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朝も昼も夜も

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その日は朝から、先生の視線が違った。

「何ですか?」

思いきって聞いた私に、先生は頭を掻きながら聞いてきた。

「ああ、いや、その……塾に行かないのかなって、思って……」

例えて言うならば、母親と再婚した若い男性が、父親になろうと奮闘、もしくは気を使っているみたいだ。

「今日は日曜日なんで、お休みです。」

「塾が休み!?」

なぜ、そんなに驚くのか。

先生は面白いくらいに、おどおどし始めた。

「……何かまずいことでも?」

「いや!」

力強く否定した割には、悩む姿が半端ない。


私はちらっと、部屋の中にあるゴミ箱を見た。

書き損じた原稿用紙が、山のように積み重なっている。

おそらく、締め切りを前にして、話が進んでないのだろう。

そんな時に、人がいたら余計に気が散る。

勉強と一緒だ。


「……ああ、私、別な部屋で勉強してますよ。」

そう言って私は、寝室に移動した。

「えっ…… 」

先生が寝室に入って来る。

寝室には小さな稼働式のテーブルがあって、それを窓の側に移動させた。

「いいのか?」

先生の優しい声が、聞こえてくる。

「はい。私も一人の方が、勉強に集中できるし。」

「そっか……」

先生はほっとした表情を浮かべて、申し訳なさそうに髪をかきあげた。


「何かあったら早く言えよ。」

「ほ~い。」

私の適当な返事に、笑う先生。


本当はせっかくの休みなんだから、先生と一緒にいたい。

でも先生の夢を、邪魔するような女にはなりたくない。


いいのさ。

先生の笑顔が見られるんだったら、少しの寂しさなんて、克服してやる。


先生が、居間に戻った後、私はため息をついた。

勉強なんてしたくない。

家から持ってきたマンガ、読み干したい。

それよりも、先生とイチャイチャしたい。


そして、今度は大きなため息をついた。

私、欲求不満なのかな。


何気なく学校の教科書を開いてみた。

国語の教科書。

去年は、先生が教えてくれていた科目。


今は産休明けの先生が教えてくれているし、教科書自体、平塚先生が教えてくれた物とは違うけれど、目を閉じれば先生の授業風景を思い出す。




『じゃあ、ここを藤沢。読んで。』

『は、はいっ!』

立ち上がる私。

教科書二頁分を、スラスラと読み上げる。

『OK。ありがとう、藤沢。』

その先生の笑顔が、頑張ったご褒美だ。

一人ニンマリと、教科書で顔を隠す。

すると、いつの間にか先生が目の前に。


まずい。

ニヤけてたの、バレたかな。

教科書を置き姿勢を正すと、何故か先生は私の前にしゃがみ込む。

『藤沢の声、いつ聞いてもいいな。』

えっ?

先生?

『その声、俺だけのモノにしたい。』

そして、迫ってくる先生。

『せ、先生?』


教室だと言うのに、近づきやしないか?

『藤沢……』

先生の顔が、やけに近い。

『あっ、先生……』

近づいてくる唇に、避ける事ができない。



「先生、ダメぇっ!」

「おい、藤沢!」

その声で、目がぱっちり開かれた。

「俺が、何かしたか?」

目の前の先生は、私の横にしゃがんではいるが、明らかに心配そうな視線をしている。


うわっっ。

短い間に夢見てた。


「はっ?お前、寝てたの?教科書開いたばっかりだぞ。」

むくれながら教科書を閉じる。

仕方ないじゃん。

先生の夢、見ちゃったんだから。


「食い物の夢か?」

「えっ?」 

先生が口元を、人差し指でトントンと、指差す。

「ヨダレ、垂れてる。」

私は、恥ずかしくてすぐに腕で、口元を拭った。


ひぃぃぃぃ!

私、寝る時に、口を開けて寝ちゃうんだよね。

それを見られたなんて、最悪。


「あっ‼まだ付いてる。」

先生は近くにあるティッシュを取ると、私の口の脇を拭いてくれた。

「ったく……ヨダレ垂らすなんて、もっと大人になれよ。」

先生の飽きれ顔に、胸がズキッと痛くなる。


「………私だって早く大人になりたいもん。」

無意識に両足を、胸に抱き抱える。

「早く先生に釣り合う女になりたい。」


言ってから恥ずかしくなって、顔が赤くなる。

「ごめんなさい。変な事言いました。」

そして、先生に背中を向けようとした時だ。

先生の温かいぬくもりが、私を包んだ。


「そんなに早く、大人にならなくていいから。」

そう言って、私を抱き締める腕が、強くなる。

「なんか先生、わかんない。さっきは大人になれって言ったり、今度は大人になるなって言ったり……」

「そうだよな。すまん。」


先生はずるい。

そんな事言われたら、何も言えなくなる。

私は、私を抱き締める先生の腕を、そっと撫でた。


「うん。」

そう言って先生を見つめたら、お互いの唇が重なった。

唇が離れたら、恥ずかしさ倍増。

すると先生は、私の手を引いた。

「なあ、こっちに来て。」

「えっ?」

連れて行かれたのは、後ろにある私達が寝ているベッド。

「脱いで、服。」

「ええっ!」

驚いている間に、先生がTシャツを脱ぐ。

「ひゃああ‼」

思わず両手で顔を隠すけれど、指の間から引き締まった細い体が見えた。


「無理!無理!まだ日中だし‼」

「関係あるかよ。」

そう言って、先生は私の上に乗りかかった。

「いや、多いにあります!!」


あるって言ってるのに、既にブラジャーは先生の手によって陥落。

引き続いて、胸から麻薬のような快楽が、押し寄せてきた。

「先生、待って……カーテン閉めて………」

「昼間からカーテン閉めたら、いかにも『やってます。』って、言ってるもんだろ。」

いつの間にか服は全て脱がされ、全身が先生の手に、敏感になっている。

部屋中に私の吐息が響く。

こんな、こんな、昼間からエッチするなんて。

いけない事、してるみたい。


「どうした?」

「ううん………」

なんだか言うに言えなくて、先生の肩に顔を埋めた。

「もう、いい?」

「あっ、待っ………」

待ってって言おうとしたのに、私の中に先生が入ってくる。

「あぁっ……せんせぇ…………」

「待てるわけがないだろう。こんなに、俺の指でトロトロになってるのに。」


先生が動くリズムに合わせて、私の声がタイミングよく出る。

まるで二人で音楽を、奏でているようだ。


「なんか、せんせぇ…………指揮者みたい。」

「はあ?指揮者?」

私の突拍子のない発言に、先生の動きが止まる。

「だってぇ……先生に合わせて、声が出るんだもん。」

すると先生は、私の事を強く抱き締めて、唇から舌を絡めてきた。

「んんんっ」

思わず吐息が漏れる。


「チューニング終了。」

「えっ?」

「あとは芽依が、甘い歌を聞かせて。」

すると先生は、ゆっくりと動き出した。

「あぁぁ………」

「いい声だよ。」


時には深く、時には激しく、私の快感は終わるまで、先生の意のままだった。


気づいたらウトウトしていた私の側で、先生はボーッとタバコを吸っていた。

「先生……」

呼んでいるのに、こっちを向かない。

「先生、タバコの灰、落ちそうだよ。」

言っても、まだ気づかない。

私はそっと灰皿を渡した。


ようやく周りが見えたのか、先生は私と目を合わせてくれた。

「ああ、すまん。考え事してた。」

「小説の事?」

「うん。」

返事をすると先生は、灰皿にタバコを押し当てると、ベッドから飛び出した。

「ごめん。ちょっと原稿書いてくる。」

そう言って、床に置いてあったTシャツを着た。


「はい………」

私はうつ伏せになると、枕に顔を沈めた。
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