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村の子供達
③
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その物言いに、思わず微笑んでしまった。
「なんだか、お母さんみたい。」
それを聞いた女中も、一緒に微笑んだ。
「思えばチナ様は、身寄りのない国に一人でいらっしゃったんですからね。私はサヘルと申します。アラブの母だと思って、頼りになさいませ。」
「ありがとう。宜しくね、サヘル。」
そして私は朝食を摂り、白衣に着替えて、バスに乗った。
今日も、患者さんが来る。
救える命を救う。それだけ。
診療所に着いて、一番最初に目に入ったのは、あの心臓が悪い女の子だ。
「ねえ、お姉ちゃん。胸が痛いの。」
私の服の裾を引き寄せる女の子に、なんて言ったらいいか分からない。
「……お薬飲んでる?」
「うん。でも、最近飲んでも胸が痛いの。」
病気が進んでいるのかもしれない。
「もっと強い薬は……」
私が診療所の奥にある、薬の棚に行こうとすると、土井先生がそれを引き留めるように言った。
「もう薬はない。」
「えっ……」
私は持っていた他の薬を、棚に戻した。
「もう手術しか、方法はないのかもな。」
円らな瞳が、私を見ている。
「この女の子のご両親は、手術を受けなければならないこと、それにはお金が必要だと言う事を、知っているんですか?」
「知っている。2、3度話した。でももう一度話さなければならないかもな。」
「もう一度同じ事を言うんですか?」
私は土井先生の前に立った。
「いや、もう命が短い事を伝えなければ。」
「諦めなきゃ、いけないんですか?」
「両親は、お金がないと言っている。仕方ない。」
私は、手をぎゅっと握り締めた。
「その説明、待って貰えませんか?」
「どうする気だ。」
「アムジャドに、相談したいです。」
「止めとけ。」
土井先生は、淡々と患者さん達を診ていく。
「前にも言ったはずだ。一人助ければ、他の皆も手を挙げる。モルテザー王国は裕福な国ではない。皆の手術費を賄えば、財政的に困る事になる。」
先生が言うのは、いつも正論だ。
「でも、何もないところで、あなたの娘さんは死ぬのを待つだけですと答えるよりも、今の現状を見せてあげれば、ご両親も納得するのでは?」
「検査をさせろと言うのか。」
「はい。」
「受けさせたところで、結果は同じだ。ならば余計なお金をかけずにいた方がいい。」
「それが、ここの診療方針なんですか?」
私と土井先生は、睨み合った。
「ちょっと、どうした?二人共。」
慌てて津田先生が、私達の間に入った。
「土井先生、少しは千奈ちゃんの言ってる事、受け入れてもいいんじゃないですか?ここは子供の死亡率は高いけれど、自分の子供は違うと思うものですよ。検査を受ければ、納得して貰えるかもという意見は、決して間違っていませんよ。」
うん。津田先生、よく言ってくれた。
そうだよ。私の意見、何も間違っていない。
「千奈ちゃんも、何でもかんでもアムジャドに頼るのは、どうかと思うよ?」
私は膝がガクッとなった。
「お金で解決できない事だってあるんだ。未来の王妃になるんだったら、それくらい分からないと。」
「……はい。」
側で土井先生が笑っている。
そしてふと外を診ると、母親が女の子を迎えに来ていた。
どうせ言わなきゃいけないのなら、早く教えてあげた方がいいかな。
「土井先生、あの女の子の説明、私にさせて下さい。」
「ああ、いいよ。冷静にな。決して泣くんじゃないぞ。」
「はい。」
私はゆっくりと、女の子の母親に近づいた。
「こんにちは。私、ここで医者をしています、千奈って言います。」
母親は、私ににっこり微笑むと、アリさんを見つめた。
「娘さんの事で、少しお話があります。お時間いいですか?」
アリさんが説明すると、母親は頷いた。
「実は娘さんの病気、進んでる可能性があります。薬を飲んでも、胸の痛みが治まらないようです。」
母親は、一瞬驚いたけれど、何かをボソッと呟いた。
「なんだか、お母さんみたい。」
それを聞いた女中も、一緒に微笑んだ。
「思えばチナ様は、身寄りのない国に一人でいらっしゃったんですからね。私はサヘルと申します。アラブの母だと思って、頼りになさいませ。」
「ありがとう。宜しくね、サヘル。」
そして私は朝食を摂り、白衣に着替えて、バスに乗った。
今日も、患者さんが来る。
救える命を救う。それだけ。
診療所に着いて、一番最初に目に入ったのは、あの心臓が悪い女の子だ。
「ねえ、お姉ちゃん。胸が痛いの。」
私の服の裾を引き寄せる女の子に、なんて言ったらいいか分からない。
「……お薬飲んでる?」
「うん。でも、最近飲んでも胸が痛いの。」
病気が進んでいるのかもしれない。
「もっと強い薬は……」
私が診療所の奥にある、薬の棚に行こうとすると、土井先生がそれを引き留めるように言った。
「もう薬はない。」
「えっ……」
私は持っていた他の薬を、棚に戻した。
「もう手術しか、方法はないのかもな。」
円らな瞳が、私を見ている。
「この女の子のご両親は、手術を受けなければならないこと、それにはお金が必要だと言う事を、知っているんですか?」
「知っている。2、3度話した。でももう一度話さなければならないかもな。」
「もう一度同じ事を言うんですか?」
私は土井先生の前に立った。
「いや、もう命が短い事を伝えなければ。」
「諦めなきゃ、いけないんですか?」
「両親は、お金がないと言っている。仕方ない。」
私は、手をぎゅっと握り締めた。
「その説明、待って貰えませんか?」
「どうする気だ。」
「アムジャドに、相談したいです。」
「止めとけ。」
土井先生は、淡々と患者さん達を診ていく。
「前にも言ったはずだ。一人助ければ、他の皆も手を挙げる。モルテザー王国は裕福な国ではない。皆の手術費を賄えば、財政的に困る事になる。」
先生が言うのは、いつも正論だ。
「でも、何もないところで、あなたの娘さんは死ぬのを待つだけですと答えるよりも、今の現状を見せてあげれば、ご両親も納得するのでは?」
「検査をさせろと言うのか。」
「はい。」
「受けさせたところで、結果は同じだ。ならば余計なお金をかけずにいた方がいい。」
「それが、ここの診療方針なんですか?」
私と土井先生は、睨み合った。
「ちょっと、どうした?二人共。」
慌てて津田先生が、私達の間に入った。
「土井先生、少しは千奈ちゃんの言ってる事、受け入れてもいいんじゃないですか?ここは子供の死亡率は高いけれど、自分の子供は違うと思うものですよ。検査を受ければ、納得して貰えるかもという意見は、決して間違っていませんよ。」
うん。津田先生、よく言ってくれた。
そうだよ。私の意見、何も間違っていない。
「千奈ちゃんも、何でもかんでもアムジャドに頼るのは、どうかと思うよ?」
私は膝がガクッとなった。
「お金で解決できない事だってあるんだ。未来の王妃になるんだったら、それくらい分からないと。」
「……はい。」
側で土井先生が笑っている。
そしてふと外を診ると、母親が女の子を迎えに来ていた。
どうせ言わなきゃいけないのなら、早く教えてあげた方がいいかな。
「土井先生、あの女の子の説明、私にさせて下さい。」
「ああ、いいよ。冷静にな。決して泣くんじゃないぞ。」
「はい。」
私はゆっくりと、女の子の母親に近づいた。
「こんにちは。私、ここで医者をしています、千奈って言います。」
母親は、私ににっこり微笑むと、アリさんを見つめた。
「娘さんの事で、少しお話があります。お時間いいですか?」
アリさんが説明すると、母親は頷いた。
「実は娘さんの病気、進んでる可能性があります。薬を飲んでも、胸の痛みが治まらないようです。」
母親は、一瞬驚いたけれど、何かをボソッと呟いた。
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