ラグジュアリーシンデレラ

日下奈緒

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第1話 また今度

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あの後、少しの時間いなくなって、斉藤さんに心配された。

優しい斉藤さんには怒られなくて、本当によかったと思う。


そしてあの”バケツに書類事件”から1週間。

あの人は、仕事大丈夫だったのかと、ちょっと気になったりして。

でも私達は基本、誰もいないオフィスを清掃するから、社員の人達とは会わない。

社員の人達が出勤してきたら、基本廊下や空いている会議室の掃除に周る。


「今日からオフィスの掃除にも、入ってもらおうかな。」

「はい。」

斉藤さんの指示で、オフィスの清掃に当たる。

一番最初のオフィスは何と、書類の印刷で入った、あのオフィスだ。

「株式会社 インテリジェンス……」

「ねえ、何の会社なんだか。」

カッコいい会社名を確認した後、私達は掃除機をひたすらかけた。

「こんなものかな。もう隣のオフィスに行くよ。」

「本当にサラッと掃除機かけるだけなんですね。」

「そうじゃないと、全部のオフィス、掃除機かけられないからね。」

スタンド型の掃除機を持って、斉藤さんと一緒に、次々とオフィスに入りまくる。

「後は、サッシの水拭きだね。鍵は開いているから、また次々と拭いていこう。」

「はい。」

そしてバケツに水を張ると、またあの事件を思い出す。

「ふっ……」

私がいなかったら、あの書類どうしていたんだろう。

考えると、笑えて仕方がない。


そして私は、インテリジェンスのオフィスに入った。

バケツの中の雑巾をしぼって、窓のサッシを拭いて行く。

仕事は掃除機をかける事と、窓のサッシを拭く事だから、もう仕事にも慣れた。


その時だった。

「あっ……」

後ろから声が聞こえてきて、私の身体がビクついた。

慌てて後ろを振り向くと、この前の人が立っていた。

「この前の人!」

「はい……」

それはこっちの台詞だよと思いながら、手を止めた。

「よかった。また会えて。掃除している人って、なかなか会えないんだね。」

「皆さんが出勤する前に、掃除するので。」

「そうだよね。」

改めてその人を見ると、やっぱりカッコいい。

女性にモテそうって言うか、女友達が沢山いそうなタイプ。

私にも気さくに話しかけてくるくらいだし。

「そう言えば、自己紹介まだだったね。」

「ああ、川畑です。宜しくお願いします。」

「井出です。宜しく。」

そして私の前に、一枚の名刺が差し出された。

そこには、名前の脇に”代表取締役社長”の肩書が。

「えっ!社長さんですか!?」

「ね。怪しい者じゃないでしょ。」


この一枚の名刺が、重く感じる。

「あのさ、このタイミングで言うのもなんだけど。」

「はい。」

「この前のお礼に、食事をごちそうしたいんだけど、いい?」

ええええええ!

食事!?この社長さんと!?

「えっと……」

「あっ、そんな堅苦しいものじゃないから。ホント、この前のお礼。」

ドキドキする。

いいよね。この前のお礼だって、言ってるんだし。

「はい。」

「よかった。何時に終わるの?掃除。」

「12時です。」

「じゃあ、着替えたらビルの正面玄関で待ってて。」

「はい。」

「また後でね。」

そう言って井出さんは、社長室に消えていった。


こんな朝早くから出勤なんて、社長さんって大変そう。

私はもう一度、名刺を見た。

井出 林人さん

社長している人だなんて、驚いた。

結構広いオフィスだし、社員もたくさんいるんじゃない?

まだ若そうなのに、できるんだろうなぁ、仕事。


「結野ちゃん?まだここにいたの?」

斉藤さんが、オフィスの中に入ってきた。

「すみません。次行きます。」

「私も手伝うから、早く終わらせちゃおう。」

斉藤さん、本当にいい人。

こんなところで油売っていた私を、怒らないだなんて。

バケツを持ってオフィスを出ると、斉藤さんは急にムフッと笑いだした。

「そう言えばさっき、ここの社長さん入っていったけど、見た?」

「はあ……」

「可愛いいよね。アイドルみたい。」

確かに、あの顔は老若男女、誰にでも好かれる顔だ。

「バイト仲間には、人気なのよ?あの若社長!」

「そうなんですか。」

言えない。

そんな人から、食事に誘われただなんて。


「ああ!一度でいいから、あんな若社長に誘われてみたい!」

そうだよね。

だって、アイドルだって言ってたもんね。

「結野ちゃん、若いんだから、誘われたりしてね。」

「えっ!」

斉藤さんと見つめ合ってしまう。

「まさか……誘われたの?」

「えっ?いや?」

斉藤さんの目がきらりと光る。

「後でどうだったか、報告してね。」
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