1 / 8
01
しおりを挟む
「昴銀子です、よろしゅう」
よく通る声で昴銀子と名乗った、その長身の少女は、ぺこりと勢いよく頭を下げた。狐色の、ちょっと癖のある長い髪が、頭の動きにつれて大きくなびく。
顔を上げたその少女は、これから一緒に過ごす学友に屈託のない笑顔を向けた。
初夏の日差しの中、白球が、宙を舞う。
「はーい、はいはいはいはい、はいっ!」
長身の少女が、元気な声と共にバレーボールをレシーブする。
大柄な体格、関西弁、生まれつきだという狐色の髪。加えて、新しい学校のブレザーの制服が間に合わず、とりあえず着ている転校前の学校のセーラー服。明らかに悪目立ちするだろうそれらの特徴も、その少女、昴銀子の人なつっこさと積極性が帳消しにしてしまったらしく、彼女は既にクラスの女子に溶け込みつつあった。
昼休みの、東京都中央区立第四中学校。通称「鳥かご」と呼ばれる、金網張りの屋上運動場。都心の狭い立地を有効活用すべく、屋上で球技をしてもボールが校外に落下しないよう設けられた防護柵のその中で、給食を採り終えた生徒が、男子も女子も三々五々くつろぎ、あるいは体を動かしている。銀子も、早くも気のあった数名の女生徒と一緒に、ありあまる若さと元気をはじけさせていた。
「……あれ?」
白球を追いかけながら、銀子はふと、階段室の壁際、日陰になる位置で読書をしている少女、遊びはおろか語らいの輪にも入らず、独りで佇むその少女に目に留める。
「なあ、あれ、ウチのクラスの人やんな?」
誰ともなく呟くように言った銀子の言葉に、側に居た少女が答える。
「あ、うん、八重垣さん?いっつもあんな感じだよ?」
何でもないことのように答えたその少女は、特に気に留める風もなく白球を追うことを続ける。
「ふうん……」
銀子も、それ以上の詮索はせず、バレーボールの輪に戻る。
脳裏の隅に、日陰でなお目立つ、白く輝くようなその孤独な少女の姿を残しながら。
やがて、午後の授業の予鈴が鳴る。生徒達はそれぞれ遊具を片づけ、あるいは小脇に抱えて屋上の階段室からそれぞれの教室に急ぐ。銀子も、新しい友達と共に語らいつつ、小走りに階段室に向かう。
その途上でふと、銀子は足を停め、読書をしていた少女に声をかける。
「……なあ、自分、ウチのクラスの人やろ?」
臆するより先に口が出る性格の銀子は、誰に対しても声をかけるのに躊躇が無い。
「一緒にバレーボールとか、せえへんの?」
声をかけられた少女は、少しだけ困ったような笑顔で、答えた。
「……うち、体、弱おすさかい、運動はよおしいひんのどす」
「あ……かんにんな、ウチ、余計な事言うてしもて」
咄嗟に失言を詫びる銀子に、その少女は軽くかぶりを横に振る。日陰でなお輝く白銀の髪が、さらさらと揺れる。
「よろしおす、声かけてくれはって、おおきに」
白銀の髪、白い肌。その少女はそう言って微笑み、銀子の少し先に立って階段を下り始める。
「……自分、京都の人なん?」
つい、銀子は聞いてしまう。それは、しゃべらずには居られない性格によるものか、それともやはり、関東に出てきた不安によるものか。
「へえ、十の時からこっちで暮らしてます。言葉、なかなか直らへんのどすけども」
その少女は、桜色の唇を緩ませ、白い肌にひときわ目立つ紅い瞳を細めて、答えた。
「そおか。ウチは……」
「昴銀子はん、さっき自己紹介しはりましたやろ?うちは八重垣環いいます、よろしゅう」
よく通る声で昴銀子と名乗った、その長身の少女は、ぺこりと勢いよく頭を下げた。狐色の、ちょっと癖のある長い髪が、頭の動きにつれて大きくなびく。
顔を上げたその少女は、これから一緒に過ごす学友に屈託のない笑顔を向けた。
初夏の日差しの中、白球が、宙を舞う。
「はーい、はいはいはいはい、はいっ!」
長身の少女が、元気な声と共にバレーボールをレシーブする。
大柄な体格、関西弁、生まれつきだという狐色の髪。加えて、新しい学校のブレザーの制服が間に合わず、とりあえず着ている転校前の学校のセーラー服。明らかに悪目立ちするだろうそれらの特徴も、その少女、昴銀子の人なつっこさと積極性が帳消しにしてしまったらしく、彼女は既にクラスの女子に溶け込みつつあった。
昼休みの、東京都中央区立第四中学校。通称「鳥かご」と呼ばれる、金網張りの屋上運動場。都心の狭い立地を有効活用すべく、屋上で球技をしてもボールが校外に落下しないよう設けられた防護柵のその中で、給食を採り終えた生徒が、男子も女子も三々五々くつろぎ、あるいは体を動かしている。銀子も、早くも気のあった数名の女生徒と一緒に、ありあまる若さと元気をはじけさせていた。
「……あれ?」
白球を追いかけながら、銀子はふと、階段室の壁際、日陰になる位置で読書をしている少女、遊びはおろか語らいの輪にも入らず、独りで佇むその少女に目に留める。
「なあ、あれ、ウチのクラスの人やんな?」
誰ともなく呟くように言った銀子の言葉に、側に居た少女が答える。
「あ、うん、八重垣さん?いっつもあんな感じだよ?」
何でもないことのように答えたその少女は、特に気に留める風もなく白球を追うことを続ける。
「ふうん……」
銀子も、それ以上の詮索はせず、バレーボールの輪に戻る。
脳裏の隅に、日陰でなお目立つ、白く輝くようなその孤独な少女の姿を残しながら。
やがて、午後の授業の予鈴が鳴る。生徒達はそれぞれ遊具を片づけ、あるいは小脇に抱えて屋上の階段室からそれぞれの教室に急ぐ。銀子も、新しい友達と共に語らいつつ、小走りに階段室に向かう。
その途上でふと、銀子は足を停め、読書をしていた少女に声をかける。
「……なあ、自分、ウチのクラスの人やろ?」
臆するより先に口が出る性格の銀子は、誰に対しても声をかけるのに躊躇が無い。
「一緒にバレーボールとか、せえへんの?」
声をかけられた少女は、少しだけ困ったような笑顔で、答えた。
「……うち、体、弱おすさかい、運動はよおしいひんのどす」
「あ……かんにんな、ウチ、余計な事言うてしもて」
咄嗟に失言を詫びる銀子に、その少女は軽くかぶりを横に振る。日陰でなお輝く白銀の髪が、さらさらと揺れる。
「よろしおす、声かけてくれはって、おおきに」
白銀の髪、白い肌。その少女はそう言って微笑み、銀子の少し先に立って階段を下り始める。
「……自分、京都の人なん?」
つい、銀子は聞いてしまう。それは、しゃべらずには居られない性格によるものか、それともやはり、関東に出てきた不安によるものか。
「へえ、十の時からこっちで暮らしてます。言葉、なかなか直らへんのどすけども」
その少女は、桜色の唇を緩ませ、白い肌にひときわ目立つ紅い瞳を細めて、答えた。
「そおか。ウチは……」
「昴銀子はん、さっき自己紹介しはりましたやろ?うちは八重垣環いいます、よろしゅう」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第二部) Dollhouse ―抱き人形の館―
二式大型七面鳥
ファンタジー
2020/12/19 思うところあって、タイトルを変えました
旧シリーズタイトル:渡る世間は勿怪(もけ)ばかり
前作の続きです。現世・現代・社会人縛りでどこまで出来るかのチャレンジでもあります。
前作からおよそ半年、新人サラリーマン北条柾木(23)はまたしても、なし崩し的に事件に巻き込まれ、警察庁の酒井源三郎警部(33)もその事件を追います。
霊的に無感症な以外に取り柄の無い主人公、北条柾木に果たして活躍の場はあるのか?
真面目だけが取り柄のバツイチ警部、もう一人の主人公の酒井源三郎は事件の真相に迫れるか?
北条柾木に想いを寄せる深窓の令嬢、西条玲子はその想いを進展させられるのか?
酒井源三郎のアパートの隣室に住む青葉五月は、優柔不断のバツイチ中年をその気にさせられるのか?
そして、一般人から見ればチート属性の人狼ども、祖母:蘭円と孫:蘭鰍、及び新規参入の鰍の姉二人は、どのタイミングで話を引っかき回しに来るのか?
長くなりそうですが、よろしければお付き合い下さい。
※カクヨムにも重複投稿してます。


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる