【R18】この夏、君に溺れた

日下奈緒

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朝も昼も夜も

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「ふふふっ!私もそう思います。私、自分の名前、好きですから。」

「へえ。そうなんだ。じゃあ、両親に感謝だな。」

「はい‼」

私達は他の人が見たら、バカップルなんじゃないかと思うくらいに、お互いを見つめあって、照れながら笑い合った。


もしかして、もしかして。

この雰囲気なら、普段口に出せないことも、思いきって言えるかも。


「あのね、先生。」

「何?」

その優しい返事が、余計私の心を駆り立てた。

「私ね、もう一つ、自分の名前が好きな理由があるの!!」

自分でも信じられないくらいに、興奮していた。

「実はね、May,Jも本名、メイって言うの!私と一緒なんだよ~~!!」

興奮し過ぎて、息が切れた。

「May,J?」

「うん‼」


だけど先生のリアクションは鈍い。


「ああ、俺、メイって『となりのトトロ』に出てくるサツキとメイの方だと思ってた。」

「サツキとメイ?」

先生は口元を指で広げた。

「いるだろう。小さくてパンツ見えそうな感じで走ってる女の子が。」

「なっ!」

パンツ! パンツ見えそうって!!


「猫バスで見つけた時、トウモロコシ持ちながら泣きべそかいてたメイちゃんだよ。」

失笑している先生に、口を尖らせた。

「うわっ!益々メイにそっくり。」


もう限界。

私は先生の体を、何度も叩き始めた。

「痛い痛い!止めろって!」

もう一回おまけに叩いてやろうかと思ったのに、それは簡単に先生の手に阻まれた。

「芽依、もう終わり。」

不意にも名前で呼ばれた事に、心臓が高鳴る。


「だって……」

「だって?」

「……そんなパンツ見せてるような子供じゃないもん。」


わかってる。

先生から見たら、まだまだ泣きべそかいてるメイちゃんと同じだって。

「そうだな。」

先生はその一言だけ言い残すと、クルっとテーブルの方を向き、また小説の続きを書き始めた。

面倒くさがられた。

いちいち相手にしてたら、肝心の執筆が進まない。

絶対そう思われた。


お風呂に入った後、髪を乾かしながら、明日、塾に行く準備をする。

いつもはここで、宿題忘れたとか、辞書がない参考書がないだの騒ぐけれども、我慢する。

もう先生の邪魔はしたくない。


そう言ってる矢先に、早速明日使う辞書が行方不明。

あ~あ。

私、何やってるんだろう。


軽くため息をつきながら、辺りを探す。

確か日中、ここで使った気がした。

早く探さなきゃ。

でなければ、また先生の、


「何探してんの?」

ほら、始まった。

「あっ、いや。自分で探します。」

「一人で探すより、二人で探した方が、早いだろ。」

そう言って先生は、執筆している手を止めて、私の側に来た。

「で?何?」

黙っていると、私のバッグの横を、右や左に体を揺らしながら詮索。

「もしかして、辞書?」

なんでわかっちゃうかな。

私は観念して、頷いてみた。

「昼間、この辺で使ってなかったっけ?」

はい。

そんな事をまで、知ってるんですか。


「あっ、ほら。あった。」

先生が探し当てた場所。

そこはベッドの下だった。

なんで、そこ!?

先生から辞書を受け取りながら、反省。


「有り難うございます。」

「うん。」

辞書から手を離しても、先生は一向に立ち上がらなかった。

「しっかし、ベッドの下って。どこをどうしたら、そんなとこに辞書置けるんかな。」

この一言が、私の胸に刺さった。

「どうせ子供です。」

「へっ?」

先生が呆れた顔で、私を覗き込む。

「子供だから、変な場所に物を置いちゃうんです。」


受け取った辞書を持って、先生に背中を向けた。


「もしかして、昼間言ったことまだ気にしてんの?」

私は手をぎゅっと握った。


また子供だと思われた。

するとお決まりの、後ろからぎゅっと抱き締めポーズ。

先生は慰めてくれる時は、いつもこのポーズ。

この一週間で、大分わかった。


「芽依。ごめん。」

変わったとすれば、いつ頃か私の事を名前で呼ぶようになった事だ。

「言い過ぎた。ほんの冗談。芽依の事、子供だと思ってないよ。」

「先生……」

私は抱き締めてくれている先生の腕に、そっと触れた。

「もちろん、まだ自立してる大人じゃないとは思ってるけど、ちゃんと自分で自分の道を決められる。もう子供じゃない。」

なんだか胸がホカホカしてくる。


「それに子供だと思ったら、芽依の事抱いてないでしょ?」

「そうなの?」

先生の腕の中で、クルっと体を振り向かせた。

「当たり前。」

すると先生は、私の背中と足を、抱き抱えた。

俗に言う、お姫様抱っこ。

もちろん、男の人にしてもらうなんて初めて。


「重い、ですよね。」

「ううん。全然。」

すると私の額に、チュッとキスを一つ。

「女性一人抱えきれなかったら、男なんて勤まりませんよ。」

そう言って先生は、私をベッドにそっと降ろした。


「さあ、お姫様。どこに触れて欲しいですか?」

「えっ……」

途端に顔が、赤くなる。

「どこでも仰ってください。あなたが望む場所、全て気持ちよくして差し上げますよ。」

そんな言葉使いされて、気が狂う。


「どうしました?恥ずかしがらずに、仰ってください。」

「ぷっ!」

あまりにも執事キャラが似合わなくて、思わず笑ってしまった。

「何で笑う?」

「だってそう言う口調、先生には似合わないんだもん。」

私の目の前で、項垂れる先生。

もしかして本人的には、イケテると思ってたのかな。


「じゃあ、どういう口調がいいの?」

「どういうって……」

そんな飾った先生はいや。

「いつもの……先生がいい。」

ギャッ!

言っちゃった‼

赤くなる顔を両手で覆う。


「いつもの?」

だけど本人は困惑気味。

「わかった。いつも通りに……、芽依。」

「はっ、はい。」

私は顔を覆っていた両手を、顔の脇に置く。

「俺にどうして欲しいか、教えて。」


う~ん。

その甘い声での要求。

悪くはないんだけど。


「なんか、まだ先生じゃないみたい。」

「はあ?」

先生の呆れた顔。

あっ、それそれ。

「その顔……」

「この顔?」

「責められてるみたいで、ドキドキする……」

私の胸はキュンキュンしていると言うのに、何故か先生は苦笑。

「先生?」

「お前はマゾか。」


えっ?

マゾ?

マゾって、叩かれて喜んでいる人?


「違います‼」

「はいはい。」

するとまた先生が、私の上に覆い被さった。

「いいから教えろ。お前の感じるところ。」

ゾクッとした。

背中が悶える。

「ほら、どこ?」

私はたまりかねて、横を向いた。

「首?」

そう聞くと先生は、私の首筋を舌で何度もなめ回してきた。

「胸?」

そして次は、大きな手で私の胸を包み込む。

「はぁぁ……」

思わずこぼれた吐息に、先生は気分が乗ってきたのか、少しずつ少しずつ、私の体に触れてくる。


「せんせぇ。」

「何だ?」

「もう私の事はいいから、今度は先生が気持ちよくなって。」

すると先生は、私の体をぎゅっと、抱き締めてくれた。


あっ……

こうして裸同士で抱き合うと、とても温かい。

「芽依。」

「ん?」

「俺だけじゃダメなんだ。」

私を見つめる先生の眼差しは、優しい。

「芽依も気持ちよくならなきゃ。」

「先生……」

すると先生は、私を頬を長い指でなぞった。


「二人で、一緒に、気持ちよくなろう。」


そして私はその夜。

なぜその行為を、『愛し合う』と言うのか。

少しだけ、わかった気がした。
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