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黒幕の黒幕
⑤
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「……いつまでここに?」
「分からん。なぜ連れて来られたのも分からないのに、いつまでいるかなんて、分かるわけないじゃろう。」
私はこの老夫婦が、憐れに思えた。
おばあさんなんて、ボーッとしながら前だけを見ている。
「食事はちゃんと出るんですか?」
その問いには、おじいさんが答えた。
「一日2食出る。年寄りには調度の量じゃよ。」
そう言うけれど、老夫婦は痩せ細っているように見えた。
おばあさん、可哀想に。
じーっと見つめていたら、おばあさんと目があった。
おばあさんの目の色が変わる。
スイッチが入ったように、急に動き始める。
「ラナー……」
「えっ?」
今、確かにラナーと言った?
「ラナー。よく来てくれたね。」
「ばあさん。」
見かねたおじいさんが、おばあさんを止める。
「じいさんもご覧なさいよ。私達の娘が来たよ。」
「ばあさん。この娘はラナーじゃない。」
間違いなくこの二人は、ラナーと言っている。
「あのっ!」
老夫婦に話しかけた時だ。
後ろが騒がしくなり、番人の姿が見えた。
「おじいさん。」
私はできるだけ鉄格子に近づく。
「私はラナーを知っています。」
「えっ?まさか……」
「ラナーの友人です。また来ます。」
私はそう言い残して、二人の元を離れた。
何かある。
ラナーにはネシャートさんの命を狙わなければならない理由がある。
それはあの老夫婦が、鍵を握っているのだと思う。
隠し階段を登りきって、廊下に出た。
気づけば、朝日が登っている。
ときわや光清は、どうしているんだろう。
そんな事を考えたら、急に眠けが襲いかかった。
「おい、クレハ!」
私を支えてくれる人がいた。
ボーッとして、顔がよく見えない。
「光清?」
あれ?
私、元の世界に戻った?
「誰がミツキヨだ?」
珍しい声がする。
よ~く顔を見ると、昨日の夜、見た顔。
「ハーキムさん!」
「なんだ?寝ぼけてたのか?」
意地悪を言うハーキムさんに、ある事を気づく。
「ハーキムさん。なんでここに?」
「今朝、地下牢を出られたんだよ。嫌な事を思い出させるな。」
少したじろぐ私に、ハーキムさんも少し不機嫌?
「そう言えばハーキムさん。」
「ん?」
私は、ハーキムさんを壁の隅に、呼び寄せた。
「夜に気になるモノを見たの。」
ハーキムさんは、ハッとすると私の肩をぐっと掴んだ。
「何を見た?」
「あの……」
私はゴクンと、息を飲んだ。
「地下牢で、ラナーのご両親らしき人を見たの。」
「ラナーの?」
ハーキムさんは、驚いてそれ以上、声が出ない。
「理由も聞かされず、連れて来られたんだって。食事は一日2食出るみたいだけど、老夫婦にはきついかも。」
「えっ?何だって?」
ハーキムさんが、耳に手を添えた。
「だからお年寄りには、きついかなって!」
熱弁の私に呆れたのか、ハーキムさんは私から離れた。
「クレハ。聞き違いじゃないか?」
「えっ‼」
あんなにラナーラナー言ってたのに?
「ラナーの両親はまだ、年寄りじゃない。そうだな。ザーヒルと同じくらいだ。」
「ウソっ!」
全く年代が違うじゃん!
「年寄りの言う事だ。本気にするな。」
「う、うん……」
なんだ。
あの老夫婦がラナーを救ってくれると思ったのに。
違う人達だったなんて。
「お~い!今から罪人判定がでるぞ‼」
そう言いながら、宮殿の中の護衛以外の人達が、どこかへ走っていく。
「何?何が始まるの?」
「罪人判定だ。牢屋に入っている人間が、罪人にあたるのか審議するのだ。」
「うわ~それって、罪人だってなったら、近いうちに殺されるんでしょう?」
言って鳥肌が立った。
そして、ハッとする。
「牢屋に入れられてる人?もしかしてラナー?」
ハーキムさんは冷静に頷く。
「ええ?それ私も行けるの?」
「ああ。罪人判定は大広間で行う。誰でも入れる。」
「じゃあ、ハーキムさんも一緒に行こう。」
私はハーキムさんの腕を掴んだ。
「先に行ってくれ。俺は寄る場所がある。」
「分かった。」
ハーキムさんの腕を離して、大広間に向かう人達の群れに混ざる。
ラナー。
待っててね。
これでお別れなんて、私、嫌だよ。
必死に走って、大広間に着いた。
「ごめんなさい。」
人を掻き分け、一番前に出た。
そこには既に、ラナーが膝まずきながら、座っていた。
大広間の一番高い場所には、王様がいた。
あれが、ジャラールさんとネシャートさんのお父さん。
まだ若い。
現役バリバリじゃん。
ジャラールさん、いくつの時の子供なんだろう。
そんな事を考えていると、王様の側に正装したネシャートさんを発見。
う、美しい!
この世の者とは思えないぐらい美しい!!
そしてネシャートさんの側には、またジャラールさんが。
これまた正装で立っている。
カッコいい!!!!
あまりにも王子様のイメージ通りで、クラクラする。
「おねえちゃん、大丈夫か?」
見かねて隣のおじさんが、私を背中から支えてくれた。
「ハハハ!すみません……」
おじさんに頭を下げて、あの二人をまた見る。
王子様と王女様。
そんな呼び名がしっくりくるほど、ジャラールさんもネシャートさんも、神々しい。
あんなに気安く話していたなんて、信じられない。
まるで別な世界の人みたい。
しばらくすると、役人らしき人がラナーに近づいた。
「ネシャート王女付の侍女、ラナーよ。そなたがネシャート王女の飲み物に、毒を入れた。間違いはないな。」
「はい。間違いはありません。」
ラナーはうろたえるでもなく、はっきりとした口調で答えた。
「ネシャート王女の命を狙ったのか?」
「……はい。そうです。」
ラナーの答えに、周りがざわつく。
「なんてこった。王女付の侍女が王女を殺そうとするなんて。世も末だな。」
おじさんが話しかけてきた。
「ラナーはそんな人じゃない。」
「なんだよ。おねえちゃん、あの子知ってるの?」
「うん。」
私は両手を合わせて握った。
「なぜ命を狙った。」
王様直々の質問だ。
「そなたは幼い頃よりこの宮殿で暮らしていた。王女に毒を盛っても、多少の毒では死なない事も、王女の命をを狙えば己の身がどのようになるかは、分かっていたはずだ。」
「はい。」
「分かっていて、なぜ毒を盛り命を狙った。」
「それは……」
私の手にも力が入る。
「それは……私がジャラール王子に、好意を寄せていたからです。」
そしてまた周りがざわつき始める。
「王女の近くで、いつもジャラール王子をお慕いしておりました。ですがジャラール王子は王女にお仕えする限り私には振り向いてくれません。ですから王女がいなければと考えました。」
「なるほど。」
ざわつく周りに比べて、王様もジャラールさんもネシャートさんも、全く動じる気配がない。
なぜ?
ラナーがジャラールさんを好きだなんて。
そんなのウソに決まってる!
「ジャラールはこの事を知っていたのか?」
王様に尋ねられても、ジャラールさんは、王様とラナーの顔を交互に見るばかり。
それもそのはず。
知っていた、知らなかった。
どちらの答えを出しても、ラナーは救えない。
「どうした?ジャラール。知っていてこの者の反逆を助長したのか?それとも知らずに、この者が勝手な思い込みで行ったのか?」
「それは……」
ジャラールさん、困っている。
もしジャラールさんが"知っていた"と言ったら、ラナーと一緒に処罰する気なの!?
もう!放っておけない!
「待って下さい!」
私はラナーの近くに走った。
「控えろ!王の前だぞ!」
あっと言う間に、護衛達に捕まる。
「待って下さい!ラナーがジャラール王子を好きだなんてウソです!ラナーは!婚約者のハーキムさんを好きなんです!」
すると、ジャラールさんが、助けに来てくれた。
「我が王よ。この者は私の側にいる者です。勝手に王の前に出てきた事、お許しください。」
「いいだろう。許そう。」
王様の一言で、護衛の人達は、私から離れていく。
「クレハ!」
「ジャラールさん!」
するとジャラールさんは、私の肩を急に掴んだ。
「クレハ。早くこの場を立ち去るんだ。」
「えっ?」
いつものジャラールさんと違う。
「ここは王の前だ。王族以外の者が、許しもなくここに来てはいけない。」
その冷徹な目に、体が震える。
私、そんなに大それた事をしてしまったの?
「ごめんなさい。どうしてもラナーを助けたくて。」
「分かっている。」
そう言って、ジャンルさんは私をきつく抱き締めてくれた。
体の震えが止まる。
この人に愛されない事は知っているのに、どうしてもジャラールさんが欲しくなる。
ネシャートさん、ごめんなさい。
私も実はジャラールさんが、好きなんです。
今だけ。
今だけ、ジャラールさんを抱き締める事を許して。
私はジャラールさんの背中に、両腕を回して目を閉じた。
「クレハ?」
私を抱き締めてくれているはずのジャラールさんが、驚いている。
「ジャラールさん。もうこんな事ないと思うから、今のうちに言っておくね。」
「何を言ってくれるんだ?俺の可愛いお姫様は。」
「ふふふ。」
お姫様って。
さすがジャラールさん。
女の子が喜ぶツボ、抑えている。
「私、ジャラールさんの事、好きだった。」
「クレハ……」
「こんな気持ちをくれて、有難う。」
「分からん。なぜ連れて来られたのも分からないのに、いつまでいるかなんて、分かるわけないじゃろう。」
私はこの老夫婦が、憐れに思えた。
おばあさんなんて、ボーッとしながら前だけを見ている。
「食事はちゃんと出るんですか?」
その問いには、おじいさんが答えた。
「一日2食出る。年寄りには調度の量じゃよ。」
そう言うけれど、老夫婦は痩せ細っているように見えた。
おばあさん、可哀想に。
じーっと見つめていたら、おばあさんと目があった。
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スイッチが入ったように、急に動き始める。
「ラナー……」
「えっ?」
今、確かにラナーと言った?
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「ばあさん。」
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「じいさんもご覧なさいよ。私達の娘が来たよ。」
「ばあさん。この娘はラナーじゃない。」
間違いなくこの二人は、ラナーと言っている。
「あのっ!」
老夫婦に話しかけた時だ。
後ろが騒がしくなり、番人の姿が見えた。
「おじいさん。」
私はできるだけ鉄格子に近づく。
「私はラナーを知っています。」
「えっ?まさか……」
「ラナーの友人です。また来ます。」
私はそう言い残して、二人の元を離れた。
何かある。
ラナーにはネシャートさんの命を狙わなければならない理由がある。
それはあの老夫婦が、鍵を握っているのだと思う。
隠し階段を登りきって、廊下に出た。
気づけば、朝日が登っている。
ときわや光清は、どうしているんだろう。
そんな事を考えたら、急に眠けが襲いかかった。
「おい、クレハ!」
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ボーッとして、顔がよく見えない。
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あれ?
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「だからお年寄りには、きついかなって!」
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「クレハ。聞き違いじゃないか?」
「えっ‼」
あんなにラナーラナー言ってたのに?
「ラナーの両親はまだ、年寄りじゃない。そうだな。ザーヒルと同じくらいだ。」
「ウソっ!」
全く年代が違うじゃん!
「年寄りの言う事だ。本気にするな。」
「う、うん……」
なんだ。
あの老夫婦がラナーを救ってくれると思ったのに。
違う人達だったなんて。
「お~い!今から罪人判定がでるぞ‼」
そう言いながら、宮殿の中の護衛以外の人達が、どこかへ走っていく。
「何?何が始まるの?」
「罪人判定だ。牢屋に入っている人間が、罪人にあたるのか審議するのだ。」
「うわ~それって、罪人だってなったら、近いうちに殺されるんでしょう?」
言って鳥肌が立った。
そして、ハッとする。
「牢屋に入れられてる人?もしかしてラナー?」
ハーキムさんは冷静に頷く。
「ええ?それ私も行けるの?」
「ああ。罪人判定は大広間で行う。誰でも入れる。」
「じゃあ、ハーキムさんも一緒に行こう。」
私はハーキムさんの腕を掴んだ。
「先に行ってくれ。俺は寄る場所がある。」
「分かった。」
ハーキムさんの腕を離して、大広間に向かう人達の群れに混ざる。
ラナー。
待っててね。
これでお別れなんて、私、嫌だよ。
必死に走って、大広間に着いた。
「ごめんなさい。」
人を掻き分け、一番前に出た。
そこには既に、ラナーが膝まずきながら、座っていた。
大広間の一番高い場所には、王様がいた。
あれが、ジャラールさんとネシャートさんのお父さん。
まだ若い。
現役バリバリじゃん。
ジャラールさん、いくつの時の子供なんだろう。
そんな事を考えていると、王様の側に正装したネシャートさんを発見。
う、美しい!
この世の者とは思えないぐらい美しい!!
そしてネシャートさんの側には、またジャラールさんが。
これまた正装で立っている。
カッコいい!!!!
あまりにも王子様のイメージ通りで、クラクラする。
「おねえちゃん、大丈夫か?」
見かねて隣のおじさんが、私を背中から支えてくれた。
「ハハハ!すみません……」
おじさんに頭を下げて、あの二人をまた見る。
王子様と王女様。
そんな呼び名がしっくりくるほど、ジャラールさんもネシャートさんも、神々しい。
あんなに気安く話していたなんて、信じられない。
まるで別な世界の人みたい。
しばらくすると、役人らしき人がラナーに近づいた。
「ネシャート王女付の侍女、ラナーよ。そなたがネシャート王女の飲み物に、毒を入れた。間違いはないな。」
「はい。間違いはありません。」
ラナーはうろたえるでもなく、はっきりとした口調で答えた。
「ネシャート王女の命を狙ったのか?」
「……はい。そうです。」
ラナーの答えに、周りがざわつく。
「なんてこった。王女付の侍女が王女を殺そうとするなんて。世も末だな。」
おじさんが話しかけてきた。
「ラナーはそんな人じゃない。」
「なんだよ。おねえちゃん、あの子知ってるの?」
「うん。」
私は両手を合わせて握った。
「なぜ命を狙った。」
王様直々の質問だ。
「そなたは幼い頃よりこの宮殿で暮らしていた。王女に毒を盛っても、多少の毒では死なない事も、王女の命をを狙えば己の身がどのようになるかは、分かっていたはずだ。」
「はい。」
「分かっていて、なぜ毒を盛り命を狙った。」
「それは……」
私の手にも力が入る。
「それは……私がジャラール王子に、好意を寄せていたからです。」
そしてまた周りがざわつき始める。
「王女の近くで、いつもジャラール王子をお慕いしておりました。ですがジャラール王子は王女にお仕えする限り私には振り向いてくれません。ですから王女がいなければと考えました。」
「なるほど。」
ざわつく周りに比べて、王様もジャラールさんもネシャートさんも、全く動じる気配がない。
なぜ?
ラナーがジャラールさんを好きだなんて。
そんなのウソに決まってる!
「ジャラールはこの事を知っていたのか?」
王様に尋ねられても、ジャラールさんは、王様とラナーの顔を交互に見るばかり。
それもそのはず。
知っていた、知らなかった。
どちらの答えを出しても、ラナーは救えない。
「どうした?ジャラール。知っていてこの者の反逆を助長したのか?それとも知らずに、この者が勝手な思い込みで行ったのか?」
「それは……」
ジャラールさん、困っている。
もしジャラールさんが"知っていた"と言ったら、ラナーと一緒に処罰する気なの!?
もう!放っておけない!
「待って下さい!」
私はラナーの近くに走った。
「控えろ!王の前だぞ!」
あっと言う間に、護衛達に捕まる。
「待って下さい!ラナーがジャラール王子を好きだなんてウソです!ラナーは!婚約者のハーキムさんを好きなんです!」
すると、ジャラールさんが、助けに来てくれた。
「我が王よ。この者は私の側にいる者です。勝手に王の前に出てきた事、お許しください。」
「いいだろう。許そう。」
王様の一言で、護衛の人達は、私から離れていく。
「クレハ!」
「ジャラールさん!」
するとジャラールさんは、私の肩を急に掴んだ。
「クレハ。早くこの場を立ち去るんだ。」
「えっ?」
いつものジャラールさんと違う。
「ここは王の前だ。王族以外の者が、許しもなくここに来てはいけない。」
その冷徹な目に、体が震える。
私、そんなに大それた事をしてしまったの?
「ごめんなさい。どうしてもラナーを助けたくて。」
「分かっている。」
そう言って、ジャンルさんは私をきつく抱き締めてくれた。
体の震えが止まる。
この人に愛されない事は知っているのに、どうしてもジャラールさんが欲しくなる。
ネシャートさん、ごめんなさい。
私も実はジャラールさんが、好きなんです。
今だけ。
今だけ、ジャラールさんを抱き締める事を許して。
私はジャラールさんの背中に、両腕を回して目を閉じた。
「クレハ?」
私を抱き締めてくれているはずのジャラールさんが、驚いている。
「ジャラールさん。もうこんな事ないと思うから、今のうちに言っておくね。」
「何を言ってくれるんだ?俺の可愛いお姫様は。」
「ふふふ。」
お姫様って。
さすがジャラールさん。
女の子が喜ぶツボ、抑えている。
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