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第4話 王宮入り
①
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国の外れにある多宝村を発って、1週間。
一日中、籠の中にいる黄杏は、この日。
久しぶりに、外へと羽を伸ばした。
「んー!いい気持ち!」
未来の妃の、自由な仕草に、周りの家臣達も、クスクス笑い出す。
それを見た黄杏は、恥ずかしそうに手を下げる。
すると、すぐ近くにいた若い娘が、黄杏に声を掛けた。
「無理もないですよね。一週間ぶりの外ですもの。」
見れば、自分より年下の、可愛らしい娘だった。
「ふふふ。いつも外を歩いているあなた達から見たら、何贅沢を言ってるのって、叱られるけどね。」
「いいえ。私でも、お妃様の立場になれば、同じ事を致します。」
屈託のない笑顔で、笑いかけてきた娘に、黄杏は親しみを覚えた。
「あなたは、何て名前なの?」
「黒音と申します。」
「そう。私は、黄杏。あなたは、王宮で働いているの?」
「はい。王宮で、お妃様方のお世話をしております。」
「そうなのね。王宮に着いたら、仲良くしてね。」
「はい、お妃様。」
黄杏と黒音で、クスクス笑っているところに、信志がやってきた。
「信寧王様。」
お付きの者が皆、頭を下げてた隙に、信志は黄杏の手をとった。
「なんだか、こんなに近くにいると言うのに、久しぶりに顔を合わせる。」
「仕方がありません。村を発ってから、昼間にお会いする機会など、ございませんでしたから。」
見つめ合いながら、微笑んでいる王と黄杏の姿に、周りに控えているお付きの者達の方が、照れてしまう程。
「あと1週間も、このような状態が続くのか。」
信志は、ため息をついた。
それを見た忠仁は、静かに王に近寄った。
「如何でしょう。晴れた日も続いている事ですし、黄杏殿に、共に馬に乗って頂きますか?」
「黄杏を馬に?」
断ろうとした信志を遮るかのように、黄杏が前に出た。
「はい!王と一緒に、馬に乗ります。」
これには、信志も呆れた顔だ。
「黄杏。落馬したら、どうするのだ。」
「落ちないように、王が掴まえていてください。」
「はははっ!」
信志は、笑いが止まらなかった。
「分かった。黄杏には、敵わない。」
そして信志は手を引いて、黄杏を自分の馬の元へ、連れてきた。
「これが、我が馬だ。」
「……綺麗。」
白くて毛並みが整っていて、家臣が乗る馬と比べても、その美しさは別格だった。
「素晴らしい馬だろう。前の国王であった父に、幼い頃に頂いた馬なのだ。」
そう言って信志が手を伸ばすと、馬も信志に顔を寄せた。
「仲がよろしいんですね。」
「そうだな。幼い頃より一緒だからな。」
「そのような馬に、私が乗っても大丈夫なのでしょうか。」
急に怖じ気づく黄杏に、信志は手綱を持った。
「触ってみるか?怖がる事はない。友と思えばよいのだ。」
「友……」
黄杏は、美麗を思い出し、美麗を抱き締めるように、馬に触った。
その気持ちが通じたのか、馬も黄杏に、顔を寄せてきた。
「ははは。馬もそなたを、気に入ったようだな。」
そして信志は、黄杏を馬の背に乗せた。
「うわぁ……とても良い景色……」
感動している黄杏の後ろに、今度は信志が乗る。
「気に入ったか?」
「はい。」
そして信志は、黄杏を囲むように、手綱を引いた。
「出発!」
忠仁の一声で、また一行は動き始めた。
「それにしても、君のような女は、初めて見たよ。」
信志は、顔を押さえながら、笑いを堪えている。
「いけませんでしたか?」
「いけなくはないが。馬は人を見るからな。」
黄杏は、チラッと馬を見た。
白馬は、何の抵抗もなく、自分を乗せている。
「この白馬に乗せた方は、他にいらっしゃるんですか?」
「乗せた女は、君しかいない。そうだな、白蓮の事は気に入ったようだが、あの者は馬に乗るのを、嫌がってね。」
黄杏は、“白蓮”と言う名前が、気になった。
「白蓮……様と言うのは?」
「ああ。白蓮は、私の正后だ。」
「正后!?」
黄杏は驚いて、反対側を見た。
「そなたには、まだ話していなかったな。許せ。」
「いえ……」
まさか、一人も妃がいないとは思っていなかったが、恋に落ちた相手に、正妻がいるとは。
黄杏は、胸が締め付けられた。
「白蓮は遠縁の者で、生まれた時から、私の妃になる事が決まっていた。随分小さい時に、私の元へ嫁いできてね。一緒に育ったものだから、幼馴染みと言うか、友人みたいなものだよ。」
「友人……」
生まれた時から、結婚する人が決まっている人生。
それだけでも複雑だと言うのに、あまりにも小さい頃から一緒にいる為に、友人と言われて。
黄杏は、嫉妬したくても嫉妬できない、複雑な想いを抱えた。
「他には?どのようなお妃様が?」
「ああ。第2妃は、青蘭と言うのだ。」
「青蘭……様……」
だが信志の表情からは、微笑みが消えた。
「青蘭は、敵国の姫だったんだ。宮殿を攻め落とした時にね。父である王は死に、皇太子であった兄を、火の海の中、探していたんだ。」
思わず黄杏は、口許を手で覆った。
「それが何とも、痛ましくてね。国へ連れて帰った。もちろん、略奪だとかそんな事ではない。どこか儚げだった青蘭を、私は……」
そこで信志は、言葉に詰まってしまった。
「愛しているのですね、青蘭様の事を。」
本心をつかれて、信志は項垂れた。
「すまない。」
「どうして、謝るのですか。今まで一度も愛した人はいないなんて、そんな王でしたら、私は惚れたりなどしませんでした。」
顔を上げた信志は、微笑みながら、黄杏の髪を撫でた。
「他には?」
「ははは、他にか。実はもう一人いる。」
「もう一人だけですか?」
「ああ、一人だ。紅梅と言ってな。あの忠仁の娘だ。」
「忠仁殿の?」
二人で後ろを振り返ると、忠仁は気むずかしい顔をしている。
「ふふふ……」
「はははっ!」
黄杏は、信志と笑い合っていると、嫌な思いなど消えていった。
「どのような方なのですか?」
「紅梅か。紅梅は、とにかく明るい。黄杏に負けないくらい、元気がある。」
「私に負けないくらいですか?」
「ああ。もしかしたら、紅梅と黄杏は、仲良くやっていけるかもな。」
元気があるからと言う理由で、仲良くなれると言われても、まだあった事がないのに、想像もできない。
「紅梅は、私の妃になる前は、女隊の隊長をやっていたのだ。」
「女隊?女隊って、何ですか?」
聞いた事もない名前に、黄杏は難しい顔をした。
「女隊と言うのはな。我らが戦いに出ている時、宮殿を守る女達の事だ。」
「女達が、宮殿を守るのですか?」
黄杏は、王を見上げた。
「ああ。男達は皆、宮殿の外に行くからね。」
黄杏が見た王は、まるでそれが当たり前のような、表情をしていた。
「……勇ましい、女達なのですね。」
「そうだな。」
生まれ育ったのは、争い事とか戦い事には、一切関係ない村だった。
黄杏は、胸に不安を抱いたが、まだ自分に襲ってくる事など、微塵も分からないでいた。
それから一週間後。
黄杏を連れた信寧王の一行が、宮殿に辿り着いた。
「ここが……宮殿……」
赤を基調に、青、黄、緑に塗られた壁。
そして、豪華に施された黄金の装飾。
「凄いだろう?」
隣に、信志がやってきた。
「私の先祖が、建国の際建てたのだ。それから、代々の王が改築を重ね、今でも建立当初の姿を保っているんだ。」
「へえ……」
黄杏は、そっと信志を見た。
村での信志は、確かに精悍で、誠実で、洗練された雰囲気がしていて、だがそれは、都の中でも上流階級の家で育ったからなのだと、思っていた。
そして今は、それが少し違って感じる。
都の上流階級なんて、とんでもない。
信志は紛れもなく、この国を作った一族であり、この国で唯一無二の人なのだ。
「どうした?」
その人が、自分に優しく微笑んでくれる。
「……いいえ。」
それだけで黄杏の胸は、嬉しさにうち震えた。
そんな二人の後ろへ、忠仁が膝を着いた。
「黄杏様。あなた様のお部屋を、案内させます。」
「私の部屋?」
「王の妃になられる方には、お一人ずつお部屋が、与えられるのです。」
「はぁ……」
実家では、女一人だったから、まだ一人部屋だったが、男兄弟は、兄の将拓が学校に通う為に、家を出るまでは、二人とも同じ部屋で過ごした。
まさか、何人もお妃がいる中で、一人部屋を与えられるなんて、田舎の村から出てきた黄杏には、その意味すら分からなかった。
案内されたのは、宮殿の奥にある、北側の屋敷だった。
綺麗な白壁の建物が、いくつもいくつも並んでいた。
その中で、一際大きくて、真っ白い建物が、一番奥にあった。
「あれは?」
黄杏は、忠仁に尋ねた。
「ああ。あれは、正后・白蓮様のお屋敷でございます。」
宮殿に着いた途端、あれだけ指図してきた忠仁は、すっかり家来みたいな、お言葉使いになっていた。
「そして、こちらの右手が、第2妃の青蘭様。こちらの左手が、紅梅様の屋敷でございます。」
自分の娘である、紅梅にでさえ、丁寧な物の言い方だ。
「さあ、着きました。こちらが黄杏様の、お屋敷でございます。」
それは、紅梅の屋敷の南隣だった。
扉が開かれ中には、贅沢な調度品がたくさん置かれていた。
「これは……」
「新しいお妃様へと、皆で集めた一級品でございます。」
奥の部屋には、これまた豪華絢爛な寝台が、置かれている。
「二つも、部屋があるのね。」
「はい。」
黄杏は、寝台に敷かれた、柔らかい布団に触った。
「凄い豪華……これから、ここで過ごしていくのね。」
黄杏は、ため息混じりに、部屋を見渡す。
一日中、籠の中にいる黄杏は、この日。
久しぶりに、外へと羽を伸ばした。
「んー!いい気持ち!」
未来の妃の、自由な仕草に、周りの家臣達も、クスクス笑い出す。
それを見た黄杏は、恥ずかしそうに手を下げる。
すると、すぐ近くにいた若い娘が、黄杏に声を掛けた。
「無理もないですよね。一週間ぶりの外ですもの。」
見れば、自分より年下の、可愛らしい娘だった。
「ふふふ。いつも外を歩いているあなた達から見たら、何贅沢を言ってるのって、叱られるけどね。」
「いいえ。私でも、お妃様の立場になれば、同じ事を致します。」
屈託のない笑顔で、笑いかけてきた娘に、黄杏は親しみを覚えた。
「あなたは、何て名前なの?」
「黒音と申します。」
「そう。私は、黄杏。あなたは、王宮で働いているの?」
「はい。王宮で、お妃様方のお世話をしております。」
「そうなのね。王宮に着いたら、仲良くしてね。」
「はい、お妃様。」
黄杏と黒音で、クスクス笑っているところに、信志がやってきた。
「信寧王様。」
お付きの者が皆、頭を下げてた隙に、信志は黄杏の手をとった。
「なんだか、こんなに近くにいると言うのに、久しぶりに顔を合わせる。」
「仕方がありません。村を発ってから、昼間にお会いする機会など、ございませんでしたから。」
見つめ合いながら、微笑んでいる王と黄杏の姿に、周りに控えているお付きの者達の方が、照れてしまう程。
「あと1週間も、このような状態が続くのか。」
信志は、ため息をついた。
それを見た忠仁は、静かに王に近寄った。
「如何でしょう。晴れた日も続いている事ですし、黄杏殿に、共に馬に乗って頂きますか?」
「黄杏を馬に?」
断ろうとした信志を遮るかのように、黄杏が前に出た。
「はい!王と一緒に、馬に乗ります。」
これには、信志も呆れた顔だ。
「黄杏。落馬したら、どうするのだ。」
「落ちないように、王が掴まえていてください。」
「はははっ!」
信志は、笑いが止まらなかった。
「分かった。黄杏には、敵わない。」
そして信志は手を引いて、黄杏を自分の馬の元へ、連れてきた。
「これが、我が馬だ。」
「……綺麗。」
白くて毛並みが整っていて、家臣が乗る馬と比べても、その美しさは別格だった。
「素晴らしい馬だろう。前の国王であった父に、幼い頃に頂いた馬なのだ。」
そう言って信志が手を伸ばすと、馬も信志に顔を寄せた。
「仲がよろしいんですね。」
「そうだな。幼い頃より一緒だからな。」
「そのような馬に、私が乗っても大丈夫なのでしょうか。」
急に怖じ気づく黄杏に、信志は手綱を持った。
「触ってみるか?怖がる事はない。友と思えばよいのだ。」
「友……」
黄杏は、美麗を思い出し、美麗を抱き締めるように、馬に触った。
その気持ちが通じたのか、馬も黄杏に、顔を寄せてきた。
「ははは。馬もそなたを、気に入ったようだな。」
そして信志は、黄杏を馬の背に乗せた。
「うわぁ……とても良い景色……」
感動している黄杏の後ろに、今度は信志が乗る。
「気に入ったか?」
「はい。」
そして信志は、黄杏を囲むように、手綱を引いた。
「出発!」
忠仁の一声で、また一行は動き始めた。
「それにしても、君のような女は、初めて見たよ。」
信志は、顔を押さえながら、笑いを堪えている。
「いけませんでしたか?」
「いけなくはないが。馬は人を見るからな。」
黄杏は、チラッと馬を見た。
白馬は、何の抵抗もなく、自分を乗せている。
「この白馬に乗せた方は、他にいらっしゃるんですか?」
「乗せた女は、君しかいない。そうだな、白蓮の事は気に入ったようだが、あの者は馬に乗るのを、嫌がってね。」
黄杏は、“白蓮”と言う名前が、気になった。
「白蓮……様と言うのは?」
「ああ。白蓮は、私の正后だ。」
「正后!?」
黄杏は驚いて、反対側を見た。
「そなたには、まだ話していなかったな。許せ。」
「いえ……」
まさか、一人も妃がいないとは思っていなかったが、恋に落ちた相手に、正妻がいるとは。
黄杏は、胸が締め付けられた。
「白蓮は遠縁の者で、生まれた時から、私の妃になる事が決まっていた。随分小さい時に、私の元へ嫁いできてね。一緒に育ったものだから、幼馴染みと言うか、友人みたいなものだよ。」
「友人……」
生まれた時から、結婚する人が決まっている人生。
それだけでも複雑だと言うのに、あまりにも小さい頃から一緒にいる為に、友人と言われて。
黄杏は、嫉妬したくても嫉妬できない、複雑な想いを抱えた。
「他には?どのようなお妃様が?」
「ああ。第2妃は、青蘭と言うのだ。」
「青蘭……様……」
だが信志の表情からは、微笑みが消えた。
「青蘭は、敵国の姫だったんだ。宮殿を攻め落とした時にね。父である王は死に、皇太子であった兄を、火の海の中、探していたんだ。」
思わず黄杏は、口許を手で覆った。
「それが何とも、痛ましくてね。国へ連れて帰った。もちろん、略奪だとかそんな事ではない。どこか儚げだった青蘭を、私は……」
そこで信志は、言葉に詰まってしまった。
「愛しているのですね、青蘭様の事を。」
本心をつかれて、信志は項垂れた。
「すまない。」
「どうして、謝るのですか。今まで一度も愛した人はいないなんて、そんな王でしたら、私は惚れたりなどしませんでした。」
顔を上げた信志は、微笑みながら、黄杏の髪を撫でた。
「他には?」
「ははは、他にか。実はもう一人いる。」
「もう一人だけですか?」
「ああ、一人だ。紅梅と言ってな。あの忠仁の娘だ。」
「忠仁殿の?」
二人で後ろを振り返ると、忠仁は気むずかしい顔をしている。
「ふふふ……」
「はははっ!」
黄杏は、信志と笑い合っていると、嫌な思いなど消えていった。
「どのような方なのですか?」
「紅梅か。紅梅は、とにかく明るい。黄杏に負けないくらい、元気がある。」
「私に負けないくらいですか?」
「ああ。もしかしたら、紅梅と黄杏は、仲良くやっていけるかもな。」
元気があるからと言う理由で、仲良くなれると言われても、まだあった事がないのに、想像もできない。
「紅梅は、私の妃になる前は、女隊の隊長をやっていたのだ。」
「女隊?女隊って、何ですか?」
聞いた事もない名前に、黄杏は難しい顔をした。
「女隊と言うのはな。我らが戦いに出ている時、宮殿を守る女達の事だ。」
「女達が、宮殿を守るのですか?」
黄杏は、王を見上げた。
「ああ。男達は皆、宮殿の外に行くからね。」
黄杏が見た王は、まるでそれが当たり前のような、表情をしていた。
「……勇ましい、女達なのですね。」
「そうだな。」
生まれ育ったのは、争い事とか戦い事には、一切関係ない村だった。
黄杏は、胸に不安を抱いたが、まだ自分に襲ってくる事など、微塵も分からないでいた。
それから一週間後。
黄杏を連れた信寧王の一行が、宮殿に辿り着いた。
「ここが……宮殿……」
赤を基調に、青、黄、緑に塗られた壁。
そして、豪華に施された黄金の装飾。
「凄いだろう?」
隣に、信志がやってきた。
「私の先祖が、建国の際建てたのだ。それから、代々の王が改築を重ね、今でも建立当初の姿を保っているんだ。」
「へえ……」
黄杏は、そっと信志を見た。
村での信志は、確かに精悍で、誠実で、洗練された雰囲気がしていて、だがそれは、都の中でも上流階級の家で育ったからなのだと、思っていた。
そして今は、それが少し違って感じる。
都の上流階級なんて、とんでもない。
信志は紛れもなく、この国を作った一族であり、この国で唯一無二の人なのだ。
「どうした?」
その人が、自分に優しく微笑んでくれる。
「……いいえ。」
それだけで黄杏の胸は、嬉しさにうち震えた。
そんな二人の後ろへ、忠仁が膝を着いた。
「黄杏様。あなた様のお部屋を、案内させます。」
「私の部屋?」
「王の妃になられる方には、お一人ずつお部屋が、与えられるのです。」
「はぁ……」
実家では、女一人だったから、まだ一人部屋だったが、男兄弟は、兄の将拓が学校に通う為に、家を出るまでは、二人とも同じ部屋で過ごした。
まさか、何人もお妃がいる中で、一人部屋を与えられるなんて、田舎の村から出てきた黄杏には、その意味すら分からなかった。
案内されたのは、宮殿の奥にある、北側の屋敷だった。
綺麗な白壁の建物が、いくつもいくつも並んでいた。
その中で、一際大きくて、真っ白い建物が、一番奥にあった。
「あれは?」
黄杏は、忠仁に尋ねた。
「ああ。あれは、正后・白蓮様のお屋敷でございます。」
宮殿に着いた途端、あれだけ指図してきた忠仁は、すっかり家来みたいな、お言葉使いになっていた。
「そして、こちらの右手が、第2妃の青蘭様。こちらの左手が、紅梅様の屋敷でございます。」
自分の娘である、紅梅にでさえ、丁寧な物の言い方だ。
「さあ、着きました。こちらが黄杏様の、お屋敷でございます。」
それは、紅梅の屋敷の南隣だった。
扉が開かれ中には、贅沢な調度品がたくさん置かれていた。
「これは……」
「新しいお妃様へと、皆で集めた一級品でございます。」
奥の部屋には、これまた豪華絢爛な寝台が、置かれている。
「二つも、部屋があるのね。」
「はい。」
黄杏は、寝台に敷かれた、柔らかい布団に触った。
「凄い豪華……これから、ここで過ごしていくのね。」
黄杏は、ため息混じりに、部屋を見渡す。
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