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砂漠の中の城
①
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新幹線に乗って、一時間。
景色を見ていると、瞼が異常に重かった。
「紅葉?」
光清が話しかけてくれて、なんとか意識を取り戻す。
「すごく眠そうだね。コーヒーでも飲む?」
「うん。」
光清に缶コーヒーを渡され、グビッと飲み干した。
「どうしたの?イケメンのお陰で、ぐっすり眠れたんじゃなかったの?」
「うん……」
眠れたはずだった。
変な夢だったけれども、悪夢でもないし。
どちらかと言うと、ハラハラドキドキの冒険しているような夢。
寝不足ではない、はず。
でも異常に眠い。
さっきから生欠伸ばかり出る。
「一旦、寝たら?」
「いいのかな。」
「構わないよ。着いたら起こすし。」
光清にそう言われ、私は背もたれに体を預け、目を閉じた。
スッーと、周りの音や光は遮断され、私はあっという間に、ウトウトと眠りについた。
気づいたら、駱駝の上に乗っていた。
「クレハ?」
私の顔を覗き込んだのは、髭が似合うハーキムさんだった。
「大丈夫か?俺を見ろ。」
「えっ……」
ハーキムさんの目をじーっと見ると、彼はほっとしていた。
「ハーキム、少し休もう。」
「しかし日没まで、時間がありません。今は少しでも距離を縮めないと……」
するとジャラールさんは、私たちの隣に来た。
「いいんだ、ハーキム。」
するとジャラールさんとハーキムさんは、砂漠の中で駱駝から降りた。
「クレハ、水だ。」
「ありがとうございます。」
ジャラールさんから水筒を貰うと、ゴクンゴクンと音を鳴らしながら飲む。
こんなにも水が有り難いなんて、ここに来てわかった。
「元気を取り戻したようだな。」
「はい。」
まあ、日射しでぐったりはするけれど、あんなに眠かったのは無くなってしまった。
しかもまた、イケメンに会えたし。
「しかしいつ見ても、クレハは暑そうだ。」
「いや、ホントに暑いかも。」
太陽の直射日光が、こんなにも暑いなんて。
日本ではそんな事、思ったことはなかった。
汗が吹き出して、顎から汗が滴り落ちる。
「これを羽織れ。」
ジャラールさんは、懐からショールを取りだし、私に放り投げた。
「これを?」
それは薄いピンク色のショールだった。
明らかに女性物だった。
「またジャラール様は、そのような大事な物を。」
ジャラールさんの行動に、もう呆れ果てたのか、ハーキムさんはため息をつくだけに変わった。
そんなハーキムさんを、笑って見守るジャラールさん。
二人の関係は、なんだか不思議だ。
主従関係だとは思うが、時より兄弟にも見えるし、親友同士にも見える。
「折角なんでお借りしますね。ありがとうございます。」
とにかく日射しを遮りたい私は、ショールを頭の上から羽織った。
うん。
二人が被っているターバンに比べれば、布は薄いけれど、それでもないよりはマシだ。
いくらか日射しが和らぐ。
「似合うな。」
「そうですか?」
ピンクのショールなんて、女の子っぽい物。
私に似合うなんて、ちょっと照れ臭い。
「ハーキム。今日はあの宮殿の跡地で、宿をとろう。」
「はい。ジャラール様。」
私を乗せたハーキムさんの駱駝は、ジャラールさんの駱駝を追いかけて、走り出した。
「ねえ、ハーキムさん。」
「なんだ。」
「ジャラールさんとハーキムさんって、どちらが歳上なんですか?」
「歳?私の方が上だが?」
そりゃそうだな、と思いながら聞いてみてよかった。
ハーキムさんは意外と質問には、真面目に答えてくれる人みたいだ。
「じゃあ、このショールは誰の物なんですか?」
ハーキムさんは、何故か黙りっぱなし。
「女性物ですよね。ハーキムさんはさっき、『そのような大事な物を。』って言ってましたよね。」
尚も黙りを決め込むハーキムさん。
結構話してくれる人だと思ったのに、検討違いだったみたい。
「この先のオワシスに行くって、ジャラールさん言ってましたけど、そこに何があるんですか?」
「うるさい女だ。さっきから黙っていれば、次から次へと質問攻めか?」
うるさい女と言われ、質問はシャットアウト。
しばらくは何も聞かない事にした。
「ハーキム。あそこだ。」
ジャラールさんに言われた場所に、ハーキムさんは向かう。
砂の壁。
所々、穴が開いてて、それが窓のように見えた。
「あれは何?」
「昔の要塞だ。まだここにオワシスがあった頃のな。」
「オワシス?この近くに湖があったの?」
「湖どころか、小さな国があった。あの要塞は、その時の支配者の宮殿でもあった。」
「宮殿?あれが?」
「昔の話だ。」
うるさいと言ったくせに、ハーキムさんはそんな質問には答えるんだと、改めて納得。
要するに答えちゃまずい質問には、答えないってヤツなんだ。
そして壁の宮殿に着いて、余計にびっくり。
遠くから壁にしか見えなかった宮殿は、まさに砂漠の中に立つお城、その物だった。
外からは見えないが、家壁に施されている、様々な装飾品の跡。
かつてここが、王族が住んでいた場所だと言うことに納得できた。
ただし、今は壁が崩れて、ようやく雨風が凌げるくらいの場所しか残っていないけど。
「ここで暖をとろう。」
ジャラールさんが、近くにラクダを繋げた。
「はい。暖を取れそうな物を探して来ます。」
ハーキムさんは、私をラクダから降ろすと、どこかへ行ってしまった。
「クレハ。疲れてはいないか?」
「はい。」
何回な軽く頷いたジャラールさんは、近くにしゃがみ込むと、持っていたナイフで、穴を掘り始めた。
「何してるんですか?」
「暖を取る準備だ。少し穴を掘っておくと、火がつきやすいんだ。」
私はジャラールさんの横に、腰を降ろした。
ジャラールさんは、器用に穴を掘って、辺りに落ちていた小枝を入れ火をつけた。
暗い星空で、暖かく灯っている。
「すごい。」
「そうか?これでも少し前まではうまく穴も掘れず、小枝にも火をつけられなかった。ハーキムに何度も直された。」
そういうジャラールさんは、楽しそうだった。
「ハーキムさんとは、付き合いは長いんですか?」
「ああ。何せ物心ついた時から側にいた。」
「物心ついた時から?幼馴染みみたい。」
「ハハハ!幼馴染みか。四六時中一緒にいるからな。幼馴染みというよりは、兄弟に近い。」
ジャラールさんって、ものすごく穏やかで温かい人。
王子様と家来なのに、兄弟って言うなんて。
「実際、生きていく知恵も、剣術も遊びも、ハーキムに教わった。私には母親が違う妹が一人いるが、ハーキムも血の繋がっていない兄のようなものだ。」
私はジャラールさんの横に、腰を降ろした。
ジャラールさんは、器用に穴を掘って、辺りに落ちていた小枝を入れ火をつけた。
暗い星空で、暖かく灯っている。
「すごい。」
「そうか?これでも少し前まではうまく穴も掘れず、小枝にも火をつけられなかった。ハーキムに何度も直された。」
そういうジャラールさんは、楽しそうだった。
「ハーキムさんとは、付き合いは長いんですか?」
「ああ。何せ物心ついた時から側にいた。」
「物心ついた時から?幼馴染みみたい。」
「ハハハ!幼馴染みか。四六時中一緒にいるからな。幼馴染みというよりは、兄弟に近い。」
ジャラールさんって、ものすごく穏やかで温かい人。
王子様と家来なのに、兄弟って言うなんて。
「実際、生きていく知恵も、剣術も遊びも、ハーキムに教わった。私には母親が違う妹が一人いるが、ハーキムも血の繋がっていない兄のようなものだ。」
まだ二人と出会って間もないけれど、二人の間には、とてつもない信頼関係があるのだとわかった。
そんな時、近くでラクダの音がした。
「ジャラール様。ただ今戻りました。」
「ああ。ご苦労だった。」
ハーキムさんは早速、集めてきた木を、ジャラールさんが小枝で点けた火の近くに置いた。
少しずつ木にも火が燃え移り、暖かさは尚一層増した。
「さあ、食事にするか。」
ジャラールさんもハーキムさんも、荷物から何かを取り出す。
「クレハ。これを食べるといい。」
渡されたのは乾燥したパン、一つだった。
「あっ、いや私は……」
そう言った瞬間、私のお腹がキュルルルと鳴った。
二人とも笑いを堪えている。
「我慢すると体に毒だぞ。」
「ハハハ……」
イケメンの前でなんと言う失態!
しかしなんでだろう。
夢の中なのに、お腹が空くなんて。
「クレハ。少し君の事を聞いてもいいかな。」
「はい?」
穏やかなジャラールさんが、少しだけ真面目な表情を見せた。
「クレハの国はどこだ?」
「国?」
「ああ。この国の者は、砂漠の中で肌や髪を他人に見せたりはしない。そのような格好をしているという事は、少なくてもアラブの国ではないだろう。」
そう言えば私、今制服着てるよ。
夢の中って、自動的に衣装チェンジしないのかな。
「当たり!私は日本って言う国から来たの!」
「日本?」
「わかる?ジャパン!ジャパンよ!」
二人は真剣に顔を見合わせた。
「東洋の果てにジパングという黄金の国があると聞いた事があります。もしやそこなのでは。」
「へ?黄金の国?」
いつの時代のお話?
私は息をゴクンと飲んだ。
「その様子だと黄金の国ではなさそうだな。」
ジャラールさんは、前のめりになって聞いてきた。
「そ、そうですね。黄金はザクザク出てこないかな。経済大国とは言われてますけどね。」
「経済大国か。金持ちが多いのだろうな。」
ジャラールさんは、すごく私に気を使ってくれている。
日本にお金持ちがたくさんいるかは、高校生の私にはわからないけど、確かアラブの国は石油のお陰で、国全体が豊かだって聞いたもん。
「たぶん……こっちの国の方がお金持ちは、たくさんいると思いますよ。」
「そうか?この国も日本と同じように、黄金は取れないんだが。」
真面目に答えているジャラールさんが、可笑しくて仕方がない。
笑っちゃいけないとわかっているのに、笑いを堪えられない。
「そんなに可笑しい事言ったかな。ハーキム。」
「さあ。笑うタイミングは、人それぞれですから。」
加えてハーキムさんの、冷静沈着な分析。
こんな一介の高校生が言う事を、こんなに真面目に受け取ってくれるなんて。
もう可笑しくて可笑しくて、お腹が痛くなる。
景色を見ていると、瞼が異常に重かった。
「紅葉?」
光清が話しかけてくれて、なんとか意識を取り戻す。
「すごく眠そうだね。コーヒーでも飲む?」
「うん。」
光清に缶コーヒーを渡され、グビッと飲み干した。
「どうしたの?イケメンのお陰で、ぐっすり眠れたんじゃなかったの?」
「うん……」
眠れたはずだった。
変な夢だったけれども、悪夢でもないし。
どちらかと言うと、ハラハラドキドキの冒険しているような夢。
寝不足ではない、はず。
でも異常に眠い。
さっきから生欠伸ばかり出る。
「一旦、寝たら?」
「いいのかな。」
「構わないよ。着いたら起こすし。」
光清にそう言われ、私は背もたれに体を預け、目を閉じた。
スッーと、周りの音や光は遮断され、私はあっという間に、ウトウトと眠りについた。
気づいたら、駱駝の上に乗っていた。
「クレハ?」
私の顔を覗き込んだのは、髭が似合うハーキムさんだった。
「大丈夫か?俺を見ろ。」
「えっ……」
ハーキムさんの目をじーっと見ると、彼はほっとしていた。
「ハーキム、少し休もう。」
「しかし日没まで、時間がありません。今は少しでも距離を縮めないと……」
するとジャラールさんは、私たちの隣に来た。
「いいんだ、ハーキム。」
するとジャラールさんとハーキムさんは、砂漠の中で駱駝から降りた。
「クレハ、水だ。」
「ありがとうございます。」
ジャラールさんから水筒を貰うと、ゴクンゴクンと音を鳴らしながら飲む。
こんなにも水が有り難いなんて、ここに来てわかった。
「元気を取り戻したようだな。」
「はい。」
まあ、日射しでぐったりはするけれど、あんなに眠かったのは無くなってしまった。
しかもまた、イケメンに会えたし。
「しかしいつ見ても、クレハは暑そうだ。」
「いや、ホントに暑いかも。」
太陽の直射日光が、こんなにも暑いなんて。
日本ではそんな事、思ったことはなかった。
汗が吹き出して、顎から汗が滴り落ちる。
「これを羽織れ。」
ジャラールさんは、懐からショールを取りだし、私に放り投げた。
「これを?」
それは薄いピンク色のショールだった。
明らかに女性物だった。
「またジャラール様は、そのような大事な物を。」
ジャラールさんの行動に、もう呆れ果てたのか、ハーキムさんはため息をつくだけに変わった。
そんなハーキムさんを、笑って見守るジャラールさん。
二人の関係は、なんだか不思議だ。
主従関係だとは思うが、時より兄弟にも見えるし、親友同士にも見える。
「折角なんでお借りしますね。ありがとうございます。」
とにかく日射しを遮りたい私は、ショールを頭の上から羽織った。
うん。
二人が被っているターバンに比べれば、布は薄いけれど、それでもないよりはマシだ。
いくらか日射しが和らぐ。
「似合うな。」
「そうですか?」
ピンクのショールなんて、女の子っぽい物。
私に似合うなんて、ちょっと照れ臭い。
「ハーキム。今日はあの宮殿の跡地で、宿をとろう。」
「はい。ジャラール様。」
私を乗せたハーキムさんの駱駝は、ジャラールさんの駱駝を追いかけて、走り出した。
「ねえ、ハーキムさん。」
「なんだ。」
「ジャラールさんとハーキムさんって、どちらが歳上なんですか?」
「歳?私の方が上だが?」
そりゃそうだな、と思いながら聞いてみてよかった。
ハーキムさんは意外と質問には、真面目に答えてくれる人みたいだ。
「じゃあ、このショールは誰の物なんですか?」
ハーキムさんは、何故か黙りっぱなし。
「女性物ですよね。ハーキムさんはさっき、『そのような大事な物を。』って言ってましたよね。」
尚も黙りを決め込むハーキムさん。
結構話してくれる人だと思ったのに、検討違いだったみたい。
「この先のオワシスに行くって、ジャラールさん言ってましたけど、そこに何があるんですか?」
「うるさい女だ。さっきから黙っていれば、次から次へと質問攻めか?」
うるさい女と言われ、質問はシャットアウト。
しばらくは何も聞かない事にした。
「ハーキム。あそこだ。」
ジャラールさんに言われた場所に、ハーキムさんは向かう。
砂の壁。
所々、穴が開いてて、それが窓のように見えた。
「あれは何?」
「昔の要塞だ。まだここにオワシスがあった頃のな。」
「オワシス?この近くに湖があったの?」
「湖どころか、小さな国があった。あの要塞は、その時の支配者の宮殿でもあった。」
「宮殿?あれが?」
「昔の話だ。」
うるさいと言ったくせに、ハーキムさんはそんな質問には答えるんだと、改めて納得。
要するに答えちゃまずい質問には、答えないってヤツなんだ。
そして壁の宮殿に着いて、余計にびっくり。
遠くから壁にしか見えなかった宮殿は、まさに砂漠の中に立つお城、その物だった。
外からは見えないが、家壁に施されている、様々な装飾品の跡。
かつてここが、王族が住んでいた場所だと言うことに納得できた。
ただし、今は壁が崩れて、ようやく雨風が凌げるくらいの場所しか残っていないけど。
「ここで暖をとろう。」
ジャラールさんが、近くにラクダを繋げた。
「はい。暖を取れそうな物を探して来ます。」
ハーキムさんは、私をラクダから降ろすと、どこかへ行ってしまった。
「クレハ。疲れてはいないか?」
「はい。」
何回な軽く頷いたジャラールさんは、近くにしゃがみ込むと、持っていたナイフで、穴を掘り始めた。
「何してるんですか?」
「暖を取る準備だ。少し穴を掘っておくと、火がつきやすいんだ。」
私はジャラールさんの横に、腰を降ろした。
ジャラールさんは、器用に穴を掘って、辺りに落ちていた小枝を入れ火をつけた。
暗い星空で、暖かく灯っている。
「すごい。」
「そうか?これでも少し前まではうまく穴も掘れず、小枝にも火をつけられなかった。ハーキムに何度も直された。」
そういうジャラールさんは、楽しそうだった。
「ハーキムさんとは、付き合いは長いんですか?」
「ああ。何せ物心ついた時から側にいた。」
「物心ついた時から?幼馴染みみたい。」
「ハハハ!幼馴染みか。四六時中一緒にいるからな。幼馴染みというよりは、兄弟に近い。」
ジャラールさんって、ものすごく穏やかで温かい人。
王子様と家来なのに、兄弟って言うなんて。
「実際、生きていく知恵も、剣術も遊びも、ハーキムに教わった。私には母親が違う妹が一人いるが、ハーキムも血の繋がっていない兄のようなものだ。」
私はジャラールさんの横に、腰を降ろした。
ジャラールさんは、器用に穴を掘って、辺りに落ちていた小枝を入れ火をつけた。
暗い星空で、暖かく灯っている。
「すごい。」
「そうか?これでも少し前まではうまく穴も掘れず、小枝にも火をつけられなかった。ハーキムに何度も直された。」
そういうジャラールさんは、楽しそうだった。
「ハーキムさんとは、付き合いは長いんですか?」
「ああ。何せ物心ついた時から側にいた。」
「物心ついた時から?幼馴染みみたい。」
「ハハハ!幼馴染みか。四六時中一緒にいるからな。幼馴染みというよりは、兄弟に近い。」
ジャラールさんって、ものすごく穏やかで温かい人。
王子様と家来なのに、兄弟って言うなんて。
「実際、生きていく知恵も、剣術も遊びも、ハーキムに教わった。私には母親が違う妹が一人いるが、ハーキムも血の繋がっていない兄のようなものだ。」
まだ二人と出会って間もないけれど、二人の間には、とてつもない信頼関係があるのだとわかった。
そんな時、近くでラクダの音がした。
「ジャラール様。ただ今戻りました。」
「ああ。ご苦労だった。」
ハーキムさんは早速、集めてきた木を、ジャラールさんが小枝で点けた火の近くに置いた。
少しずつ木にも火が燃え移り、暖かさは尚一層増した。
「さあ、食事にするか。」
ジャラールさんもハーキムさんも、荷物から何かを取り出す。
「クレハ。これを食べるといい。」
渡されたのは乾燥したパン、一つだった。
「あっ、いや私は……」
そう言った瞬間、私のお腹がキュルルルと鳴った。
二人とも笑いを堪えている。
「我慢すると体に毒だぞ。」
「ハハハ……」
イケメンの前でなんと言う失態!
しかしなんでだろう。
夢の中なのに、お腹が空くなんて。
「クレハ。少し君の事を聞いてもいいかな。」
「はい?」
穏やかなジャラールさんが、少しだけ真面目な表情を見せた。
「クレハの国はどこだ?」
「国?」
「ああ。この国の者は、砂漠の中で肌や髪を他人に見せたりはしない。そのような格好をしているという事は、少なくてもアラブの国ではないだろう。」
そう言えば私、今制服着てるよ。
夢の中って、自動的に衣装チェンジしないのかな。
「当たり!私は日本って言う国から来たの!」
「日本?」
「わかる?ジャパン!ジャパンよ!」
二人は真剣に顔を見合わせた。
「東洋の果てにジパングという黄金の国があると聞いた事があります。もしやそこなのでは。」
「へ?黄金の国?」
いつの時代のお話?
私は息をゴクンと飲んだ。
「その様子だと黄金の国ではなさそうだな。」
ジャラールさんは、前のめりになって聞いてきた。
「そ、そうですね。黄金はザクザク出てこないかな。経済大国とは言われてますけどね。」
「経済大国か。金持ちが多いのだろうな。」
ジャラールさんは、すごく私に気を使ってくれている。
日本にお金持ちがたくさんいるかは、高校生の私にはわからないけど、確かアラブの国は石油のお陰で、国全体が豊かだって聞いたもん。
「たぶん……こっちの国の方がお金持ちは、たくさんいると思いますよ。」
「そうか?この国も日本と同じように、黄金は取れないんだが。」
真面目に答えているジャラールさんが、可笑しくて仕方がない。
笑っちゃいけないとわかっているのに、笑いを堪えられない。
「そんなに可笑しい事言ったかな。ハーキム。」
「さあ。笑うタイミングは、人それぞれですから。」
加えてハーキムさんの、冷静沈着な分析。
こんな一介の高校生が言う事を、こんなに真面目に受け取ってくれるなんて。
もう可笑しくて可笑しくて、お腹が痛くなる。
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