【R18】愛人契約

日下奈緒

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第4章 真実

《後》

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三宅先輩も、口をあんぐり開けていた。

先輩でさえも、そういう一面を知らなかったのだ。


「……そう言う事だったら、探してみるわ。」

「ありがとうございます。」

私はまた、先輩に頭を下げた。

あんなにいい人を紹介してもらったのに、1カ月もしないうちに、他の人を探してくれだなんて。

調子に乗り過ぎてるって、自分でも思っている。


「でも、いいの?本当に?」

三宅先輩のその質問が、私の心を揺さぶる。

「いいんです。あの人とは、縁がなかったんです。」

「日満理……」


三宅先輩は何とか留まるように言ってくれたけれど、私の気持ちは決まっていた。

私は、母親を許さない。

その相手も許さない。

それだけ。


先輩は、はぁっとため息をついた。

「先輩だって、恋愛感情が入ったら、上手くいかないって言ってたじゃないですか。」

「それは、どちらか一方だけの時よ。」

「えっ……」

私は顔を歪ませた。


「どちらかだけが恋に落ちたら、もう片方が重荷になる。でも、あなた達は違うじゃない。」

私はパーティーの時の、本田さんを思い出していた。

優しくて、紳士的で、頼りになって……

でも、そんな本田さんだからこそ、今後も母を捨てる事は、できないと思う。


「あの人には、私よりも相応しい人がいるんです。」

「どう言う事?」

「時間が経ったら、お話します。」

私はそう言って、その席を立ち上がった。


その日の内に、本田さんに契約解除を申し出た。

『え?何だって?』

「だから、契約解除です。」

本田さんは、突然の事に少し戸惑っているようだった。


『あの女か。』

どうやら本田さんは、母が家に来た事を知っているらしい。

『あの女とは、何でもないんだ。』

「でも、別れられないのでしょう?」

本田さんは黙っている。


彼は優しい。

家庭を捨ててまで、自分を選んでくれた女を、捨てる事なんてできないのだ。


『考えなおしてくれ。』

「散々悩んで、出した答えです。」

私はそう言って、電話を切った。

これでいいのだ。

私達を裏切った母親と、同じ男を共有するなんて、絶対に有り得ないから。



しばらくして会社の目の前に、本田さんの車が停まっているのが見えた。

きっと、私と直接話をしたいのだろう。

でも、話す事はない。

だってもう、契約は終わったのだから。


私は会社の裏口から、出ようとした。

その瞬間だった。

誰かに腕を捕まえられた。


「先輩……」

それは、三宅先輩だった。

「いいの?彼、迎えに来てくれているわよ。」

私は黙って俯いた。

「一度、話をするべきよ。」

「話なんてそんな……何を言うんですか?」


あなたの一番大切にしている女性は、私の母親だって?

そんな事、言えない。


「だったら、正々堂々と表から出るべきよ。裏から出るなんて、卑怯だわ。」

三宅先輩はそう言って、私の腕を放した。

「分かりました。」

私は一度深く頷いて、表から外に出た。

案の定、車の窓が開く。


「日満理……」

私の名前を呼ぶ、切ない声。

「お願いだ。もう一度だけ、話をさせてくれないか?」

「お話する事は、何もありません。」

私は本田さんに一礼をして、歩き始めた。


「日満理!」

車のドアが開いて、本田さんが私を追いかけて来てくれた。

「待ってくれ、待ってくれ!」

私は足を止めた。

後ろから、息を切らしている音がした。

「本当に、これで終わりなのか?」

私の目から、涙が零れた。


どうして、こんな時に涙が出るんだろう。

これじゃあ、振り返れない。


「日満理?」

本田さんは、私をそっと後ろに振り向かせた。

「やっぱり、泣いてるじゃないか。」

「だって……」

その瞬間、私は本田さんに抱き締められていた。


「本田さん、私達はもう……」

「ダメだ。」

「それじゃあ、契約に違反します。」

「だったら、どうしたらいい?」


どうしたら?

その答えは、一つだ。


「……あの女と、別れて下さい。」

「あの女?」

「いるんでしょう?ずっと側にいる女が。」

本田さんは、私を引き離した。

「どうしてあの女に、そこまでこだわる?」

息が止まった。

「あの女は、無視すればいい。ただ隣にいるだけだ。」

私は、首を激しく横に振った。


「それこそ、駄目よ。」

「どうして!」

「あの女は、私の母親だからよ!」

「えっ……」

本田さんの顔色が、見る見るうちに青くなっていった。

「日満理が……真依さんの娘?」

そのうちよろよろと、本田さんは壁に手を着いた。


「知らなかったのでしょう?」

「ああ……」

もう片方の手で、顔を覆ったその隙間から、本田さんの涙が見えた。

泣いているの?

自分がしてしまった罪の重さに。

それとも。


私達が出会ってしまった運命に……


「これで分かったはずよ。」

「日満理!待ってくれ!」

本田さんが止めるのも聞かず、私は自分の道を、歩き出した。

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