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デートシーン

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「彼……女?」

「知らない?背の高い人だよ。海の家で一緒に働いてたよね。」

「へえ………そうなんだ。」

知らない。

明らかに私じゃない。


「藤沢、何でここまで来たの?」

「……バス。」

適当に答えた。

「バス停まで結構歩くけど、よく来るの?ここ。」

うるさいと思いながらも、小さく頷いた。

その様子を見かねた先生が、助け船を出してくれた。

「葉山はここまで、何で来たんだ?」

「兄貴の車に、乗せてもらって来ました。」

「その兄貴は?」

「あっちで、彼女と一緒にいます。」

葉山君が向いた先に、大学生らしきカップルがいた。


「藤沢、いつまでいる?よければ兄貴に言って、一緒に乗せて貰え……」

「いいよ!」

あまり話した事もないのに、怒鳴ってしまった。

「ごめん。一人で帰れるから。」

私は二人を置いて、歩きだした。


「藤沢‼」

後から先生が追いかけて来る。

「待てって!」

先生に肩を捕まれ、その場で止まった。

「何?」

「いや、」

「葉山君に怪しまれるよ。」

先生は手を離した。

「……怪しまれてもいいさ。」

私は顔を上げて、先生を見た。

不適な笑みが、私に降り注ぐ。


「今はお前しかいないんだし。」

急に私の顔が赤く色づく。

「えっ……」

「別れたんだ。葉山が言ってた彼女とは。」


"彼女"と言う言葉に、息が止まる。

「振られたの?」

「ああ。」

「いつ?」

「いつだったかな。お前が転がり込む少し前かな。」


そんな風にはっきり言われたら、先生の言う事を信じるしかない。


「うん。わかった。」

私の返事に、先生は安心の笑顔。

でもその後に、予期せぬ問題が到来。

いつの間にか、葉山君が傍にいた。


「やっぱり二人、怪しいね。」

「葉山君……」

「付き合ってるの?」

付き合っているのか。

その答えは、私にはわからない。

「葉山、あのな。」

「いいんです。別にみんなに言いふらしたりするような事、僕はしないんで。」

私と先生は、顔を合わせた。


「でも先生。藤沢の事、本気なんですか?」


心が掻き乱される。

どうしてこの人は、ズケズケと人の心の中に上がり込むのか。


「そんな事、葉山君には関係ないでしょ。」

少し苛立つ口調で、反論した。

「関係あるって言ったら?」

「はっ?」

「僕、藤沢の事好きなんだよ。」


突然の告白。

返す言葉がない。


「だから藤沢が先生と付き合っても、誰にも言わないよ。言ったら藤沢の人生を変えてしまう。好きな女の子を守りたいって思うのは、男として当然だろ。」

その真っ直ぐな想いが、私に届いて。

届きすぎて、頭が変になる。


話した事もないような隣のクラスの男子に、告白されるどころか、それ以上の事が起こっているのだ。

「平塚先生。どうなんですか。」

先生は、ずっと黙っている。

「先生?」


返ってくる言葉がなくて、不安になるのが半分、納得するのが半分。


「先生、まさかとは思うけれど……」

葉山君が一歩、踏み出した時だ。


「気にし過ぎだよ。」

葉山君の前に立った。

「私達、別に付き合ってるわけじゃないんだよ?」

無理に笑って見せた。

「先生とは、ほんとさっき久々にあっただけ。私、先生に憧れてたから、盛り上がったけど。それ以上何かあるわけじゃないよ。」


これでいい。

葉山君の前では。


「そうだ。葉山君、さっきのお誘い、まだ大丈夫?」

「えっ?」

「お兄さんに車で送って貰うって。」

「ああ……」


先生はそれでも、何も言わない。

先生にとっては、一夏のお遊び。

だとしたら、のめり込むだけ損をする。

「兄貴に聞いてくる。」

葉山君は、お兄さんがいる場所に走っていった。

葉山君が遠くに行った後、しばしの沈黙。

「本当に葉山に乗せて貰うのか?」

「わかんない。」

勢いでつい言ってしまったとは言え、随分浅はかだったと後悔した。

でもその後悔も遅かった。

葉山君は、意外に早く戻って来た。


「兄貴に許可もらった。兄貴の彼女もいるけど、気にしないで。」

やっぱり断るべきか。

ちらっと先生を見た時だ。

「よかったな。」

先生の弱々しい返事。

「じゃあ、二人とも気をつけて帰れよ。」

先生はそう言うと、私達に背中を向けて行ってしまった。


「行こう。」

葉山君は私の背中を軽く押す。

その力を借りても、私の体は動かない。

「藤沢?」


本当は動きたくない。

先生と一緒に帰りたい。

でも先生を突き放したのは、誰でもない私だ。

葉山君が遠くに行った後、しばしの沈黙。

「本当に葉山に乗せて貰うのか?」

「わかんない。」

勢いでつい言ってしまったとは言え、随分浅はかだったと後悔した。

でもその後悔も遅かった。

葉山君は、意外に早く戻って来た。


「兄貴に許可もらった。兄貴の彼女もいるけど、気にしないで。」

やっぱり断るべきか。

ちらっと先生を見た時だ。

「よかったな。」

先生の弱々しい返事。

「じゃあ、二人とも気をつけて帰れよ。」

先生はそう言うと、私達に背中を向けて行ってしまった。


「行こう。」

葉山君は私の背中を軽く押す。

その力を借りても、私の体は動かない。

「藤沢?」


本当は動きたくない。

先生と一緒に帰りたい。

でも先生を突き放したのは、誰でもない私だ。


ほんの少しのすれ違いで、こんなにも離れてしまうんだと言うことを実感した。

「こんな事、言うべきじゃないのかもしれないけど……」

葉山君が私の腕を掴んだ。

「先生とは、うまくいかないと思う。」

「……どうして?」

答え難そうな表情を浮かべる葉山君は、ぎゅっと私の腕を強く握った。

「誰にも言えない恋なんて、幸せなわけないよ。」


幸せな恋。

それが何かを知るには、あまりにも私は経験が少ない。


「そろそろ行こう。兄貴達、待ってるよ。」

「うん。」

もういなくなってしまった人を追いかけても、仕方がない。

今はこの腕を強く掴んでくれている葉山君を頼るしかない。

私は葉山君と一緒に、お兄さん達が待つ車へと向かった。


時間にして約10分くらい。

でもその10分が、やけに長くて。

果てしない道を一歩、また一歩、重い鎖をつけて歩いているような感覚に襲われた。

「やっと来た。」

私と葉山君の存在に、一番に気づいてくれたのは、お兄さんの彼女だった。

「はじめまして。宜しくね、芽依ちゃん。」

気さくに話しかけてくれる。

とてもいい人なのだと思う。

「はじめまして。ご迷惑おかけします。」

「迷惑だなんて。ねえ、修一。」

彼女さんが、お兄さんを肘で突っつく。

「そうだよ、芽依ちゃん。裕志の友達だったら全然迷惑じゃないよ。」

二人ともニコニコして、私を迎い入れてくれている。

それに少しほっとした。


「藤沢、こっちに乗って。」

葉山君が後ろの席のドアを開けてくれた。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

私達の会話に気を良くした、お兄さんと彼女さんも車に乗り込む。

「藤沢、奥につめて。」

葉山君が乗ろうとした時だ。


誰かに葉山君が、引っ張られた。

「悪い、葉山。藤沢は俺が送って行くよ。」


ハッとして上を見上げた。

この声は、

「先生……」

ドアの外で、先生がニヤッと笑ったのが見えた。


「えっ?どういう事?」

彼女さんが、車の外に出る。

「すみません。ご親切に送って頂けるところ。」

「あっ!いえ……」

彼女さんはうろたえながら、葉山君を見る。

「葉山、いいよな。俺が送っても。」

葉山君は、大きくため息をつく。

「藤沢がいいんだったら。」

かくして、先生に付いていくかどうかは、私に委ねられた。


「藤沢。無理しなくていいんだぞ。」

葉山君が私を気遣ってくれる。

ここで先生に行ったら、いかにも先生と特別な関係だっいて言ってるものだ。

でも……


「行こう。」

差し出された先生の手を、振り払うなんてできなかった。

私は車の外へ出ると、葉山君に深くお辞儀をした。

「ごめんなさい。自分勝手で。」

葉山君は何も言わずに、車の中に乗り込んだ。

「兄貴、車出して。」

それだけを告げて。

「いいのか?裕志。」

「ああ。本人がそれでいいって、言うのなら。」


すると彼女さんも助手席に乗って、数秒後。

葉山君のお兄さんの車は、動き出した。

車が走り去った後、先生は私の手を握って、自分の車まで、連れていってくれた。

「先生。ごめんなさい。」

謝って済むことじゃないのかもしれないけど、私はとにかく謝った。

「いいんだ。そんな事。」

「先生……」

顔を上げて、ニヤッと笑う先生に、ホッとする自分がいた。


「それにしても、」

先生は自分の車に手を付きながら、得意げに言った。

「ちょっとドラマチックなシーンだっただろう?」

「はい?」

予想外の発言に、憂鬱な気分が一気に吹き飛ぶ。


「他の男に連れて行かれそうな時に、助けに入るヒーロー。ってか?」

「全然違うシチュエーションです。」

「そうか?」

首を傾げながら、先生は私に車に乗るように指示した。


「結構カッコ良かったと思うんだけどな。」

不貞腐れながらも、今の状況を楽しんでいる先生が、そこにはいた。

「小説に使えそう?」

「うんうん。って言うか使う。葉山には悪いけれど。」

それがとても可笑しくて、つい笑ってしまった。

「あっ、笑ったな。」

「だって。先生、呑気過ぎて笑えてくるんだもん。」

ちょっとお腹もよじれそうになる。


「芽依。」

「ん?」

隣にいる先生が、真剣な目で私を見つめている。

「今日、楽しかったか?」


今日一日、いろんな事があった。

先生と初めてドライブした。

海で一緒に、波を追いかけっこした。

同級生に見つかった。

人生初の告白をされた。

先生に彼女がいたって知った。

辛い思いをした。

嫉妬もした。

先生以外の男の子に付いて行った。

先生が迎えに来てくれた。


思い出せば切りがない。


「うん。楽しかった。」

それしかない。

「芽依……」

見つめあって、だんだん先生の顔が近づいてくる。

「先生……」


先生の瞳に私が写った瞬間。

先生の唇が重なる。

二人の舌が絡まって、息もできなくなる。

ああ、このままもしかして、シートを倒されて、先生に抱かれるのかな。

私は自然に目を閉じた。

「芽依……」

「先生。私、いいよ。」

そう答えた瞬間。

両頬を、ビタンと叩かれた。


「痛い‼」

目を開けると、先生がニヤッとした。 

「芽依のスケベ。」

「は?」

「このまま、車でHすると思っただろ。」

「!!」

図星過ぎて、顔がゆでダコみたいになる。


「残念。ここでやったらみんなに丸見え。」

私は急いで辺りを見回す。

気づかなかったけれど、結構な人が駐車場にいる。

「それとも他の人に、Hしてるとこ見せる?」

「絶対に嫌‼」

先生は大笑いしながら、車のエンジンをかけた。


「帰ろうか。家に。」

その誘いが嬉しくて、外を見ながら私もニヤけてしまった。

「うん。」


車はゆっくり動き出す。


先生と付き合っているのかなんて、わからない。

でも先生と一緒にいるこの時間を、大切にしたいと思える一日だった。
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