ラグジュアリーシンデレラ

日下奈緒

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第4話 付き合って

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しばらくして、私は目を覚ました。

天井が、廊下と違う。

「えっ……ここ、どこ……」

動こうとすると、腕に重さを感じた。


「井出さん……」

胸が熱くなる。

井出さんが、私の手を握りながら、ベッドに顔を埋めて寝ていたのだ。

見ると、外はとっくに夜になっていた。


「ん……」

井出さんは起きると、目を覚ました私に気づいたようだ。

「結野ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫です。寝たからかな。」

「廊下で倒れたって聞いた時に、心臓が止まるかと思ったよ。」

「すみません、心配かけて。」

私、井出さんに心配されてばかりだ。

「ところでここって……」

「ああ、ヒルズの病院だよ。」

「病院……」

えっ!?病院!?

私、病院に運ばれたの!?


「過労だって。働き過ぎだよ、結野ちゃん。」

「ははは、情けない。」

「そんな事ないよ。」

井出さんは、私の手をぎゅっと、握ってくれた。

「まだ若いのに、倒れるまで仕事するなんて。」

井出さんの、その悲しそうな表情が、私には歪んで見えた。

「そんなに、悲しい目で見ないで下さい。」

「結野ちゃん。」

「生活の為に働くって、普通の事ですから。それに今回倒れたのも、私が体力なかっただけで、今度は倒れないようにしますから。」

辺りがしーんとなる。


「結野ちゃんの言う通りだ。」

「すみません、生意気言って。」

「ただね。俺が、結野ちゃんを心配している事は、知って欲しい。」

井出さんは、私の目をじっと見つめる。

「はい。知っています。だって、倒れただけで病院に運んでくれるなんて。却って迷惑なんじゃないかって。」

「迷惑じゃないよ。」

じーっと、井出さんに見つめられると、身体が熱くなってくる。

井出さんの目って、吸い込まれそう。

井出さんも、私が目を離せない事、気づいている。

スーッと井出さんの顔が近づいて、唇が重なった。

キスした後、井出さんは私を優しく見降ろした。


「帰ろうか。」

井出さんはナースコールをすると、看護師さんに帰宅する事を告げた。

「今、退院の手続きしますので、お待ちくださいね。」

「は、はい。」

何となく、井出さんを見ながら、ベッドから出る。

さっきキスした事が、ウソのようだ。

しばらくして、看護師さんが請求書を持って来た。

「では、お帰り頂いても大丈夫ですよ。治療費は帰りにお支払い下さいね。」


そう言えば、そうだあああ。

病院で診て貰ったって事は、お金払わないと。

いくらなんだろう。

手持ちのお金で、間に合うかな。

「行こう。」

「はい。」

私達は病室を出て、エレベーターに乗った。

井出さんは、何も話さない。

ふいに、その横顔を見てしまった。

あー、やっぱりカッコいい。

好きだなぁ、井出さんの事。


エレベーターが1階に着いて、私達はお会計の窓口に行った。

「金額、こちらになります。」

出された金額に、とりあえずほっとした。

財布を出そうとしたら、横から井出さんの声がした。

「カードで。」

「えっ!」

驚いている内に、係の人はクレジットカードで処理をしている。

「井出さん!」

「いいから。」

支払いが終わり、私には領収証だけが残った。


「行こう。タクシーで送るよ。」

「あの、こういうの、困ります。」

「どうして?俺が勝手に、病院に連れて来たんだし。」

「でも、自分の病院代は、自分で払わないと。」

こんなに、井出さんに迷惑ばかりかけて。

何やってんだろ、私。


「じゃあ、お礼に俺と付き合って。」

病院の入り口の前。

私は目が点になった。

「俺の彼女になってよ。」

そう言って井出さんは、私の腕を取って、タクシーに乗った。


頭が混乱している私は、返事もできずに、頭がボーっとしている。

「家、どこ?」

「あっ、中央町の方。」

「OK、運転手さん、中央町まで。」

タクシーが動くと、井出さんは私の手の上に、自分の手を置いた。

温かい。

井出さんの温もりが伝わってくる。

そう言えば井出さんは、いつも優しかった。

迷惑ばっかりかけているのに、そんな素振りも見せないで。


「あの、井出さん。」

「返事は、タクシーを降りてから聞くよ。」

「えっ?」
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