私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした

日下奈緒

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すれ違う心と体

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「なんかさ、一課の課長。青川君の方がよかったんじゃない?」

「しっ!」

三田主任と木元主任が、ヒソヒソと話をする。

「浅見。その案件は俺が見る。次の案件から君がやれ。」

「はい。」

「神崎係長は、自分の仕事に戻って。」

「すみません。お役に立てなくて。」

悔しいけれど、今は結城部長の言葉に従うしかない。

「青川も二課の承認待ちをやれ。溜まってるぞ。」

「はい。」

青川君は自分の席に戻ると、また悩んでいる。

「青川君、悩むのなら思い切って、二課のメンバーに聞いてみれば?」

すると青川君は、自分のメモ帳をペラペラめくり始めた。

「僕は昇進したばかりです。今は部下に頼っていられません。」

それを聞いた湯沢君は、お手上げのポーズ。

そんな事言ってられないのにいいい!

「あれ?青川課長?」

原田君が青川君に、話しかけている。

「どうしました?」

「さっきから承認案件が、営業部から戻されてるんですけど。」

「どの案件が?」

「どの案件と言うか、さっきから承認した案件、全部……」

私は立ち上がって、青川君の席に行った。

「内容は全部確認して、承認ボタン押しているのよね。」

「はい。」

「何でなんだろう。」

私がもう一度案件を開くと、取引先の希望額と予算額の差が開きすぎている。

「……青川君。これ予算額の相違、あり過ぎない?」

「100万単位なら、OKじゃないですか?」

私は言葉を失った。

「私は、50万までなら大丈夫って、教えたつもりだけど。」

「それでは、いい企画は通せません。」

完全に、私のやり方とすれ違っている。

しかも、青川君。一課の感覚でモノを見ている。

「青川君。ちょっといい?」

「はい。」

私は窓際に、青川君を呼んだ。

「二課の案件の取引先は、中小企業が多いのよ。それこそ予算が10万違うだけで、営業が契約を取れない時だってあるわ。」

「予算がない中での企画って事ですか。」

「もちろん、予算がない場合でも、精いっぱい取引先の希望に添える事が、大事なのよ。」

青川君は、はぁーっとため息をついた。


「やっぱり一課と二課の課長、チェンジした方がよくない?」

皆の声が聞こえてくる。

「大変です。」

原田君が、私達の元へやってきた。

「承認待ち案件、爆発しています。」

「えっ?」

「一課は2ページ、二課は4ページもあります。」

そして柊真が、やってきた。

「浅見、おまえは二課の承認待ちをやれ。」

「えっ?じゃあ、一課の承認待ちは……」

「俺がやる。青川は……」

青川君は、柊真の顔色を伺っている。

「浅見のやり方、間近で見て覚えろ。」

「ですがっ!」

青川君が一歩前に出ると、柊真が彼の肩を掴んだ。

「おまえはもう、一課じゃない!二課の係長なんだぞ!」

青川君が言葉を失う。

「いつまでも一課の感覚でいたら、二課の取引先を失うかもしれない。それでいいのか?」

青川君の辛さが分かってくる。

私でさえ予算額の大小に、こんなにも戸惑うなんて思いもしなかった。


「と、言いますか。浅見課長だって、二課の感覚で一課の案件を取り扱っているではないですか。」

「えっ……」

「一課の取引先こそ、浅見課長のやり方では失いかねません!」

胸にグサッときた。

「あのなぁ。青川。」

柊真が青川君の目の前に立つ。

「浅見にはそんな事させないよ。何故なら、俺が傍にいるから。」

青川君はそれを聞くと、自分の席に戻って行った。

「青川君……」

「浅見。放っておけ。」

「でもっ!」

こんなの、いい仕事ができる環境じゃないよ。

「青川君にだって、私が付いてるわよ。」

「浅見……」

「どうして?今まで上手く、皆支え合ってたじゃない!」

こんなギクシャクした雰囲気、もう嫌だよ。

「前の部長がいてくれたら、こんな風にならなかったのに。」

私はうつむいて、自分の席に戻った。

分かってる。柊真のせいじゃないって事くらい。
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