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村の子供達

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その物言いに、思わず微笑んでしまった。

「なんだか、お母さんみたい。」

それを聞いた女中も、一緒に微笑んだ。

「思えばチナ様は、身寄りのない国に一人でいらっしゃったんですからね。私はサヘルと申します。アラブの母だと思って、頼りになさいませ。」

「ありがとう。宜しくね、サヘル。」

そして私は朝食を摂り、白衣に着替えて、バスに乗った。

今日も、患者さんが来る。

救える命を救う。それだけ。

診療所に着いて、一番最初に目に入ったのは、あの心臓が悪い女の子だ。

「ねえ、お姉ちゃん。胸が痛いの。」

私の服の裾を引き寄せる女の子に、なんて言ったらいいか分からない。

「……お薬飲んでる?」

「うん。でも、最近飲んでも胸が痛いの。」

病気が進んでいるのかもしれない。

「もっと強い薬は……」

私が診療所の奥にある、薬の棚に行こうとすると、土井先生がそれを引き留めるように言った。

「もう薬はない。」

「えっ……」

私は持っていた他の薬を、棚に戻した。

「もう手術しか、方法はないのかもな。」

円らな瞳が、私を見ている。

「この女の子のご両親は、手術を受けなければならないこと、それにはお金が必要だと言う事を、知っているんですか?」

「知っている。2、3度話した。でももう一度話さなければならないかもな。」

「もう一度同じ事を言うんですか?」

私は土井先生の前に立った。

「いや、もう命が短い事を伝えなければ。」

「諦めなきゃ、いけないんですか?」

「両親は、お金がないと言っている。仕方ない。」

私は、手をぎゅっと握り締めた。

「その説明、待って貰えませんか?」

「どうする気だ。」

「アムジャドに、相談したいです。」

「止めとけ。」

土井先生は、淡々と患者さん達を診ていく。

「前にも言ったはずだ。一人助ければ、他の皆も手を挙げる。モルテザー王国は裕福な国ではない。皆の手術費を賄えば、財政的に困る事になる。」

先生が言うのは、いつも正論だ。

「でも、何もないところで、あなたの娘さんは死ぬのを待つだけですと答えるよりも、今の現状を見せてあげれば、ご両親も納得するのでは?」

「検査をさせろと言うのか。」

「はい。」

「受けさせたところで、結果は同じだ。ならば余計なお金をかけずにいた方がいい。」

「それが、ここの診療方針なんですか?」

私と土井先生は、睨み合った。

「ちょっと、どうした?二人共。」

慌てて津田先生が、私達の間に入った。

「土井先生、少しは千奈ちゃんの言ってる事、受け入れてもいいんじゃないですか?ここは子供の死亡率は高いけれど、自分の子供は違うと思うものですよ。検査を受ければ、納得して貰えるかもという意見は、決して間違っていませんよ。」

うん。津田先生、よく言ってくれた。

そうだよ。私の意見、何も間違っていない。

「千奈ちゃんも、何でもかんでもアムジャドに頼るのは、どうかと思うよ?」

私は膝がガクッとなった。

「お金で解決できない事だってあるんだ。未来の王妃になるんだったら、それくらい分からないと。」

「……はい。」

側で土井先生が笑っている。

そしてふと外を診ると、母親が女の子を迎えに来ていた。

どうせ言わなきゃいけないのなら、早く教えてあげた方がいいかな。

「土井先生、あの女の子の説明、私にさせて下さい。」

「ああ、いいよ。冷静にな。決して泣くんじゃないぞ。」

「はい。」

私はゆっくりと、女の子の母親に近づいた。

「こんにちは。私、ここで医者をしています、千奈って言います。」

母親は、私ににっこり微笑むと、アリさんを見つめた。

「娘さんの事で、少しお話があります。お時間いいですか?」

アリさんが説明すると、母親は頷いた。

「実は娘さんの病気、進んでる可能性があります。薬を飲んでも、胸の痛みが治まらないようです。」

母親は、一瞬驚いたけれど、何かをボソッと呟いた。
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