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あなただけの歌姫

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そして、調子に乗った皇太子殿下は、強硬手段をとった。

夜に、私の部屋を訪れたのだ。

「皇太子殿下?」

「エリカ。俺のモノになって欲しい。」

「えっ?」

信じられない言葉だった。

「恐れながら、皇太子殿下と私は、一回りも歳が離れておりますが。」

「それがどうした?」

背の高い皇太子殿下は、私を見降ろした。

「喜べ。俺の愛人にしてやる。」

「はあ?」

「どうせ、父上にもその身体を捧げているんだろう?」

皇太子殿下は、私の腰を抱き寄せた。

「止めて下さい!」

私は皇太子殿下の肩を、引き離そうとした。

「皇帝殿下は、そのような方ではありません!」

「嘘つけ!歌姫って言ったって、ただ歌を歌っているだけじゃないか!それだけで、宮廷に留まれるのか?」

悔しかった。

歌を歌っているだけなんて!

「エリカ!」

皇太子殿下に、ベッドに押し倒された。

「嫌です!」

思い余って、皇太子殿下を突き飛ばしてしまった。

「おまえ~!」

「お許しください!」

私はそう叫ぶと、自分の部屋を出た。


廊下を付き走ると、いつの間にかこう皇太子殿下の部屋の前に来ていた。

遠い扉。

私の為には、開かない重い扉。

「皇帝殿下……」

扉の前で、膝を着き泣いてしまった。

その時、扉が開いた。

「エリカ?」

「ああ、皇帝殿下……」

夢だと思った。

恋焦がれた皇帝殿下が、私の目の前にいる。

「どうした?」

まさか皇太子殿下に襲われたなんて、言えない。

「ああ……」

泣いている顔を両手で覆うと、皇帝殿下がそっと抱きしめてくれた。

「皇帝殿下……」

「何があったかは分からないが、エリカが泣いていると、私も悲しくなる。」

「そんな……」

「私が、エリカをこの宮廷に連れて来てしまった。君は、あのまま街で歌っていた方が、幸せだったのかと、時々思うんだ。」

私は、皇帝殿下の肩を抱きしめた。

「私は、皇帝殿下の歌姫になって、幸せです。」

「エリカ?」

「お慕いしている皇帝殿下の為だけに、歌いたいんです。」

その瞬間、皇帝殿下の瞳が私を射抜いた。

「殿下、あの……」

ドキドキする。そんなに見つめられると。

「エリカ、許して欲しい。」
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