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夢か現実か
①
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修学旅行の前日。
まだ私は、実感が湧かないまま旅行の準備をしていた。
「紅葉。修学旅行の準備、できたの?」
母親が皿洗いをしながら、聞いてきた。
「うん。一通りは。」
「じゃあ、お小遣いあげなきゃね。」
手を洗いながら、母親は財布から一万円を出した。
「わお。太っ腹‼」
感激しながら両手を出すと、母親は手をバチっと叩いた。
「その代わり、ちゃんとお土産。買ってくるんだよ。」
「わかってます!」
母親から万札を受けとると、頭を下げた。
「俺、八ツ橋がいい。」
お風呂から出てきた弟が、いつの間にか居間にいた。
「八ツ橋?」
「知らねえの?京都の名物。」
2歳も下なのに、その言い方に腹が立つ。
「お母さん、千枚漬けね。」
「千枚漬け!?」
すると母親は、じっとこちらを見ながら言った。
「あら、知らないの?京都の名物。」
弟の生意気な口調は、絶対母親譲りだと思った。
「はいはい。ちゃんと買って来ますよ。」
濡れた髪の毛を乾かしながら、私は二人に答えた。
「しかしねえ。」
「ねえ。」
母親と弟は、顔を見合わせて頷いた。
「何よ。」
「今時、修学旅行が京都って。」
弟がバカにしながら、言った。
「俺、中学生だけど修学旅行、沖縄だぜ?」
「沖縄ぐらいで、何威張ってんのよ。」
「いや、だからさ。国内旅行なんて中学生レベル?」
「何よ、それ。」
髪の毛を乾かしていたタオルて、弟を叩こうとしたら、避けられた。
「俺、姉ちゃんの高校だけは受験しねえわ。」
「は?」
「高校生になったら、海外に行きたいもんね。修学旅行。」
無言でもう一度、タオルを振り回したら、偶然弟に当たった。
「痛いな。」
「あんたが悪いんでしょ?」
不貞腐れた顔して、弟はリビングを出ていった。
「まあまあ、とっちでもいいじゃない?」
母親は慰めてくれたけれど、私の怒りは治まりきれなかった。
その日の夜。
私は、不思議な夢を見た。
「はぁはぁはぁ……」
皮膚がジリジリと焼ける。
咽が異常に渇く。
歩いても歩いても砂の世界。
「何なの?ここ……」
やけに足を取られる。
それが、やけに現実味を滲ませた。
「どこまで行けばいいの?」
果てを知らないその世界。
上を見上げれば、太陽が生まれて初めて、大きく感じた。
体に力が入らなくて、ふらっとした後、その場に膝を着いた。
「私、このまま死んじゃうのかな。」
そう呟いて目の前に、倒れこんだ。
全身が暑い。
上からも下からも、体を焼かれている気がした。
砂から湯気が出ている。
おそらく砂に含まれる僅かな水分まで、その暑さは奪っているのだ。
「もうダメだ。」
目がトロンとして、開いていられなかった。
死を覚悟したその時だった。
遠くから動物の鳴き声がした。
その音はやがて私に近づいてきた。
そして、聞こえる人の足音。
ん?人?
「大丈夫か?」
肩に触れる手の温もり。
私はすぐさま目を開けた。
「おい。生きているんだな。」
白い服装と黒い服装の男二人。
やった。
助かった。
「う……ん……」
私は声を振り絞った。
「しっかりしろ‼」
白い服装の男に抱き抱えられ、口許に硬い何かが当たった。
間もなくそこから水が流れ落ち、私の体の中に水分が入ってくる。
私は両腕でそれを持ち、中から出てくる水をゴクンゴクンと飲み干した。
「慌てるな。ゆっくりと飲め。」
そんな忠告も聞かずに、ありったけの水を体に入れようと必至だった。
「はあ……」
飲み干すだけ飲み干して、私は深呼吸を繰り返した。
「よかった。死んではいないようだ。」
「はい。」
二人の声を聞き、私は改めてその人達を見た。
日本人と同じ褐色の肌。
濃い顔つき。
そこが砂漠だった事と、白黒の衣装が、この二人をアラブ人だと、私に教えてくれた。
「あの……ありがとうございます。」
私は水筒を持ちながら、頭を下げた。
「礼には及ばない。何よりも生きててよかった。」
白い服装の男の人が言った。
整った顔の作り。
品のある振る舞い。
優しそうな笑顔。
どれも私の心を捉えて、離さない。
「どうした?」
「……いえ。」
うなづくと、手を差し出された。
私は持っていた水筒を渡す。
白い服装の人は、それを黒い服装の人に渡すと、もう一度私に手を差し出した。
「立てるか?」
その手を握り、なんとか私は立ち上がった。
「そなた、名はなんと申す?」
「……紅葉です。」
「クレハか。良い名前だ。」
そんな事言われた事がなくて、恥ずかしくなった。
「クレハ。なぜ砂漠の中を歩いていた?」
「さあ?」
「分からぬのか?」
「はい。」
すると黒い服装の人が、腰にあった刀に、手をかけた。
「ひぃ!」
私は2、3歩後ろへ下がる。
「ハーキム。止めろ。」
「しかし!」
「よいのだ。」
白い服装の人に言われ、"ハーキム"と呼ばれた黒い服装の人は、刀から手を離した。
「クレハ、許せ。ハーキムは、俺の大事な友。俺を守ろうとしての行動なのだ。」
「はあ…」
白い服装の人の、瞳の奥が深くて、私は吸い込まれそうになった。
「俺の名前は、ジャラール。この先のオワシスまで行くのだ。クレハは?」
「いや、私は……」
そこで、ふと頭に引っかかることがあった。
ジャラール。
どこかで聞いた事がある名前。
「クレハ?」
「あっ、いや、その……全く行き先なんて決めていなくて……」
黒い服装のハーキムさんは、私を見ながら深いため息をついた。
「でしょうね。ターバンも巻かずに砂漠を歩くなんて。」
「へ?」
「無防備にも程がある。クレハ殿は、命を粗末にする気か?」
「はあ……」
そんな事言われたって、普段そんな物は被んないし、砂漠だって歩いた事はない。
「だめだ。ジャラール様、このような者、相手にするべきではありません。先を急ぎましょう。」
「まあ、いいではないか。ハーキム。」
なんかよく分からないが、ハーキムって人は、私が普通の洋服で砂漠を歩いていたことに、嫌悪感を抱いているみたい。
いや、私もなんかこの人、好きになれそうにないけど。
「一日でも早く宝石を持ち帰らないと、ネシャート様が……」
ん?
ネシャート?
益々聞いた事がある!
ジャラールにネシャート。
私の頭の中に、図書室で見た本が浮かんだ。
「ああっ‼」
思わず指を指す。
「どうした?」
どこかで聞いた事があるって、この人。
あの本に出てくる主人公だよ!!
く~~
本のイラストよりも爽やか系でいい男だよ。
アラブ系でもこんな人いるの?
ヤバイ!
アイドルみたい。
「クレハ?」
「は、はい?」
「急にどうした?」
一気に不信な視線をなげかける二人。
「あっ、いや。なんでもない。」
まさかカッコ良すぎて、興奮していたなんて言えない。
「ハハハ!」
しかもジャラールさん、笑ってるよ。
「面白い女だ、クレハは。」
「あっ、ありがとうございます。」
一応、お礼は言っとく。
「どうだ?クレハ。もし行き先が決まっていないなら、俺たちと一緒に旅をしないか?」
「旅!?」
うそ………
私、あの本の主人公に誘われている!?
「ジャラール様。まだ何者か分からぬのに。危険です。」
「大丈夫だ、ハーキム。クレハは我々を騙すような人間 ではない。」
心臓がドクンっと、波打つ。
この人、私の事信じてくれた。
「共に参ろう。」
そう言って、ジャラールさんはスッと右手を差し出してくれた。
まだ私は、実感が湧かないまま旅行の準備をしていた。
「紅葉。修学旅行の準備、できたの?」
母親が皿洗いをしながら、聞いてきた。
「うん。一通りは。」
「じゃあ、お小遣いあげなきゃね。」
手を洗いながら、母親は財布から一万円を出した。
「わお。太っ腹‼」
感激しながら両手を出すと、母親は手をバチっと叩いた。
「その代わり、ちゃんとお土産。買ってくるんだよ。」
「わかってます!」
母親から万札を受けとると、頭を下げた。
「俺、八ツ橋がいい。」
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「八ツ橋?」
「知らねえの?京都の名物。」
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すると母親は、じっとこちらを見ながら言った。
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弟の生意気な口調は、絶対母親譲りだと思った。
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「しかしねえ。」
「ねえ。」
母親と弟は、顔を見合わせて頷いた。
「何よ。」
「今時、修学旅行が京都って。」
弟がバカにしながら、言った。
「俺、中学生だけど修学旅行、沖縄だぜ?」
「沖縄ぐらいで、何威張ってんのよ。」
「いや、だからさ。国内旅行なんて中学生レベル?」
「何よ、それ。」
髪の毛を乾かしていたタオルて、弟を叩こうとしたら、避けられた。
「俺、姉ちゃんの高校だけは受験しねえわ。」
「は?」
「高校生になったら、海外に行きたいもんね。修学旅行。」
無言でもう一度、タオルを振り回したら、偶然弟に当たった。
「痛いな。」
「あんたが悪いんでしょ?」
不貞腐れた顔して、弟はリビングを出ていった。
「まあまあ、とっちでもいいじゃない?」
母親は慰めてくれたけれど、私の怒りは治まりきれなかった。
その日の夜。
私は、不思議な夢を見た。
「はぁはぁはぁ……」
皮膚がジリジリと焼ける。
咽が異常に渇く。
歩いても歩いても砂の世界。
「何なの?ここ……」
やけに足を取られる。
それが、やけに現実味を滲ませた。
「どこまで行けばいいの?」
果てを知らないその世界。
上を見上げれば、太陽が生まれて初めて、大きく感じた。
体に力が入らなくて、ふらっとした後、その場に膝を着いた。
「私、このまま死んじゃうのかな。」
そう呟いて目の前に、倒れこんだ。
全身が暑い。
上からも下からも、体を焼かれている気がした。
砂から湯気が出ている。
おそらく砂に含まれる僅かな水分まで、その暑さは奪っているのだ。
「もうダメだ。」
目がトロンとして、開いていられなかった。
死を覚悟したその時だった。
遠くから動物の鳴き声がした。
その音はやがて私に近づいてきた。
そして、聞こえる人の足音。
ん?人?
「大丈夫か?」
肩に触れる手の温もり。
私はすぐさま目を開けた。
「おい。生きているんだな。」
白い服装と黒い服装の男二人。
やった。
助かった。
「う……ん……」
私は声を振り絞った。
「しっかりしろ‼」
白い服装の男に抱き抱えられ、口許に硬い何かが当たった。
間もなくそこから水が流れ落ち、私の体の中に水分が入ってくる。
私は両腕でそれを持ち、中から出てくる水をゴクンゴクンと飲み干した。
「慌てるな。ゆっくりと飲め。」
そんな忠告も聞かずに、ありったけの水を体に入れようと必至だった。
「はあ……」
飲み干すだけ飲み干して、私は深呼吸を繰り返した。
「よかった。死んではいないようだ。」
「はい。」
二人の声を聞き、私は改めてその人達を見た。
日本人と同じ褐色の肌。
濃い顔つき。
そこが砂漠だった事と、白黒の衣装が、この二人をアラブ人だと、私に教えてくれた。
「あの……ありがとうございます。」
私は水筒を持ちながら、頭を下げた。
「礼には及ばない。何よりも生きててよかった。」
白い服装の男の人が言った。
整った顔の作り。
品のある振る舞い。
優しそうな笑顔。
どれも私の心を捉えて、離さない。
「どうした?」
「……いえ。」
うなづくと、手を差し出された。
私は持っていた水筒を渡す。
白い服装の人は、それを黒い服装の人に渡すと、もう一度私に手を差し出した。
「立てるか?」
その手を握り、なんとか私は立ち上がった。
「そなた、名はなんと申す?」
「……紅葉です。」
「クレハか。良い名前だ。」
そんな事言われた事がなくて、恥ずかしくなった。
「クレハ。なぜ砂漠の中を歩いていた?」
「さあ?」
「分からぬのか?」
「はい。」
すると黒い服装の人が、腰にあった刀に、手をかけた。
「ひぃ!」
私は2、3歩後ろへ下がる。
「ハーキム。止めろ。」
「しかし!」
「よいのだ。」
白い服装の人に言われ、"ハーキム"と呼ばれた黒い服装の人は、刀から手を離した。
「クレハ、許せ。ハーキムは、俺の大事な友。俺を守ろうとしての行動なのだ。」
「はあ…」
白い服装の人の、瞳の奥が深くて、私は吸い込まれそうになった。
「俺の名前は、ジャラール。この先のオワシスまで行くのだ。クレハは?」
「いや、私は……」
そこで、ふと頭に引っかかることがあった。
ジャラール。
どこかで聞いた事がある名前。
「クレハ?」
「あっ、いや、その……全く行き先なんて決めていなくて……」
黒い服装のハーキムさんは、私を見ながら深いため息をついた。
「でしょうね。ターバンも巻かずに砂漠を歩くなんて。」
「へ?」
「無防備にも程がある。クレハ殿は、命を粗末にする気か?」
「はあ……」
そんな事言われたって、普段そんな物は被んないし、砂漠だって歩いた事はない。
「だめだ。ジャラール様、このような者、相手にするべきではありません。先を急ぎましょう。」
「まあ、いいではないか。ハーキム。」
なんかよく分からないが、ハーキムって人は、私が普通の洋服で砂漠を歩いていたことに、嫌悪感を抱いているみたい。
いや、私もなんかこの人、好きになれそうにないけど。
「一日でも早く宝石を持ち帰らないと、ネシャート様が……」
ん?
ネシャート?
益々聞いた事がある!
ジャラールにネシャート。
私の頭の中に、図書室で見た本が浮かんだ。
「ああっ‼」
思わず指を指す。
「どうした?」
どこかで聞いた事があるって、この人。
あの本に出てくる主人公だよ!!
く~~
本のイラストよりも爽やか系でいい男だよ。
アラブ系でもこんな人いるの?
ヤバイ!
アイドルみたい。
「クレハ?」
「は、はい?」
「急にどうした?」
一気に不信な視線をなげかける二人。
「あっ、いや。なんでもない。」
まさかカッコ良すぎて、興奮していたなんて言えない。
「ハハハ!」
しかもジャラールさん、笑ってるよ。
「面白い女だ、クレハは。」
「あっ、ありがとうございます。」
一応、お礼は言っとく。
「どうだ?クレハ。もし行き先が決まっていないなら、俺たちと一緒に旅をしないか?」
「旅!?」
うそ………
私、あの本の主人公に誘われている!?
「ジャラール様。まだ何者か分からぬのに。危険です。」
「大丈夫だ、ハーキム。クレハは我々を騙すような人間 ではない。」
心臓がドクンっと、波打つ。
この人、私の事信じてくれた。
「共に参ろう。」
そう言って、ジャラールさんはスッと右手を差し出してくれた。
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