ラグジュアリーシンデレラ

日下奈緒

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第4話 付き合って

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長いエスカレーターで、上の階に上がる。

「へえ。金持ちが集まるショッピングモールだって聞いたけど、さすがだね。」

青志は、ここに来るのは、初めてのようだ。

「姉ちゃんは、よく来るの?」

「ううん。買える物がないから、最初から見ないの。」

「それは言えてる。」


しばらくして、この前行った寿司レストランが見えて来た。

「えっ?回らない寿司?」

「ぷっ!」

私は青志の驚き方に笑ってしまった。

「何だよ。」

「だって、私と同じ事言ってるんだもん。」


私達姉弟が言い合わっているところを、林人さんは微笑ましく見ている。

「いいね。そういうの。」

「林人さんは、兄弟はいるの?」

「いるよ。けど、二人みたいに仲良くないよ。」

「そうなんだ。」

それ以上聞いてはいけない気がして、その場は適当に誤魔化し、お店の中に入った。

席の場所は、お店の中央に近い場所だけど、そこからでも外の見晴らしはよかった。

「特上寿司を三人前、お願いします。」

「かしこまりました。」

すると青志が、私に囁く。

「特上って何だよ。普通の握りと違うのか?」

「そうじゃない?」

「俺達に払えるのかよ。」

それを聞いた林人さんが、はははと笑う。

「気にしなくていいよ。俺のご馳走だから。」

「……ありがとうございます。」

青志は、ちょっと小声だ。

そう言えば青志、林人さんを問い詰めるとか言ってたけど、まさか本当にする気じゃないでしょうね。


「ところで、井出さん。」

来たっ!

「お仕事、事務用品の販売をしていらっしゃるって聞きました。」

「そうだよ。」

「住んでる場所も、一億するマンションだって。」

「そうだね。」

林人さんは、嫌な顔をする事なく、青志の質問に答えてくれている。

「俺はどうしても、事務用品を売る社長さんが、一億もするマンションに住んでるイメージないんですけど。他に事業をされていたりするんですか?」

「していないよ。」

「おかしくないですか?」

「そうかな。」

私はそこで青志を止めた。

「ごめんなさい、林人さん。青志は、私が騙されてるんじゃないかって、疑っているんです。」

「ふふっ。そうか。お姉さん思いのいい弟さんだね。」

そして、青志はお茶をググっと飲んだ。

「どうなんですか?本当は、どっかの金持ちなんじゃないですか?姉と結婚する気はあるんですか?」

「ちょっと、何言ってるの。」


この前付き合ったばっかりで、結婚の話なんて、する訳ないでしょ。

「そうだね。このままいい付き合いが続けば、結婚も視野に入れてるよ。」

「林人さん……」

林人さんは、私にウィンクをする。

きっと、青志に話を合わせてくれているんだ。

「なんだか、腑に落ちないんですよね。」

「青志。」

私は林人さんに、すみませんと謝る。

「分かったよ。なぜ俺がそんな高級マンションに住めるか、説明して欲しいんだね。」

「そうですよ。」

何でご馳走になっている身で、そんな強気に出られるのか、意味不明。

「これはまだ、結野にも話していない事なんだ。」

「はい?」

私にも話していない?

なんだろう。お家の事かな。

「実は俺は、井出グループの長男でね。」

「井出グループ!?」

青志と声がはもった。

「知らないかな。不動産では、結構有名なんだけど。」

「知らないね。そんなグループ。」

「青志!本当にすみません。」

さっきから青志の事で、林人さんに謝ってばっかりだ。


「ははっ。いいんだ。まあ、本来なら俺がその不動産関係の会社を継げばよかったんだけど、それが嫌でね。」

「それで、事務用品販売始めたんですか。」

「ああ。自分の力を試したかった。まさかここまで大きくできるとは、思っていなかったけど。」


カッコいい……林人さん、御曹司なのに、それを捨ててここまで這い上がって来ているなんて。

「ここの辺りは、元々井出グループが所有している土地だったんだ。だから、あのマンションは、半分親から貰ったようなモノだよ。」

「そうだったんですね。」

増々、林人さんの事、好きになっている私がいる。

「これで分かったでしょ。林人さんが、私を騙していないって。」

私は青志の肩を掴んだ。

「青志君。君の大学進学の事は、お姉さんから聞いてるよ。俺もバックアップするからな。」

だけど、青志は小さく頷くだけ。


その時、丁度特上寿司が運ばれて来た。

「さあ、皆食べましょう。」

「そうだね。」

私と林人さんは、顔を見合わせながら”いただきます”を言った。

「ほら、青志。」

「いただきます。」

その途端、青志はお寿司を次から次へと、口の中に放り込んだ。

「うん、美味い。」

その様子を林人さんが、微笑んで見ている。

まるで林人さんは、私達の保護者みたいだ。


今日は改めて、林人さんの話を聞けてよかった。

そっか。林人さん、御曹司だったんだ。

そう見えないのって、林人さんが自分の力で、仕事を頑張ってきたからなんだね。

「ん?どうした?結野。」

「なんでもなーい。」

惚れ直した事は、林人さんには内緒にしよう。
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