金色にして漆黒の獣魔女、蝕甚を貫きて時空を渡る -Eine Hexenbiest in Gold und Schwarz-

二式大型七面鳥

文字の大きさ
上 下
16 / 58
第二章 月齢25.5

206

しおりを挟む
「……ってことは、あなた、光があるとしゃべれなくて、しゃべれないけど周りの事は分かってる、って事?」
 今起きた現象を即座に頭の中で整理して、ユキが聞く。
「ますますのご明察、お見事です。正確に描写しますと、わずかでも光があると、私は外界に干渉出来ない。わずかな光でも、その圧力に私は対抗し得ない、そういう事になります」
 ニーマントは饒舌にしゃべり、一旦口ごもった後に、続ける。
「……正直に申し上げまして、私が、あなた方に話せる事は、実は大して多くありません。あなた方の事も、当然ながら、あなた方が自己紹介された以上の事は存じません。なにしろ、私自身、私がどういうものであるか、よく分かっていないのです」
 うわ、使えねぇ。ユキは、口の名だけで呟く。
「どういう事?」
 そのユキの様子に気付かず、ユモが、たまらずに尋ね、先を促す。
「そもそも、私は、自分がこの石そのものである事も、ずっと箱に入っていた事も知りませんでした。ジュモーさんが箱を開けた時、はじめて、自分が箱の中に居た事を知ったのです。それまでは、常に私はあの水晶球の光だけに包まれていて、それ以外の『入力インプット』はまったくなかったのですから」
入力インプット?」
 聞き慣れない言い方に、素朴にユモは聞き返す。
「はい、入力です。私には、あなた方人間のような肉体はありません。あなた方同様に周囲の情報は認知出来ますが、それは目で見て、耳で聞いて、鼻で嗅いで舌で味わう、そういうものではありません。あくまで、全ての外部からの『刺激の入力』という形で入って来ます。お気づきでしょうが、同様に、私の『出力アウトプット』も音声言語ではありません。音声としてあなた方に認識していただけるよう、直接、あなた方の鼓膜を叩いています」
「そうなの?」
「そうよ、気付いてなかった?」
「全然……」
 驚いて聞くユキに、既に気付いていたユモはニーマントの言葉を肯定する。
 そのニーマントの言葉には、非常に重要な情報が隠されていたが、そのやりとりもあって、ユモはうっかりと、その事に思い至らずに素通りしてしまっていた。

 それより、少し以前。
「まいったぞこりゃ……」
 足下の穴の下を覗き込みながら、スティーブは頭を掻く。
「まったく見えん。どこまで深いのか、見当もつかん」
 スティーブは、立ち上がって膝の土を払う。その足下には、直径2m程の穴。
「……だが、子供達と大尉をこのままにしておく事も出来ん」
 スティーブの頭上、一部破損した床板の上から、スティーブが腰に巻いたロープを確保しているチャックの声がした。
 ユモとユキ、それにオーガスト大尉が床を突き抜けて落下した直後、スティーブとチャックは中央の穴から即座に下を覗き込んだ。当然、このいびつな卵形の空間の底の方に三人が転げていると思った二人だったが、しかし、三人の姿はそこにはなく、二人の期待をあざ笑うかのように空間の底には穴があり、そしてその下から、色々な物があちこちにぶつかりながら落ちる音がして、しかし、それもすぐに聞こえなくなった。
 スティーブは、ランプを先端に縛りつけて穴の中に下ろしていたロープを引き上げながら、言う。
「深いだけじゃなくて、太い木の根やら何やら、かなりいっぱい出っぱってるようだ。そのせいかな?音もよく通らないみたいだし、ランプも真っ直ぐ下に降りていかない。そもそもこんなランプじゃまるで光が通らない」
 ロープを引き上げきったスティーブは、苦り切った顔で上に居るチャックを見上げる。その顔が、何かを見つけ、強ばる。
「……どうした?」
「気が付かなかったな。チャック、上を見てみろ」
「上?……これは……」
 言われて、上を見上げたチャックも、一瞬絶句する。そこには、この空間の天井、頂点から真上に延びる穴が空いており、その先から、わずかだが光がこぼれていた。
「こんな穴があったとは……」
「太陽が高くなったから光が入ってきたのかな?まあ、人が出入り出来るようなものじゃなさそうだが」
 その穴は、綺麗に垂直に、そしてまん丸に頭上の土壌を貫いていた。そして、その延長線上には。
「……なるほど、上の穴から床の穴を通して、この下の穴まで一直線、って事か」
「どんな意味がある?」
「わからん」
 チャックに聞き返され、一旦床の上に戻ろうと床穴の縁をよじ登っていたスティーブは、上を見たまま答える。
「だが、ここの死体と言い、壁の模様と言い、得体の知れない宗教の儀式が行われていたってのは間違いないだろうから……なあ、チャック」
「どうした?」
 答える途中で、急にスティーブの声色が替わったのに気付き、チャックが聞き返した。
「俺たちが入って来た穴、その上に二つ、窪みがないか?」
 とっくに床の上に戻って来ているが、視線は上を向いたままのスティーブが、言う。
「窪み?……ああ、言われてみれば、あるな」
 チャックも、スティーブの視線を辿り、改めてその窪みに気付く。
「俺の気のせいかも知れないんだが。なんだか、この部屋、なんて言うか、巨人の頭?みたいに思えてきたんだが……」
「何?……言われてみれば……」
 そう思って見れば、チャックにも、自分達が入って来た穴が口か鼻、その上の窪みが二つの目に思えなくもない。一度そう思ってしまうと、いびつな卵形のこの空間が、まるで不器用な子供が粘土をこねて丸めて伸ばして、目鼻だけつけた顔っぽい何かの、その鋳型のように思えてくる。
「……だとしたら、この下には体がある、って事か?」
「まさか喰われたってわけでもないだろうが……とにかく、助け出す方法を考えよう」

 同じ頃。
 オーガストは、自分に話しかける、聞き覚えのない声を聞いた、ような気がした。
――……聞こえますか……聞こえますか……オーガストさん……オーガストさん……――
 オーガストは、やっとの思いで目を開く。しかし、何も見えない。いや、違う。真っ暗闇と同じくらい黒い、やっとの事でそれが分かる程度に暗い洞窟の中なのだ。
――……今、あなたの耳に直接語りかけています……聞こえますか……――
「……誰かね?一体、君は誰だ?」
「ああ、聞こえていましたか。それは重畳です」
「君は、一体……」
 オーガストは、体を起こそうとする。どうやら、頭を下に、斜めになった地面に半ば仰向けに倒れていたらしい。苦労して、どうにか体を起こして座り直す。体のあちこちが、酷く痛む。
「私は……さて、困りました。私は、一体何で、誰なのでしょう?」
「おかしな事を言うものですね。名前が、ない?」
「そのようです。とりあえず、お好きに読んで下さって結構です」
「そう言われましても……そうですね、とりあえず、エマノンとお呼びしましょう」
「エマノン?聞いた事があるような……」
名無しNo Nameの逆さ読みです。ありふれた、匿名希望の偽名と言ったところでしょうか」
「なるほど……?そうか、そうそう、エマノン。思い出しました、私にも、名前がありました」
「ほう?」
「改めまして。私は、名無しのエマノン人でなしニーマント、そう呼ばれておりました」
「これはまた……しかし、ニーマントさん、あなたはどこに居るのですか?」
 ほんのりと、やっと自分に手足がある事が分かる程度の明かりの中で、オーガストは周りを見まわし、声の主の姿を探した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

機械仕掛けの魔法使い

わさびもち
ファンタジー
《多くを愛し、多くを救い、そして多くに裏切られてこの世を去った偉大なる異形の魔女アリドネ=ミストリア》。 かの者はかつて、人類を脅かしていた脅威の存在《魔獣》を仲間と共に《魔法》を発現することで打ち倒した原初の魔法使いであった。 しかし……平和となった世界ではあまりに強大な力を持つ彼女の存在は危険視され……鎖に縛られたまま洋館に火を放たれて絶命する。 何千年もの時が経過したある日のこと……アリドネは一人の少女によってその目を覚ます事となった。 自分を目覚めさせると同時に絶命したその少女の命令は……《人類を助けてくれ》。 機械仕掛けの魔法使いとして蘇ったアリドネは《原初の魔女》として再び大いなる敵へと立ち向かう! 『あなたの行く末に幸多からんことを』彼女を復活させると共に絶命した、とある王国の王女が最期に告げた言葉を胸に抱きながら。

処理中です...