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初恋なの

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「こいつは風邪じゃないよ。」

「風邪だって。熱があるし。」

通訳のアリさんが、子供達の他愛無い話まで、必死に通訳してくれる。

「熱があるのは、気になるわね。体温計で熱計ってみましょうか。」

私はその子を診療所に入れて、体温計で熱を測ってみた。

ピピッと音が鳴って数字を見ても、熱があるとは思えない。

「うーん。熱はないなぁ。身体、熱いの?」

その子は、うんと頷いた。

「こういう時、どうすればいいんだろう。」

私は、土井先生に近づいた。

「土井先生、体温計で熱が無くても、本人が身体が熱いと言っている場合は、どうしますか?」

「チナならどうする?」

質問しているのに、質問で返された。

「……このまま様子を見てもらいます。」

「それでいいんじゃないか?」

「はい。」

私はその子の元に戻ると、今日は大人しく寝ていようねと教えた。

その子は頷いて、家に帰って行った。

「じゃあ、次の子!」

「はーい!」

元気よく手を挙げる中で、手を挙げない子供もいた。

よく見ると、はぁはぁと息使いが荒い。

「ごめんね。」

子供達の山を抜けて、その子を抱きかかえ、診療所のベッドに寝かせた。

「熱計ろうね。」

そして1分後、出た数字は平熱だった。

でもアリさんは、衝撃の事実を伝えた。

「チナ。この子、身体が熱いって言ってる。」

そして気づいた。

さっきの子と同じ症状だと。


「土井先生。」

「なんだ。」

「またです。平熱なのに、身体が熱いって言っている子。」

「なに?」

土井先生は、その子の額に手を当てた。

「少し熱いな。」

「でも体温計は、平熱で。」

「汗で低く出る時もあるんだ。」

続いて聴診器で、肺の音を聞く。

「風邪だと思う。いつもの風邪薬飲ませて、様子を見よう。」

「はい。」

さっきの子と言い、この子と言い、様子を見る事になった子供。

それなのに私は、言い知れない不安感に襲われていた。

その日の診療を終えて、バスで1時間。

私は宮殿に戻って来た。

「お帰り、チナ。」

「アムジャド。」

いつもとは違う、アムジャドの出迎えに、私は驚きを隠せなかった。

「どうしたの?今日は。仕事早く終わったの?」

「ああ。チナに早く会いたくてね。」

抱きしめてくれたアムジャドの温もりに、私は包まれた。

そして気が抜けたのか、はぁっとため息をついた。

「疲れているようだね。」

「うん。」

アムジャドは私を抱えると、部屋に向かった。

「今日は、私一人で歩けるわって、言わないんだな。」

「なんだか今日は、甘えたい気分なの。」

私はアムジャドの首元に、顔を埋めた。

「何があった?」

「……あのね。子供が身体が熱いって訴えてきたの。」

「それで?」

「体温計で測ったら、平熱。でも土井先生が言うには、汗で体温が低く出る事があるって。私、そう言うのも知らなくて。」

そして部屋に着き、アムジャドは私をベッドに寝かせた。

「そう言う経験を重ねて、一人前の医者になるんじゃないのか?」

「そうだけど、私の経験の代わりに、子供がまた亡くなってしまったら?命は一つなのよ?」

するとアムジャドは、はぁーっと大きなため息をついた。

「だったらチナは、どうしたいんだ。」

「えっ?」

私は急いで起き上がった。

「最近のチナは、笑顔が無くなった。」

「そう?……仕事の事で悩んでいるからかしら。」

「僕と一緒にいる時ぐらい、仕事の事を忘れられないのか。」

私とアムジャドは、見つめ合った。

「……できないわ。」

「チナ。」

「医者は、プライベートを犠牲にしてでも、患者の事を考えていなければならないの。あの患者には、どういう治療が最善なのか、常に考えなきゃいけないのよ。」

アムジャドは、悲しい顔をした。

「アムジャド?」

「チナの言う事は理解できる。でも、笑顔のないチナを見るのは辛い。僕と一緒にいても、幸せじゃないのかって。」

「そうじゃないわ!」

「誰だってそう思うだろう!」

重い空気が流れる。

アムジャドは、抱えた頭を激しく振った。

「もういい。僕はもう寝るよ。」

そう言って、本当に背中を向けて、寝てしまった。


アムジャドも疲れているんだ。

なのに彼に甘えて。

でも、どうしたらいいの?

無理に笑っても、亡くなった子供の顔がちらつく。

2度とあんな目に、皆を遭わせたくない。

私の目には、涙が流れた。


「今度は泣くのか。」

寝たはずのアムジャドが、ゆっくりと起き上がる。

「今夜は、自分の部屋で眠る。」

そう言ってアムジャドは、部屋を出て行こうとした。

「待って!アムジャド!」

伸ばした手は、彼によって振り払われた。

「たまには離れた方がいいかもしれない。」
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