社長とは恋愛しません!

日下奈緒

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第1章 仕事とプライベートは分けたいだけ

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それから私は、社長に仕事中は、付きっきりだった。

「次の仕事は?」

「営業部の部長達と、会議です。」

代表取締役に就任したばかりの社長は、大忙しだ。


「それから、今夜は日向社長との夕食会が入っています。」

「日向社長って?」

「事務用品のペリーズの社長です。」

夕食会の相手をリサーチするのも、秘書の役目だ。

「君は来ないのか。」

私は迷った。

確かに、夕食会は仕事だ。

「……残業代が出るのであれば。」

「出さなきゃ、労働基準監督署に言われるだろう。」

「では、行きます。」


本当は遅い時間まで、この社長と一緒にはいたくないんだけど。


高身長で、イケメン。そして社長。

ハイスペックなこの人に、一瞬でもドキッとした自分が、愚かに思う。

7歳も年下だと言うのに、有り得ない。


そして私は、二度と”社長”とは、恋愛しないと決めたのだ。

そして、夕方になり日向社長との夕食会に向かう。

「日向社長は、お一人で来るのでしょうか。」

参考までに、聞いてみる。

「初めて会うのだから、分からないな。」

全く参考にならない。


日向社長とは、繋がりがあるのかと思えば、ないらしい。

これは、日向社長に仕組まれたな。そう思った。

きっと、営業かけられるな。

そう思わずにはいられなかった。


お店の前に着いて、タクシーを降りたら、日向社長が立っていた。

「真田社長。初めまして、日向です。」

相手は、50過ぎのおじさんなのに、20代半ばの社長に、頭を下げている。

「初めまして。真田です。」

心配したけれど、社長も深々と頭を下げた。

どうやら、礼儀はしっているみたい。

「では、こちらへ。」

「はい。」

ちらっと見たけれど、日向社長も秘書を連れて来たみたい。

「こんばんは。」

その秘書の方に、挨拶をされた。

「初めましてですよね。真田の秘書の依田と申します。」

「砂川です。宜しくお願いします。」

眼鏡をかけて、知的な感じ。

私と同じくらいの世代かな。

さすがは日向社長。若手の育成にも頑張っているんだ。


「どうぞ、こちらのお部屋です。」

「ありがとうございます。」

見て見ると、食事の用意は二人分だけだった。

それを見て、私と砂川さんは、部屋に入らずに廊下に座った。

ふと砂川さんと目が合う。

ニコッと笑った砂川さんに、私も微笑み返す。


「どうです?私達も、別室でお食事でも。」

「えっ……」

「さあ、遠慮せずに。」

砂川さんに腕を掴まれ、無理矢理立たされた。

「あの……すみません。私……」

一瞬、社長を見たけれど、今は日向社長との話に夢中だ。


その瞬間、砂川さんに抱き寄せられた。

「あなただって、大人でしょう。こういう場所に来て、分かっていますよね。」

何!?こういう場所って、どんな場所よおおおお!


その時だった。

砂川さんが、私から離れた。

「俺の秘書に、不埒な事はしないでもらいたい。」

見ると、社長が砂川さんの襟を引っ張っていた。

社長‼相手は明らかに、自分よりも年上の人ですよ!

「すみません。」

大人の砂川さんは、素直に謝る。

だけど、社長はそんな砂川さんを睨みつけた。

「謝れば済むって問題じゃないでしょ。」


社長、私の為に怒ってくれている。

「まあまあ、真田社長。落ち着いて。」

事態を重く見た日向社長は、間に入った。

「申し訳ない。ウチの秘書がバカな事をして。」

日向社長も、砂川さんも頭を下げている。

「今後、気を付けて下さい。」

「分かった。」

そして、日向社長は砂川さんを、怒りに行った。

「社長、ありがとうございます。」

まさか、年上の人相手に、ここまでするとは思っていなかった。

「いいんだよ。社員を守るのは、社長の仕事だからな。」

その柔らかい笑顔に、キュンとした。


「……社長、毅然としていて、カッコよかったです。」

「本当?ほら俺、チャラく見られるから、よかった。」

私は社長に、はにかんだ笑顔を見せた。

「何それ、反則。」

「えっ?」

その時、日向社長が戻って来た。

「申し訳ない。どうもイイ女を見ると、直ぐ口説く癖があって。よく叱っておきましたから。」

イイ女と言われれば、私も怒りようがない。

上手いな。やっぱり社長と言われる人は。

「どうかな。お詫びに、一緒に食事でも。」

私と社長は、顔を見合わせて笑った。
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