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生意気なあいつ

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上司にねぇ。

「上司って言うのは、決裁権のある人って事でいいかしら。」

「その通りです。」

「だったら私でいいわよね。」

住前君は、目をパチパチさせた。

「……えっと、浅見さんですよね。課長職なんですか?」

「ええ。私が2課の課長ですが。」

すると住前君は、はぁーっとため息をついた。

「なんだ、1課じゃないのか。」

私は目を大きく見開いた。

何ですってええええ!

「そうか。額が小さいから2課に回されたのか。うかつだったな。」

確かに、1課の結城の方が、扱う金額は大きいわよ。

でも、少額だからって2課を舐めんじゃないわよ!

「お生憎さま……」

「額が違うだけで、1課も2課も中身は一緒だよ。住前主任。」

振り返ると、結城が私の後ろに立っていた。

「結城……」

「1課の課長をしている結城だ。」

結城は一枚の名刺を、住前君に渡した。

「結城……柊真さん……」

その名前を読んだ時、住前君はニヤッと笑った。

「あなたがかの有名な御曹司ですか。」

「だったら何なんだ?」

住前君は、さっきの赤丸を付けた企画書を、結城に見せた。

「結城課長でしたら、分かりますよね。この赤丸付けた部分。」

結城は、その企画書を手に取り、じーっと眺めた。

「……ないな。」

「えっ⁉」

「これでは、先方の希望なんか一つも叶えていないじゃないか。」

「嘘だっ!」

結城は住前君の前で、今度は青丸で次々と訂正していった。

「ここはこのまま、ここで予算を削る。ここは代替え案、ここで相手の希望を100%叶える。」

そして出てきた予算は、1,000万オーバーだ。

「これだけの中身で、1,000万オーバーだけ。」

「この予算なら、銀行の融資が通りやすい。自費で全額賄うよりも楽になる。」

「さすが一課の課長ですね。」

そして結城は、住前君の席を借りると、企画書を訂正しその場で私に見せた。

「俺が承認してもいいか?」

「えっ、ええ……」

結城が承認すると、住前君は頭を下げた。

「ありがとうございます。」

「予算のオーバー分、しっかり交渉してくれ。営業部のエース。」

結城が住前君の肩をポンと叩くと、立ち上がり私の背中を押した。

「行くぞ。浅見。」

「……うん。」

私は結城の後を、床を見つめながら歩いた。

どうして、私はもっと代替え案を提供しなかったのだろう。

なぜ否定ばかりして、もっと相手を思いやれなかったのだろう。

今回は結城に負けた。

営業部を出る際、後ろを向くと住前君が送ってくれた。

「先ほどはすみませんでした。」

住前君は、結城に謝った。

「さすがは課長です。ただの御曹司ではなかったです。」

「はははっ!」

結城は余裕で笑った。

「君こそ今度の営業成績次第で、課長になるんだろう。頑張って決めろよ。」

「はい。頑張ります。」

結城、そんな情報も手に入れてるんだ。

私は「ありがとうございます。」と言って、背中を向けた。

「浅見課長も、ありがとうございます。」

「ああ、私はただ……」

そうただ来ただけで、私は必要なかった。

そんな私を見て、住前君はニコッと微笑んだ。

「浅見課長も、ただの課長じゃないんですね。」

「えっ?」

「正直、お飾りだと思ってました。」

「はあ?」

お飾りって!

それを聞いた結城は、クククッと笑いを堪えている。

もう!何なのっ!

「噂通り、いい女ですね。」

「えっ……いい女ぁあ?」

「課長に昇進したら、お祝いに奢って下さい。」

「なっ!」

ちょっとちょっと!いくらイケメンだからって、軽く扱わないでよね!


結城に叶わなかった事と、住前君の生意気さに圧倒された私。

すっかり彼氏に捨てられた事なんて、忘れていた。

企画部に帰って来た私達は、意気揚々としている結城と、ぐったりしている私に視線が集まる。

「課長、結城課長の名前で承認したんですか?」

「仕方ないじゃない。結城が決めたくれたんだもの。」

「結城課長が⁉」

「完敗よ。」

私は席に着くと、新しい企画に目を通した。


新しい企画も、原田君は予算オーバーしている。

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