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今更あいつと

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翌日は有給で休んだ。

― 俺が結婚するから -

結城のあの言葉を思い出す度に、体に微熱がこもる。

「こんな状態で、どうやって仕事するのよ。」

私は微熱を持て余して、ベットで何度も寝返りを打った。


池崎さんからの連絡は、途絶えた。

たぶん相手も、私とでは体の相性が合わないのを、知っているのだと思う。

あんなに意気投合したのに、結果はこんなものだ。


「どうしよう。映画でも見に行こうかな。」

今日平日だし、午後早い時間だったら、映画一人で行ってもおかしくないかも。

その時、スマホが鳴った。

「えっ?結城から?」

昨日の今日で、あいつと会話するなんて。

結局電話に出れないまま、コール音は終わってしまった。

すると、今度はメールがきた。

【寝てるか。】

短い文章。そう言えば私が休みって事は、あいつが2課も見ているのだろうか。

あいつには、また迷惑かけた。

このまま無視するのは、失礼な気がした。

【寝てない。それこそ、今日は休んでごめん。】

返事は電話でやってきた。

「結城?」

「浅見。仕事なら気にするな。ゆっくり休め。」

「うん。」

あっ、この間。心地いいな。

「今からは何してるんだ?」

「ああ、申し訳ないけれど……映画でも見に行こうと思って。」

「映画?ちょっと待ってろ。俺も行くから。」

そこで電話は切れた。

「えっ?」

どういう事?俺も行くから?待ってろと言われても、あなた、今仕事中だよね。

頭の中にクエスチョンマークが飛ぶ。

何が何だか分からない。いつまで待てばいいのだろう。

そして15分後。

家のインターフォンが鳴った。

「誰だろう。」

ボタンを押すと、スーツ姿の結城が映し出された。

「結城……」

ドキドキしながら、玄関のドアを開けた。

「待たせてごめん。」

「いや、そんな15分くらいしか経ってないし。」

結城は家に入ると、リビングで上着を脱いだ。

「仕事はどうしたの?」

「午後、半休貰った。」

ネクタイを外して、ソファーに座る結城を見ると、彼が恋人なのではと錯覚に陥る。

「結城は、お昼食べた?」

「ああ、食べてないな。」

「簡単な物でいいなら、作るけど。」

「頼む。」

何気ない会話が、却って緊張を促す。

とは言っても、料理あまりしないから、ご飯を解凍してチャーハンを作った。

「はい、できたよ。」

チャーハンを二人分、テーブルに置く。

「頂きます。」

床にあぐらをかいて、スプーンを持ち、豪快にチャーハンを食べる。

シャツのボタンを一つ外した結城は、色気さえ漂っていた。

「うん、美味い。」

「ありがとう。」

男性に料理を作るのは、いつ振りだろう。

思わず食べてる姿を見てしまう私に、結城が気付く。

「ん?」

「ううん。チャーハンでよかった?」

「うん。俺、米好きだし。」

確かにチャーハン、美味しそうに食べている。

「あー、食った食った。ご馳走様でした。」

結城はちょこっと、頭を下げた。

その姿が微笑ましくて、首の後ろがこそばゆくなった。


「そう言えば、映画見るんだろう。」

「ああ……」

そんな話、してたもんね。

「何見る?今、何やってるのかな。映画。」

まるで前から付き合ってるような話しぶり。

「私、これ観たいな。」

それは、ちょっと昔の映画で。リバイバルで上映しているものだった。

同じく恋愛や仕事に悩んでいる主人公。

泣き笑いながら、本当の恋を見つけていく。

「いいね。じゃあ、行こうか。」

「先に行ってて。私、着替えて行くから。」

「ああ。」

結城が上着とカバンを持って、リビングから姿を消すと、私はスカートに履き替えて、ほんのり化粧をした。

結城相手に、スカートだなんて。

少し前の私なら、絶対考えない事だ。

バッグを持って家を出ると、鍵をかけ結城の車に向かった。

駐車場に行くと、結城は車の外で待っててくれた。

「結城。」

振り返った結城は、私の姿を見て表情を変えた。

「なに?」

「……いや、そのスカート。かわいいなと思って。」

「似合わない?」
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