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第11話 命の見返り
③
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「護衛長、落ち着いて下さい。」
狼狽えるはずの将拓に、返ってなだめられる勇俊。
そうだ。
自分よりこの人の方が、心穏やかではないはずなのに。
「……すみません。ですが、私は……どうしてもあなたを、失いたくないのです。」
「護衛長……そんなにも、私の事を……」
勇俊がそっと顔を上げると、そこには将拓の真っすぐな瞳があった。
その人を信じようとする美しい瞳に、勇俊は打ち崩されてしまって、その場に膝を着いた。
「将拓殿!」
「はい。」
勇俊は、右手の拳で地面を叩いた。
「あなたを襲えと命じられた刺客は、この私です!」
「護衛長殿が?どうして、刺客なんて……」
そこまで言って将拓は、ハッとした。
「……命じたのは、正妃様なのですね。」
「はい!……」
もう隠しきれない勇俊は、将拓の前で地面に頭を付けた。
「黄杏様にお子が生まれれば、有能なあなたは必ず、政治に参加すると仰せられて……」
「なぜ、そのような在りもしない事を!」
将拓は、唇を噛んだ。
「だから今のうちに、あの者の片目を奪えと。そうすれば、政治に参加できまいと。」
「私の……片目を?……」
将拓は、初めて背中が凍る思いをした。
「もちろん、断りました。私には無理だと。しかし正妃様は、だとすれば、他の者に襲わせるまでだと……」
将拓は、見えない大きな陰謀に、勇俊の前に崩れ落ちた。
「そうですか……だとすれば、あなたに襲われた方が、私は……」
「いいえ!」
勇俊は、目の前にいる将拓を両肩を掴んだ。
「まだ諦めるには、早すぎます!」
「護衛長?」
「私は、あなた様をお守りします!生きて!怪我一つ負わずに、宮中を出られるように!」
勇俊の目は、真剣だった。
「外に出れば、外にさえ出られれば、後は嘘の話を流せばいいだけです。今夜だけ耐えて下さい!」
「分かりました。では私はこの話を聞かなかった振りをして、黄杏の屋敷に泊まりましょう。」
「はい。」
「護衛、お頼み申します。」
将拓は一礼をすると、黄杏の屋敷に戻って行った。
それを見届けた勇俊は、屋敷の裏手に回る。
屋敷の作り上、どこから入ろうとしても、必ず裏手から入らなければならないからだ。
勇俊は潜む位置を決め、身を隠した。
それから数時間後。
すっかり灯りが消えた屋敷に、静寂が訪れた。
一向に何者かが動く気配もなく、護衛長はしばしの仮眠を取った。
よく考えてみれば、将拓が泊まっているのは、お妃様の屋敷なのだから、簡単に手出しはできないはず。
今夜襲うかもしれないと言うのは、自分の思い過ごしだったのかもしれない。
勇俊はすっかり、眠りに入ってしまった。
どのくらい経っただろうか。
勇俊の目に、朝日が舞い込んできた。
「……朝か。」
目を覚ました勇俊は、黄杏の屋敷の中を覗いた。
いつものように、女人達が朝ご飯の用意をしている。
将拓は?
将拓はどこにいる?
その時、ガラッと黄杏の屋敷の扉が開いた。
「ふぁーあ。」
そこには、背伸びをする将拓の姿があった。
「お早うございます、護衛長殿。」
その元気な姿に、勇俊はゆっくりと、将拓の元に歩み寄った。
「……ご無事でしたか。」
「はい、お陰様で。」
二人は、お互いの肩を掴んで、微笑み合った。
「どうですか?一緒に、朝ごはんでも。」
「いいえ。ここはお妃様の屋敷。私は、それに仕える者。まさか、ここで朝ご飯を共に頂く事はできません。」
「そうですか……」
そして、中から女人が呼ぶ声がした。
「では、将拓殿。私は、持ち場に戻ります。」
「はい。一晩中の護衛、有難うございました。」
そう言って挨拶を交わした勇俊は、自分の寝泊りする屋敷へと、戻った。
屋敷周辺を護衛をする者達の住処は、白蓮の屋敷の隣にあった。
武器を置いた勇俊は、そのまま湯殿に向かった。
髪を洗い体を洗い湯に浸かり、一晩の疲れを癒した。
「あれ?護衛長、こんな時間に湯殿ですか?」
部下の一人が、湯殿に入ってきた。
「ああ、おまえは?」
「はい。外の門の警備で。今、交代してきたばかりです。」
そして部下も、湯に浸かった。
「そうか。ご苦労だったな。」
「いいえ。」
屋敷に帰れば、大部屋に大勢で寝泊りする護衛達。
こうして湯に浸かっている時が、一番疲れを癒すと、勇俊は知っていた。
だから湯殿にいる時は、部下には何も指示しない。
できるだけ、放っておいてやる事にしていた。
「ところで、黄杏様の客人、とても偉い方なのですか?」
「そう言う訳でもない。南方の商人だ。」
そう。
お妃様の兄上だと言う事は、秘密だ。
「へえ。じゃあ、俺の勘違いかな。」
「どうした?何か気になる事でもあったのか?」
勇俊は、部下の方を向いた。
「いえ。客人が発つ時の護衛を任されたと、第8部隊が出て行きましてね。てっきり黄杏様の客人だと思ったのですが、他の客人だったようですね。」
「客人の……護衛?」
勇俊は、ハッとした。
『おまがやらなければ、他の者に頼むだけです。』
白蓮の言葉。
第8部隊は、別名”影の暗殺者”だ。
「しまった!」
勇俊は、慌てて湯から出た。
「えっ?えっ?護衛長?」
部下が驚いている間に、勇俊は濡れた髪をそのままにして、屋敷との境の門に急いだ。
途中で黄杏の屋敷から、女人が一人出てきた。
「そこの女人殿!」
「は、はい!」
勇俊は、女人の前に立ち止まった。
「客人は、今どこに!?」
「客人の方でしたら、今先ほど旅発たれました。」
「遅かったか!」
勇俊は、急いで走り出した。
「女人殿!急いで忠仁様を、呼んで頂きたい!」
「は、はあ……」
何がなんだか、訳が分からなくぽかんとしている女人を置いて、勇俊は、将拓の後を追った。
門の外に出たが、護衛以外誰もいない。
「護衛長、どうされましたか?」
息を切らして走ってきた護衛長に、門の外を守っていた護衛達が驚く。
「ここを……黄杏様の客人が、通らなかったか?」
「はい。お妃様の客人でしたら、つい先ほど行かれたばかりです。」
そう言って護衛は、宮中の外に出る一本道を指さした。
「有難う。」
勇俊は一本道の先を、目を凝らしながら見ると、ゆっくりと走りだした。
つい先ほどだと言うのなら、まだ間に合うはず。
勇俊は、祈るような気持ちで、将拓の姿を探した。
だが早いもので、既に宮中の出入り口まで、来てしまった。
そこにも、護衛の者が門を守っていた。
「護衛長!このような場所まで、お出ましになるとは。」
上司の突然の登場に、護衛達は揃って武器を降ろす。
「ここに黄杏様の客人は、来たか?」
「客人ですか?」
「背の高い商人だ。言葉に南方訛りがある。」
護衛達は、目を合わせた。
「そのような方は、まだいらっしゃってないですが……」
勇俊はクルッと振り返ると、元来た道をまた小走りで戻った。
見逃した?
一本道だと言うのに、どこか建物の裏側に、引きずり込まれてしまったのか。
護衛長は、道の両側にある建物と建物の間を、一つ一つ見て回った。
どこなんだ?
無事なのか?
「将拓殿!!」
勇俊が名前を叫んだ時だ。
後ろ側の建物の奥で、人が動く気配がした。
それを見逃さなかった勇俊は、ためらいなく動いた。
勘は当たった。
第8部隊が、将拓を囲んでいた。
「護衛長殿!」
建物の後ろで狭い中、将拓は何とか荷物で、攻撃を防いでいた。
「退け!退け!!」
勇俊が第8部隊の面々に言っても、誰一人命令に従わない。
勇俊は、攻撃をかわしながら、将拓の前まで来た。
「来て下さったんですね。」
「ええ!間に合ってよかった!」
だが二人共、再会を喜んでいる時間はなかった。
「護衛長殿、お下がりください。」
部隊をまとめる男が、部隊長に刀を向けた。
「お前こそ、下がれ!この方を、どなたと心得るのだ。お妃様の兄君なるぞ!」
「だからこそ、このまま宮中の外へ、逃がす訳には行きません。」
護衛の者達が、勇俊に切りかかる。
「護衛長!」
「大丈夫です!」
勇俊は一気に、5人もの護衛達を退けた。
「こんな事でやられていたら、護衛長など勤まるか!」
その後も刀と刀が、激しく合わさる音が、辺りに響き渡る。
「馬鹿め!例え護衛長と言えども、一人で勝てると思っているのか!」
部隊を率いる者が、数人と一緒に勇俊に襲い掛かった。
最初は、次々と倒していた勇俊も、さすがに最後の一人に、腕を切り裂かれた。
「護衛長!逃げて下さい!」
将拓が叫ぶ。
「何の!これしきの事で!」
勇俊は、切り裂かれた方の腕の袖を引きちぎると、傷の部分を覆った。
「あなたも、惨めな方だ。」
「なに?」
部隊長が冷たい視線を、勇俊に投げかけた。
「このような一商人。放っておけばよいものを。いや、さっさと正妃様が仰る通り、致命傷を負わせておけば、あなたがこのように傷つく事もなかった。」
「おまえ~!」
勇俊は腕を抑えながら、部隊長の前に立ちはだかった。
「この方はな!この方はな!!」
勇俊は、部隊長の胸倉を掴んだ。
「この国の為に!妹君の為に!自分の立身出世の道を、自ら捨てられた、尊いお方なのだ!!」
「ほう。ならば、今回もお国の為に、その身を捧げて頂ければ、よいものを。」
「何だと!!」
勇俊は、部隊長を殴り飛ばした。
「止めて下さい!」
そんな勇俊の足を、将拓は両腕で掴んだ。
「護衛長殿!どうか!私の片目を、あなたの手で潰して下さい!」
「何ですって!」
自分の足を掴む将拓に、勇俊は叫んだ。
狼狽えるはずの将拓に、返ってなだめられる勇俊。
そうだ。
自分よりこの人の方が、心穏やかではないはずなのに。
「……すみません。ですが、私は……どうしてもあなたを、失いたくないのです。」
「護衛長……そんなにも、私の事を……」
勇俊がそっと顔を上げると、そこには将拓の真っすぐな瞳があった。
その人を信じようとする美しい瞳に、勇俊は打ち崩されてしまって、その場に膝を着いた。
「将拓殿!」
「はい。」
勇俊は、右手の拳で地面を叩いた。
「あなたを襲えと命じられた刺客は、この私です!」
「護衛長殿が?どうして、刺客なんて……」
そこまで言って将拓は、ハッとした。
「……命じたのは、正妃様なのですね。」
「はい!……」
もう隠しきれない勇俊は、将拓の前で地面に頭を付けた。
「黄杏様にお子が生まれれば、有能なあなたは必ず、政治に参加すると仰せられて……」
「なぜ、そのような在りもしない事を!」
将拓は、唇を噛んだ。
「だから今のうちに、あの者の片目を奪えと。そうすれば、政治に参加できまいと。」
「私の……片目を?……」
将拓は、初めて背中が凍る思いをした。
「もちろん、断りました。私には無理だと。しかし正妃様は、だとすれば、他の者に襲わせるまでだと……」
将拓は、見えない大きな陰謀に、勇俊の前に崩れ落ちた。
「そうですか……だとすれば、あなたに襲われた方が、私は……」
「いいえ!」
勇俊は、目の前にいる将拓を両肩を掴んだ。
「まだ諦めるには、早すぎます!」
「護衛長?」
「私は、あなた様をお守りします!生きて!怪我一つ負わずに、宮中を出られるように!」
勇俊の目は、真剣だった。
「外に出れば、外にさえ出られれば、後は嘘の話を流せばいいだけです。今夜だけ耐えて下さい!」
「分かりました。では私はこの話を聞かなかった振りをして、黄杏の屋敷に泊まりましょう。」
「はい。」
「護衛、お頼み申します。」
将拓は一礼をすると、黄杏の屋敷に戻って行った。
それを見届けた勇俊は、屋敷の裏手に回る。
屋敷の作り上、どこから入ろうとしても、必ず裏手から入らなければならないからだ。
勇俊は潜む位置を決め、身を隠した。
それから数時間後。
すっかり灯りが消えた屋敷に、静寂が訪れた。
一向に何者かが動く気配もなく、護衛長はしばしの仮眠を取った。
よく考えてみれば、将拓が泊まっているのは、お妃様の屋敷なのだから、簡単に手出しはできないはず。
今夜襲うかもしれないと言うのは、自分の思い過ごしだったのかもしれない。
勇俊はすっかり、眠りに入ってしまった。
どのくらい経っただろうか。
勇俊の目に、朝日が舞い込んできた。
「……朝か。」
目を覚ました勇俊は、黄杏の屋敷の中を覗いた。
いつものように、女人達が朝ご飯の用意をしている。
将拓は?
将拓はどこにいる?
その時、ガラッと黄杏の屋敷の扉が開いた。
「ふぁーあ。」
そこには、背伸びをする将拓の姿があった。
「お早うございます、護衛長殿。」
その元気な姿に、勇俊はゆっくりと、将拓の元に歩み寄った。
「……ご無事でしたか。」
「はい、お陰様で。」
二人は、お互いの肩を掴んで、微笑み合った。
「どうですか?一緒に、朝ごはんでも。」
「いいえ。ここはお妃様の屋敷。私は、それに仕える者。まさか、ここで朝ご飯を共に頂く事はできません。」
「そうですか……」
そして、中から女人が呼ぶ声がした。
「では、将拓殿。私は、持ち場に戻ります。」
「はい。一晩中の護衛、有難うございました。」
そう言って挨拶を交わした勇俊は、自分の寝泊りする屋敷へと、戻った。
屋敷周辺を護衛をする者達の住処は、白蓮の屋敷の隣にあった。
武器を置いた勇俊は、そのまま湯殿に向かった。
髪を洗い体を洗い湯に浸かり、一晩の疲れを癒した。
「あれ?護衛長、こんな時間に湯殿ですか?」
部下の一人が、湯殿に入ってきた。
「ああ、おまえは?」
「はい。外の門の警備で。今、交代してきたばかりです。」
そして部下も、湯に浸かった。
「そうか。ご苦労だったな。」
「いいえ。」
屋敷に帰れば、大部屋に大勢で寝泊りする護衛達。
こうして湯に浸かっている時が、一番疲れを癒すと、勇俊は知っていた。
だから湯殿にいる時は、部下には何も指示しない。
できるだけ、放っておいてやる事にしていた。
「ところで、黄杏様の客人、とても偉い方なのですか?」
「そう言う訳でもない。南方の商人だ。」
そう。
お妃様の兄上だと言う事は、秘密だ。
「へえ。じゃあ、俺の勘違いかな。」
「どうした?何か気になる事でもあったのか?」
勇俊は、部下の方を向いた。
「いえ。客人が発つ時の護衛を任されたと、第8部隊が出て行きましてね。てっきり黄杏様の客人だと思ったのですが、他の客人だったようですね。」
「客人の……護衛?」
勇俊は、ハッとした。
『おまがやらなければ、他の者に頼むだけです。』
白蓮の言葉。
第8部隊は、別名”影の暗殺者”だ。
「しまった!」
勇俊は、慌てて湯から出た。
「えっ?えっ?護衛長?」
部下が驚いている間に、勇俊は濡れた髪をそのままにして、屋敷との境の門に急いだ。
途中で黄杏の屋敷から、女人が一人出てきた。
「そこの女人殿!」
「は、はい!」
勇俊は、女人の前に立ち止まった。
「客人は、今どこに!?」
「客人の方でしたら、今先ほど旅発たれました。」
「遅かったか!」
勇俊は、急いで走り出した。
「女人殿!急いで忠仁様を、呼んで頂きたい!」
「は、はあ……」
何がなんだか、訳が分からなくぽかんとしている女人を置いて、勇俊は、将拓の後を追った。
門の外に出たが、護衛以外誰もいない。
「護衛長、どうされましたか?」
息を切らして走ってきた護衛長に、門の外を守っていた護衛達が驚く。
「ここを……黄杏様の客人が、通らなかったか?」
「はい。お妃様の客人でしたら、つい先ほど行かれたばかりです。」
そう言って護衛は、宮中の外に出る一本道を指さした。
「有難う。」
勇俊は一本道の先を、目を凝らしながら見ると、ゆっくりと走りだした。
つい先ほどだと言うのなら、まだ間に合うはず。
勇俊は、祈るような気持ちで、将拓の姿を探した。
だが早いもので、既に宮中の出入り口まで、来てしまった。
そこにも、護衛の者が門を守っていた。
「護衛長!このような場所まで、お出ましになるとは。」
上司の突然の登場に、護衛達は揃って武器を降ろす。
「ここに黄杏様の客人は、来たか?」
「客人ですか?」
「背の高い商人だ。言葉に南方訛りがある。」
護衛達は、目を合わせた。
「そのような方は、まだいらっしゃってないですが……」
勇俊はクルッと振り返ると、元来た道をまた小走りで戻った。
見逃した?
一本道だと言うのに、どこか建物の裏側に、引きずり込まれてしまったのか。
護衛長は、道の両側にある建物と建物の間を、一つ一つ見て回った。
どこなんだ?
無事なのか?
「将拓殿!!」
勇俊が名前を叫んだ時だ。
後ろ側の建物の奥で、人が動く気配がした。
それを見逃さなかった勇俊は、ためらいなく動いた。
勘は当たった。
第8部隊が、将拓を囲んでいた。
「護衛長殿!」
建物の後ろで狭い中、将拓は何とか荷物で、攻撃を防いでいた。
「退け!退け!!」
勇俊が第8部隊の面々に言っても、誰一人命令に従わない。
勇俊は、攻撃をかわしながら、将拓の前まで来た。
「来て下さったんですね。」
「ええ!間に合ってよかった!」
だが二人共、再会を喜んでいる時間はなかった。
「護衛長殿、お下がりください。」
部隊をまとめる男が、部隊長に刀を向けた。
「お前こそ、下がれ!この方を、どなたと心得るのだ。お妃様の兄君なるぞ!」
「だからこそ、このまま宮中の外へ、逃がす訳には行きません。」
護衛の者達が、勇俊に切りかかる。
「護衛長!」
「大丈夫です!」
勇俊は一気に、5人もの護衛達を退けた。
「こんな事でやられていたら、護衛長など勤まるか!」
その後も刀と刀が、激しく合わさる音が、辺りに響き渡る。
「馬鹿め!例え護衛長と言えども、一人で勝てると思っているのか!」
部隊を率いる者が、数人と一緒に勇俊に襲い掛かった。
最初は、次々と倒していた勇俊も、さすがに最後の一人に、腕を切り裂かれた。
「護衛長!逃げて下さい!」
将拓が叫ぶ。
「何の!これしきの事で!」
勇俊は、切り裂かれた方の腕の袖を引きちぎると、傷の部分を覆った。
「あなたも、惨めな方だ。」
「なに?」
部隊長が冷たい視線を、勇俊に投げかけた。
「このような一商人。放っておけばよいものを。いや、さっさと正妃様が仰る通り、致命傷を負わせておけば、あなたがこのように傷つく事もなかった。」
「おまえ~!」
勇俊は腕を抑えながら、部隊長の前に立ちはだかった。
「この方はな!この方はな!!」
勇俊は、部隊長の胸倉を掴んだ。
「この国の為に!妹君の為に!自分の立身出世の道を、自ら捨てられた、尊いお方なのだ!!」
「ほう。ならば、今回もお国の為に、その身を捧げて頂ければ、よいものを。」
「何だと!!」
勇俊は、部隊長を殴り飛ばした。
「止めて下さい!」
そんな勇俊の足を、将拓は両腕で掴んだ。
「護衛長殿!どうか!私の片目を、あなたの手で潰して下さい!」
「何ですって!」
自分の足を掴む将拓に、勇俊は叫んだ。
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