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黒幕の黒幕
⑧
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しかしその答えは、王様の口から語られた。
「確かにそなたは、我が父アミン王の兄、ハサン王の子供だ。」
「えっ?」
ジャラールさんが驚いて、持っていた刀を落とした。
「はははっ!知らなかったのか、ジャラール王子!私は王族の血を引く者なのだ!」
ジャラールさんは、何も言えずに、立ち尽くしている。
私は落ちている刀を拾った。
重い。
ジャラールさんは戦っている時、こんなに重い物を振り回していたんだ。
「ジャラールさん。」
刀をジャラールさんの目の前に持って行ったけれど、ジャラールさんは、受け取ろうともしない。
よく見ると、刀の持ち手の部分に、玉座と同じ模様がある。
「これはなに?」
敢えてハーキムさんに聞いた。
「それは……王家の紋章だ。」
「これが王家の紋章……王族の印?」
私はハッとして、ジャラールさんを見つめる。
「ジャラールさん、もしかして……」
胸が痛い。
「自分は王族じゃないって、疑っているの?」
ジャラールさんは、ぎゅっと両手を握った。
するとハーキムさんが、私の手から刀を奪って、ジャラールさんに持たせた。
「ジャラール様。あなたは間違いなく、この国の王族です!」
「ハーキム……」
「何を迷われているのですか!あなたは、我が王の前王妃の忘れ形見なのですよ?王妃の子供が王族ではないなんて、有り得ません!」
ハーキムさんにそう言われ、ジャラールさんは刀をじっと見ている。
王様はそんなジャラールさんをちらっと見ると、またザーヒルと向き合った。
「ザーヒル。だが、そなたに王位継承権はない。」
「何!?」
「ハサン王は、王位を継ぐ王子に恵まれなかった。王位はその弟である我が父、アミン王が継いだ。ハサン王の第5夫人が、そなたを産んだのはその後だった。」
「だからどうした?例え父の死後に生まれた子供とて、王子である事に変わりはない!」
王位継承権がないと言われ、また勘に触ったのか、ザーヒルは王様に、刀を向けた。
「よく聞け、ザーヒル。そなたの母上は、生まれた男の子を、王子として届けなかった。」
「そんな事はない!」
「いや、ザーヒル。そなたの母上は、影で王位を狙う者が、幼いそなたを利用するのを恐れたのだ。だからこそ王子ではなく、普通の平民として育てようとなさったのだ。」
「嘘だ!黙れ黙れ!」
いきり立っているのか、ザーヒルの方が王様を押していた。
「そんなそなたを、宮殿に呼び戻したのは父である、アミン王だ。兄であるハサン王の唯一の王子であるそなたが、平民として扱われる事を、憐れに思われたのだ。だからこそ、私の筆頭侍従に迎い入れた。」
そこまで聞くと、ザーヒルは油断したのか、一歩引く。
その隙をついて、王様がザーヒルの刀を、飛ばし上げた。
ザーヒルの刀は、空中を舞った後、大広間の真ん中に、突き刺さった。
「うぬぬぬ……」
ザーヒルは、力なく膝を床についた。
「ザーヒル。そなたの母上と、我が父アミン王のお気持ちを、今一度考えてみるのだな。」
王様がそこまで言うと、護衛達が座っているザーヒルを連れて行った。
「決着はついた。これで罪人判定は終了する。」
王様の一言で、人々は大広間から出て行った。
残ったのは私と、ハーキムさん。
そしてジャラールさんと、ネシャートさんと王様のみ。
「ジャラールさん。」
私が傷心のジャラールさんを、励まさそうとした時だ。
私の目の前を、誰かが通り過ぎた。
誰かが?
ううん。その香りですぐに分かった。
ネシャートさんだった。
「ジャラール。」
ネシャートさんは、ジャラールさんの手を握った後、そのまま抱き寄せた。
「気にする必要はありません。誰がなんと言おうとも、あたなは私たちと同じ王族の者です。」
「ネシャート……」
ジャラールさんは、ネシャートさんの背中に手を回したけれど、彼女を抱き締める事なく、その腕を下ろした。
「それよりも、怪我はなかったか?ネシャート。」
「え、ええ。」
「よかった。今回は近くにいて守れなかった。申し訳ない。」
「そんなこと……」
ネシャートさんが、頭を左右に振る。
もう、私の立ち入る隙間なんて、ここにないじゃん。
私は気づかれないように、ため息をついた。
しばらくして、王様がジャラールさんとネシャートさんに、近づいてきた。
慌てて離れる二人。
王様の前では、二人は兄妹なのだ。
「お怪我はございませんでしたか?父上。」
「ああ、大丈夫だ。」
そう言う王様の頬には、新しい刀傷があった。
「あ、あの……頬から血が……」
私が手を伸ばすと、王様は自分の手の平で、その傷をゴシゴシ擦り始めた。
「大した傷ではない。このような傷、戦ではしょっちゅうだ。」
そうは言っても、バイ菌入るよ。
そんな適当に治療したら。
そう思っていたら、ネシャートさんの侍女の一人が、救急箱を持って来てくれた。
「父上。動かないで下さいね。」
ネシャートさんに言われるがまま、王様はネシャートさんに、消毒と止血剤を塗ってもらっている。
「それにしても、ザーヒルには困ったものだ。」
王様は、床に刺しっぱなしになっている、ザーヒルさんの刀をちらっと見た。
「誰が出生の秘密を、ザーヒルに教えたのか。」
「我々も知らなかった機密情報ですからね。」
ジャラールさんが、嫌味そうに言った。
「許せ、ジャラール。ネシャートもだ。ザーヒルは、叔父上の子供、つまり私の従兄弟であるのは、間違いないのだが、王族ではないのだ。」
王様の言葉を聞いて、ジャラールさんがまた下を向く。
「……血の繋がった、従兄弟なのにですか。」
それを聞いた王様は、ジャラールさんをじっと見つめるけれども、触れてあげる事も、抱き締めてあげることもしない。
これじゃあ、ジャラールさんがひねくれるのも、無理ないよ。
「ジャラール。もし、ザーヒルがネシャートの命を狙っているとしたら、何とする?」
「守ります。この命に代えても。」
ネシャートさんは、両手で口を塞ぐ。
おそらく涙が溢れそうになっているんだろう。
私だって、私だって……
ジャラールさんに、そんな事言われたら……
「そんなに、ネシャートの事が好きか?」
ハッとしたジャラールさんは、そのまま王様とネシャートさんの前に、膝を着いた。
「お許し下さい。ネシャート王女をお守りするのは、私の使命。それ故の発言です。決してネシャート王女と私は……」
「もうよい。隠さなくても、ナスィームから聞いておる。二人が愛し合っている事を。」
これには、ジャラールさんどころか、ネシャートさんも、驚いていた。
「私は二人の気持ちに気づいていながら、人としての小ささ故、そなた達を引き裂いてしまった。本当はもっと前に、そなた達の事を考えてやらねば、ならなかったのだ。」
「いえ。そんな事はございません、父上。」
ジャラールさんが、頭を下げた時だ。
王様はジャラールさんの手を引き、立ち上がらせた。
「ジャラール。もう私の事を父と呼ぶのはよせ。」
「ええ?」
「そなたの本当の父は、隣の国のサマド王だ。サマド王もその事を知っている。以前から、そなたと一緒に暮らしたいと、申し出があったのだ。」
ジャラールさんの目には、涙が溜まっていた。
「父上……今さら、他の方は父と呼べと仰るのですか?それは、あまりにも残酷でございます。」
溢れる涙をジャラールさんが拭うと、王様は急にジャラールさんを抱き寄せた。
「そなたは、私の愛した女の子供。だが、私の血を引いてはおらぬ。その苦しみが、今までそなたを苛んできた事は、私は分かっていたのだ。だが、何も変わらぬ。そなたは、私のただ一人の王子だ。ネシャートと同じように、そなたの幸せを願っている。」
そして王様はジャラールさんを引き離すと、今度は両頬に、自分の手を当てた。
「だからこそ、サマド王の元へ行け。本当の父親を知る事は、自分を知る事と一緒だ。」
「父上……」
王様は、ジャラールさんの涙を、指で拭った。
「そしてここからが、一番大事だ。ジャラール、ネシャート、よく聞け。」
ジャラールさんとネシャートさんは、互いに顔を合わせた。
「私はサマド王に、ジャラールとネシャートの婚姻を、申し込もうと思う。」
「えっ?」
「父上!」
ゴーン……
頭に釣り鐘を打ち付けられたように、頭が痛い。
ジャラールさんとネシャートさんは、さぞかしお喜びかと思いますけど、私にとっちゃあ、失恋決定。
「サマド王の元へ行き、数年後。今度はネシャートの相手としてここへ戻って来い。そのままずっと、ネシャートと一緒に、この国を支えて行くのだ。」
「父上。」
ようやく二人のわだかまりが溶けたように、ジャラールさんと王様は、抱き締め合った。
そして二人が離れると、そこには泣き崩れるネシャートさんの姿が。
ジャラールさんが、泣き崩れるネシャートさんを、抱えながら立ち上がらせる。
「よかったね。ジャラールさん、ネシャートさん。」
すると二人は、顔を近づけながら、私に笑顔を見せてくれた。
「ありがとう、クレハ。」
その二人の様子に、私は見覚えがあった。
「そう言えば、クレハ。そなたが言っていた私達の事が書いてあったという本も、このような結末だったのかな。」
「うん!あの本でも……」
そこで私は思い出した。
この二人の幸せそうな顔。
あの本の最後に書いてあった、イラストで見た事があったんだ。
私はあのイラストを見て、“なんだ。ハッピーエンドじゃん”って思ったけれど。
辛い事を二人で乗り越えてきたこそ、描かれた二人の様子だったんだね。
「あっ!制服。ラナーの部屋に置きっぱなし!」
突然思い出した自分の服の在りか。
その時、ラナーはクスッと笑った。
「戻りましょうか。私の部屋に。」
「あっ、お願いします。」
急に下手に出た私を、みんなが笑った。
「確かにそなたは、我が父アミン王の兄、ハサン王の子供だ。」
「えっ?」
ジャラールさんが驚いて、持っていた刀を落とした。
「はははっ!知らなかったのか、ジャラール王子!私は王族の血を引く者なのだ!」
ジャラールさんは、何も言えずに、立ち尽くしている。
私は落ちている刀を拾った。
重い。
ジャラールさんは戦っている時、こんなに重い物を振り回していたんだ。
「ジャラールさん。」
刀をジャラールさんの目の前に持って行ったけれど、ジャラールさんは、受け取ろうともしない。
よく見ると、刀の持ち手の部分に、玉座と同じ模様がある。
「これはなに?」
敢えてハーキムさんに聞いた。
「それは……王家の紋章だ。」
「これが王家の紋章……王族の印?」
私はハッとして、ジャラールさんを見つめる。
「ジャラールさん、もしかして……」
胸が痛い。
「自分は王族じゃないって、疑っているの?」
ジャラールさんは、ぎゅっと両手を握った。
するとハーキムさんが、私の手から刀を奪って、ジャラールさんに持たせた。
「ジャラール様。あなたは間違いなく、この国の王族です!」
「ハーキム……」
「何を迷われているのですか!あなたは、我が王の前王妃の忘れ形見なのですよ?王妃の子供が王族ではないなんて、有り得ません!」
ハーキムさんにそう言われ、ジャラールさんは刀をじっと見ている。
王様はそんなジャラールさんをちらっと見ると、またザーヒルと向き合った。
「ザーヒル。だが、そなたに王位継承権はない。」
「何!?」
「ハサン王は、王位を継ぐ王子に恵まれなかった。王位はその弟である我が父、アミン王が継いだ。ハサン王の第5夫人が、そなたを産んだのはその後だった。」
「だからどうした?例え父の死後に生まれた子供とて、王子である事に変わりはない!」
王位継承権がないと言われ、また勘に触ったのか、ザーヒルは王様に、刀を向けた。
「よく聞け、ザーヒル。そなたの母上は、生まれた男の子を、王子として届けなかった。」
「そんな事はない!」
「いや、ザーヒル。そなたの母上は、影で王位を狙う者が、幼いそなたを利用するのを恐れたのだ。だからこそ王子ではなく、普通の平民として育てようとなさったのだ。」
「嘘だ!黙れ黙れ!」
いきり立っているのか、ザーヒルの方が王様を押していた。
「そんなそなたを、宮殿に呼び戻したのは父である、アミン王だ。兄であるハサン王の唯一の王子であるそなたが、平民として扱われる事を、憐れに思われたのだ。だからこそ、私の筆頭侍従に迎い入れた。」
そこまで聞くと、ザーヒルは油断したのか、一歩引く。
その隙をついて、王様がザーヒルの刀を、飛ばし上げた。
ザーヒルの刀は、空中を舞った後、大広間の真ん中に、突き刺さった。
「うぬぬぬ……」
ザーヒルは、力なく膝を床についた。
「ザーヒル。そなたの母上と、我が父アミン王のお気持ちを、今一度考えてみるのだな。」
王様がそこまで言うと、護衛達が座っているザーヒルを連れて行った。
「決着はついた。これで罪人判定は終了する。」
王様の一言で、人々は大広間から出て行った。
残ったのは私と、ハーキムさん。
そしてジャラールさんと、ネシャートさんと王様のみ。
「ジャラールさん。」
私が傷心のジャラールさんを、励まさそうとした時だ。
私の目の前を、誰かが通り過ぎた。
誰かが?
ううん。その香りですぐに分かった。
ネシャートさんだった。
「ジャラール。」
ネシャートさんは、ジャラールさんの手を握った後、そのまま抱き寄せた。
「気にする必要はありません。誰がなんと言おうとも、あたなは私たちと同じ王族の者です。」
「ネシャート……」
ジャラールさんは、ネシャートさんの背中に手を回したけれど、彼女を抱き締める事なく、その腕を下ろした。
「それよりも、怪我はなかったか?ネシャート。」
「え、ええ。」
「よかった。今回は近くにいて守れなかった。申し訳ない。」
「そんなこと……」
ネシャートさんが、頭を左右に振る。
もう、私の立ち入る隙間なんて、ここにないじゃん。
私は気づかれないように、ため息をついた。
しばらくして、王様がジャラールさんとネシャートさんに、近づいてきた。
慌てて離れる二人。
王様の前では、二人は兄妹なのだ。
「お怪我はございませんでしたか?父上。」
「ああ、大丈夫だ。」
そう言う王様の頬には、新しい刀傷があった。
「あ、あの……頬から血が……」
私が手を伸ばすと、王様は自分の手の平で、その傷をゴシゴシ擦り始めた。
「大した傷ではない。このような傷、戦ではしょっちゅうだ。」
そうは言っても、バイ菌入るよ。
そんな適当に治療したら。
そう思っていたら、ネシャートさんの侍女の一人が、救急箱を持って来てくれた。
「父上。動かないで下さいね。」
ネシャートさんに言われるがまま、王様はネシャートさんに、消毒と止血剤を塗ってもらっている。
「それにしても、ザーヒルには困ったものだ。」
王様は、床に刺しっぱなしになっている、ザーヒルさんの刀をちらっと見た。
「誰が出生の秘密を、ザーヒルに教えたのか。」
「我々も知らなかった機密情報ですからね。」
ジャラールさんが、嫌味そうに言った。
「許せ、ジャラール。ネシャートもだ。ザーヒルは、叔父上の子供、つまり私の従兄弟であるのは、間違いないのだが、王族ではないのだ。」
王様の言葉を聞いて、ジャラールさんがまた下を向く。
「……血の繋がった、従兄弟なのにですか。」
それを聞いた王様は、ジャラールさんをじっと見つめるけれども、触れてあげる事も、抱き締めてあげることもしない。
これじゃあ、ジャラールさんがひねくれるのも、無理ないよ。
「ジャラール。もし、ザーヒルがネシャートの命を狙っているとしたら、何とする?」
「守ります。この命に代えても。」
ネシャートさんは、両手で口を塞ぐ。
おそらく涙が溢れそうになっているんだろう。
私だって、私だって……
ジャラールさんに、そんな事言われたら……
「そんなに、ネシャートの事が好きか?」
ハッとしたジャラールさんは、そのまま王様とネシャートさんの前に、膝を着いた。
「お許し下さい。ネシャート王女をお守りするのは、私の使命。それ故の発言です。決してネシャート王女と私は……」
「もうよい。隠さなくても、ナスィームから聞いておる。二人が愛し合っている事を。」
これには、ジャラールさんどころか、ネシャートさんも、驚いていた。
「私は二人の気持ちに気づいていながら、人としての小ささ故、そなた達を引き裂いてしまった。本当はもっと前に、そなた達の事を考えてやらねば、ならなかったのだ。」
「いえ。そんな事はございません、父上。」
ジャラールさんが、頭を下げた時だ。
王様はジャラールさんの手を引き、立ち上がらせた。
「ジャラール。もう私の事を父と呼ぶのはよせ。」
「ええ?」
「そなたの本当の父は、隣の国のサマド王だ。サマド王もその事を知っている。以前から、そなたと一緒に暮らしたいと、申し出があったのだ。」
ジャラールさんの目には、涙が溜まっていた。
「父上……今さら、他の方は父と呼べと仰るのですか?それは、あまりにも残酷でございます。」
溢れる涙をジャラールさんが拭うと、王様は急にジャラールさんを抱き寄せた。
「そなたは、私の愛した女の子供。だが、私の血を引いてはおらぬ。その苦しみが、今までそなたを苛んできた事は、私は分かっていたのだ。だが、何も変わらぬ。そなたは、私のただ一人の王子だ。ネシャートと同じように、そなたの幸せを願っている。」
そして王様はジャラールさんを引き離すと、今度は両頬に、自分の手を当てた。
「だからこそ、サマド王の元へ行け。本当の父親を知る事は、自分を知る事と一緒だ。」
「父上……」
王様は、ジャラールさんの涙を、指で拭った。
「そしてここからが、一番大事だ。ジャラール、ネシャート、よく聞け。」
ジャラールさんとネシャートさんは、互いに顔を合わせた。
「私はサマド王に、ジャラールとネシャートの婚姻を、申し込もうと思う。」
「えっ?」
「父上!」
ゴーン……
頭に釣り鐘を打ち付けられたように、頭が痛い。
ジャラールさんとネシャートさんは、さぞかしお喜びかと思いますけど、私にとっちゃあ、失恋決定。
「サマド王の元へ行き、数年後。今度はネシャートの相手としてここへ戻って来い。そのままずっと、ネシャートと一緒に、この国を支えて行くのだ。」
「父上。」
ようやく二人のわだかまりが溶けたように、ジャラールさんと王様は、抱き締め合った。
そして二人が離れると、そこには泣き崩れるネシャートさんの姿が。
ジャラールさんが、泣き崩れるネシャートさんを、抱えながら立ち上がらせる。
「よかったね。ジャラールさん、ネシャートさん。」
すると二人は、顔を近づけながら、私に笑顔を見せてくれた。
「ありがとう、クレハ。」
その二人の様子に、私は見覚えがあった。
「そう言えば、クレハ。そなたが言っていた私達の事が書いてあったという本も、このような結末だったのかな。」
「うん!あの本でも……」
そこで私は思い出した。
この二人の幸せそうな顔。
あの本の最後に書いてあった、イラストで見た事があったんだ。
私はあのイラストを見て、“なんだ。ハッピーエンドじゃん”って思ったけれど。
辛い事を二人で乗り越えてきたこそ、描かれた二人の様子だったんだね。
「あっ!制服。ラナーの部屋に置きっぱなし!」
突然思い出した自分の服の在りか。
その時、ラナーはクスッと笑った。
「戻りましょうか。私の部屋に。」
「あっ、お願いします。」
急に下手に出た私を、みんなが笑った。
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