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生意気なあいつ

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「ありがとうございます!」

そして住前君も、普通に注文するし。

これじゃあ、私の立場がない。

「住前はどうして営業部を希望したの?」

「やっぱりストレートに、お客さん相手にしたかったからですかね。」

その時、私の隣に座っていた住前君の手が、私の手と重なった。

払えない。久しぶりに感じる手の温もり。

「どこまで行く気?」

「行けるとこまでですよ。」

「狙うは社長?」

「はははっ!結城さんが言うんですか!未来の社長である結城さんが。」

住前君は手を放さない。これは計画的に手を重ねている。

「俺は御曹司だからと言って、絶対に社長になれるとは思っていないよ。」

私は目が点になった。

「そうなの?」

企画部に来たのも、楽して社長になる為だと思ってた。

「実力が伴わないなら、社長になっても仕方ないだろ。」

「あくまで、実力で社長になりたいんですね。」

結城は何も言わずに、にっこりと笑った。


どうしよう。私は近くの壁を凝視した。

住前君の温もりが気になって、結城の話にノッてあげられない。

こんな大切な話してるのに!

その後も、結城の話は頭に入って来なかった。

だってずっと、手離してくれないんだもん。住前君。


「ああ、そろそろ時間ですね。」

乾杯から2時間が経ち、皆ほろ酔い気分。

「改めて課長昇進、おめでとう。」

「ありがとうございます!がんばります!」

男同士って、何かいいな。

私はほろ酔いに負けて、愚痴りたくなった。

「男はいいよね。仕事に生きるって感じで。」

「浅見も仕事に生きてるじゃないか。結婚諦めて。」

「えっ?結婚、諦めたんですか?」

住前君が引いている。

「違うわよ。勝手に結城が言ってるだけよ。」

「そうか?だから結婚もできない年下芸能人と付き合ってたんだろ。」

「年下芸能人!」

住前君、もっと引いてる。

「……なんかさ。そう言われるのって嫌なんだよね。別に結婚諦めてないし。年下彼氏も欲しいし。仕事も大事だし!」

そうだよ。恋愛も仕事も、結婚も子供も、全部諦めたくない!

「どうして女って言うだけで、結婚と仕事。どっちか諦めなきゃいけないの?」

「別に両方諦める必要ないだろ。」

結城はそう言って、サッとカードを出す。

「あっ、私も出す。」

「いいから。」

「だって今日は、住前君にご馳走するって約束したもん。」

「俺がご馳走したっていいじゃないか。」

結城と顔を合わせて、口を尖らせる。

「結城の奢りなんて、食べた気しない。」

「わー。そんな女。初めて見た。」

結城はジャケットを着ると、立ち上がった。

「結局、誰をパートナーに選ぶかだって。」

その時の結城の顔、余裕あり過ぎてムカついた。


「俺達も行きましょう。」

住前君は立ち上がって、私に手を差し伸べた。

やっと手が離れたと思ったのに。また手を繋ぐのか。

それも今度は公然と。

でも、私だって女だ。その手を取りたい。

「ありがとう。」

私は住前君の手を握って、立ち上がった。

その後も住前君は、私の靴を用意してくれたりして、何だかお姫様気分だった。

女、38歳。貴重な体験だ。

「では、結城課長。今日はご馳走様でした。」

お店の前で住前君がペコっと、お辞儀する。

「結城、ありがとう。ご馳走様!」

私は結城に敬礼をした。

「ったく。おまえは呑気な奴だよ。」

はははっと笑いながら、私は結城と別れた。


「じゃあね、住前君。気を付けて。」

住前君にも挨拶して、私は一人歩き始めた。

数秒後、住前君は私に付いてきた。

「住前君、帰りこっち?」

「いえ。逆です。」

ん?と私は、歩幅がゆっくりになる。

「恭香さん。」

急に名前呼びされて、ドキッとした。

「もし、結婚相手探してるなら……」

「う、うん。」

結婚相手。絶賛募集中。

「俺を、選んでくれませんか?」

「えっ?」

住前君と、視線が合った。

「俺、家事もします。子育てもしますから。」

「えっ、あの……」
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