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夢の終わり
③
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先生は大人で。
私はまだ子供で。
私も先生もお互い、もっと似合う人が現れる。
そう思ってた。
「芽依。もしまだ一緒にいられる可能性があるんだったら、別れたくないって、はっきり言った方がいいよ。」
「美羽ちゃん……」
「なかなか現れないと思う。そこまで溺れる相手って。」
そこで講師の先生がやってきて、美羽ちゃんとの話しはそこまでになった。
「今日は夏休み最後の授業と言うことで、今までの復習テストをします。」
ええ~~!と言う、生徒からの声が上がる。
「まあまあ。そんなに難しいものじゃないよ。夏休みの間どれだけ力がついたか、みるだけだからさ。そうだ。これから10分間、テキストを見直す時間にしよう。それだったらいいだろう?」
渋々返事をして、銘々にテキストを開いていく。
私も同じように、塾のテキストをパラパラと捲った。
そしてあるページで、手が止まった。
『よし。こことここを覚えろ。』
先生がマーカーで、印をつけてくれたページ。
思い出して、涙が勝手に溢れていた。
「大丈夫?藤沢さん。」
講師の先生が、心配して見にきてくれた。
「はい。」
そう返事をして、私は目をゴシゴシと拭いた。
好きだった。
先生のこと。
先生を初めて見た時から。
何度も諦めた。
決して振り向いてくれないと思ってたから。
でも諦めきれなかった。
先生の温かい笑顔を見る度に、独り占めしたくてたまらなかった。
先生の任期が終わって、もう会えないんだと思ったら、もうこの世界なんてどうでもよくなった。
塾が終わると、私は駆け足で先生の元へ帰った。
「おっ!お帰り、うわっ!」
「先生!!」
私は先生の姿を見るなり、抱きついた。
「どうした、芽依。そんなに俺の事、恋しかったのか?」
「先生……」
「な~んちゃって!」
先生は私の頭を2、3回撫でると私を引き離そうとした。
嫌だ。
先生と離れたくない。
「芽依?」
いつもと違う私に気づいたのか、先生は無理に離れようとはしなかった。
「どうしたのかな、芽依ちゃんは。」
そう言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
決して振り向いてくれないと思っていた人が、今私を抱きしめてくれている。
それは奇跡だと言うのに。
「芽依ちゃ~ん。そろそろ家に帰る時間じゃないですか~」
それなのに、タイムリミットは確実に近づいている。
「……帰りたくない。」
「は?」
「ずっと先生と、ここで暮らしたい。」
先生は抱きしめる力を強くした。
「それはできないよ、芽依。」
非情な返事に、体が凍りつく。
「元々、夏休みの間だけって言う約束だっただろう?」
最もな意見に、私の体が先生から離れる。
「さあ、行こう。荷物は?」
私は寝室を指さした。
それを見て先生は、私の荷物を持って来てくれた。
「先生……」
「何?」
私が呆然と立ち尽くしている間も、先生はお構いなしに靴を履いている。
「先生は、私の事どう思っているの?」
「芽依……」
「少しでも私の事、好きになってくれた?」
靴を履いた先生は、私の荷物を持つと、私に靴を履くように指さした。
「先生……!」
「それを今ここで、議論する気はないよ。藤沢。」
久し振りに"藤沢"と呼ばれて、もう先生と過ごした夏は終わったのだと、確信した。
黙って靴を履いた。
先生の家を、一緒に出る。
玄関に鍵を掛ける先生を待って、マンションを後にした。
駅まですぐそこだと言うのに、やたら長く感じた。
ふと気付けは、先生と再開した本屋さんが目に飛び込んできた。
「先生、ここでいい。」
先生は無言で立ち止まると、私の荷物を渡してくれた。
「そうだ。これも一緒に渡しておく。」
そう言って先生は、一枚の封筒を私に差し出した。
「バイト代。」
「えっ?」
何だろうと思って受け取って、中身を見たら一万札が三枚も入っていた。
「受け取れません。」
一度は先生に返した。
「じゃあ、親にバイト代は?って聞かれたらなんて答える?」
「後で振り込まれるって、答える。」
「いくら?見せてみろって言われたら?」
「それは……」
言葉が返せないのが、悔しい。
「悪いことは言わないから、受け取っておけ。」
そして先生は、私に封筒を握らせた。
その封筒をくしゃっと強く握り、バッグの中に入れようとした。
でも先生の、封筒を私に握らせた先生の手が、私を離してくれない。
「先生?」
見上げた先生は、逆に俯いていた。
「あの、封筒……」
「すまん。」
先生は謝っているのに、封筒を離そうとしない。
「これじゃあ、受け取れないよ、先生。」
「ああ、すまん。」
スッと封筒を離した先生。
「本当にすまん。藤沢。」
「えっ?」
「……お前の気持ちを受け止められない、情けない男ですまん。」
心なしか先生の声が、震えているように聞こえた。
「ううん。」
私は弱々しく首を横に振った。
すると先生は、私の肩に自分の頭を乗せた。
「なあ、藤沢。」
「はい。」
「もし俺の事を許してくれるなら………」
私の耳元で、ボソッと呟くと、先生はそのまま行ってしまった。
私は空を見上げた。
夏が、終わった。
先生に溺れた夏が、終わった。
私はまだ子供で。
私も先生もお互い、もっと似合う人が現れる。
そう思ってた。
「芽依。もしまだ一緒にいられる可能性があるんだったら、別れたくないって、はっきり言った方がいいよ。」
「美羽ちゃん……」
「なかなか現れないと思う。そこまで溺れる相手って。」
そこで講師の先生がやってきて、美羽ちゃんとの話しはそこまでになった。
「今日は夏休み最後の授業と言うことで、今までの復習テストをします。」
ええ~~!と言う、生徒からの声が上がる。
「まあまあ。そんなに難しいものじゃないよ。夏休みの間どれだけ力がついたか、みるだけだからさ。そうだ。これから10分間、テキストを見直す時間にしよう。それだったらいいだろう?」
渋々返事をして、銘々にテキストを開いていく。
私も同じように、塾のテキストをパラパラと捲った。
そしてあるページで、手が止まった。
『よし。こことここを覚えろ。』
先生がマーカーで、印をつけてくれたページ。
思い出して、涙が勝手に溢れていた。
「大丈夫?藤沢さん。」
講師の先生が、心配して見にきてくれた。
「はい。」
そう返事をして、私は目をゴシゴシと拭いた。
好きだった。
先生のこと。
先生を初めて見た時から。
何度も諦めた。
決して振り向いてくれないと思ってたから。
でも諦めきれなかった。
先生の温かい笑顔を見る度に、独り占めしたくてたまらなかった。
先生の任期が終わって、もう会えないんだと思ったら、もうこの世界なんてどうでもよくなった。
塾が終わると、私は駆け足で先生の元へ帰った。
「おっ!お帰り、うわっ!」
「先生!!」
私は先生の姿を見るなり、抱きついた。
「どうした、芽依。そんなに俺の事、恋しかったのか?」
「先生……」
「な~んちゃって!」
先生は私の頭を2、3回撫でると私を引き離そうとした。
嫌だ。
先生と離れたくない。
「芽依?」
いつもと違う私に気づいたのか、先生は無理に離れようとはしなかった。
「どうしたのかな、芽依ちゃんは。」
そう言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
決して振り向いてくれないと思っていた人が、今私を抱きしめてくれている。
それは奇跡だと言うのに。
「芽依ちゃ~ん。そろそろ家に帰る時間じゃないですか~」
それなのに、タイムリミットは確実に近づいている。
「……帰りたくない。」
「は?」
「ずっと先生と、ここで暮らしたい。」
先生は抱きしめる力を強くした。
「それはできないよ、芽依。」
非情な返事に、体が凍りつく。
「元々、夏休みの間だけって言う約束だっただろう?」
最もな意見に、私の体が先生から離れる。
「さあ、行こう。荷物は?」
私は寝室を指さした。
それを見て先生は、私の荷物を持って来てくれた。
「先生……」
「何?」
私が呆然と立ち尽くしている間も、先生はお構いなしに靴を履いている。
「先生は、私の事どう思っているの?」
「芽依……」
「少しでも私の事、好きになってくれた?」
靴を履いた先生は、私の荷物を持つと、私に靴を履くように指さした。
「先生……!」
「それを今ここで、議論する気はないよ。藤沢。」
久し振りに"藤沢"と呼ばれて、もう先生と過ごした夏は終わったのだと、確信した。
黙って靴を履いた。
先生の家を、一緒に出る。
玄関に鍵を掛ける先生を待って、マンションを後にした。
駅まですぐそこだと言うのに、やたら長く感じた。
ふと気付けは、先生と再開した本屋さんが目に飛び込んできた。
「先生、ここでいい。」
先生は無言で立ち止まると、私の荷物を渡してくれた。
「そうだ。これも一緒に渡しておく。」
そう言って先生は、一枚の封筒を私に差し出した。
「バイト代。」
「えっ?」
何だろうと思って受け取って、中身を見たら一万札が三枚も入っていた。
「受け取れません。」
一度は先生に返した。
「じゃあ、親にバイト代は?って聞かれたらなんて答える?」
「後で振り込まれるって、答える。」
「いくら?見せてみろって言われたら?」
「それは……」
言葉が返せないのが、悔しい。
「悪いことは言わないから、受け取っておけ。」
そして先生は、私に封筒を握らせた。
その封筒をくしゃっと強く握り、バッグの中に入れようとした。
でも先生の、封筒を私に握らせた先生の手が、私を離してくれない。
「先生?」
見上げた先生は、逆に俯いていた。
「あの、封筒……」
「すまん。」
先生は謝っているのに、封筒を離そうとしない。
「これじゃあ、受け取れないよ、先生。」
「ああ、すまん。」
スッと封筒を離した先生。
「本当にすまん。藤沢。」
「えっ?」
「……お前の気持ちを受け止められない、情けない男ですまん。」
心なしか先生の声が、震えているように聞こえた。
「ううん。」
私は弱々しく首を横に振った。
すると先生は、私の肩に自分の頭を乗せた。
「なあ、藤沢。」
「はい。」
「もし俺の事を許してくれるなら………」
私の耳元で、ボソッと呟くと、先生はそのまま行ってしまった。
私は空を見上げた。
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