砂漠での甘い恋~女医は王子様に溺愛される~

日下奈緒

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初恋なの

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そして扉はアムジャドを吸い込み、容赦なく音を立てて閉じてしまった。

「そんな……」

その晩の夜は、悲しみで一睡もできなかった。


翌日。大きな欠伸をした私に、津田先生が笑った。

「よく眠れなかったのかい?」

「実は……」

頬をピシャッと叩いた私の隣に、津田先生が座った。

「アムジャドと喧嘩でもしたの?」

私は返事をしなかった。

「なあ、千奈ちゃん。この国に来て、本当に幸せか?」

私は津田先生の方を見た。

「なんだかこの国に来てから、千奈ちゃんの笑顔が減った気がするよ。」

「それ、アムジャドにも言われました。」

悩むってそんなに悪い事なのかな。

「ちゃんと息抜きしてる?患者さんの事を考えるのは、医者の仕事だけど、それだけでは潰れてしまうよ?」

「はい……」

分かっている。分かっているけれども、何が今の最善なのか、私には分かっていない。

「千奈ちゃん。思い切って、俺のところに来いよ。」

私は津田先生の方を向いた。

「結婚しよう。俺が千奈ちゃんを、幸せにする。毎日笑顔にするよ。」

「先生……」

蘇る。先生と一緒にいた時間。

毎日のようにお弁当を作って、二人でベンチに座って食べて、笑い合っていたあの日。

「って、これで2回目か。千奈ちゃんにプロポーズするの。」

そう言って津田先生は、笑っていた。


アムジャドだって、仕事で悩んでいるかなのか、いつも疲れたような顔をしている。

私だって、仕事の事で悩んで、難しい顔をしていた。

二人で、笑顔が無くなっていた。

今の津田先生みたいに、どっちかが笑っていたら?

もう一方は励まされ、もう一方は癒されるだろう。

それに気づいた私の目からは、涙が流れていた。


「千奈ちゃん?」

「ごめんなさい。津田先生。私、先生とは結婚できない。」

私が、アムジャドを癒すべきだった。

笑顔でアムジャドを迎えるべきだった。


「もう一度、考え直してくれないか?現に今、アムジャドの事で、千奈ちゃん泣いてるじゃないか。」

「これは、自分がなんて馬鹿だったんだろうって。反省の涙です。」

私は涙を拭った。

「どうしてそこまで、アムジャドに拘るんだ。」

「えっ?」

「アムジャドは、千奈ちゃんがこんなに苦労している事、知っているのか?」

私は返事できなかった。

「俺だったら、苦労させない。同じ医者だ。千奈ちゃんの悩みも一緒に解決できる。」

今回の津田先生は、情熱的だ。

「……先生の言う通りだと思います。」

「だったら!」

「でも、アムジャドじゃないと、駄目なんです。」


そうなんだ。

アムジャドじゃないと、一緒に笑えない。

苦しみも悲しみも、分け合える事もできない。


「私にとってアムジャドは、初恋の人だから。」

「千奈ちゃん……」

「相談に乗って頂いて、ありがとうございました。アムジャドと仲直りしてみます。」

このまま別れるなんて、私は嫌だ。

またやり直したい。

アムジャドと、まだ一緒にいたい。


私は仕事が終わって、宮殿に帰ると、アムジャドが来るのを待っていた。

すると階段を昇ってくるアムジャドが見えた。

「アムジャド。」

「チナ……」

ゆっくりと私の元に来てくれるアムジャド。

「どうしたんだ?こんなところで、僕を待っているなんて。」

「だって今日は、ジャミレトさんの部屋に行く日だから。」

私は息を大きく吸った。

「昨日の夜は、ごめんなさい。私が悪かったわ。」

「いや、いいんだ。」

「ううん。アムジャドが疲れて帰って来た時に、私が笑顔で迎えてあげなきゃ、いけなかったのよ。」

するとアムジャドは、私を抱き寄せてくれた。

「あれから、僕も考えた。チナと同じ考えだ。僕がチナを笑顔にさせるべきだったんだ。」

そんな言葉を聞いて、私は笑ってしまった。

「私達、喧嘩しても同じ事考えていたのね。」

「ああ、そうみたいだ。」

そしてアムジャドは、私を見つめてくれた。

「チナだって仕事を持っているんだ。疲れて帰ってくるのは、お互い様だね。だからこそ二人でいる時は、笑顔でいよう。もちろん僕は誓うよ。チナと一緒にいると言う事は、チナの仕事も受け入れるって事だからね。」

「私も誓うわ。私がアムジャドの癒しになるように。」

互いの顔が近づいて、私達はキスを交わした。


それを見ていた女中達が、はぁっとため息をつく。

「お二人の仲睦まじい事。」

「本当に。愛し合っているのですね。」

私とアムジャドは、微笑んで見せた。

「さあ。分かったところで、ジャミレトには今夜は、遠慮してもらおう。」

「ええ?」

「今夜は、僕達が愛し合うんだからね。」

私はアムジャドの腕を掴んだ。
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