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第10話 思わぬ客人
①
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再び信志の愛を取り戻した黄杏は、幸せな日々を暮らしていた。
他の妃の羨望を、一心に受けながら。
「今夜の寝所は、また黄杏の元ですか?」
一緒に夕食をとっていた白蓮は、何気なく尋ねた。
「……ああ。」
まるで当たり前だと言わんばかりに、返事をする信志。
「ここのところ、毎日ですね。」
「それがどうかしたか?」
白蓮はほんの少しだけ、信志の顔を見た。
喜怒哀楽もない、無表情。
要するに信志の中では、毎晩黄杏の元へ通う事は、毎晩自分の部屋に帰るという感覚なのだ。
「……他の妃から、またため息が漏れ始めております。」
だがさすがにこの言葉だけは、紳士の箸を持つ手を、止めたようだ。
「黄杏の元へ通うなとは、申しません。ただ他の妃の事も、頭の片隅に置いて下さいませ。」
冷静な白蓮の発言に、信志は返す言葉もない。
「分かった。」
「やけに素直でございますね。」
「そなたの言う事は、尤もだ。」
そしてまた箸が進む信志に、白蓮は胸が苦しくなった。
”今少しだけ、見逃してほしい”
そう言うと思っていたのに。
信志は返って、自分の気持ちを抑えているような気までしてくる。
そう。
正妻の白蓮から見ても、思い悩む程に、信志は黄杏に恋をしているのだ。
「幸せだこと……」
「えっ?」
顔を上げた信志は、もう自分の知っている信志ではない。
自分の事は、母か姉ぐらいにしか、思っていないのだろう。
「……こちらの話です。」
「ああ。」
そして時は過ぎ、夕食を終えた信志は、黄杏の元へと屋敷を出る事になった。
「お気をつけて。」
屋敷の玄関で、白蓮が見送る。
他の妃の屋敷に行く夫を見送る事に、すっかり慣れてしまった自分がいた。
「白蓮。」
「はい。」
知らない間に、信志は白蓮の手を握っていた。
「許してくれとは、言わぬ。」
「王?」
「ただ……分かってくれ。」
白蓮は、息が止まりそうになった。
「ええ……分かっております。黄杏はいい妃です。」
すると信志は、久々に白蓮に笑顔を向けた。
「そうであったな。さすがは私の伴侶よ。」
そう言って信志の手は、スルッと離れて行った。
”伴侶”と呼ばれて、嬉しいはずの白蓮。
だが白蓮を照らす月明かりは、寂しいものだった。
そんな白蓮を置いて、信志が向かった先は、恋しい妃・黄杏の屋敷だ。
「お待ちしておりました。」
黄杏は毎晩、信志を笑顔で迎えてくれた。
自分への気持ちは、変わっていない。
そう思えた黄杏は、どこか吹っ切れたのだ。
そして信志も、あの村で逢瀬を交わしていた黄杏に戻ったみたいで、また熱くなっているのが分かっていた。
誰にも知られていない恋に、互いだけを信じあっていた日々。
そんな甘い時間が、今もこうして二人の間に、流れているのだった。
その夜の事。
一緒に寝ていた信志と黄杏の耳に、女の叫び声が聞こえた。
「どこからだ?」
体を起こした信志に、隣の部屋に控えていた女人が、うろたえた様子で答える。
「あれは……黒音様の屋敷からでございます。」
それを聞いた信志は、上着を羽織った。
「信志様!」
「ここから離れるなよ、黄杏。」
そう言って信志は、黄杏の屋敷を出た。
黒音の屋敷と、黄杏の屋敷は、目と鼻の先。
一番に駆け付けた信志は、黒音の屋敷から出ていく、男の姿を見た。
「黒音!」
屋敷の入り口を開くと、奥の方で女人達と固まって震えていた。
「大丈夫か?」
信志は黒音の前に、膝を付いた。
「は……い……」
震えている黒音を、信志は片腕で抱きしめた。
「怖かっただろうに。何が起こった?」
すると側にいた女人の一人が、大声で叫んだ。
「盗賊です!」
「盗賊!?この後宮に、盗みを働こうとする者がいるのか!」
黄杏や黒音がいる屋敷は、宮中の中にもう一つ門を置き、出入りする者を見張っていた。
夜になっても、護衛の者は数人、この屋敷の敷地内を警備しているはずだった。
「護衛の者はどうした?」
信志が辺りを見回しても、その姿はない。
「どこにいる?」
信志が探そうとしても、女人は動かない。
「皆、黒音様を軽く扱っているのです。」
「これ!」
黒音が女人の一人を止めた。
「他のお妃様に比べて身分が低く、寵愛も薄いと、護衛の者も警備をしてくれません!」
驚いた信志は、黒音を見た。
「本当か?黒音。」
だが黒音は、黙ったままだ。
「お願いです、王。盗賊が入ろうとしたのは、これが初めてではありません!護衛の少ないこの屋敷を、狙っているのです!どうか!我らが安心して、眠れるようにしてください!」
女人が泣きながら、訴えてきた。
他の女人も、口惜しさと恐ろしさで、震えながら涙を流す。
一人だけ、そう黒音だけが、己の扱いを黙って受け入れているようだった。
「黒音。」
信志は、黒音を抱き寄せた。
「そのような事になっているとは、露知らず。すまなかった。」
「信寧王様……」
黒音の目には、涙が薄っすら光っていた。
「今日は私もここに泊まろう。」
信志の言葉に、一同安心した表情を見せた。
「誰か。黄杏に伝えてくれ。今夜は戻れなくなったと。」
「はい。」
黒音の女人の一人が、立ち上がった。
「理由を問われたら、黒音の屋敷の警護だと説明してくれ。」
「畏まりました。」
そして女人が黄杏の屋敷に発った後、黒音と信志は、寝所へと入った。
「お休みの中、起こしてしまい申し訳ございませんでした。」
黒音が頭を下げると、信志は黒音を背中に手を当てた。
「よいのだ。私の事よりも、そなたが怖い思いをしたであろう。さあ、私がついている上、今夜は安心して眠るがよい。」
そう言って信志は、黒音を寝台に横たわらせた。
だが信志は、灯りの側に座っているだけだ。
「……王は、横にならぬですか?」
「私の事は案ずるな。」
まだ盗賊に気を取られているのか、外をちらちらと見ていた。
それを見て黒音は、起き上がった。
「どうした?」
振り返った信志の隣に、黒音は座った。
「私も、起きています。」
「心配するな。構わずに寝ていなさい。」
「いいえ。我が主人が起きていると言うのに、隣で寝ている妃などおりません。」
顔を合わせた二人。
「私が寝ていなさいと、申したのだ。」
「これでも妃の端くれです。王のいる前で、おいそれと寝ている訳にはまいりません。」
信志は微笑んで、黒音の頬をそっと撫でた。
「黒音には負けた。」
「王……」
黒音の頬に、信志の温もりが伝わる。
「私も休む故、そなたも休みなさい。」
そして信志は、黒音の寝台に横になった。
「はい。」
嬉しそうに信志の横に眠る黒音。
だが信志は、そのまま目を閉じて、眠ってしまったようだ。
黒音にとっては、久々の夫婦一緒の夜だったと言うのに。
実はこの盗賊騒ぎも、黒音の発案。
この頃、ずっと黄杏に夜を持っていかれて、地団駄を踏んでいたのだ。
そしてそうとは知らない黄杏は、出て行った信志が、今夜戻らない事を、黒音の女人から伝えられた。
「分かりました。では、王の衣類をお願い致します。」
「畏まりました。」
綺麗に畳んだ信志の衣服を、黒音の女人に渡す事になるとは、微塵にも思っていなかった。
黒音の女人が屋敷から出て行った後、黄杏も悲しい月明かりを見ていた。
他の妃の元へ、信志が行ってしまうのは、もう慣れてしまった。
だから悲しいわけではない。
ただ、心の中がぽっかりと、空いてしまったようだ。
まだ自分には、こんな気持ちが残っているのか。
黄杏は胸に手を当てた。
次の日、黄杏の元へ一通の手紙が、女人を通して渡された。
「これは?」
「宮中に出入りしている商人からでございます。」
「商人?」
黄杏は、手紙の筆跡を見て、懐かしくなった。
そう、兄の将拓の字だ。
黄杏は嬉しそうに、手紙を開けた。
【 黄杏、元気にしているだろうか。
縁あって、しばらく宮中に出入りできる事になった。
一度でいいから、会えないだろうか。
将拓 】
「兄上……」
黄杏に思わず笑みがこぼれた。
「えっ?」
女人はもう一度聞こうと、顔を上げる。
「あっ、いや。なんでもない。」
王の妃に兄がいるのは禁忌。
それは、宮中にいれば、いずれ分かること。
宮中にいる者に、兄・将拓の存在は知られては、ならないのだ。
だが、自分が王に嫁ぐ為に、自分の役人としての人生を捨ててくれた兄。
もう会えないと思っていた兄が、手の届く場所にいる。
たった一度でいい。
兄・将拓に会いたい。
「この商人は、明日も宮中に来るのか?」
「はい。このところは、毎日出入りしております。何でも今週いっぱいは、いるようでございます。」
女人の情報の早さに、黄杏は目を丸くする。
「……よく知っているの。」
「ほほほっ……これがまた、目元が涼しげな良い男でございまして……」
女人は恥ずかしそうに、頬を赤らめた。
「そなたがそこまで言うなんて、珍しい。」
「それほど、いい男だったのですよ。」
黄杏は、これは使えると思った。
「……その商人に、一度会ってみたい。」
「えっ!お妃様がですか!?」
女人はひどく驚いた。
王の妃は、下々の者に顔を見せることはまずない事だし、王以外の男に会う事も滅多にない。
しかも”会いたい”と、興味を持つだなんて。
「案ずる事はない。近くで顔を見るだけじゃ。」
「は、はい……」
女人は、少しだけ胸騒ぎを覚えた。
他の妃の羨望を、一心に受けながら。
「今夜の寝所は、また黄杏の元ですか?」
一緒に夕食をとっていた白蓮は、何気なく尋ねた。
「……ああ。」
まるで当たり前だと言わんばかりに、返事をする信志。
「ここのところ、毎日ですね。」
「それがどうかしたか?」
白蓮はほんの少しだけ、信志の顔を見た。
喜怒哀楽もない、無表情。
要するに信志の中では、毎晩黄杏の元へ通う事は、毎晩自分の部屋に帰るという感覚なのだ。
「……他の妃から、またため息が漏れ始めております。」
だがさすがにこの言葉だけは、紳士の箸を持つ手を、止めたようだ。
「黄杏の元へ通うなとは、申しません。ただ他の妃の事も、頭の片隅に置いて下さいませ。」
冷静な白蓮の発言に、信志は返す言葉もない。
「分かった。」
「やけに素直でございますね。」
「そなたの言う事は、尤もだ。」
そしてまた箸が進む信志に、白蓮は胸が苦しくなった。
”今少しだけ、見逃してほしい”
そう言うと思っていたのに。
信志は返って、自分の気持ちを抑えているような気までしてくる。
そう。
正妻の白蓮から見ても、思い悩む程に、信志は黄杏に恋をしているのだ。
「幸せだこと……」
「えっ?」
顔を上げた信志は、もう自分の知っている信志ではない。
自分の事は、母か姉ぐらいにしか、思っていないのだろう。
「……こちらの話です。」
「ああ。」
そして時は過ぎ、夕食を終えた信志は、黄杏の元へと屋敷を出る事になった。
「お気をつけて。」
屋敷の玄関で、白蓮が見送る。
他の妃の屋敷に行く夫を見送る事に、すっかり慣れてしまった自分がいた。
「白蓮。」
「はい。」
知らない間に、信志は白蓮の手を握っていた。
「許してくれとは、言わぬ。」
「王?」
「ただ……分かってくれ。」
白蓮は、息が止まりそうになった。
「ええ……分かっております。黄杏はいい妃です。」
すると信志は、久々に白蓮に笑顔を向けた。
「そうであったな。さすがは私の伴侶よ。」
そう言って信志の手は、スルッと離れて行った。
”伴侶”と呼ばれて、嬉しいはずの白蓮。
だが白蓮を照らす月明かりは、寂しいものだった。
そんな白蓮を置いて、信志が向かった先は、恋しい妃・黄杏の屋敷だ。
「お待ちしておりました。」
黄杏は毎晩、信志を笑顔で迎えてくれた。
自分への気持ちは、変わっていない。
そう思えた黄杏は、どこか吹っ切れたのだ。
そして信志も、あの村で逢瀬を交わしていた黄杏に戻ったみたいで、また熱くなっているのが分かっていた。
誰にも知られていない恋に、互いだけを信じあっていた日々。
そんな甘い時間が、今もこうして二人の間に、流れているのだった。
その夜の事。
一緒に寝ていた信志と黄杏の耳に、女の叫び声が聞こえた。
「どこからだ?」
体を起こした信志に、隣の部屋に控えていた女人が、うろたえた様子で答える。
「あれは……黒音様の屋敷からでございます。」
それを聞いた信志は、上着を羽織った。
「信志様!」
「ここから離れるなよ、黄杏。」
そう言って信志は、黄杏の屋敷を出た。
黒音の屋敷と、黄杏の屋敷は、目と鼻の先。
一番に駆け付けた信志は、黒音の屋敷から出ていく、男の姿を見た。
「黒音!」
屋敷の入り口を開くと、奥の方で女人達と固まって震えていた。
「大丈夫か?」
信志は黒音の前に、膝を付いた。
「は……い……」
震えている黒音を、信志は片腕で抱きしめた。
「怖かっただろうに。何が起こった?」
すると側にいた女人の一人が、大声で叫んだ。
「盗賊です!」
「盗賊!?この後宮に、盗みを働こうとする者がいるのか!」
黄杏や黒音がいる屋敷は、宮中の中にもう一つ門を置き、出入りする者を見張っていた。
夜になっても、護衛の者は数人、この屋敷の敷地内を警備しているはずだった。
「護衛の者はどうした?」
信志が辺りを見回しても、その姿はない。
「どこにいる?」
信志が探そうとしても、女人は動かない。
「皆、黒音様を軽く扱っているのです。」
「これ!」
黒音が女人の一人を止めた。
「他のお妃様に比べて身分が低く、寵愛も薄いと、護衛の者も警備をしてくれません!」
驚いた信志は、黒音を見た。
「本当か?黒音。」
だが黒音は、黙ったままだ。
「お願いです、王。盗賊が入ろうとしたのは、これが初めてではありません!護衛の少ないこの屋敷を、狙っているのです!どうか!我らが安心して、眠れるようにしてください!」
女人が泣きながら、訴えてきた。
他の女人も、口惜しさと恐ろしさで、震えながら涙を流す。
一人だけ、そう黒音だけが、己の扱いを黙って受け入れているようだった。
「黒音。」
信志は、黒音を抱き寄せた。
「そのような事になっているとは、露知らず。すまなかった。」
「信寧王様……」
黒音の目には、涙が薄っすら光っていた。
「今日は私もここに泊まろう。」
信志の言葉に、一同安心した表情を見せた。
「誰か。黄杏に伝えてくれ。今夜は戻れなくなったと。」
「はい。」
黒音の女人の一人が、立ち上がった。
「理由を問われたら、黒音の屋敷の警護だと説明してくれ。」
「畏まりました。」
そして女人が黄杏の屋敷に発った後、黒音と信志は、寝所へと入った。
「お休みの中、起こしてしまい申し訳ございませんでした。」
黒音が頭を下げると、信志は黒音を背中に手を当てた。
「よいのだ。私の事よりも、そなたが怖い思いをしたであろう。さあ、私がついている上、今夜は安心して眠るがよい。」
そう言って信志は、黒音を寝台に横たわらせた。
だが信志は、灯りの側に座っているだけだ。
「……王は、横にならぬですか?」
「私の事は案ずるな。」
まだ盗賊に気を取られているのか、外をちらちらと見ていた。
それを見て黒音は、起き上がった。
「どうした?」
振り返った信志の隣に、黒音は座った。
「私も、起きています。」
「心配するな。構わずに寝ていなさい。」
「いいえ。我が主人が起きていると言うのに、隣で寝ている妃などおりません。」
顔を合わせた二人。
「私が寝ていなさいと、申したのだ。」
「これでも妃の端くれです。王のいる前で、おいそれと寝ている訳にはまいりません。」
信志は微笑んで、黒音の頬をそっと撫でた。
「黒音には負けた。」
「王……」
黒音の頬に、信志の温もりが伝わる。
「私も休む故、そなたも休みなさい。」
そして信志は、黒音の寝台に横になった。
「はい。」
嬉しそうに信志の横に眠る黒音。
だが信志は、そのまま目を閉じて、眠ってしまったようだ。
黒音にとっては、久々の夫婦一緒の夜だったと言うのに。
実はこの盗賊騒ぎも、黒音の発案。
この頃、ずっと黄杏に夜を持っていかれて、地団駄を踏んでいたのだ。
そしてそうとは知らない黄杏は、出て行った信志が、今夜戻らない事を、黒音の女人から伝えられた。
「分かりました。では、王の衣類をお願い致します。」
「畏まりました。」
綺麗に畳んだ信志の衣服を、黒音の女人に渡す事になるとは、微塵にも思っていなかった。
黒音の女人が屋敷から出て行った後、黄杏も悲しい月明かりを見ていた。
他の妃の元へ、信志が行ってしまうのは、もう慣れてしまった。
だから悲しいわけではない。
ただ、心の中がぽっかりと、空いてしまったようだ。
まだ自分には、こんな気持ちが残っているのか。
黄杏は胸に手を当てた。
次の日、黄杏の元へ一通の手紙が、女人を通して渡された。
「これは?」
「宮中に出入りしている商人からでございます。」
「商人?」
黄杏は、手紙の筆跡を見て、懐かしくなった。
そう、兄の将拓の字だ。
黄杏は嬉しそうに、手紙を開けた。
【 黄杏、元気にしているだろうか。
縁あって、しばらく宮中に出入りできる事になった。
一度でいいから、会えないだろうか。
将拓 】
「兄上……」
黄杏に思わず笑みがこぼれた。
「えっ?」
女人はもう一度聞こうと、顔を上げる。
「あっ、いや。なんでもない。」
王の妃に兄がいるのは禁忌。
それは、宮中にいれば、いずれ分かること。
宮中にいる者に、兄・将拓の存在は知られては、ならないのだ。
だが、自分が王に嫁ぐ為に、自分の役人としての人生を捨ててくれた兄。
もう会えないと思っていた兄が、手の届く場所にいる。
たった一度でいい。
兄・将拓に会いたい。
「この商人は、明日も宮中に来るのか?」
「はい。このところは、毎日出入りしております。何でも今週いっぱいは、いるようでございます。」
女人の情報の早さに、黄杏は目を丸くする。
「……よく知っているの。」
「ほほほっ……これがまた、目元が涼しげな良い男でございまして……」
女人は恥ずかしそうに、頬を赤らめた。
「そなたがそこまで言うなんて、珍しい。」
「それほど、いい男だったのですよ。」
黄杏は、これは使えると思った。
「……その商人に、一度会ってみたい。」
「えっ!お妃様がですか!?」
女人はひどく驚いた。
王の妃は、下々の者に顔を見せることはまずない事だし、王以外の男に会う事も滅多にない。
しかも”会いたい”と、興味を持つだなんて。
「案ずる事はない。近くで顔を見るだけじゃ。」
「は、はい……」
女人は、少しだけ胸騒ぎを覚えた。
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