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今更あいつと
①
しおりを挟む翌日は有給で休んだ。
― 俺が結婚するから -
結城のあの言葉を思い出す度に、体に微熱がこもる。
「こんな状態で、どうやって仕事するのよ。」
私は微熱を持て余して、ベットで何度も寝返りを打った。
池崎さんからの連絡は、途絶えた。
たぶん相手も、私とでは体の相性が合わないのを、知っているのだと思う。
あんなに意気投合したのに、結果はこんなものだ。
「どうしよう。映画でも見に行こうかな。」
今日平日だし、午後早い時間だったら、映画一人で行ってもおかしくないかも。
その時、スマホが鳴った。
「えっ?結城から?」
昨日の今日で、あいつと会話するなんて。
結局電話に出れないまま、コール音は終わってしまった。
すると、今度はメールがきた。
【寝てるか。】
短い文章。そう言えば私が休みって事は、あいつが2課も見ているのだろうか。
あいつには、また迷惑かけた。
このまま無視するのは、失礼な気がした。
【寝てない。それこそ、今日は休んでごめん。】
返事は電話でやってきた。
「結城?」
「浅見。仕事なら気にするな。ゆっくり休め。」
「うん。」
あっ、この間。心地いいな。
「今からは何してるんだ?」
「ああ、申し訳ないけれど……映画でも見に行こうと思って。」
「映画?ちょっと待ってろ。俺も行くから。」
そこで電話は切れた。
「えっ?」
どういう事?俺も行くから?待ってろと言われても、あなた、今仕事中だよね。
頭の中にクエスチョンマークが飛ぶ。
何が何だか分からない。いつまで待てばいいのだろう。
そして15分後。
家のインターフォンが鳴った。
「誰だろう。」
ボタンを押すと、スーツ姿の結城が映し出された。
「結城……」
ドキドキしながら、玄関のドアを開けた。
「待たせてごめん。」
「いや、そんな15分くらいしか経ってないし。」
結城は家に入ると、リビングで上着を脱いだ。
「仕事はどうしたの?」
「午後、半休貰った。」
ネクタイを外して、ソファーに座る結城を見ると、彼が恋人なのではと錯覚に陥る。
「結城は、お昼食べた?」
「ああ、食べてないな。」
「簡単な物でいいなら、作るけど。」
「頼む。」
何気ない会話が、却って緊張を促す。
とは言っても、料理あまりしないから、ご飯を解凍してチャーハンを作った。
「はい、できたよ。」
チャーハンを二人分、テーブルに置く。
「頂きます。」
床にあぐらをかいて、スプーンを持ち、豪快にチャーハンを食べる。
シャツのボタンを一つ外した結城は、色気さえ漂っていた。
「うん、美味い。」
「ありがとう。」
男性に料理を作るのは、いつ振りだろう。
思わず食べてる姿を見てしまう私に、結城が気付く。
「ん?」
「ううん。チャーハンでよかった?」
「うん。俺、米好きだし。」
確かにチャーハン、美味しそうに食べている。
「あー、食った食った。ご馳走様でした。」
結城はちょこっと、頭を下げた。
その姿が微笑ましくて、首の後ろがこそばゆくなった。
「そう言えば、映画見るんだろう。」
「ああ……」
そんな話、してたもんね。
「何見る?今、何やってるのかな。映画。」
まるで前から付き合ってるような話しぶり。
「私、これ観たいな。」
それは、ちょっと昔の映画で。リバイバルで上映しているものだった。
同じく恋愛や仕事に悩んでいる主人公。
泣き笑いながら、本当の恋を見つけていく。
「いいね。じゃあ、行こうか。」
「先に行ってて。私、着替えて行くから。」
「ああ。」
結城が上着とカバンを持って、リビングから姿を消すと、私はスカートに履き替えて、ほんのり化粧をした。
結城相手に、スカートだなんて。
少し前の私なら、絶対考えない事だ。
バッグを持って家を出ると、鍵をかけ結城の車に向かった。
駐車場に行くと、結城は車の外で待っててくれた。
「結城。」
振り返った結城は、私の姿を見て表情を変えた。
「なに?」
「……いや、そのスカート。かわいいなと思って。」
「似合わない?」
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