桜の下で会いましょう

日下奈緒

文字の大きさ
上 下
9 / 74
第3章 妻の嫉妬

しおりを挟む
艶やかな公達に出会ってから、二週間が過ぎた。

もう女は捨てた依楼葉。

あの公達には、もう二度と会えないと分かっていても、ふとした時に依楼葉は、あの公達を思い出してしまう。


「春の君様はこの頃、一段と艶めかしくお成りになったような。」

宮中の女房達は、初めての恋に悩む依楼葉を、余計にはやし立てた。

「もしかして、新しい恋人が、お出来になったのでは……」

「それって、私のこと?」

「何を言っているのよ。私の事よ。」

依楼葉の知らない間に、女房達は盛り上がるのだった。


その様子を依楼葉は、宮中に出仕する度に、感じ取っていた。

「何だか女房達が、前よりも騒がわしくなっている気がするのですが……」

「ははは。最近春の中納言は、艶めかしいと評判だからな。」

「艶めかしい?私がですか?」

父は、依楼葉をチラッとみた。

「ああ……恋でもしているのかと、専らの噂だよ。」


恋……

その言葉に、依楼葉は悩ましげな表情を見せる。


「おやおや。中納言は、本当に恋をしているようだ。」

側にいるのが父であるから、隠さずに認めればよいのだが、何分男の成りをしている今では、余計な心配をかけるだけだ。

「中納言。そなたは今、藤原咲哉になっているけれど。」

父は、依楼葉の背中に、そっと手を当てた。

「元の成りの幸せを掴めるのであれば、中納言を辞めてもいいのだよ。」

「父上様……」

父は、少しだけ微笑んだ。

「これは父としての、一つの意見だ。決めるのはあくまで、そなた自身。」

「はい。」

こうして父は、咲哉に扮する依楼葉に、春が訪れている事を知ったのだ。


恋を知った春の中納言の噂は、その艶めかしさと一緒に、瞬く間に宮中を駆け巡った。

もちろん、右大臣・藤原武徳の耳にも入り、それは人から人へ伝わり、遂には厄介人まで、届いてしまった。


藤原咲哉の妻・桃花である。


どことなく夫婦の時間を避けていた依楼葉だが、2週間も訪れないとなると、人はあらぬ疑いを口にするようになる。

依楼葉は、初めて西の対に、足を踏み入れた。


「お勤め、ご苦労様でございました。」

「ああ。」

それとなく、畳の上に座る依楼葉。

この場所であっているかも、分からない。

「今日は、如何でしたか?」

「ああ……女房達が変に騒ぎ立てるので、疲れてしまったよ。」

依楼葉は、肩を自分で叩いた。

それを見た桃花は、依楼葉の後ろに回る。

「背の君様、私が肩を揉んで差し上げましょう。」

「……すまぬ。」

肩を揉み始めた桃花は、依楼葉の耳元で囁いた。


「背の君様が、女房達の事を口にするなんて、初めてですね。」

「えっ?」

依楼葉は、息を飲んだ。

あれ程、女房達に騒がれていたと言うのに、咲哉は妻に、一言を告げてはいなかったのか。

まずい事をした。

依楼葉は、そっと桃花の手に、自分の手を重ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」  祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。  こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。  あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。   ※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...