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第13話 国母の条件
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ようやく妻として、白蓮を見れるようになったのは、10代も後半になってからだ。
その頃には、もう皇太子として板につき、早くお世継ぎをと、強制的に周りから、夜は白蓮と二人きりにされていた。
『その……白蓮はどこまで、知っているのか……』
『何をです?』
『いや、己の役目と言うか…なぜ、夜は私と一緒に、過ごさねばならぬのかとか……』
気恥ずかしさで、白蓮の顔もまともに見れない信志に、白蓮はこの頃から冷静だった。
『……私の役目は、あなた様をお支えする事です。こうして一緒に夜を過ごすのは、あなた様のお子を、産む為かと……』
『わわわわっ……』
国の歴史や、武術、王として国の治めるには、どうすればよいのか、嫌になるくらい教わってきた信志だが、女性の事は誰も教えてくれなかった。
そういう話をする仲間も、周りにはいなかった。
かと言って白蓮の方も、全く男を知らなさそうな顔をしている。
『あの……私には、女としての魅力が、ないのでしょうか。』
『へっ……』
恥ずかしそうに、服の袖で顔の半分を隠しながら、白蓮は震える声で教えてくれた。
『従姉妹の話ですと、夫と言うのは、毎晩のように妻の体を求めてくるものだとか……妻は夫に、肌と肌を合わせながら抱かれると、お子ができるのだと……』
信志は、頭の中を真っ白にしながら、髪をおろして艶めかしい白蓮を見つめる。
『私の肌と、あなたの肌を合わせながら、あなたを抱く?』
『はい……』
二人は恐る恐る近づいた。
どちらからともなく服を脱ぎ、少しずつ少しずつ、二人は肌を合わせていった。
滑らかでほのかな温もっている肌は、自分の肌に吸い付き、白蓮の柔らかな胸は、ついに顔を埋めたくなる。
縊れた腰は、抱きしめる力を一層強くさせ、盛り上がったお尻を優しく撫でると、白蓮の口元から、甘い吐息が漏れた。
『どうしてほしい?』
『どうしてほしいも……この体は、あなた様の物なのですから、あなた様のお好きなように……』
その一言で信志と白蓮は、ようやく夫婦になれたのだが、数多く同じ夜を過ごしてきた事で、大切な何かを見失っていたのかもしれない。
「白蓮。今からあなたを抱いてもいいだろうか。」
「えっ?まだ夕食の途中ですのに……」
「なんだか、無性にあなたが欲しくて、たまらないんだよ。」
辺りを見回すと、お付きの女人や、侍従が誰一人いなくなっている事に気づく。
「いつの間に……」
「皆、私達がこうなる事を、予測していたみたいだな。」
そう言うと信志は、白蓮の手を引き、一番奥にある寝所に、二人で入った。
信志の突然の行動に、驚いたのは白蓮の方だ。
「あ、あの……」
戸惑う白蓮を他所に、信志はどんどん、服を脱いでいく。
まだ部屋に煌々と灯りがついていて、程よくついている筋肉が、白蓮の視線を釘付けにする。
「あの……そろそろ、黒音の元へ行かれる時間かと……」
「ああ、今日は黒音の元へ行かぬ。」
「では、どの妃の元へ?」
純真に尋ねる白蓮に、信志はポツリと呟く。
「ここに決まっているだろう。」
「えっ?」
そっと後ろを向いた信志は、手を伸ばした。
「今夜は、あなたの元へいる。さあ、おいで。」
この人だと、心に決めた人が、自分に手を差し伸べている。
白蓮は、吸い込まれるように、その腕の中に、身を寄せた。
「いつ見ても、あなたは美しい……」
唇を重ね舌を絡ませると、信志は白蓮の髪をほどき、着ている服も少しずつ脱がせた。
だが部屋の灯りは、まだ着いている。
「灯りを……」
「今日はこのままで……私は、白蓮の雪のような肌を見るのが、好きでたまらないんだ。」
兄のモノだと思っていた人が、自分の腕の中で、甘い声をあげている。
激しくぶつかり合う欲情に、最初に悲鳴をあげたのは、白蓮の方だった。
しっとりと濡れた肌に、虚ろな瞳。
妻のこんな姿、眺めようとしなかった自分が、悔やまれた。
「……白蓮、もう少し付き合ってくれないか……」
すると白蓮は、優しそうに微笑んだ。
「ええ……今日はあなたが満足するまで、放したくありません。」
白蓮の腕が、信志の首を包み込む。
「今日黒音に、お子ができない正妃は虚しいと言われました。」
「えっ……」
「でも今、私は幸せです。誰でもないあなたと、こんなにも愛し合っているのですから……」
白蓮の瞳から、ホロッと涙が零れた。
「……子なら、今から産めばいいではないか。」
「でも……」
「私はあなたに、私との子を産んでほしい。」
白蓮は、両手で顔を抑えた。
涙が止まらなかったからだ。
「嫌か?」
激しく首を横に振る白蓮。
「私も本当は……王のお子がほしい……」
そして二人は、貪るように唇を重ねると、激しく情を交わし合った。
「今日は、朝まで眠れないよ……」
「ええ……」
何度も果てては求めあって、信志と白蓮が、ウトウトし始めてのは、実際夜明け近くだった。
寝ている間も、寄り添って寝る様は、新婚の夫婦のようだった。
しばらくして、太陽が部屋を照らす。
朝になれば、王宮にある神に祈るのが、王である信志と、正妃である白蓮の務めだった。
どんなに眠りが浅かろうが、起きて神事に向かわなければならない。
「そうだ、白蓮……」
「はい……」
二人は、まだ眠りの中で、言葉を交わした。
「黒音のお腹の子は、男の子なのかな。」
「さあ。本人はそう申していますが、こればかりは生まれてみなければ、本当にそうなのか、分からないものです。」
「そうか……なぜか、男の子にしては、大人しいような気がするのだ。」
白蓮は、目を覚ました。
「大人しい?」
「ああ。以前に黄杏に子ができた時には、お腹の中でもっと動いていたと思うのだ。」
白蓮は起き上がって、信志に背中を向けた。
後で聞いた話では、黄杏の流れた子は、男の子だった。
同じ男の子なのに、一方ではお腹の中で動き、一方は大人しい。
これは、どういう事なのか。
赤子の性格のせい?
もしかして、黒音のお腹の子は、女の子?
いや、もっと根本的な原因があるのでは……?
白蓮の根拠のない不安が、頭の中を駆け巡った。
「すまない……あんなに強く求め合った朝に、他の妃の話をして。」
「いいえ。何を仰るんです?あなたのお子の問題は、私の問題でもありますでしょう?」
信志は、ゆっくりと起き上がると、白蓮を思いっきり抱きしめた。
「……今日は仕事を休みにして、一日中あなたと一緒にいようかな。」
頬に手を当て、直ぐ目の前で見つめ合う信志と白蓮。
「どうぞ。でも私は、確かめたい事があるのです。」
「……何を?」
「黒音のお腹の子。本当に順調なのか。」
白蓮は、信志の肩に頭を預けると、窓から遠くに見える、黒音の屋敷をじっと見つめた。
その頃には、もう皇太子として板につき、早くお世継ぎをと、強制的に周りから、夜は白蓮と二人きりにされていた。
『その……白蓮はどこまで、知っているのか……』
『何をです?』
『いや、己の役目と言うか…なぜ、夜は私と一緒に、過ごさねばならぬのかとか……』
気恥ずかしさで、白蓮の顔もまともに見れない信志に、白蓮はこの頃から冷静だった。
『……私の役目は、あなた様をお支えする事です。こうして一緒に夜を過ごすのは、あなた様のお子を、産む為かと……』
『わわわわっ……』
国の歴史や、武術、王として国の治めるには、どうすればよいのか、嫌になるくらい教わってきた信志だが、女性の事は誰も教えてくれなかった。
そういう話をする仲間も、周りにはいなかった。
かと言って白蓮の方も、全く男を知らなさそうな顔をしている。
『あの……私には、女としての魅力が、ないのでしょうか。』
『へっ……』
恥ずかしそうに、服の袖で顔の半分を隠しながら、白蓮は震える声で教えてくれた。
『従姉妹の話ですと、夫と言うのは、毎晩のように妻の体を求めてくるものだとか……妻は夫に、肌と肌を合わせながら抱かれると、お子ができるのだと……』
信志は、頭の中を真っ白にしながら、髪をおろして艶めかしい白蓮を見つめる。
『私の肌と、あなたの肌を合わせながら、あなたを抱く?』
『はい……』
二人は恐る恐る近づいた。
どちらからともなく服を脱ぎ、少しずつ少しずつ、二人は肌を合わせていった。
滑らかでほのかな温もっている肌は、自分の肌に吸い付き、白蓮の柔らかな胸は、ついに顔を埋めたくなる。
縊れた腰は、抱きしめる力を一層強くさせ、盛り上がったお尻を優しく撫でると、白蓮の口元から、甘い吐息が漏れた。
『どうしてほしい?』
『どうしてほしいも……この体は、あなた様の物なのですから、あなた様のお好きなように……』
その一言で信志と白蓮は、ようやく夫婦になれたのだが、数多く同じ夜を過ごしてきた事で、大切な何かを見失っていたのかもしれない。
「白蓮。今からあなたを抱いてもいいだろうか。」
「えっ?まだ夕食の途中ですのに……」
「なんだか、無性にあなたが欲しくて、たまらないんだよ。」
辺りを見回すと、お付きの女人や、侍従が誰一人いなくなっている事に気づく。
「いつの間に……」
「皆、私達がこうなる事を、予測していたみたいだな。」
そう言うと信志は、白蓮の手を引き、一番奥にある寝所に、二人で入った。
信志の突然の行動に、驚いたのは白蓮の方だ。
「あ、あの……」
戸惑う白蓮を他所に、信志はどんどん、服を脱いでいく。
まだ部屋に煌々と灯りがついていて、程よくついている筋肉が、白蓮の視線を釘付けにする。
「あの……そろそろ、黒音の元へ行かれる時間かと……」
「ああ、今日は黒音の元へ行かぬ。」
「では、どの妃の元へ?」
純真に尋ねる白蓮に、信志はポツリと呟く。
「ここに決まっているだろう。」
「えっ?」
そっと後ろを向いた信志は、手を伸ばした。
「今夜は、あなたの元へいる。さあ、おいで。」
この人だと、心に決めた人が、自分に手を差し伸べている。
白蓮は、吸い込まれるように、その腕の中に、身を寄せた。
「いつ見ても、あなたは美しい……」
唇を重ね舌を絡ませると、信志は白蓮の髪をほどき、着ている服も少しずつ脱がせた。
だが部屋の灯りは、まだ着いている。
「灯りを……」
「今日はこのままで……私は、白蓮の雪のような肌を見るのが、好きでたまらないんだ。」
兄のモノだと思っていた人が、自分の腕の中で、甘い声をあげている。
激しくぶつかり合う欲情に、最初に悲鳴をあげたのは、白蓮の方だった。
しっとりと濡れた肌に、虚ろな瞳。
妻のこんな姿、眺めようとしなかった自分が、悔やまれた。
「……白蓮、もう少し付き合ってくれないか……」
すると白蓮は、優しそうに微笑んだ。
「ええ……今日はあなたが満足するまで、放したくありません。」
白蓮の腕が、信志の首を包み込む。
「今日黒音に、お子ができない正妃は虚しいと言われました。」
「えっ……」
「でも今、私は幸せです。誰でもないあなたと、こんなにも愛し合っているのですから……」
白蓮の瞳から、ホロッと涙が零れた。
「……子なら、今から産めばいいではないか。」
「でも……」
「私はあなたに、私との子を産んでほしい。」
白蓮は、両手で顔を抑えた。
涙が止まらなかったからだ。
「嫌か?」
激しく首を横に振る白蓮。
「私も本当は……王のお子がほしい……」
そして二人は、貪るように唇を重ねると、激しく情を交わし合った。
「今日は、朝まで眠れないよ……」
「ええ……」
何度も果てては求めあって、信志と白蓮が、ウトウトし始めてのは、実際夜明け近くだった。
寝ている間も、寄り添って寝る様は、新婚の夫婦のようだった。
しばらくして、太陽が部屋を照らす。
朝になれば、王宮にある神に祈るのが、王である信志と、正妃である白蓮の務めだった。
どんなに眠りが浅かろうが、起きて神事に向かわなければならない。
「そうだ、白蓮……」
「はい……」
二人は、まだ眠りの中で、言葉を交わした。
「黒音のお腹の子は、男の子なのかな。」
「さあ。本人はそう申していますが、こればかりは生まれてみなければ、本当にそうなのか、分からないものです。」
「そうか……なぜか、男の子にしては、大人しいような気がするのだ。」
白蓮は、目を覚ました。
「大人しい?」
「ああ。以前に黄杏に子ができた時には、お腹の中でもっと動いていたと思うのだ。」
白蓮は起き上がって、信志に背中を向けた。
後で聞いた話では、黄杏の流れた子は、男の子だった。
同じ男の子なのに、一方ではお腹の中で動き、一方は大人しい。
これは、どういう事なのか。
赤子の性格のせい?
もしかして、黒音のお腹の子は、女の子?
いや、もっと根本的な原因があるのでは……?
白蓮の根拠のない不安が、頭の中を駆け巡った。
「すまない……あんなに強く求め合った朝に、他の妃の話をして。」
「いいえ。何を仰るんです?あなたのお子の問題は、私の問題でもありますでしょう?」
信志は、ゆっくりと起き上がると、白蓮を思いっきり抱きしめた。
「……今日は仕事を休みにして、一日中あなたと一緒にいようかな。」
頬に手を当て、直ぐ目の前で見つめ合う信志と白蓮。
「どうぞ。でも私は、確かめたい事があるのです。」
「……何を?」
「黒音のお腹の子。本当に順調なのか。」
白蓮は、信志の肩に頭を預けると、窓から遠くに見える、黒音の屋敷をじっと見つめた。
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