【R18】この夏、君に溺れた

日下奈緒

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デートシーン

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ー 明日も一日、俺と一緒にいないか?

ー 塾を休んで?

ー そう。

ー 何かあるの?

ー 小説にデートするシーンがあるんだよ。それの下見。なっ!付き合えよ。


昨日の夜。

先生の腕枕の元、そんな約束をしてしまった私は、人生初。

塾をさぼってしまった。


「どこへ行くんですか?」

「うん。海にでも行こうか。」

「海ですか。」

二人で朝食のお味噌汁を飲みながら、まったりとした時間。

ちなみに、このお味噌汁は具材は私が切り、味付けは先生がするという、二人の合作だ。


「なぜに海ですか?」

「この前、海に行こうかって話たろ。」

そう言えば、そんな事言ってたっけ。

「ごちそうさまでした。」

「うわっ!先生、早い!」

「芽依が遅いんだよ。遊びに行く時は、全てをスピーディーに済まさないと。」

「は~い。」

その間に先生はもう、食器を洗っている。

それを恨めしそうに見つめる私。

ク~~

アラサー独身男性をなめていた。


「食べ終わった?」

「あっ、はい。」

「持ってきて。」

言われるまま、自分の食器をキッチンに持って行く。


「ここに置いて。洗うから。」

そのままシンクへ置くと、当然のように私の食器を洗い始める先生。

それを斜め後ろで、見守る私がいる。

見守る?

いやいや、見守ったらいけないでしょ。

一応私、女なんだし。


「先生……」

「ん?」

「私の分、自分で洗います。」

先生は、目をぱちくりさせている。

「嬉しいけど、もう洗い終わってるし。」

「えっ‼」

見ればもう全ての食器は、綺麗に片付いている。


早すぎる!

しかも私、情けな!!


「すみません。」

「なんで謝るの?」

「だって一応、私女なのに。食器も洗わないなんて。女として恥ずかしいって言うか、」

「そこまで考えられるなら、いいんじゃない?」

私の頭を撫で撫でして、先生はキッチンを後にする。

「それにさ。今の時代、男も皿洗いするよ。」

私は先生の後を、付いていく。

「二人ですればいいんじゃない?」

「……うん。」

私が微笑むと、先生も微笑む。

そして私は、心までぽかぽかしてくるのだ。


「早く出掛けよう。」

「うん、行こう行こう‼」

二人でバッグを持ち、玄関を出た。


「あら、平塚さん。」

声のする方を向くと、年配の女性が一人立っていた。

「これはこれは、大家さん。お久し振りですね。お元気でしたか?」

すると大家さんは、先生と仲がいいのか、私にお構い無く近づいてきた。

「ええ。元気でしたよ。あなたもお元気そうね。」

腰が半分曲がっているシワクチャのお婆さんだと言うのに、先生を見て生き生きしている。


先生は生徒だけではなく、こんな年配の人にも人気なのだろうか。


「ところで平塚さん。この方は?」

年配の人になると、周りを見てないようで、よく見ている。

「ええっと……この人は、」

しかも先生、困ってるし。

「親戚の者です。」

「親戚?」

ちょっと大家さん、年寄りなのに眼光鋭いよ。

「はい。私のお母さんの従兄弟です。ねえ、孝ちゃん。」

「孝ちゃん!?」

私は余裕の笑顔で、大家さんをすり抜けた。

「じゃ、そう言う事で!大家さん、また!」

気を使いながら後を付いてくる先生。


「思いきった事言うな。俺はいつからお前の母親の従兄弟になったんだよ。」

「ついさっき。」

「悪い女。」

「機転が利くって言って。」

だってせっかく塾をズル休みしてまでの、先生とのデートだもん。

邪魔なんて、入ってほしくないもんね。


「で?海まで何で行くの?」

「ああ、駅前でレンタカー借りる。」

先生が指差した方へ、一緒に歩く。

なんだかワクワクする。

先生の運転で、海までドライブだ。

「鍵はこちらになります。書類は、運転席の脇に挟んでおきますね。」

レンタカーのお店のお姉さんに説明を受け、先生はいつもと違って、好青年のオーラを出している。

お父さん以外の人が運転する車。

それだけで、ワクワクドキドキする。

その気持ちが伝わったのか、お店のお姉さんと、ばっちり目があった。


さすがはサービス業。

嫌みのない満面の笑みに、こちらまで笑顔になる。

「可愛い方ですね。彼女さんですか?」

お姉さんの質問に、ドキッとする。


私、先生の恋人に見えるのかな。


でもそのドキドキもつかの間。

「いえ。従姉妹の子供なんですよ。」

「へえ。」

そう言って先生は、お姉さんから鍵を受け取り、颯爽にレンタカーへと乗り込む。

なんでそこで、否定するかな。

「はい、芽依ちゃん。早く乗ってね。」

肝心の先生は、乙女心全く理解せず。

私は不機嫌な顔つきで、レンタカーに乗った。

「鍵はこちらになります。書類は、運転席の脇に挟んでおきますね。」

レンタカーのお店のお姉さんに説明を受け、先生はいつもと違って、好青年のオーラを出している。

お父さん以外の人が運転する車。

それだけで、ワクワクドキドキする。

その気持ちが伝わったのか、お店のお姉さんと、ばっちり目があった。


さすがはサービス業。

嫌みのない満面の笑みに、こちらまで笑顔になる。

「可愛い方ですね。彼女さんですか?」

お姉さんの質問に、ドキッとする。


私、先生の恋人に見えるのかな。


でもそのドキドキもつかの間。

「いえ。従姉妹の子供なんですよ。」

「へえ。」

そう言って先生は、お姉さんから鍵を受け取り、颯爽にレンタカーへと乗り込む。

なんでそこで、否定するかな。

「はい、芽依ちゃん。早く乗ってね。」

肝心の先生は、乙女心全く理解せず。

私は不機嫌な顔つきで、レンタカーに乗った。

「なんでそんなに、不機嫌かな。」

「なんでここで、ウソつくかな。」

頭にきて、先生の口調真似してやった。

「自分が最初に言ったんだろ?」

手慣れた感じで、先生は車のエンジンをかける。

「それはそれ。これはこれ。大家さんに彼女って言ったら、『まあこんなに若い彼女だなんて!!』って、また根掘り葉掘り聞かれるでしょ。」

すると先生は、ラジオをかけた。

「レンタカーのお姉さんにだってそう。正直に答えたら、また変な空気になるし。」

先生はハンドルに両腕を付きながら、こっちを向いた。

「それとも正直に『彼女です。』って言って、お姉さんにじろじろ見られたかった?」


その場面を想像すると、ブルッと体が大きく震えた。

「ううん。」

「じゃあ、わかったところで出発進行。」

すると先生は、ゆっくりと車道に出た。

走りはスムーズだ。


「先生、運転上手い。」

「ははは。ありがとう。」

真面目に言ったのに、笑いで返された。

いつの間にか車は、バイパスに入って、真っ直ぐ海へ向かう。

「ねえ。どうしてデートシーンで、海に行くの?」

「ん?ああ……主人公二人が出会うのが、海なんだよ。」

「出会いが海なの?」

「そう。そんで新学期が始まって、二人は担任と教え子という形で再会するんだ。」


いつも黙々と書いている先生。

まさか小説の内容を教えてくれるなんて、思ってなかった。


「さっきの会話も使うの?」

「さっきの?」

私は体を先生の方に向けた。

「レンタカーで親戚だって、ウソついた事。」

「ああ!」

先生はしばらく迷った後、笑いながら言った。

「使っちゃおうかな~」

あまりにも先生が楽しそうに話すから、私も楽しくなってきた。

「やっぱり~?」

「ウソ。使わない。」

「そうなの?」

「やっぱ使う。」

「もう~どっち~?」


そう言いつつも、どっちでもよかった。

先生と楽しく時間を過ごせれば。

しばらく走って、海が見えてきた。

「ええ!もう海?」

「近いだろ。俺の一番お気に入りの場所。」

先生のお気に入りと聞いて、嬉しくなる。


「先生はさ。なんで小説書こうと思ったの?」

流れに任せて聞いてみた。

「さあ。なんでかな。」

先生も流した。

「だって教師を辞めてまで、なりたいと思ったんでしょ?」

「俺、最初から教師になろうなんて、思ってないよ。」

「えっ?」


私の中にぽっかり穴が開いた感じがした。

「がっかり?そんな奴に一年間、教えて貰ってたかと思うと。」

先生はあっさり答えを言ったけれど、それだけじゃないなにかが私の心を捉えていた。


教師と言う職業は、人気があって。

誰にでもなれるようなモノじゃない。

教師になった後も、立派な教師になる為に必死に頑張っている姿は、憧れの対象だった。

もちろんそれは、私たち生徒側の勝手な思い込みにすぎないのだろうけど。

「でも俺、日本語は好きだよ。」

「はあ……」

憧れを打ち砕かれた今、何を聞いても心には届かない。

「日本語の繊細さとか、響きの美しさ、奥ゆかしさとか。一人でも多くの人に知って貰いたい。芽依達に授業していた時も、それだけは伝えようって俺なりに頑張ってたつもり。」


ふいに先生の授業が、目に浮かんだ。


『この言葉、いいだろう?これが日本人らしさなんだ。』


よくそんな事を私達に言っていた。

「あの時の俺に、嘘はないよ。確かに俺はあの一年。国語の教師だった。それだけは胸張って言える。」

「先生……」

改めて先生には、『先生』って言う呼び名が似合うと思った。

私達は確かに平塚先生の、教え子だったんだ。

「だからなのかな。日本人らしい話を書きたいよ。それが小説書き始めた理由。これでいいかな、芽依ちゃん。」

「はい。」

完璧な答え。

この時はそう思っていた。

「さあ、海に着いた!」

車から降りて、砂浜を歩く。

寄せては返す波が、居心地いい。

「綺麗………」

目の前の景色に気を取られて、足元がすくわれた。

「危ない。」

間一髪、腕を支えられて転倒を免れた。

「……有り難うございます。」

「ん。うん。」

しばらくしても、腕を離さない相手に、目が合う。

「えっ……」

「いや、気をつけろ。」

ぶっきらぼうに言い渡す先生が、返って可愛く見える。

照れたように、私の少し前を歩く先生。

波打ち際に着いて、テンションが上がった。


「先生、追いかけっこだよ。」

私は引いた波を追いかけ、寄せる波に濡れないように逃げた。

「はははっ!上手い、上手い‼」

私の遊ぶ様を見て、自分も面白くなったのか、先生も横に来て、一緒に追いかけては寄せる波に逃げた。

「ほら来た!」

特に勢いよく来る波には、二人で手を繋ぎながら逃げた。


この時間がずっと続けばいい。

そう思った時だ。


「平塚先生?」

聞き覚えのある声がした。

「やっぱ平塚先生だ。」

一人近づいて来た姿を見て、私は先生から離れた。


この人、隣のクラスの男子だ。


「葉山じゃないか。久しぶりだな。元気か?」

「はい。先生も元気そう。」

「はははっ!そうだな。」

楽しそうに話してる中で、葉山と呼ばれた男子生徒は、私をちらっと見た。


「……藤沢?」

体がビクッと動いた。

「隣のクラスの藤沢だろ?なんで先生と一緒にいるの?」


バレた。

先生と一緒にいるところを見られた。

「まさか、二人………」

私と先生を交互に見るその目は、私達を疑っている。

「そんなわけないだろ。」

先に否定したのは、先生だった。

「藤沢とはさっきここで会ったんだよ。」

「へえ………」

そして私をじーっと見る葉山君。


「そっか。そうだよな。先生、彼女いるしな。」


葉山君の言葉が、胸に突き刺さった。
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