宮花物語

日下奈緒

文字の大きさ
上 下
36 / 47
第13話 国母の条件

しおりを挟む
ようやく妻として、白蓮を見れるようになったのは、10代も後半になってからだ。

その頃には、もう皇太子として板につき、早くお世継ぎをと、強制的に周りから、夜は白蓮と二人きりにされていた。


『その……白蓮はどこまで、知っているのか……』

『何をです?』

『いや、己の役目と言うか…なぜ、夜は私と一緒に、過ごさねばならぬのかとか……』

気恥ずかしさで、白蓮の顔もまともに見れない信志に、白蓮はこの頃から冷静だった。

『……私の役目は、あなた様をお支えする事です。こうして一緒に夜を過ごすのは、あなた様のお子を、産む為かと……』

『わわわわっ……』

国の歴史や、武術、王として国の治めるには、どうすればよいのか、嫌になるくらい教わってきた信志だが、女性の事は誰も教えてくれなかった。

そういう話をする仲間も、周りにはいなかった。

かと言って白蓮の方も、全く男を知らなさそうな顔をしている。

『あの……私には、女としての魅力が、ないのでしょうか。』

『へっ……』

恥ずかしそうに、服の袖で顔の半分を隠しながら、白蓮は震える声で教えてくれた。

『従姉妹の話ですと、夫と言うのは、毎晩のように妻の体を求めてくるものだとか……妻は夫に、肌と肌を合わせながら抱かれると、お子ができるのだと……』

信志は、頭の中を真っ白にしながら、髪をおろして艶めかしい白蓮を見つめる。

『私の肌と、あなたの肌を合わせながら、あなたを抱く?』

『はい……』

二人は恐る恐る近づいた。

どちらからともなく服を脱ぎ、少しずつ少しずつ、二人は肌を合わせていった。


滑らかでほのかな温もっている肌は、自分の肌に吸い付き、白蓮の柔らかな胸は、ついに顔を埋めたくなる。

縊れた腰は、抱きしめる力を一層強くさせ、盛り上がったお尻を優しく撫でると、白蓮の口元から、甘い吐息が漏れた。

『どうしてほしい?』

『どうしてほしいも……この体は、あなた様の物なのですから、あなた様のお好きなように……』

その一言で信志と白蓮は、ようやく夫婦になれたのだが、数多く同じ夜を過ごしてきた事で、大切な何かを見失っていたのかもしれない。


「白蓮。今からあなたを抱いてもいいだろうか。」

「えっ?まだ夕食の途中ですのに……」

「なんだか、無性にあなたが欲しくて、たまらないんだよ。」

辺りを見回すと、お付きの女人や、侍従が誰一人いなくなっている事に気づく。

「いつの間に……」

「皆、私達がこうなる事を、予測していたみたいだな。」

そう言うと信志は、白蓮の手を引き、一番奥にある寝所に、二人で入った。


信志の突然の行動に、驚いたのは白蓮の方だ。

「あ、あの……」

戸惑う白蓮を他所に、信志はどんどん、服を脱いでいく。

まだ部屋に煌々と灯りがついていて、程よくついている筋肉が、白蓮の視線を釘付けにする。

「あの……そろそろ、黒音の元へ行かれる時間かと……」

「ああ、今日は黒音の元へ行かぬ。」

「では、どの妃の元へ?」

純真に尋ねる白蓮に、信志はポツリと呟く。

「ここに決まっているだろう。」

「えっ?」

そっと後ろを向いた信志は、手を伸ばした。


「今夜は、あなたの元へいる。さあ、おいで。」

この人だと、心に決めた人が、自分に手を差し伸べている。

白蓮は、吸い込まれるように、その腕の中に、身を寄せた。

「いつ見ても、あなたは美しい……」

唇を重ね舌を絡ませると、信志は白蓮の髪をほどき、着ている服も少しずつ脱がせた。

だが部屋の灯りは、まだ着いている。

「灯りを……」

「今日はこのままで……私は、白蓮の雪のような肌を見るのが、好きでたまらないんだ。」


兄のモノだと思っていた人が、自分の腕の中で、甘い声をあげている。

激しくぶつかり合う欲情に、最初に悲鳴をあげたのは、白蓮の方だった。

しっとりと濡れた肌に、虚ろな瞳。

妻のこんな姿、眺めようとしなかった自分が、悔やまれた。

「……白蓮、もう少し付き合ってくれないか……」

すると白蓮は、優しそうに微笑んだ。

「ええ……今日はあなたが満足するまで、放したくありません。」

白蓮の腕が、信志の首を包み込む。


「今日黒音に、お子ができない正妃は虚しいと言われました。」

「えっ……」

「でも今、私は幸せです。誰でもないあなたと、こんなにも愛し合っているのですから……」

白蓮の瞳から、ホロッと涙が零れた。

「……子なら、今から産めばいいではないか。」

「でも……」

「私はあなたに、私との子を産んでほしい。」

白蓮は、両手で顔を抑えた。

涙が止まらなかったからだ。

「嫌か?」

激しく首を横に振る白蓮。

「私も本当は……王のお子がほしい……」

そして二人は、貪るように唇を重ねると、激しく情を交わし合った。

「今日は、朝まで眠れないよ……」

「ええ……」

何度も果てては求めあって、信志と白蓮が、ウトウトし始めてのは、実際夜明け近くだった。

寝ている間も、寄り添って寝る様は、新婚の夫婦のようだった。


しばらくして、太陽が部屋を照らす。

朝になれば、王宮にある神に祈るのが、王である信志と、正妃である白蓮の務めだった。

どんなに眠りが浅かろうが、起きて神事に向かわなければならない。


「そうだ、白蓮……」

「はい……」

二人は、まだ眠りの中で、言葉を交わした。

「黒音のお腹の子は、男の子なのかな。」

「さあ。本人はそう申していますが、こればかりは生まれてみなければ、本当にそうなのか、分からないものです。」

「そうか……なぜか、男の子にしては、大人しいような気がするのだ。」

白蓮は、目を覚ました。

「大人しい?」

「ああ。以前に黄杏に子ができた時には、お腹の中でもっと動いていたと思うのだ。」

白蓮は起き上がって、信志に背中を向けた。


後で聞いた話では、黄杏の流れた子は、男の子だった。

同じ男の子なのに、一方ではお腹の中で動き、一方は大人しい。

これは、どういう事なのか。

赤子の性格のせい?

もしかして、黒音のお腹の子は、女の子?


いや、もっと根本的な原因があるのでは……?

白蓮の根拠のない不安が、頭の中を駆け巡った。


「すまない……あんなに強く求め合った朝に、他の妃の話をして。」

「いいえ。何を仰るんです?あなたのお子の問題は、私の問題でもありますでしょう?」

信志は、ゆっくりと起き上がると、白蓮を思いっきり抱きしめた。

「……今日は仕事を休みにして、一日中あなたと一緒にいようかな。」

頬に手を当て、直ぐ目の前で見つめ合う信志と白蓮。


「どうぞ。でも私は、確かめたい事があるのです。」

「……何を?」

「黒音のお腹の子。本当に順調なのか。」

白蓮は、信志の肩に頭を預けると、窓から遠くに見える、黒音の屋敷をじっと見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

伏して君に愛を冀(こいねが)う

鳩子
恋愛
貧乏皇帝×黄金姫の、すれ違いラブストーリー。 堋《ほう》国王女・燕琇華(えん・しゅうか)は、隣国、游《ゆう》帝国の皇帝から熱烈な求愛を受けて皇后として入宮する。 しかし、皇帝には既に想い人との間に、皇子まで居るという。 「皇帝陛下は、黄金の為に、意に沿わぬ結婚をすることになったのよ」 女官達の言葉で、真実を知る琇華。 祖国から遠く離れた後宮に取り残された琇華の恋の行方は?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...