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生きたい
①
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アムジャドと仲直りした翌日、私は足取り軽く、診療所に入った。
「おはようございます!」
テンションの高い私に、土井先生も津田先生も、驚いていた。
「なんだ?皇太子と何かいい事でもあったのか?」
「はい!」
私は元気よく答えた。
「なんだか、吹っ切れた感じだな。」
「そうですね。」
アムジャドとの事で悩むなんて、私らしくない。
アムジャドについていくって決めたんだもの。
ふと津田先生を見ると、がっかりしていた。
「津田先生……」
「気にしないで、千奈ちゃん。慣れているから。」
失恋に慣れてるなんて、津田先生も可哀相だな。
「すみません。」
「謝る事じゃないよ。」
津田先生は、私の肩をポンと叩いた。
「千奈ちゃんが幸せであれば、それでいいんだ。」
「はい。」
改めて思うけれど、津田先生っていい人だな。
私はしみじみ思った。
その時だった。
子供を抱えたお母さんが、診療所に飛び込んできた。
必死に、私に向かって何かを訴えている。
慌ててアリさんが、話を聞いた。
「チナ、子供ぐったりしている。汗もすごい。」
私は急いで、子供をベットに寝かせた。
タオルで脇の下を拭き、熱を測ると39℃を示した。
「まずは解熱剤と、水分補給。」
奥の薬の棚から持ってきた点滴を、私はその子に施した。
「これでまずは、様子を見ましょう。」
子供のお母さんは、心配そうに子供に寄り添った。
けれど本当の大変さは、ここからだった。
「チナ!こっちも同じだ!」
アリさんに言われ振り返ると、ぐったりとした子供を抱えたお義母さんが、列をなしていた。
「なんだ、なんだ?風邪の集団発生か?」
土井先生が、次から次へと聴診器で胸を診て、頭を振った。
「風邪特有の音が聞こえない。血液検査をしよう。」
「はい。」
私達は注射器を用意すると、子供達の腕から血液を採っていった。
「ジアーに、血液を運ぶんですか?」
「ああ。」
「私が持って行きます。」
「頼む。」
土井先生や津田先生から、採取した血液を貰うと、私は急いでお昼に出るジアーへのバスに乗った。
診療所の入り口には、まだ子供を抱えたお母さん達が群がっている。
私はそれを見つめた。
何が起こっているんだろう。
ぐったりしている子供。
熱はあるのに、風邪の症状はない。
私は何か恐ろしい病気が起こっているんじゃないかって、身体が震えてきた。
逸る気持ちを抑えながら、私は採決した試験管を、大事に持っていた。
1時間後、首都ジアーに着いて、私は病院まで走った。
「すみません。サハリで医師をしている者です。」
そう言うと奥から出て来た医師は、私の顔を見た。
「誰かと思ったら、いつぞやの女医さん。」
「あなたは……」
肺炎で亡くなった子を、看取ってくれたお医者さんだった。
「どうしたんだ?今度は。」
「サハリで原因不明の病気が起こっているんです。血液を採取してきました。調べて頂けますか?」
「分かった。調べてみよう。」
私達は、一番奥にある部屋へ行った。
そこは、質素な検査室だった。
ちょっと不安だったけれど、何もないよりはまだいい。
私は壁の側にある椅子に座って、結果を待った。
「うーん。」
でも先生は唸ってばかりだ。
「女医さん、すまない。ここでの設備では、原因が分からない。」
「そんな!」
ここに来れば、原因が突き止められると思ったのに。
「隣の国とかで検査はできないんですか?」
「うん。やってみるけれど、日にちがかかるよ。」
「日数がかかってもいいです。原因を知らないと、あの子達を救えないんです。」
「ああ。明日には、隣の国へ送ってみるよ。2,3日後にまた来てくれ。」
「はい。」
私はゆっくりと検査室を出た。
原因が分からない。
もしかして、難病?
病院に来た時よりも、もっと肩の荷が重い。
下を向いて歩いていると、目の前にバスの運転手が来てくれた。
「検査どうだった?」
私は首を横に振った。
「そうか。」
バスの運転手さんも、がっかりしている。
「俺の息子も、同じ病気なんだ。今妻が診療所に連れて行ってる。」
私は顔を上げた。
「早く原因が見つかって、一人でも多くの子供が助かればいいけれど。」
胸が痛かった。
私はまた、なす術もなく子供を見送る事になるのか。
私は頭を激しく振った。
「隣の国で検査してみるって、お医者さんが言ってた。2、3日後には分かるかもしれない。」
自分にもバスの運転手さんにも言い聞かせるように、強く言った。
そうよ。ここで諦めたら、何もならないじゃない。
「さて、サハリに一旦戻るか?」
「うん。」
検査の結果を教えてあげないと。
皆が待っている。
私とバスの運転手さんは、サハリ行きのバスに乗り込み、皆の元へと急いだ。
「おはようございます!」
テンションの高い私に、土井先生も津田先生も、驚いていた。
「なんだ?皇太子と何かいい事でもあったのか?」
「はい!」
私は元気よく答えた。
「なんだか、吹っ切れた感じだな。」
「そうですね。」
アムジャドとの事で悩むなんて、私らしくない。
アムジャドについていくって決めたんだもの。
ふと津田先生を見ると、がっかりしていた。
「津田先生……」
「気にしないで、千奈ちゃん。慣れているから。」
失恋に慣れてるなんて、津田先生も可哀相だな。
「すみません。」
「謝る事じゃないよ。」
津田先生は、私の肩をポンと叩いた。
「千奈ちゃんが幸せであれば、それでいいんだ。」
「はい。」
改めて思うけれど、津田先生っていい人だな。
私はしみじみ思った。
その時だった。
子供を抱えたお母さんが、診療所に飛び込んできた。
必死に、私に向かって何かを訴えている。
慌ててアリさんが、話を聞いた。
「チナ、子供ぐったりしている。汗もすごい。」
私は急いで、子供をベットに寝かせた。
タオルで脇の下を拭き、熱を測ると39℃を示した。
「まずは解熱剤と、水分補給。」
奥の薬の棚から持ってきた点滴を、私はその子に施した。
「これでまずは、様子を見ましょう。」
子供のお母さんは、心配そうに子供に寄り添った。
けれど本当の大変さは、ここからだった。
「チナ!こっちも同じだ!」
アリさんに言われ振り返ると、ぐったりとした子供を抱えたお義母さんが、列をなしていた。
「なんだ、なんだ?風邪の集団発生か?」
土井先生が、次から次へと聴診器で胸を診て、頭を振った。
「風邪特有の音が聞こえない。血液検査をしよう。」
「はい。」
私達は注射器を用意すると、子供達の腕から血液を採っていった。
「ジアーに、血液を運ぶんですか?」
「ああ。」
「私が持って行きます。」
「頼む。」
土井先生や津田先生から、採取した血液を貰うと、私は急いでお昼に出るジアーへのバスに乗った。
診療所の入り口には、まだ子供を抱えたお母さん達が群がっている。
私はそれを見つめた。
何が起こっているんだろう。
ぐったりしている子供。
熱はあるのに、風邪の症状はない。
私は何か恐ろしい病気が起こっているんじゃないかって、身体が震えてきた。
逸る気持ちを抑えながら、私は採決した試験管を、大事に持っていた。
1時間後、首都ジアーに着いて、私は病院まで走った。
「すみません。サハリで医師をしている者です。」
そう言うと奥から出て来た医師は、私の顔を見た。
「誰かと思ったら、いつぞやの女医さん。」
「あなたは……」
肺炎で亡くなった子を、看取ってくれたお医者さんだった。
「どうしたんだ?今度は。」
「サハリで原因不明の病気が起こっているんです。血液を採取してきました。調べて頂けますか?」
「分かった。調べてみよう。」
私達は、一番奥にある部屋へ行った。
そこは、質素な検査室だった。
ちょっと不安だったけれど、何もないよりはまだいい。
私は壁の側にある椅子に座って、結果を待った。
「うーん。」
でも先生は唸ってばかりだ。
「女医さん、すまない。ここでの設備では、原因が分からない。」
「そんな!」
ここに来れば、原因が突き止められると思ったのに。
「隣の国とかで検査はできないんですか?」
「うん。やってみるけれど、日にちがかかるよ。」
「日数がかかってもいいです。原因を知らないと、あの子達を救えないんです。」
「ああ。明日には、隣の国へ送ってみるよ。2,3日後にまた来てくれ。」
「はい。」
私はゆっくりと検査室を出た。
原因が分からない。
もしかして、難病?
病院に来た時よりも、もっと肩の荷が重い。
下を向いて歩いていると、目の前にバスの運転手が来てくれた。
「検査どうだった?」
私は首を横に振った。
「そうか。」
バスの運転手さんも、がっかりしている。
「俺の息子も、同じ病気なんだ。今妻が診療所に連れて行ってる。」
私は顔を上げた。
「早く原因が見つかって、一人でも多くの子供が助かればいいけれど。」
胸が痛かった。
私はまた、なす術もなく子供を見送る事になるのか。
私は頭を激しく振った。
「隣の国で検査してみるって、お医者さんが言ってた。2、3日後には分かるかもしれない。」
自分にもバスの運転手さんにも言い聞かせるように、強く言った。
そうよ。ここで諦めたら、何もならないじゃない。
「さて、サハリに一旦戻るか?」
「うん。」
検査の結果を教えてあげないと。
皆が待っている。
私とバスの運転手さんは、サハリ行きのバスに乗り込み、皆の元へと急いだ。
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