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第1章 小さな命の対価
③
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するとその人も、車を降りた。
「紗香ちゃん!」
やばい。
私は必死に逃げようと、背中を向けた。
「ごめん!もうあんな事、しないからさ!」
無視して歩き続ける。
「なあ、車に戻れよ。ここから歩いて帰るなんて、無理だぜ?」
私は急に立ち止まって、相手を見た。
「周りのヤツラもジロジロ見てくるし……恥ずかしいから、さあ、早く……」
仕方ないという顔をして、私はもう一度車に戻った。
車のエンジンをかけて、その人はため息をつく。
「参ったな……てっきり大人しい子だと思っていたのに。」
だから簡単に、できると思ってたわけだ。
「君みたいな子、初めてだよ。」
ここまでくると、もう私のペース。
相手は次も会いたくて、お金を置いていく。
私は柊子みたいに、体は売らない。
でもしっかりお金は稼ぐ。
だから一度会った人とは、二度と会わない。
その時の私は、変なルールに囚われていたんだ。
今日は日曜日。
柊子と街に出かけた。
「紗香、その服かわいい!」
柊子が私の袖を引っ張った。
「そう?バイト代で買ったんだ。」
「うんうん。似合う似合う!」
話をするだけで、1万円貰えるという浅はかなアルバイトをしているせいか、男の人から貰ったお金は、ほとんどが洋服代か、外食代に消えてきた。
柊子と街の中を歩いていると、ある店のショーウィンドウに、目が止まった。
有名なスポーツメーカーのシューズ。
”より早く走る”為には、個人の努力が必要だけど、頼りになる”道具”も不可欠だ。
「ああ…このシューズ?」
一緒に長距離を走る柊子は、こういうところも解ってくれる。
「最新の型でしょ?いいよ、このシューズは。踵の部分は柔らかいし、脇もしっかりしてるから、いくら走っても安定するし。」
「……柊子、持ってるの?」
「持ってるよ。ただ高いから、大会前後の時しか履かないけど。」
私のは、高校に入学する時に買ってもらったモノで、毎日の練習でボロボロだ。
【29,800円】
私はぎゅうっと、手を握り締めた。
その時、カランカランと音が鳴り響いた。
「ありがとうございました。」
お店の人に、丁寧に頭を下げられて、中から出てきたのは、あの統吾君だった。
「あれ?岩崎と松川?」
統吾君は、すぐに私達に気付いた。
「大宮君!こんなところで会うなんて、偶然だね。」
そんな事を言いながら、柊子は私の体を肘で突く。
「買い物?」
私は統吾君の手にある、袋を指差した。
「うん……実は二人を見習って、走り始めようかなあって思って。」
「へえ~いいじゃない!」
柊子は興奮気味だ。
「まずは形から入ろうと思って、買っちゃったよ。」
統吾君が袋の中を見せてくれた。
私はそれを見て、固まった。
あのシューズだったからだ。
「あ……さすが大宮君。いい物選んだね。」
柊子は私に気を使いながら、そう一言。
「行こう、柊子。」
私は、一時でも早くその場を、離れたかった。
「あっ、待ってよ。紗香!」
柊子は統吾君に挨拶しながら、こっちに走ってきた。
私が走る為に必要な物を、統吾君は趣味で買える。
自分が酷く惨めに思えた。
その一方で、毎日毎日繰り返される、部活のハードな練習。
走り終わって足元を見ると、その度にショーウィンドウに飾ってあったシューズと、今履いているシューズを比べてしまう。
私は頭を振ると、タオルを置いてある場所に移動した。
その近くでは、女子と男子のマネージャー同士が、こそこそと話をしていた。
「なあ。今度の大会、誰が出ると思う?」
「意外に松川とか選ばれるかもよ?」
「松川?岩崎じゃなくて?」
「ああ。確かに岩崎も速いけど、ムラがあるし……その点松川は、いつ走っても安定している。」
私はその言葉に、全身が重くなった気がした。
柊子の方が信頼されている。
安定……
あんてい……
アンテイ……
やけにその言葉だけが、頭の中で繰り返された。
「紗香ちゃん!」
やばい。
私は必死に逃げようと、背中を向けた。
「ごめん!もうあんな事、しないからさ!」
無視して歩き続ける。
「なあ、車に戻れよ。ここから歩いて帰るなんて、無理だぜ?」
私は急に立ち止まって、相手を見た。
「周りのヤツラもジロジロ見てくるし……恥ずかしいから、さあ、早く……」
仕方ないという顔をして、私はもう一度車に戻った。
車のエンジンをかけて、その人はため息をつく。
「参ったな……てっきり大人しい子だと思っていたのに。」
だから簡単に、できると思ってたわけだ。
「君みたいな子、初めてだよ。」
ここまでくると、もう私のペース。
相手は次も会いたくて、お金を置いていく。
私は柊子みたいに、体は売らない。
でもしっかりお金は稼ぐ。
だから一度会った人とは、二度と会わない。
その時の私は、変なルールに囚われていたんだ。
今日は日曜日。
柊子と街に出かけた。
「紗香、その服かわいい!」
柊子が私の袖を引っ張った。
「そう?バイト代で買ったんだ。」
「うんうん。似合う似合う!」
話をするだけで、1万円貰えるという浅はかなアルバイトをしているせいか、男の人から貰ったお金は、ほとんどが洋服代か、外食代に消えてきた。
柊子と街の中を歩いていると、ある店のショーウィンドウに、目が止まった。
有名なスポーツメーカーのシューズ。
”より早く走る”為には、個人の努力が必要だけど、頼りになる”道具”も不可欠だ。
「ああ…このシューズ?」
一緒に長距離を走る柊子は、こういうところも解ってくれる。
「最新の型でしょ?いいよ、このシューズは。踵の部分は柔らかいし、脇もしっかりしてるから、いくら走っても安定するし。」
「……柊子、持ってるの?」
「持ってるよ。ただ高いから、大会前後の時しか履かないけど。」
私のは、高校に入学する時に買ってもらったモノで、毎日の練習でボロボロだ。
【29,800円】
私はぎゅうっと、手を握り締めた。
その時、カランカランと音が鳴り響いた。
「ありがとうございました。」
お店の人に、丁寧に頭を下げられて、中から出てきたのは、あの統吾君だった。
「あれ?岩崎と松川?」
統吾君は、すぐに私達に気付いた。
「大宮君!こんなところで会うなんて、偶然だね。」
そんな事を言いながら、柊子は私の体を肘で突く。
「買い物?」
私は統吾君の手にある、袋を指差した。
「うん……実は二人を見習って、走り始めようかなあって思って。」
「へえ~いいじゃない!」
柊子は興奮気味だ。
「まずは形から入ろうと思って、買っちゃったよ。」
統吾君が袋の中を見せてくれた。
私はそれを見て、固まった。
あのシューズだったからだ。
「あ……さすが大宮君。いい物選んだね。」
柊子は私に気を使いながら、そう一言。
「行こう、柊子。」
私は、一時でも早くその場を、離れたかった。
「あっ、待ってよ。紗香!」
柊子は統吾君に挨拶しながら、こっちに走ってきた。
私が走る為に必要な物を、統吾君は趣味で買える。
自分が酷く惨めに思えた。
その一方で、毎日毎日繰り返される、部活のハードな練習。
走り終わって足元を見ると、その度にショーウィンドウに飾ってあったシューズと、今履いているシューズを比べてしまう。
私は頭を振ると、タオルを置いてある場所に移動した。
その近くでは、女子と男子のマネージャー同士が、こそこそと話をしていた。
「なあ。今度の大会、誰が出ると思う?」
「意外に松川とか選ばれるかもよ?」
「松川?岩崎じゃなくて?」
「ああ。確かに岩崎も速いけど、ムラがあるし……その点松川は、いつ走っても安定している。」
私はその言葉に、全身が重くなった気がした。
柊子の方が信頼されている。
安定……
あんてい……
アンテイ……
やけにその言葉だけが、頭の中で繰り返された。
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