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図書室の奥
①
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それは何気ない日常から、始まった。
「修学旅行、京都だってよ。」
「うっそ~、だっさ~い!海外じゃないの~」
朝礼が始まる前、友達の加茂ときわと、源光清がこっそり教えてくれた。
「紅葉(クレハ)。どう思う?」
「どう思うって……学校で決めたんだから、しかたないじゃない。」
そりゃあ私だって、海外に行きたかった。
でも決まってしまったものは、どうしようもない。
「はい。静かに。」
担任の神崎先生が、教室に入ってきた。
「さあ、皆さん。お楽しみの修学旅行が、もうすぐに迫ってきましたね。」
先生はやたら、テンション高めだ。
「神崎ちゃん。今回の修学旅行で、実家の旅館、使って貰えるみたいだよ。」
「どうりでね~」
椅子に反り返ったり、机に伏せたり、二人は自由だ。
「って言うか、光清もときわも、なんでそこまで先生の事知ってんの?」
グテグテしている割りには、二人とも細かいところを知っている。
「はい。そこで先生から提案があります。修学旅行の前に、訪れる場所を下調べしましょう。」
「ええ~!!」
教室中にブーイングが飛ぶ。
「騒がない‼これから図書室に移動しますよ。」
旅館の一人娘なのに、こんなうるさい高校生達を上手に仕切っているのを見ると、人間は一人立ちすると変わるんだなと思う。
なんだかんだ言って、生徒達は神崎先生の言う通り、図書室に移動した。
「それでは、修学旅行のグループ事に、修学旅行で行く観光地をリサーチして下さいね。」
神崎先生の一声で、生徒達が本棚へと向かって行く。
図書室には、思ったよりも観光向けの本が置いてあって、みんなはすぐに盛り上がった。
私と同じときわと光清は、それでもテンションが低い。
「俺の家、ばあさん家が京都だから、観光地は結構把握してんだよね。」
あぐらをかく光清。
「私の家は、別荘が京都にあるのよ。毎年行ってるわ。第二の故郷的な感じよ。」
爪を観察するときわ。
ちなみに一般ピーポーの私は、恥ずかしながらまだ京都へ行った事がない。
みんなは海外へ行きたがっていたようだか、私は心の中じゃ嬉しがっていた。
「紅葉は調べた方がいいでしょ?」
ときわの無邪気な嫌みに堪える。
「そうだね。私、京都の本持ってくるね。」
立ち上がって、本棚へと向かった。
「俺も行くよ。」
光清が付き添ってくれた。
図書室は奥側半分が、本棚になっていた。
「へえ。図書室って、いろんな本あるんだ。」
あまり来た事のない私は、興味津々。
「うちの学校の図書室、結構本は多いよ。」
光清が後ろから付いてくる。
「よく知ってるね。」
「俺、結構図書室来るんだ。」
見た目+学校の成績も上位に入る光清。
"図書室によく来る"と聞いても、全く驚かない。
二人で本棚を見ながら歩いていると、ある一帯に人が集中していた。
おそらくあそこに、京都関係の本が、あるのだろう。
「あっ、源君!」
ルックスのいい光清は、隙を見せるとあっと言う間に、クラスの女子に囲まれる。
一緒にいたはずの私は、その輪の中から弾き飛ばされた。
輪の中から、光清が"ごめん"と手を合わせている。
しょーがない。
女子達が落ち着くまで、他を探索するか。
私は、ため息つきながら、元来た道を戻った。
本棚の端に着いて、周りをキョロキョロする。
左側から来たから、右側に行くか。
右に曲がって、隣の本棚を見て回った。
そこには、小説や物語の本が、たくさん置いてあった。
「こっちの方が、面白そう。」
ちょっとワクワクしながら、一つ一つ本のタイトルを見ていた。
それだけでも、どんな物語なのか想像できて楽しい。
そして、丁度本棚の真ん中に来た時だ。
アラビア語で書かれている本を見つけた。
「なんて読むんだろう。」
恐る恐るその本を手にし、表紙を開いてみた。
砂漠のイラストが書かれている。
ラクダに乗った人が二人。
月夜も書かれていた。
「旅のお話?」
全く読めない文字を横目に、想像だけが膨らんだ。
ページを捲る度に、その量は増えていった。
次々に現れる砂漠のイラストも、その手伝いをした。
やがて砂漠にオワシスが描かれ、そこに辿り着いた旅人は、綺麗な宝石を手にする。
その宝石を手に入れた二人は、王宮らしき豪邸に帰り、旅人の一人は、美しい女の人にその宝石を渡す。
「何、これ?このお姫様に、宝石探してあげるお話?」
それはそれで、めでたいのか?
最後は渡した旅人と、美しいお姫様は結ばれてるようだし、ハッピーエンドじゃん。
うんうん。
バットエンドは、読んでて悲しいし、あんまり面白くないよね。
やっぱり物語は、ハッピーエンドじゃなきゃ!
「ごめんごめん、紅葉。」
光清が慌てて、側に来た。
「なんとか京都の本、持って来れたよ。これで調べよう、紅葉。って、何?その本?」
「ああ……」
私はチラッと、主人公二人が結ばれるイラストを見た。
ジャラールとネシャート。
アラビア語はわからないはずなのに、それだけは読めた。
「紅葉?」
「うん。旅のお話だったみたい。」
「へえ。」
私は本棚も見ずに、その本を押し込もうとした。
するとカシャーンと、何かが落ちた音がした。
「あちゃー。」
床を見ると、それは本ではなくペンダントらしき物。
しかも綺麗な緑色の石が付いていた。
「えっ、どこから落ちたんだろ。」
拾って辺りを見回したけれど、そこは図書室の本棚。
思い当たる場所は、見つからない。
「紅葉?」
光清に呼ばれ、ハッとする。
「今行く。」
私はそのペンダントをスカートのポケットに入れ、光清の元に戻った。
そしてこのペンダントが、全ての始まりだった。
「修学旅行、京都だってよ。」
「うっそ~、だっさ~い!海外じゃないの~」
朝礼が始まる前、友達の加茂ときわと、源光清がこっそり教えてくれた。
「紅葉(クレハ)。どう思う?」
「どう思うって……学校で決めたんだから、しかたないじゃない。」
そりゃあ私だって、海外に行きたかった。
でも決まってしまったものは、どうしようもない。
「はい。静かに。」
担任の神崎先生が、教室に入ってきた。
「さあ、皆さん。お楽しみの修学旅行が、もうすぐに迫ってきましたね。」
先生はやたら、テンション高めだ。
「神崎ちゃん。今回の修学旅行で、実家の旅館、使って貰えるみたいだよ。」
「どうりでね~」
椅子に反り返ったり、机に伏せたり、二人は自由だ。
「って言うか、光清もときわも、なんでそこまで先生の事知ってんの?」
グテグテしている割りには、二人とも細かいところを知っている。
「はい。そこで先生から提案があります。修学旅行の前に、訪れる場所を下調べしましょう。」
「ええ~!!」
教室中にブーイングが飛ぶ。
「騒がない‼これから図書室に移動しますよ。」
旅館の一人娘なのに、こんなうるさい高校生達を上手に仕切っているのを見ると、人間は一人立ちすると変わるんだなと思う。
なんだかんだ言って、生徒達は神崎先生の言う通り、図書室に移動した。
「それでは、修学旅行のグループ事に、修学旅行で行く観光地をリサーチして下さいね。」
神崎先生の一声で、生徒達が本棚へと向かって行く。
図書室には、思ったよりも観光向けの本が置いてあって、みんなはすぐに盛り上がった。
私と同じときわと光清は、それでもテンションが低い。
「俺の家、ばあさん家が京都だから、観光地は結構把握してんだよね。」
あぐらをかく光清。
「私の家は、別荘が京都にあるのよ。毎年行ってるわ。第二の故郷的な感じよ。」
爪を観察するときわ。
ちなみに一般ピーポーの私は、恥ずかしながらまだ京都へ行った事がない。
みんなは海外へ行きたがっていたようだか、私は心の中じゃ嬉しがっていた。
「紅葉は調べた方がいいでしょ?」
ときわの無邪気な嫌みに堪える。
「そうだね。私、京都の本持ってくるね。」
立ち上がって、本棚へと向かった。
「俺も行くよ。」
光清が付き添ってくれた。
図書室は奥側半分が、本棚になっていた。
「へえ。図書室って、いろんな本あるんだ。」
あまり来た事のない私は、興味津々。
「うちの学校の図書室、結構本は多いよ。」
光清が後ろから付いてくる。
「よく知ってるね。」
「俺、結構図書室来るんだ。」
見た目+学校の成績も上位に入る光清。
"図書室によく来る"と聞いても、全く驚かない。
二人で本棚を見ながら歩いていると、ある一帯に人が集中していた。
おそらくあそこに、京都関係の本が、あるのだろう。
「あっ、源君!」
ルックスのいい光清は、隙を見せるとあっと言う間に、クラスの女子に囲まれる。
一緒にいたはずの私は、その輪の中から弾き飛ばされた。
輪の中から、光清が"ごめん"と手を合わせている。
しょーがない。
女子達が落ち着くまで、他を探索するか。
私は、ため息つきながら、元来た道を戻った。
本棚の端に着いて、周りをキョロキョロする。
左側から来たから、右側に行くか。
右に曲がって、隣の本棚を見て回った。
そこには、小説や物語の本が、たくさん置いてあった。
「こっちの方が、面白そう。」
ちょっとワクワクしながら、一つ一つ本のタイトルを見ていた。
それだけでも、どんな物語なのか想像できて楽しい。
そして、丁度本棚の真ん中に来た時だ。
アラビア語で書かれている本を見つけた。
「なんて読むんだろう。」
恐る恐るその本を手にし、表紙を開いてみた。
砂漠のイラストが書かれている。
ラクダに乗った人が二人。
月夜も書かれていた。
「旅のお話?」
全く読めない文字を横目に、想像だけが膨らんだ。
ページを捲る度に、その量は増えていった。
次々に現れる砂漠のイラストも、その手伝いをした。
やがて砂漠にオワシスが描かれ、そこに辿り着いた旅人は、綺麗な宝石を手にする。
その宝石を手に入れた二人は、王宮らしき豪邸に帰り、旅人の一人は、美しい女の人にその宝石を渡す。
「何、これ?このお姫様に、宝石探してあげるお話?」
それはそれで、めでたいのか?
最後は渡した旅人と、美しいお姫様は結ばれてるようだし、ハッピーエンドじゃん。
うんうん。
バットエンドは、読んでて悲しいし、あんまり面白くないよね。
やっぱり物語は、ハッピーエンドじゃなきゃ!
「ごめんごめん、紅葉。」
光清が慌てて、側に来た。
「なんとか京都の本、持って来れたよ。これで調べよう、紅葉。って、何?その本?」
「ああ……」
私はチラッと、主人公二人が結ばれるイラストを見た。
ジャラールとネシャート。
アラビア語はわからないはずなのに、それだけは読めた。
「紅葉?」
「うん。旅のお話だったみたい。」
「へえ。」
私は本棚も見ずに、その本を押し込もうとした。
するとカシャーンと、何かが落ちた音がした。
「あちゃー。」
床を見ると、それは本ではなくペンダントらしき物。
しかも綺麗な緑色の石が付いていた。
「えっ、どこから落ちたんだろ。」
拾って辺りを見回したけれど、そこは図書室の本棚。
思い当たる場所は、見つからない。
「紅葉?」
光清に呼ばれ、ハッとする。
「今行く。」
私はそのペンダントをスカートのポケットに入れ、光清の元に戻った。
そしてこのペンダントが、全ての始まりだった。
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