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先生の部屋へ居候
③
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「おはよう、藤沢。」
次の日の朝。
先生は前の日の晩の事を忘れているかのごとく、教師に徹していた。
「おはようございます。」
タオルで顔を拭きながら、不貞腐れた顔を見せないように頑張った。
何なのよ。
昨日の夜、私のこと名前で呼び捨てにしたくせに!
あんなに甘い声で、『芽依』って呼んだくせに!!
なんで朝になって、何でもない様に苗字て呼ぶのよ!!!
「あのさ。」
「はい?……はっ!!!!」
あまりにも腹が立って、低い声で答えてしまった。
「す、すみません。」
「いや、その……」
お互い恥ずかしい夜を過ごした後の朝にしては、気まず過ぎる。
「今日も塾?」
「はい。塾です。」
なぜかシーンとなる洗面台の前。
「じゃあ、朝ご飯作らないと。」
先生はスッと立ち去り、キッチンでガサゴソ、朝食を作り始めた。
その背中を遠くから見る、女子高生一人。
いや、これまずいでしょう。
いくら私が女子高生だって、男の人に朝食を作らせるなんて。
私は拳をグッと握り締めると、先生の待つキッチンへと向かった。
「先生!」
「は、はいっ!」
驚き過ぎて先生はフライパンを、落としそうになっている。
「な、なに?」
「私が朝食を作ります!」
言った後、先生の目が点になる。
「えっ?」
「あ、いや……もう出来上がっているけど………」
側にある皿を見ると、そこにはウィンナーに目玉焼き。
加えてお味噌汁まで用意されていた。
「すごい……先生!」
あまりの手際の良さに、返って尊敬の眼差し。
「すごかないよ。ただ焼くだけだし。味噌汁インスタントだし。」
「でも!私はすぐに用意できないです!」
生意気にも誉めたつもりなのに、先生は馬鹿にしたような目。
「えっ?」
「お前、これくらいの事できなかったら、結婚できないぞ。」
「うっ!!」
け、結婚できない!!
あまりの言葉に、後ろへよろめく。
「おい、大丈夫か?」
フライパンを置いた先生が、片手で私の腕をキャッチ。
「大丈夫じゃないかも~」
まだ高校生のうら若き乙女に、結婚できんなどと抜かした事を謝らせてやる~~
私はちらっと、先生を見た。
早く、謝れ!!
念を送るけれど、一向にその表情は崩れない。
「まあ、別に……俺と結婚すれば、そんなに料理頑張らんでもいいぞ。」
「えっ!?」
け
け
け、
結婚!?
その瞬間、私の頭の中でウェディングソングが流れる。
「なんだよ、嫌なのかよ。」
「いやあ?あの、その、」
もう、待ってよ。
私まだ、高校生だよ?
結婚とか言われても、頭、パニくるって。
すると、先生はふいに掴んでいた私の腕を、払いのけた。
「せ、先生?」
「安心しろ。もしもの話だよ。」
そう言って先生は、ご飯とお味噌汁をテーブルまで持ってきた。
「ほれ、飯。」
「は、はい。」
先生がご飯とお味噌汁を置いてくれた場所に座ると、今度はその横に目玉焼きが置かれた。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
その言葉以来、なんの会話もなく、ただ箸と皿が交わる音と、食べる音だけが部屋の中に響く。
「美味いか?」
「ん?うん……」
「そうか。」
心なしかご飯を食べている時も、先生に見られているような気がする。
「ご飯……」
「はい?」
「いっぱい食べろよ。」
そのセリフ、なんだかお父さんみたい。
そんな事考えたら、ご飯を食べている最中なのに、ふふふっと笑いがこみあげてきた。
「何?その笑いは。」
「ううん。何でもない。」
「何でもなかったら笑わないだろ。」
「だってぇ。」
益々可笑しくなるのを我慢して、お味噌汁を飲み干した。
「いいから言えって。」
「ええ?」
右手にお箸、左手にご飯茶わんを持ちながら、じーっと見てくる先生。
あの~
そこまで気にする事ですか?
「いや、ちょっと……」
「ちょっと?」
「……お父さんっぽいなぁって、思っただけです。」
案の定、先生はガクッと肩を落とした。
そりゃそうだよね。
30にもなっていないのに、高校生からお父さんみたいって。
でもすぐに頭を持ち上げて、先生は反撃してきた。
「どこがだよ!俺のどこがオヤジっぽいんだよ!!」
「オヤジっぽいじゃなくて、お父さんっぽいって……」
「お父さん!?どう見たって、お兄さんだろ!!」
なんか、ここまで来ると面倒くさい。
「ごちそうさまです。私、塾行ってきます。」
「おうおう!しっかり勉強して来いよ!」
先生は勢いよく、お茶碗の上にお箸を置いた。
「もう、先生。うるさい。」
「うるさくて結構。俺はオヤジなんだろ?」
そう言って、先生は私に向かってベーッと舌を出した。
それを見て私は、近所の悪ガキを思い出した。
本当、忙しいな。
私の脳みそ。
「なんか……」
「あ?」
「先生、子供みたい。」
「子供!?」
私がお茶碗とお皿を持ってキッチンへ行くと、先生もお茶碗とお皿を持ってついてきた。
「オヤジの次は、ガキかよ!!」
「もう、それっぽく見えただけだってば。」
シンクの中に持ってきた物を入れると、蛇口をひねった。
スポンジに洗剤を染み込ませて、お皿を洗う。
「はい。先生のもここに置いて。」
「うん……」
そして先生が置いたお茶碗とお皿も、一緒に洗う。
こういう時、お母さんのお手伝いしててよかったなって思う。
「おまえ、皿洗えるんだ。」
お皿を洗っている途中なのに、ガクッと膝が落ちる。
何?
さっきお父さんっぽいって言った逆襲?
「もう、先生ってば。可笑しくて笑っちゃう。」
ハハハっと笑うと、先生の腕が後ろから、スルッと腰に回された。
「先生?」
「うん。」
うんって返事をしながら、先生の手が今度は胸に伸びる。
「先生、お皿洗えないよ。」
「洗わなくていいから。」
「また、そんな事言う。」
そう言えばさっき、もしもの話って流されたけれど、俺と結婚したら料理頑張らなくてもいいって言ってたっけ。
もしかして、先生って過保護?
「塾って……男いるの?」
「男!?男子生徒ってことですか?」
「うん。」
なぜか抱きつく力が強くなる。
なぜ?
なに?
どうして?
「男の子はいますけど……話さないんで。」
「そっか。安心した。」
先生は私の頬にチュっとキスをすると、私から離れた。
先生の手に触れられた胸がジンジンと熱くなっている。
肝心の先生は、何事もなかったかのように、パソコン立ち上げているし。
悔しいから、速攻でお皿を洗って、私も何事もなかったように、荷物を取り出した。
「じゃあ、行ってきます。」
「おう!」
右手だけ上げて、こっちを向かない。
むむむ。
手ごわい。
バックを肩に掛けると、下着がずれている事に気づいた。
外に出る前に気づいてよかった。
廊下に出るとバッグを置いて、袖から腕を中に入れた。
やっぱり。
さっき先生に触られたところが、少しだけずれている。
触るんだったら、責任持って直してほしい。
そんな訳のわかんない事を思いながら、服の中でモゾモゾと下着を直す私。
塾に行くって言うのに、何やってんだろ。
私。
「何やってんの?」
「うわああ!」
急に後ろから囁かれて、身体ごと飛び上がった。
後ろを見ると、先生はこっちを見ながらニヤニヤ。
「もしかして、足りなかった?」
「はあああ?」
何を言い出すんだ、この人は。
そう思っているうちに、廊下の壁に押し付けられる。
「ちょっと!」
「抵抗しちゃって、可愛いね。」
「いやいや!」
私、塾に行かなきゃいけないんだし、下着直している最中だし。
それなのに先生は、私の唇を塞いだ。
「んぁ……」
朝から濃厚なキス。
加えて直している最中の下着からは、また先生の大きな手が伸びて来て、その指先が甘い刺激を与えてくる。
「せんせぇ……」
「芽依……」
あっ、名前で呼んでくれた。
もしかして先生、Hな気分?
「芽依……今日、塾に行かないで俺の傍にいて。」
頭のてっぺんから、足のつま先まで、ドクンと心臓が大きく鳴る。
「えっ……」
迷っている私を自分に向けさせるように、先生は強く私を抱きしめた。
「芽依……」
すぐ側で、先生の息使いが聞こえてくる。
まるで夜、ベッドの中で先生に抱かれているかのよう。
頭がクラクラする。
私だって先生と一緒にいたい。
ずっと先生とこうやって、抱きしめ合って。
朝も昼も夜も、すぐ傍で先生を感じていたい。
「先生……」
このまま、今日塾、さぼっちゃおうかな。
そう思って、私も先生の体をギュッと抱きしめた時だ。
「すまん。塾に行く前に。」
先生は私の背中を、ポンっと軽く押すと、名残惜しそうに私から離れた。
「遅刻する。早く行け。」
そして、私のバッグを持ってくれた。
「あ、ああ……」
甘い雰囲気もどこへやら。
慌てて下着を直して、私は先生からバックを受け取った。
「行ってきます。」
「気いつけて。」
軽く手を振っている中、玄関の扉はゆっくり閉まった。
「おはよ、芽依。」
友達の美羽ちゃんが、席を取ってくれている。
「おはよ。」
テキストをバックから出して、昨日の続きを開く。
「なんか芽依、変わった?」
「へっ?」
私、何かした?
思い返しても、席に座ってテキストを取り出しただけだ。
「大人っぽくなった。もしかして、彼氏できた?」
「えっ……」
彼氏。
頭の中で先生が思い浮かぶ。
「いやあ……違うかも。」
「じゃあ、好きな人?」
好きな人……
「それも違うかも。」
「なによ、芽依。面白くない。」
急に不貞腐れる美羽ちゃん。
「面白くないって、美羽ちゃん、私たち受験生だよ?恋愛とかしてる暇ないって。」
なんとか美羽ちゃんのご機嫌を直るように、両肩を横から揉む。
「まあね。でも、それぐらいなかったら、この辛い受験戦争、勝てないわけですよ。」
「まあまあまあ。美羽ちゃん、落ち着いて。」
「ねえ、そう言えばさ。」
美羽ちゃんが、私の腕を肩から外して、顔を寄せてきた。
「去年、産休代理でうちのクラスに来ていた平塚先生っていたでしょう?」
「う、うん。」
一瞬、ドキッとした。
「先生ね、この辺に住んでるんだって!」
な、なんでそんな事知ってんの!
「そ、そうなんだ……」
「なによ、芽依。そんなの関係ないって顔して。」
「そうかな。」
私は美羽ちゃんとは、正反対の方向を見た。
「あれれ。平塚先生の事、好きって言ってなかったっけ?」
「そう……だったかな。」
「そうよ!だから平塚先生へのプレゼントに、こっそり電話番号入れたら?って言ったじゃない。その後、どうなったのよ。連絡来た?」
去年の事を知っている美羽ちゃんに、いろいろ聞かれるのはちょっと困る。
「ないよ。」
「ウソ~。」
「あるわけないじゃない?先生と生徒だよ?」
「そっか。」
そこで授業が始まって。
それ以上、美羽ちゃんと先生の話をする事はなかったけれど、実は先生から連絡が来て、一緒に暮らしているなんて言ったら、驚くかな。
そりゃあ、驚くよね。
だって、私だって驚いてるもん。
芽依
塾に行かないで、俺の傍にいて
先生の甘えた声。
急にどうしちゃったんだろう。
今も思い出すと、胸が締め付けられる。
ねえ、先生。
私、今目の前にある数式よりも、
あの時の先生の気持ちを解き明かしたいよ。
次の日の朝。
先生は前の日の晩の事を忘れているかのごとく、教師に徹していた。
「おはようございます。」
タオルで顔を拭きながら、不貞腐れた顔を見せないように頑張った。
何なのよ。
昨日の夜、私のこと名前で呼び捨てにしたくせに!
あんなに甘い声で、『芽依』って呼んだくせに!!
なんで朝になって、何でもない様に苗字て呼ぶのよ!!!
「あのさ。」
「はい?……はっ!!!!」
あまりにも腹が立って、低い声で答えてしまった。
「す、すみません。」
「いや、その……」
お互い恥ずかしい夜を過ごした後の朝にしては、気まず過ぎる。
「今日も塾?」
「はい。塾です。」
なぜかシーンとなる洗面台の前。
「じゃあ、朝ご飯作らないと。」
先生はスッと立ち去り、キッチンでガサゴソ、朝食を作り始めた。
その背中を遠くから見る、女子高生一人。
いや、これまずいでしょう。
いくら私が女子高生だって、男の人に朝食を作らせるなんて。
私は拳をグッと握り締めると、先生の待つキッチンへと向かった。
「先生!」
「は、はいっ!」
驚き過ぎて先生はフライパンを、落としそうになっている。
「な、なに?」
「私が朝食を作ります!」
言った後、先生の目が点になる。
「えっ?」
「あ、いや……もう出来上がっているけど………」
側にある皿を見ると、そこにはウィンナーに目玉焼き。
加えてお味噌汁まで用意されていた。
「すごい……先生!」
あまりの手際の良さに、返って尊敬の眼差し。
「すごかないよ。ただ焼くだけだし。味噌汁インスタントだし。」
「でも!私はすぐに用意できないです!」
生意気にも誉めたつもりなのに、先生は馬鹿にしたような目。
「えっ?」
「お前、これくらいの事できなかったら、結婚できないぞ。」
「うっ!!」
け、結婚できない!!
あまりの言葉に、後ろへよろめく。
「おい、大丈夫か?」
フライパンを置いた先生が、片手で私の腕をキャッチ。
「大丈夫じゃないかも~」
まだ高校生のうら若き乙女に、結婚できんなどと抜かした事を謝らせてやる~~
私はちらっと、先生を見た。
早く、謝れ!!
念を送るけれど、一向にその表情は崩れない。
「まあ、別に……俺と結婚すれば、そんなに料理頑張らんでもいいぞ。」
「えっ!?」
け
け
け、
結婚!?
その瞬間、私の頭の中でウェディングソングが流れる。
「なんだよ、嫌なのかよ。」
「いやあ?あの、その、」
もう、待ってよ。
私まだ、高校生だよ?
結婚とか言われても、頭、パニくるって。
すると、先生はふいに掴んでいた私の腕を、払いのけた。
「せ、先生?」
「安心しろ。もしもの話だよ。」
そう言って先生は、ご飯とお味噌汁をテーブルまで持ってきた。
「ほれ、飯。」
「は、はい。」
先生がご飯とお味噌汁を置いてくれた場所に座ると、今度はその横に目玉焼きが置かれた。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
その言葉以来、なんの会話もなく、ただ箸と皿が交わる音と、食べる音だけが部屋の中に響く。
「美味いか?」
「ん?うん……」
「そうか。」
心なしかご飯を食べている時も、先生に見られているような気がする。
「ご飯……」
「はい?」
「いっぱい食べろよ。」
そのセリフ、なんだかお父さんみたい。
そんな事考えたら、ご飯を食べている最中なのに、ふふふっと笑いがこみあげてきた。
「何?その笑いは。」
「ううん。何でもない。」
「何でもなかったら笑わないだろ。」
「だってぇ。」
益々可笑しくなるのを我慢して、お味噌汁を飲み干した。
「いいから言えって。」
「ええ?」
右手にお箸、左手にご飯茶わんを持ちながら、じーっと見てくる先生。
あの~
そこまで気にする事ですか?
「いや、ちょっと……」
「ちょっと?」
「……お父さんっぽいなぁって、思っただけです。」
案の定、先生はガクッと肩を落とした。
そりゃそうだよね。
30にもなっていないのに、高校生からお父さんみたいって。
でもすぐに頭を持ち上げて、先生は反撃してきた。
「どこがだよ!俺のどこがオヤジっぽいんだよ!!」
「オヤジっぽいじゃなくて、お父さんっぽいって……」
「お父さん!?どう見たって、お兄さんだろ!!」
なんか、ここまで来ると面倒くさい。
「ごちそうさまです。私、塾行ってきます。」
「おうおう!しっかり勉強して来いよ!」
先生は勢いよく、お茶碗の上にお箸を置いた。
「もう、先生。うるさい。」
「うるさくて結構。俺はオヤジなんだろ?」
そう言って、先生は私に向かってベーッと舌を出した。
それを見て私は、近所の悪ガキを思い出した。
本当、忙しいな。
私の脳みそ。
「なんか……」
「あ?」
「先生、子供みたい。」
「子供!?」
私がお茶碗とお皿を持ってキッチンへ行くと、先生もお茶碗とお皿を持ってついてきた。
「オヤジの次は、ガキかよ!!」
「もう、それっぽく見えただけだってば。」
シンクの中に持ってきた物を入れると、蛇口をひねった。
スポンジに洗剤を染み込ませて、お皿を洗う。
「はい。先生のもここに置いて。」
「うん……」
そして先生が置いたお茶碗とお皿も、一緒に洗う。
こういう時、お母さんのお手伝いしててよかったなって思う。
「おまえ、皿洗えるんだ。」
お皿を洗っている途中なのに、ガクッと膝が落ちる。
何?
さっきお父さんっぽいって言った逆襲?
「もう、先生ってば。可笑しくて笑っちゃう。」
ハハハっと笑うと、先生の腕が後ろから、スルッと腰に回された。
「先生?」
「うん。」
うんって返事をしながら、先生の手が今度は胸に伸びる。
「先生、お皿洗えないよ。」
「洗わなくていいから。」
「また、そんな事言う。」
そう言えばさっき、もしもの話って流されたけれど、俺と結婚したら料理頑張らなくてもいいって言ってたっけ。
もしかして、先生って過保護?
「塾って……男いるの?」
「男!?男子生徒ってことですか?」
「うん。」
なぜか抱きつく力が強くなる。
なぜ?
なに?
どうして?
「男の子はいますけど……話さないんで。」
「そっか。安心した。」
先生は私の頬にチュっとキスをすると、私から離れた。
先生の手に触れられた胸がジンジンと熱くなっている。
肝心の先生は、何事もなかったかのように、パソコン立ち上げているし。
悔しいから、速攻でお皿を洗って、私も何事もなかったように、荷物を取り出した。
「じゃあ、行ってきます。」
「おう!」
右手だけ上げて、こっちを向かない。
むむむ。
手ごわい。
バックを肩に掛けると、下着がずれている事に気づいた。
外に出る前に気づいてよかった。
廊下に出るとバッグを置いて、袖から腕を中に入れた。
やっぱり。
さっき先生に触られたところが、少しだけずれている。
触るんだったら、責任持って直してほしい。
そんな訳のわかんない事を思いながら、服の中でモゾモゾと下着を直す私。
塾に行くって言うのに、何やってんだろ。
私。
「何やってんの?」
「うわああ!」
急に後ろから囁かれて、身体ごと飛び上がった。
後ろを見ると、先生はこっちを見ながらニヤニヤ。
「もしかして、足りなかった?」
「はあああ?」
何を言い出すんだ、この人は。
そう思っているうちに、廊下の壁に押し付けられる。
「ちょっと!」
「抵抗しちゃって、可愛いね。」
「いやいや!」
私、塾に行かなきゃいけないんだし、下着直している最中だし。
それなのに先生は、私の唇を塞いだ。
「んぁ……」
朝から濃厚なキス。
加えて直している最中の下着からは、また先生の大きな手が伸びて来て、その指先が甘い刺激を与えてくる。
「せんせぇ……」
「芽依……」
あっ、名前で呼んでくれた。
もしかして先生、Hな気分?
「芽依……今日、塾に行かないで俺の傍にいて。」
頭のてっぺんから、足のつま先まで、ドクンと心臓が大きく鳴る。
「えっ……」
迷っている私を自分に向けさせるように、先生は強く私を抱きしめた。
「芽依……」
すぐ側で、先生の息使いが聞こえてくる。
まるで夜、ベッドの中で先生に抱かれているかのよう。
頭がクラクラする。
私だって先生と一緒にいたい。
ずっと先生とこうやって、抱きしめ合って。
朝も昼も夜も、すぐ傍で先生を感じていたい。
「先生……」
このまま、今日塾、さぼっちゃおうかな。
そう思って、私も先生の体をギュッと抱きしめた時だ。
「すまん。塾に行く前に。」
先生は私の背中を、ポンっと軽く押すと、名残惜しそうに私から離れた。
「遅刻する。早く行け。」
そして、私のバッグを持ってくれた。
「あ、ああ……」
甘い雰囲気もどこへやら。
慌てて下着を直して、私は先生からバックを受け取った。
「行ってきます。」
「気いつけて。」
軽く手を振っている中、玄関の扉はゆっくり閉まった。
「おはよ、芽依。」
友達の美羽ちゃんが、席を取ってくれている。
「おはよ。」
テキストをバックから出して、昨日の続きを開く。
「なんか芽依、変わった?」
「へっ?」
私、何かした?
思い返しても、席に座ってテキストを取り出しただけだ。
「大人っぽくなった。もしかして、彼氏できた?」
「えっ……」
彼氏。
頭の中で先生が思い浮かぶ。
「いやあ……違うかも。」
「じゃあ、好きな人?」
好きな人……
「それも違うかも。」
「なによ、芽依。面白くない。」
急に不貞腐れる美羽ちゃん。
「面白くないって、美羽ちゃん、私たち受験生だよ?恋愛とかしてる暇ないって。」
なんとか美羽ちゃんのご機嫌を直るように、両肩を横から揉む。
「まあね。でも、それぐらいなかったら、この辛い受験戦争、勝てないわけですよ。」
「まあまあまあ。美羽ちゃん、落ち着いて。」
「ねえ、そう言えばさ。」
美羽ちゃんが、私の腕を肩から外して、顔を寄せてきた。
「去年、産休代理でうちのクラスに来ていた平塚先生っていたでしょう?」
「う、うん。」
一瞬、ドキッとした。
「先生ね、この辺に住んでるんだって!」
な、なんでそんな事知ってんの!
「そ、そうなんだ……」
「なによ、芽依。そんなの関係ないって顔して。」
「そうかな。」
私は美羽ちゃんとは、正反対の方向を見た。
「あれれ。平塚先生の事、好きって言ってなかったっけ?」
「そう……だったかな。」
「そうよ!だから平塚先生へのプレゼントに、こっそり電話番号入れたら?って言ったじゃない。その後、どうなったのよ。連絡来た?」
去年の事を知っている美羽ちゃんに、いろいろ聞かれるのはちょっと困る。
「ないよ。」
「ウソ~。」
「あるわけないじゃない?先生と生徒だよ?」
「そっか。」
そこで授業が始まって。
それ以上、美羽ちゃんと先生の話をする事はなかったけれど、実は先生から連絡が来て、一緒に暮らしているなんて言ったら、驚くかな。
そりゃあ、驚くよね。
だって、私だって驚いてるもん。
芽依
塾に行かないで、俺の傍にいて
先生の甘えた声。
急にどうしちゃったんだろう。
今も思い出すと、胸が締め付けられる。
ねえ、先生。
私、今目の前にある数式よりも、
あの時の先生の気持ちを解き明かしたいよ。
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