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第3章 妻の嫉妬
①
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艶やかな公達に出会ってから、二週間が過ぎた。
もう女は捨てた依楼葉。
あの公達には、もう二度と会えないと分かっていても、ふとした時に依楼葉は、あの公達を思い出してしまう。
「春の君様はこの頃、一段と艶めかしくお成りになったような。」
宮中の女房達は、初めての恋に悩む依楼葉を、余計にはやし立てた。
「もしかして、新しい恋人が、お出来になったのでは……」
「それって、私のこと?」
「何を言っているのよ。私の事よ。」
依楼葉の知らない間に、女房達は盛り上がるのだった。
その様子を依楼葉は、宮中に出仕する度に、感じ取っていた。
「何だか女房達が、前よりも騒がわしくなっている気がするのですが……」
「ははは。最近春の中納言は、艶めかしいと評判だからな。」
「艶めかしい?私がですか?」
父は、依楼葉をチラッとみた。
「ああ……恋でもしているのかと、専らの噂だよ。」
恋……
その言葉に、依楼葉は悩ましげな表情を見せる。
「おやおや。中納言は、本当に恋をしているようだ。」
側にいるのが父であるから、隠さずに認めればよいのだが、何分男の成りをしている今では、余計な心配をかけるだけだ。
「中納言。そなたは今、藤原咲哉になっているけれど。」
父は、依楼葉の背中に、そっと手を当てた。
「元の成りの幸せを掴めるのであれば、中納言を辞めてもいいのだよ。」
「父上様……」
父は、少しだけ微笑んだ。
「これは父としての、一つの意見だ。決めるのはあくまで、そなた自身。」
「はい。」
こうして父は、咲哉に扮する依楼葉に、春が訪れている事を知ったのだ。
恋を知った春の中納言の噂は、その艶めかしさと一緒に、瞬く間に宮中を駆け巡った。
もちろん、右大臣・藤原武徳の耳にも入り、それは人から人へ伝わり、遂には厄介人まで、届いてしまった。
藤原咲哉の妻・桃花である。
どことなく夫婦の時間を避けていた依楼葉だが、2週間も訪れないとなると、人はあらぬ疑いを口にするようになる。
依楼葉は、初めて西の対に、足を踏み入れた。
「お勤め、ご苦労様でございました。」
「ああ。」
それとなく、畳の上に座る依楼葉。
この場所であっているかも、分からない。
「今日は、如何でしたか?」
「ああ……女房達が変に騒ぎ立てるので、疲れてしまったよ。」
依楼葉は、肩を自分で叩いた。
それを見た桃花は、依楼葉の後ろに回る。
「背の君様、私が肩を揉んで差し上げましょう。」
「……すまぬ。」
肩を揉み始めた桃花は、依楼葉の耳元で囁いた。
「背の君様が、女房達の事を口にするなんて、初めてですね。」
「えっ?」
依楼葉は、息を飲んだ。
あれ程、女房達に騒がれていたと言うのに、咲哉は妻に、一言を告げてはいなかったのか。
まずい事をした。
依楼葉は、そっと桃花の手に、自分の手を重ねた。
もう女は捨てた依楼葉。
あの公達には、もう二度と会えないと分かっていても、ふとした時に依楼葉は、あの公達を思い出してしまう。
「春の君様はこの頃、一段と艶めかしくお成りになったような。」
宮中の女房達は、初めての恋に悩む依楼葉を、余計にはやし立てた。
「もしかして、新しい恋人が、お出来になったのでは……」
「それって、私のこと?」
「何を言っているのよ。私の事よ。」
依楼葉の知らない間に、女房達は盛り上がるのだった。
その様子を依楼葉は、宮中に出仕する度に、感じ取っていた。
「何だか女房達が、前よりも騒がわしくなっている気がするのですが……」
「ははは。最近春の中納言は、艶めかしいと評判だからな。」
「艶めかしい?私がですか?」
父は、依楼葉をチラッとみた。
「ああ……恋でもしているのかと、専らの噂だよ。」
恋……
その言葉に、依楼葉は悩ましげな表情を見せる。
「おやおや。中納言は、本当に恋をしているようだ。」
側にいるのが父であるから、隠さずに認めればよいのだが、何分男の成りをしている今では、余計な心配をかけるだけだ。
「中納言。そなたは今、藤原咲哉になっているけれど。」
父は、依楼葉の背中に、そっと手を当てた。
「元の成りの幸せを掴めるのであれば、中納言を辞めてもいいのだよ。」
「父上様……」
父は、少しだけ微笑んだ。
「これは父としての、一つの意見だ。決めるのはあくまで、そなた自身。」
「はい。」
こうして父は、咲哉に扮する依楼葉に、春が訪れている事を知ったのだ。
恋を知った春の中納言の噂は、その艶めかしさと一緒に、瞬く間に宮中を駆け巡った。
もちろん、右大臣・藤原武徳の耳にも入り、それは人から人へ伝わり、遂には厄介人まで、届いてしまった。
藤原咲哉の妻・桃花である。
どことなく夫婦の時間を避けていた依楼葉だが、2週間も訪れないとなると、人はあらぬ疑いを口にするようになる。
依楼葉は、初めて西の対に、足を踏み入れた。
「お勤め、ご苦労様でございました。」
「ああ。」
それとなく、畳の上に座る依楼葉。
この場所であっているかも、分からない。
「今日は、如何でしたか?」
「ああ……女房達が変に騒ぎ立てるので、疲れてしまったよ。」
依楼葉は、肩を自分で叩いた。
それを見た桃花は、依楼葉の後ろに回る。
「背の君様、私が肩を揉んで差し上げましょう。」
「……すまぬ。」
肩を揉み始めた桃花は、依楼葉の耳元で囁いた。
「背の君様が、女房達の事を口にするなんて、初めてですね。」
「えっ?」
依楼葉は、息を飲んだ。
あれ程、女房達に騒がれていたと言うのに、咲哉は妻に、一言を告げてはいなかったのか。
まずい事をした。
依楼葉は、そっと桃花の手に、自分の手を重ねた。
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