「コラリー様も、結婚相手がいらっしゃるのであれば、ダンスの練習をしませんと。」

「ダンス!セザール様と踊るの?」

「そうですよ。恥をかかないように、今から練習ですね。」

シュンとなるコラリー様を見て、私は知ってしまった。


「コラリー様、もしや……ダンスがお得意ではない?」

「そのもしやよ。いつも男性の足を踏んでしまうの。」

「まあ。」

ダンスあるあるね。

まだ相手のダンスに、付いていけてないんだわ。

「そうだわ。私が、お教えしましょうか。」

「アンジェが?もしかして得意なの?」

「はい。先生にも褒められました。」

「さすがね、アンジェ。」

コラリー様にお褒め頂くと、嬉しくなる。

紅茶の件はついていけなかったけれど、せめてダンスはリードしなくっちゃ。


早速、エリクがダンスの先生を、部屋に連れて来た。

「はい、アン、ドゥ、トロワ!アン、ドゥ、トロワ!」

先生は基本的なステップばかりを教える。

「先生。私、明日踊らないといけないのに、これで間に合いますか?」

たまりかねたコラリー様が、先生に尋ねる。

「基本もできていないのに、できる訳がない。はい、アン、ドゥ、トロワ!」

そしてため息をつくコラリー様。

私は口パクで、”頑張ってください!”と叫ぶ。

「そうだわ。アンジェ、見てるだけではつまらないでしょ。一緒に練習しましょうよ。」

「えっ……」

急に腕を引かれ、私はコラリー様の横に立たされた。


「では、アンジェリクさん。あなたも一緒に、アン、ドゥ、トロワ!アン、ドゥ、トロワ!」

私は見様見真似で踊ったが、基本的な事は実家で身に着けてきた。

一緒に踊ると、コラリー様の踊りが変な事に気づく。

「アンジェリクさんと一緒に踊ると、お嬢様の踊りが無様に見えますね。」

「ぶ、無様って……アンジェ、何とかしてよ。」

「何とかしてと仰られても……そうですね、もっと芯を真っすぐにされた方が……」

「できるんだったら、最初からやってるわ。」

機嫌を損なわれたのか、コラリー様はツンとしている。

「そう不機嫌にならずに、もう一度踊ってみましょう。」

「分かったわよ。」

そしてコラリー様が身体を真っすぐにしながら踊るのだけど、今度は足がもつれる。

足に意識すると、上半身が崩れる。

それの繰り返しだった。

ああ。これじゃあ、明日セザール様がいらっしゃっても、上手く踊れるかどうか。


その時、ドアの奥からクスクスと笑い声が聞こえた。

「そんな場所で、笑ってるんじゃないわよ。オラース。」

「ごめん、ごめん。あまりにも姉さんがダンス下手だから。」

そしてオラース様は、ドアを開けて部屋の中に入って来た。

いつ見ても、綺麗な金髪だ。

「それに比べて、アンジェは踊りが上手だね。」

見られていたと思うと、私の顔は赤くなった。

「大体ね、こういうのは相手がいると、上達するものだよ。」

そう言ってオラース様は、コラリー様の手を取ると、急に踊りだした。

「ほら、胸を張って。その方が綺麗だよ。」

「こ、こう?」

すっかり踊らされているコラリー様も、満更ではない。

いつの間にかコラリー様は、綺麗なスタイルで踊れるようになっていた。

「ほら、できるようになったでしょ。」

「すごいわ、オラース!」

あの不機嫌だったコラリー様も、絶賛だ。

「あーあ。セザール様も、オラースのようにリードが上手い人だといいなぁ。」

「まあ、女性を綺麗に踊らせるのが、男性の役目って言えば役目だけどね。」

オラース様が言うと、クラッとくる。

男性は皆、こういうものなの?

それとも、オラース様が特別なの?

分からないわ。


「そうだ。アンジェ、一緒に踊ってみる?」

「えっ……」

「アンジェリク嬢、私と一緒に踊って下さい。」

あのオラース様が、私に片膝を着いている。

「あの……」

「なに?」

私みたいな貧乏令嬢、オラース様と踊っていいの?

ふとコラリー様を見ると、”こうするのよ”と言わんばかりに、手を差し出すのを見せてくれている。

いいの?私、オラース様と踊っても。

「緊張しないで。付いてきて。」

「オラース様……」

そして勇気が持てない私に、コラリー様はため息をついた。

「男性をそこまで待たせるなんて、却って失礼よ、アンジェ。」

「仕方ないよ。今まで男性と踊った事がないんでしょ。」

私はうんと頷いた。

「いいんだよ。さあ、踊ろう。」

ふいにオラース様に手を引かれ、私は一生懸命にステップを踏んだ。

「上手じゃないか、アンジェリク嬢。」

オラース様に”アンジェリク嬢”って言われると、まるで舞踏会で踊っているよう。

上手なのは、オラース様だわ。

こんなに上手に、女性をリードできるなんて。

また、ドキドキしてしまう。


「あーん。もう見てられないわ。オラース、私も相手してよ。本番は、明日なのよ。」

「分かったよ。」

オラース様は踊り終えると、私に一礼した。


「楽しかったよ、アンジェリク嬢。」

「私もです、オラース様。」

ニコッと笑うオラース様に、思わず見とれてしまった。

「はい、次はこっち。」

コラリー様は私の隣に来て、手を差し伸べた。

「おっと、こちらのお姫様は、じゃじゃ馬の……」

「そういう前置きは、いいから。」

二人は姉弟なのに、まるで恋人のように踊っていた。

二人共綺麗だから、傍から見てて、ため息がでる。

「これで明日も、踊れたらいいね。姉さん。」

「本当、その通りよ。」


そして、コラリー様は夜になっても、踊りの練習をしていた。

「もうお休みになっては?コラリー様。」

「もう少し練習するわ。」

「はい。」

練習熱心なコラリー様は、日中よりもフォームが綺麗になった。

やっぱりオラース様のリードがよかったみたい。

「アンジェ、私ね。」

「はい。」

コラリー様が、汗を拭く。

「将来の夫になるセザール様に、こんな姫、嫁に貰わなきゃよかったって思われたくないの。」

「あの、まだセザール様をご覧になった事ないんですよね。」

「そうよ。明日が初めて。でも、きっと素敵な方よ。」

私は、そんな風に思えるコラリー様が、羨ましかった。

もし私だったら、一度も会った事のない人に、そこまで思えるかしら。


そして運命の時は、訪れた。

セザール様が、アルノ―家を訪れた。

「初めまして、コラリー嬢。」

そう言ったのは、柔らかそうな茶髪の、背の高いハンサムな紳士だった。

「初めまして……セザール公爵殿下。」

あのコラリー様が、緊張で女らしくなっている。

「いやあ、綺麗な方だと聞いて期待していたけれど、期待以上の美しさだった。」

「私も……これほどまでに素敵な方だと、思っておりませんでした。」

見つめ合う二人を他所に、私とエリクは、部屋を出た。

「第一印象は、まずまずのようですね。」

「あれでまずまずなんですか。メチャクチャ気に入っているじゃないですか。」

するとエリクは、ため息をついた。

「お相手は社交界で名を馳せているセザール様ですよ?見目麗しい姫なんて、何十人も見てますよ。」

「じゃあ、コラリー様を美しいって言っていた事は?」

「社交辞令です。」

私は途端に、不安になった。


そして、音楽が流れてくる。

「始まった。コラリー様の苦手なダンスだ。」

私はゴクンと息を飲んだ。

「ダンスを踊ると、パートナーとして相応しい方か分かると聞く。コラリー嬢、私と踊って下さいますね。」

そしてセザール様は、手を差し伸べた。

「は、はい、よ、喜んで。」

まずい。コラリー様、緊張している~!

「そんなに緊張しないで。私に任せて下さい。」

「はい。」

声も上ずっている!

大丈夫?コラリー様!


するとコラリー様は、ガッチガチ。

ステップも何度もしくじった。

「この辺で。」

見かねたセザール様が、途中で止めた。

「あの……」

もうコラリー様は、泣きそうだった。

「そんな顔しないで下さい。コラリー嬢。ダンスは練習すれば、上手になりますよ。」

「セザール様……」

「それよりも私は、あなたの美しい金髪が気に入った。ぜひ、私の妻になって頂きたい。」

「……うっ、うっ、はい。」

泣きながら返事をしたコラリー様に、私は思い切って、ドアを開けた。

「君は?確かコラリー嬢の侍女?」

「はい。お願いです!どうか、コラリー様と恋愛してから、ご結婚なさってください。」

「恋愛?」

コラリー様は、驚きながら困っている。

「コラリー様は、政略結婚ではなく、恋愛結婚をしたいんです。セザール様と!」

セザール様がふと見ると、コラリー様は頷いていた。

「分かった。じゃあ、結婚は少しお預けで、恋愛などしてみましょうか。」

「コラリー様!」

「アンジェ!」

この時ばかりは、コラリー様と一緒に、泣いてしまった。
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