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求めあう気持ち
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そんな事を勝手に思って、胸が痛んだ。
支払いをする階堂さんを待つ間、大輪の華を咲かせる夜空の花火を見たのは、そんな時。
私、この花火を一生、忘れないだろうなって。
この花火を思い出す時、そこには必ずあなたがいるはず。
そう思っていた。
だからあなたに、『もっと花火が綺麗に見える場所に連れていってあげようか。』って言われた時は、夢に続きがあるのかと可笑しかった。
あなたに手を引かれて、飛び乗ったエレベーターの中。
夢の中なのか、現実の世界なのかわからなくて。
少なくてもあなたの顔を見てしまったら、この夢は覚めてなくなってしまうじゃないかって。
そう思うと、全身を動かすことなんて、できなかった。
そんな中で見た、部屋一面のガラスから見る大きな花火。
何気ない会話の後に、ふとあなたを見ると、その瞳には私が映っていた。
「階堂さん?」
まるでそのまま息が止まってしまったかのように、ずっと私を見つめていた。
「あの…こんなに近い場所で見つめられると、困ります……」
「どうして?」
もう、あなたの熱い眼差しに耐えられなくなってしまって、私は思わず顔を両手で覆った。
あなたと会えると思ったら眠れなかったとか、そのせいでクマができちゃったとか、そんな言い訳をして、その視線から逃れたかったのに、あなたは……
「どこに?」
そう言って、今度は私の顎に、その手をあてた。
「階……堂……さん。」
逃れられない。
きっとあなたは、こんなシチュエーションには慣れているのだと、自分に言い聞かせても、胸がドクンドクンとうるさく鳴って、その手を振り払う事は出来なかった。
重なる唇。
欲情のくちづけ。
でもあなたは違った。
私が出したSOSのサインに気づいてくれた。
大人の女性なら、黙って受け入れる事もできたのだろうけれど、今の私にはそれができなかった。
一時の遊びなんか嫌。
この状況に流されて、誰にでも同じような事をしているなんて、もっと嫌だった。
でもあなたは、私のそんな気持ちをわかってくれて、自分の欲情を、必死に抑えてくれていた。
そんな姿を、真横で見ていて、私は確信したの。
ああ、この人は私の事を、考えてくれているって。
嬉しかった。
それと同時に、なぜ私があなたに見合うような、大人の女性じゃないんだろうって、悲しかった。
私とあなたなら、もっと人生を分かち合えたような気がするのに。
でも、運命は残酷だ。
あなたには、結婚を約束した人がいるんでしょう?
それが悲しかった。
こんなにも、階堂さんが好きなのに、それを伝えてはいけないなんて。
「嫌なら、嫌だって断れば……」
そうあなたに言われて、咄嗟に出た言葉。
「嫌じゃない!」
どうして、好きな人に抱かれる事が嫌だと言う人がいるの?
私はそう、叫びたかった。
でもその想いは真っ直ぐ届いたのか、あなたは私の身体に、たくさんの熱いくちづけをくれた。
あなたの温かい手が、あなたの柔らかい唇が、私の身体に触れる度に、幸せが広がっていって、二人の身体が一つになった時の快感は、味わったことがないものだった。
ふと目を開けて、あなたを見た時の、その真剣な表情。
その表情に、胸が締め付けられて、私は思わずあなたの体を抱き寄せた。
それなのに、あなたの身体と私の身体に、隙間なんてないくらいに、強く抱いてくれて。
あなたの下でないている私は、心の底から思った。
女に生まれてきて、よかったって。
私は思わず自分の身体を、ぎゅうっと抱え込んだ。
「美雨?」
私の異変に気づいた兄さんは、不思議そうに私を覗き込む。
「大丈夫か?」
「ううん…何でもないの。」
あの日の事を思い出すと、胸がキュウっと締め付けられる。
階堂さんに出会えた事が、愛おしくて。
階堂さんと二人きりで、食事ができた事が、嬉しくて。
階堂さんと花火を見た事が、夢のようで。
階堂さんが結婚すると聞いて、切なくて。
たった一日でいろんな感情が、私を襲った。
「なんだか…俺の知っている美雨じゃないみたいだ。」
「えっ?」
兄さんは、相変わらずワインを飲みながら、私を見て寂しく笑った。
「彼氏でもできたのか?」
「どうして?」
「美雨の今の表情。完全に恋愛している女の顔だよ。」
そこまで、私の顔は今の心情を写していたのか。
自分でもわからなかった。
「でもなぜか少し……苦しそうだな。」
兄さんの言葉に、私はうつむく。
「うまくいってないのか?相手と。」
私は返事をする事ができなかった。
だって上手くいくもなにも、その前に私たちは始まっていないのだもの。
「美雨?」
再び心配そうに聞いた兄さんに、もうこれ以上、心配させる事はできないと思った。
「兄さん、私、彼氏なんていないよ。」
「えっ?」
「ただ……思うことがあっただけ。心配しないで。」
兄さんのワインを飲む音が聞こえる。
「片思いなのか?」
「だから、恋愛の事じゃないよ。」
なんとか、兄さんの視点を、私たちから反らしたかった。
「そうか……美雨もそういう年頃になったのかと思ったのにな。」
「そういう年頃って?」
止せばいいのに、ムキになって兄さんをまた困らせた。
「……人を好きになって、相手と真剣に向き合う年頃だよ。」
そして、バカ正直に答える兄さん。
「美雨。俺は、美雨に人並みに恋愛をして、人並みに結婚して、人並みに幸せになってほしいんだ。」
「人並に?」
「ああ。」
人並みって何なんだろう。
「私、無理かもしれない。」
「どうして?」
人並みがわからない。
他の人はどんな恋愛をしているの?
どんな人と恋愛するの?
「なあ、美雨。本当は好きな男がいるんだろう?俺にはわかる。」
私は、顔をあげて兄さんを見た。
「いいんだ、片思いでも。いいんだよ、うまくいっていないくても。美雨が幸せなら、俺はそれでいいんだ。」
「兄さん……」
私はその言葉が、何よりも嬉しかった。
兄さんだけは、何があっても私の味方なのだと思えたから。
「だってそうだろう。相手を想う気持ちは、誰にだって止められはしない。無理なんだ、無かったことにするなんて。」
私はなぜか、兄さんが自分の事を語っているような気がした。
「ねえ、兄さん。」
「ん?」
「兄さんも、辛い恋をしているの?」
兄さんもじっと私を見ると、途端に噴き出した。
「兄さんもって……」
「あっ……」
思わず口を片手で覆った。
「やっぱり美雨は、好きな男がいるんじゃないか。」
「あの…」
「正直に言わないと、俺の話はしないぞ。」
久しぶりに見る、兄さんの意地悪そうな顔。
「もう、わかったわ。いるわよ、好きな人。」
「どんな奴?」
「どんなって…」
まさか階堂さんだなんて、兄さんには言えない。
「優しくて、カッコよくて、背が高い人。」
「ありきたりだな。」
「それでもいいの!」
それ以上話すと、兄さんに知られてしまうかもしれないし。
「ねえ、兄さんは?兄さんのお相手は、どんな方なの?」
「う~ん……」
兄さんは天井を見て、考える振りをした。
「優しくて、美人で、スタイルのいい人。」
「兄さんだって、ありきたりじゃない。」
「だってその通りの人だから。」
そう言って兄さんは、面白そうに笑った。
「美雨も、会った事がある人だよ。」
「私の知っている人?」
「ああ。」
誰だろう。
今まで会った事がある人を、一通り思い出すけれど、一向に思い浮かばない。
「ヒント。俺の一番近くにいる人。」
「一番近くに?」
「そう!」
支払いをする階堂さんを待つ間、大輪の華を咲かせる夜空の花火を見たのは、そんな時。
私、この花火を一生、忘れないだろうなって。
この花火を思い出す時、そこには必ずあなたがいるはず。
そう思っていた。
だからあなたに、『もっと花火が綺麗に見える場所に連れていってあげようか。』って言われた時は、夢に続きがあるのかと可笑しかった。
あなたに手を引かれて、飛び乗ったエレベーターの中。
夢の中なのか、現実の世界なのかわからなくて。
少なくてもあなたの顔を見てしまったら、この夢は覚めてなくなってしまうじゃないかって。
そう思うと、全身を動かすことなんて、できなかった。
そんな中で見た、部屋一面のガラスから見る大きな花火。
何気ない会話の後に、ふとあなたを見ると、その瞳には私が映っていた。
「階堂さん?」
まるでそのまま息が止まってしまったかのように、ずっと私を見つめていた。
「あの…こんなに近い場所で見つめられると、困ります……」
「どうして?」
もう、あなたの熱い眼差しに耐えられなくなってしまって、私は思わず顔を両手で覆った。
あなたと会えると思ったら眠れなかったとか、そのせいでクマができちゃったとか、そんな言い訳をして、その視線から逃れたかったのに、あなたは……
「どこに?」
そう言って、今度は私の顎に、その手をあてた。
「階……堂……さん。」
逃れられない。
きっとあなたは、こんなシチュエーションには慣れているのだと、自分に言い聞かせても、胸がドクンドクンとうるさく鳴って、その手を振り払う事は出来なかった。
重なる唇。
欲情のくちづけ。
でもあなたは違った。
私が出したSOSのサインに気づいてくれた。
大人の女性なら、黙って受け入れる事もできたのだろうけれど、今の私にはそれができなかった。
一時の遊びなんか嫌。
この状況に流されて、誰にでも同じような事をしているなんて、もっと嫌だった。
でもあなたは、私のそんな気持ちをわかってくれて、自分の欲情を、必死に抑えてくれていた。
そんな姿を、真横で見ていて、私は確信したの。
ああ、この人は私の事を、考えてくれているって。
嬉しかった。
それと同時に、なぜ私があなたに見合うような、大人の女性じゃないんだろうって、悲しかった。
私とあなたなら、もっと人生を分かち合えたような気がするのに。
でも、運命は残酷だ。
あなたには、結婚を約束した人がいるんでしょう?
それが悲しかった。
こんなにも、階堂さんが好きなのに、それを伝えてはいけないなんて。
「嫌なら、嫌だって断れば……」
そうあなたに言われて、咄嗟に出た言葉。
「嫌じゃない!」
どうして、好きな人に抱かれる事が嫌だと言う人がいるの?
私はそう、叫びたかった。
でもその想いは真っ直ぐ届いたのか、あなたは私の身体に、たくさんの熱いくちづけをくれた。
あなたの温かい手が、あなたの柔らかい唇が、私の身体に触れる度に、幸せが広がっていって、二人の身体が一つになった時の快感は、味わったことがないものだった。
ふと目を開けて、あなたを見た時の、その真剣な表情。
その表情に、胸が締め付けられて、私は思わずあなたの体を抱き寄せた。
それなのに、あなたの身体と私の身体に、隙間なんてないくらいに、強く抱いてくれて。
あなたの下でないている私は、心の底から思った。
女に生まれてきて、よかったって。
私は思わず自分の身体を、ぎゅうっと抱え込んだ。
「美雨?」
私の異変に気づいた兄さんは、不思議そうに私を覗き込む。
「大丈夫か?」
「ううん…何でもないの。」
あの日の事を思い出すと、胸がキュウっと締め付けられる。
階堂さんに出会えた事が、愛おしくて。
階堂さんと二人きりで、食事ができた事が、嬉しくて。
階堂さんと花火を見た事が、夢のようで。
階堂さんが結婚すると聞いて、切なくて。
たった一日でいろんな感情が、私を襲った。
「なんだか…俺の知っている美雨じゃないみたいだ。」
「えっ?」
兄さんは、相変わらずワインを飲みながら、私を見て寂しく笑った。
「彼氏でもできたのか?」
「どうして?」
「美雨の今の表情。完全に恋愛している女の顔だよ。」
そこまで、私の顔は今の心情を写していたのか。
自分でもわからなかった。
「でもなぜか少し……苦しそうだな。」
兄さんの言葉に、私はうつむく。
「うまくいってないのか?相手と。」
私は返事をする事ができなかった。
だって上手くいくもなにも、その前に私たちは始まっていないのだもの。
「美雨?」
再び心配そうに聞いた兄さんに、もうこれ以上、心配させる事はできないと思った。
「兄さん、私、彼氏なんていないよ。」
「えっ?」
「ただ……思うことがあっただけ。心配しないで。」
兄さんのワインを飲む音が聞こえる。
「片思いなのか?」
「だから、恋愛の事じゃないよ。」
なんとか、兄さんの視点を、私たちから反らしたかった。
「そうか……美雨もそういう年頃になったのかと思ったのにな。」
「そういう年頃って?」
止せばいいのに、ムキになって兄さんをまた困らせた。
「……人を好きになって、相手と真剣に向き合う年頃だよ。」
そして、バカ正直に答える兄さん。
「美雨。俺は、美雨に人並みに恋愛をして、人並みに結婚して、人並みに幸せになってほしいんだ。」
「人並に?」
「ああ。」
人並みって何なんだろう。
「私、無理かもしれない。」
「どうして?」
人並みがわからない。
他の人はどんな恋愛をしているの?
どんな人と恋愛するの?
「なあ、美雨。本当は好きな男がいるんだろう?俺にはわかる。」
私は、顔をあげて兄さんを見た。
「いいんだ、片思いでも。いいんだよ、うまくいっていないくても。美雨が幸せなら、俺はそれでいいんだ。」
「兄さん……」
私はその言葉が、何よりも嬉しかった。
兄さんだけは、何があっても私の味方なのだと思えたから。
「だってそうだろう。相手を想う気持ちは、誰にだって止められはしない。無理なんだ、無かったことにするなんて。」
私はなぜか、兄さんが自分の事を語っているような気がした。
「ねえ、兄さん。」
「ん?」
「兄さんも、辛い恋をしているの?」
兄さんもじっと私を見ると、途端に噴き出した。
「兄さんもって……」
「あっ……」
思わず口を片手で覆った。
「やっぱり美雨は、好きな男がいるんじゃないか。」
「あの…」
「正直に言わないと、俺の話はしないぞ。」
久しぶりに見る、兄さんの意地悪そうな顔。
「もう、わかったわ。いるわよ、好きな人。」
「どんな奴?」
「どんなって…」
まさか階堂さんだなんて、兄さんには言えない。
「優しくて、カッコよくて、背が高い人。」
「ありきたりだな。」
「それでもいいの!」
それ以上話すと、兄さんに知られてしまうかもしれないし。
「ねえ、兄さんは?兄さんのお相手は、どんな方なの?」
「う~ん……」
兄さんは天井を見て、考える振りをした。
「優しくて、美人で、スタイルのいい人。」
「兄さんだって、ありきたりじゃない。」
「だってその通りの人だから。」
そう言って兄さんは、面白そうに笑った。
「美雨も、会った事がある人だよ。」
「私の知っている人?」
「ああ。」
誰だろう。
今まで会った事がある人を、一通り思い出すけれど、一向に思い浮かばない。
「ヒント。俺の一番近くにいる人。」
「一番近くに?」
「そう!」
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