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第三章-月齢26.5-
第3章 第35話
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「……ドルマ、御苦労様でした。そして、ペーター少尉殿、よくぞここまで来られました」
数歩前に進み出て、後ろの二人――『光の王子』『赤の女王』なる、恐らくはやんごとなき人であろうとペーター少尉が踏んだ人物――から間を開けてから、屈託のない笑顔でそう言って、モーセス・グースはペーター少尉を迎えた。
ドルマは、手を合わせて、モーセス・グースに頭を下げる。ペーター少尉も同じように、この地に来てから身につけた礼賛の形を取る。
「お迎えいただき光栄です、グース師」
「なんの。拙僧は『光の王子』をお迎えに参上したのですが、大変に間が良かったようですね……ここがどういう場所であるかは?」
「『神秘の谷』という名前以外は」
モーセス・グースの問いかけに、ペーター少尉は小さく首を横に振って答える。ペーターの半歩後ろに控えるドルマに目を向けたモーセスは、そのドルマが小さく首肯したのを見る。
「なるほど。確かに、一言で説明するのは困難でもありますし、実際に見ていただいた方が理解が早いでしょう。よろしい、この折にここにいらしたのは、これも仏縁があったものかも知れません」
そこまで言って、モーセスは振り返り、後ろに控える二人にうやうやしく一礼し、奏上する。
「このモーセス・グースは、ペーター・メークヴーディヒリーベ氏を我らの都に迎え入れたいと欲します。慈悲深き『光の王子』、尊き宝珠におかれましては、何卒、お許しを賜りたく、お願い申し上げます」
「それだけの価値のある人物であると、あなたは判断したのですね?」
「御意に」
「なれば、私に反対する理由はありません」
その青年は、一歩進み出て、左手を差し出す。
「左手は心により近いのです。我らの都にようこそ、異国の方よ」
右手を出して握手したものか、それとも合掌、あるいは敬礼したものか。ほんの一瞬の戸惑いを見透かしたように言葉と共に差し出された左手を、ペーター少尉は即座にその手を受けると、ためらいなく片膝をついた。
「ペーター・メークヴーディヒリーベ。ドイツ国一般親衛隊特務少尉です。どうぞ、お見知りおきの程を」
目を伏せてそう名乗ってから、ペーター少尉は視線を上げて、青年を見上げる。
「立ち上がってください」
白を基調とした、飾り気は少ないが惚れ惚れするような仕立ての、昼を回った太陽の光を背後から浴びて、まるで後光が差すかのように輝く、端正な顔立ちのその『光の王子』なる青年に声をかけられ、漆黒の親衛隊制服制帽に身を包んだペーター少尉は、ゆっくりと立ち上がる。
脳の奥が痺れるような、魅力的で、抗いがたい何かを感じながら。
「歓迎します、ドイツ国の同胞よ。ゆっくりお話を伺いたいところですが、私はまず、帰還を首を長くして待っている者達に無事を知らせなければなりません。よろしければ、我らが都にしばし逗留いただき、私の体が空き次第、改めてお話をさせていただきたいのですが?」
「もちろん、有り難くお受けいたします」
ペーター少尉は、深く頭を下げる。何とも心地よい何かが、胸の内に広がるのを感じながら。
「元君、差し支えございませんか?」
二歩ほど後ろの『赤の女王』に、『光の王子』が確認する。
「構わなくてよ。何なら、私が都をご案内してもよろしくてよ?」
言って、『赤の女王』は微笑む。小首を微かに傾げ、頬においた片手の小指を口元に添え、蠱惑的に。
ペーター少尉は、その時初めて気付いた。まばゆいばかりの『光の王子』の隣に佇む『赤の女王』、彼女が纏うのは隣の『光の王子』のような民族衣装ではなく洋装の、紅蓮の炎のような紅いイブニングドレスであり、その上の豊かな髪もまた燃えるように紅く、またその肌は日焼けしたチベット人と比べてもはるかに黒く、黒曜石のようなその肌の中から紅い瞳が自分を見つめていることを。
「どうせ、私はここに居てもあまりすることないのだし」
『赤の女王』はそう言って自分の小指をちろりと舐める。
「恐れながら。ペーター様にはどこぞのお部屋をお食事を用意し、まずは疲れを癒やしていただきたいと存じますれば、その役目は私にお任せいただきたく」
それまで控えていたドルマがついと進み出て、やや唐突に口を挟んだ、あわせた掌の下に目を伏せるようにして。
「そう。あなたがそう言うなら、任せます、ドルマ」
暫時、目をしばたかせつつドルマを見つめた『元君』――道教における女仙の別称――『赤の女王』は、そう言ってドルマに微笑む。母のように、ひたすらに優しく。
「それでは王子、女王、御殿に参りましょう。ドルマ、少尉殿のことは任せます」
明らかにほっとした様子で、モーセスは『光の王子』と『赤の女王』に申し出て、先導して歩き始める。
その行方を目で追っていたペーター少尉に、ドルマが声をかけた。
「私達も、参りましょう」
巨大な石版から数百メートル程歩いた先にあったのは、7つの巨大な四角い構造物と、その中央にある井戸のような建造物だった。
七つの巨大な四角は差し渡し40メートルはあろうという大きさの正方形で、近づいてみればその高さは2メートルを超える。わずかに反射した光が谷の断崖を照らす様子から見て、その内側はガラスか、それに類する素材が貼られているのだろうとペーター少尉は推測する。
その四角のすぐ側にはそれぞれ1つずつ、計7つの穴が穿たれ、その内部は地下へ向かう階段が作られていた。U字谷の底は瓦礫主体だから、その入り口はコンクリート様の何かで階段ごと固められており、数メートルほど下がったところに扉がある。
ペーター少尉が見守る中、モーセス・グースに先導された『光の王子』と『赤の女王』は、そのうちの1つを下り、扉の向こうに消える。
「ペーター様は、こちらです」
ペーター少尉を先導するドルマは、モーセス達が入って行ったのとは別の穴を指し示す。それは、中央の井戸の向こう側になる位置にあった。
「なるほど、地下都市ですか。してみると、あの大きな四角は、明かり取りでしょうか」
中央の『井戸』――これ自体、直径は10メートルほど、縁の高さはペーター少尉の肩と良い勝負で、さしずめ巨人の井戸の様だ――の脇を通りながら、ペーター少尉は呟いた。井戸を中心に七つの四角の少し先までの地面は、わずかではあるが明らかに意図を持って砂利が積み上げられて、ゆるい丘陵を成している。ペーター少尉は、その丘陵のおかげで四角の縁より高くなった視線によって、確かにその内側にガラス様の素材がはめ込まれていることを見て取った。
「お察しの通りです。もっとも、私はそういう方面は明るくないのですけれど」
苦笑しながら振り返って、ドルマが言う。
「しかし、だとすると、この中央の井戸のようなものは……少々理屈が合いませんね、井戸ではない?」
足を停めて、体ごと振り向いたドルマは、頷く。
「この穴の目的を知る者は、私を含めてここには居ません。どれくらい深いのかも」
言って、ドルマは『井戸』の縁を見上げる。ちょうど、その縁の高さはドルマの目線ほどだ。
「この下には、悪霊が封じられている、とも言われていますが、確かめる術もありませんし、確かめた者も居ません」
「悪霊、ですか……」
ペーター少尉も、ドルマから視線を『井戸』に戻して呟く。悪霊などというものが居るとしたら、一体それはどんな姿をしているのだろう?穴を掘ったくらいで封じ込められる程度のものなのだろうか?
ペーター少尉は、自分が驚くほど冷静でいることに気付いた。なんとなれば、今まさに、探していた『シャンバラ』の入り口に立っているかも知れないというのに。
どうして冷静で居られるのか、ペーター少尉は自問する。恐らくは、こうもあっさりと、思いもかけない方法でそれが見つかってしまったから、驚き興奮する準備が出来ていないのだ、そう思って、ペーター少尉は納得しようとする。
納得のいかない、ここは目的の場所ではないと頭の片隅でか細く警鐘を鳴らす、本能の教えを押し殺して。
「どうかされました?」
その様子を訝しんだドルマが、ペーター少尉に声をかける。
「いえ、悪霊が封じられているなら、どれほど深く埋めれば良いのだろうかと思いまして」
「……」
ドルマは、しばし『井戸』を見つめて、ぼそりと呟く。
「……悪霊を封じたのでなくて、ここに身を投げたものが、悪霊になるのかもしれませんね……」
「え?」
ドルマは、思わず聞き返したペーター少尉に、取り繕うような笑顔で言った。
「なんでもありません。さあ、こちらへ」
「先ほどモーセス師範方が入られた入り口は、王子や女王のおわします宮殿に繋がっています。これからご案内するのは外来者の宿泊施設に通じる入り口です」
「7つの入り口がそれぞれ別の施設に続くのですね。それぞれの施設は地下では繋がっていないのですか?」
「そうではありませんが」
少しだけ前を歩くドルマは、ペーター少尉に振り返って答える。
「先ほどの『井戸』ですが、中央にあれがあります関係で、それそれを繋ぐ回廊は大きく迂回しています。地上からであれば、直接目的地に繋がる階段を降りられますから、わざわざ地下で回廊を迂回して遠回りする必要は無いと言う事です」
「ああ、なるほど……他の入り口は、どこに繋がっているのですか」
「寺院に、居住区に、倉庫に……」
指折り数えつつ、ドルマはちょっとだけ肩をすくめて、ペーター少尉に目を戻す。
「……私も、知識としては知っているのですが、全ての施設に行ったことはないんです。むしろ、行った事のある場所の方が少ないくらいで」
ドルマは、苦笑する。つられて、ペーター少尉も肩の力を抜きながら、
「知識があるだけ、何も知らない私よりマシです。まずは、腰を下ろせるところに案内していただけますか?」
「はい。足下にお気を付けて」
先導するドルマにそう言われて、ペーター少尉は地下への階段を下り始めた。
数歩前に進み出て、後ろの二人――『光の王子』『赤の女王』なる、恐らくはやんごとなき人であろうとペーター少尉が踏んだ人物――から間を開けてから、屈託のない笑顔でそう言って、モーセス・グースはペーター少尉を迎えた。
ドルマは、手を合わせて、モーセス・グースに頭を下げる。ペーター少尉も同じように、この地に来てから身につけた礼賛の形を取る。
「お迎えいただき光栄です、グース師」
「なんの。拙僧は『光の王子』をお迎えに参上したのですが、大変に間が良かったようですね……ここがどういう場所であるかは?」
「『神秘の谷』という名前以外は」
モーセス・グースの問いかけに、ペーター少尉は小さく首を横に振って答える。ペーターの半歩後ろに控えるドルマに目を向けたモーセスは、そのドルマが小さく首肯したのを見る。
「なるほど。確かに、一言で説明するのは困難でもありますし、実際に見ていただいた方が理解が早いでしょう。よろしい、この折にここにいらしたのは、これも仏縁があったものかも知れません」
そこまで言って、モーセスは振り返り、後ろに控える二人にうやうやしく一礼し、奏上する。
「このモーセス・グースは、ペーター・メークヴーディヒリーベ氏を我らの都に迎え入れたいと欲します。慈悲深き『光の王子』、尊き宝珠におかれましては、何卒、お許しを賜りたく、お願い申し上げます」
「それだけの価値のある人物であると、あなたは判断したのですね?」
「御意に」
「なれば、私に反対する理由はありません」
その青年は、一歩進み出て、左手を差し出す。
「左手は心により近いのです。我らの都にようこそ、異国の方よ」
右手を出して握手したものか、それとも合掌、あるいは敬礼したものか。ほんの一瞬の戸惑いを見透かしたように言葉と共に差し出された左手を、ペーター少尉は即座にその手を受けると、ためらいなく片膝をついた。
「ペーター・メークヴーディヒリーベ。ドイツ国一般親衛隊特務少尉です。どうぞ、お見知りおきの程を」
目を伏せてそう名乗ってから、ペーター少尉は視線を上げて、青年を見上げる。
「立ち上がってください」
白を基調とした、飾り気は少ないが惚れ惚れするような仕立ての、昼を回った太陽の光を背後から浴びて、まるで後光が差すかのように輝く、端正な顔立ちのその『光の王子』なる青年に声をかけられ、漆黒の親衛隊制服制帽に身を包んだペーター少尉は、ゆっくりと立ち上がる。
脳の奥が痺れるような、魅力的で、抗いがたい何かを感じながら。
「歓迎します、ドイツ国の同胞よ。ゆっくりお話を伺いたいところですが、私はまず、帰還を首を長くして待っている者達に無事を知らせなければなりません。よろしければ、我らが都にしばし逗留いただき、私の体が空き次第、改めてお話をさせていただきたいのですが?」
「もちろん、有り難くお受けいたします」
ペーター少尉は、深く頭を下げる。何とも心地よい何かが、胸の内に広がるのを感じながら。
「元君、差し支えございませんか?」
二歩ほど後ろの『赤の女王』に、『光の王子』が確認する。
「構わなくてよ。何なら、私が都をご案内してもよろしくてよ?」
言って、『赤の女王』は微笑む。小首を微かに傾げ、頬においた片手の小指を口元に添え、蠱惑的に。
ペーター少尉は、その時初めて気付いた。まばゆいばかりの『光の王子』の隣に佇む『赤の女王』、彼女が纏うのは隣の『光の王子』のような民族衣装ではなく洋装の、紅蓮の炎のような紅いイブニングドレスであり、その上の豊かな髪もまた燃えるように紅く、またその肌は日焼けしたチベット人と比べてもはるかに黒く、黒曜石のようなその肌の中から紅い瞳が自分を見つめていることを。
「どうせ、私はここに居てもあまりすることないのだし」
『赤の女王』はそう言って自分の小指をちろりと舐める。
「恐れながら。ペーター様にはどこぞのお部屋をお食事を用意し、まずは疲れを癒やしていただきたいと存じますれば、その役目は私にお任せいただきたく」
それまで控えていたドルマがついと進み出て、やや唐突に口を挟んだ、あわせた掌の下に目を伏せるようにして。
「そう。あなたがそう言うなら、任せます、ドルマ」
暫時、目をしばたかせつつドルマを見つめた『元君』――道教における女仙の別称――『赤の女王』は、そう言ってドルマに微笑む。母のように、ひたすらに優しく。
「それでは王子、女王、御殿に参りましょう。ドルマ、少尉殿のことは任せます」
明らかにほっとした様子で、モーセスは『光の王子』と『赤の女王』に申し出て、先導して歩き始める。
その行方を目で追っていたペーター少尉に、ドルマが声をかけた。
「私達も、参りましょう」
巨大な石版から数百メートル程歩いた先にあったのは、7つの巨大な四角い構造物と、その中央にある井戸のような建造物だった。
七つの巨大な四角は差し渡し40メートルはあろうという大きさの正方形で、近づいてみればその高さは2メートルを超える。わずかに反射した光が谷の断崖を照らす様子から見て、その内側はガラスか、それに類する素材が貼られているのだろうとペーター少尉は推測する。
その四角のすぐ側にはそれぞれ1つずつ、計7つの穴が穿たれ、その内部は地下へ向かう階段が作られていた。U字谷の底は瓦礫主体だから、その入り口はコンクリート様の何かで階段ごと固められており、数メートルほど下がったところに扉がある。
ペーター少尉が見守る中、モーセス・グースに先導された『光の王子』と『赤の女王』は、そのうちの1つを下り、扉の向こうに消える。
「ペーター様は、こちらです」
ペーター少尉を先導するドルマは、モーセス達が入って行ったのとは別の穴を指し示す。それは、中央の井戸の向こう側になる位置にあった。
「なるほど、地下都市ですか。してみると、あの大きな四角は、明かり取りでしょうか」
中央の『井戸』――これ自体、直径は10メートルほど、縁の高さはペーター少尉の肩と良い勝負で、さしずめ巨人の井戸の様だ――の脇を通りながら、ペーター少尉は呟いた。井戸を中心に七つの四角の少し先までの地面は、わずかではあるが明らかに意図を持って砂利が積み上げられて、ゆるい丘陵を成している。ペーター少尉は、その丘陵のおかげで四角の縁より高くなった視線によって、確かにその内側にガラス様の素材がはめ込まれていることを見て取った。
「お察しの通りです。もっとも、私はそういう方面は明るくないのですけれど」
苦笑しながら振り返って、ドルマが言う。
「しかし、だとすると、この中央の井戸のようなものは……少々理屈が合いませんね、井戸ではない?」
足を停めて、体ごと振り向いたドルマは、頷く。
「この穴の目的を知る者は、私を含めてここには居ません。どれくらい深いのかも」
言って、ドルマは『井戸』の縁を見上げる。ちょうど、その縁の高さはドルマの目線ほどだ。
「この下には、悪霊が封じられている、とも言われていますが、確かめる術もありませんし、確かめた者も居ません」
「悪霊、ですか……」
ペーター少尉も、ドルマから視線を『井戸』に戻して呟く。悪霊などというものが居るとしたら、一体それはどんな姿をしているのだろう?穴を掘ったくらいで封じ込められる程度のものなのだろうか?
ペーター少尉は、自分が驚くほど冷静でいることに気付いた。なんとなれば、今まさに、探していた『シャンバラ』の入り口に立っているかも知れないというのに。
どうして冷静で居られるのか、ペーター少尉は自問する。恐らくは、こうもあっさりと、思いもかけない方法でそれが見つかってしまったから、驚き興奮する準備が出来ていないのだ、そう思って、ペーター少尉は納得しようとする。
納得のいかない、ここは目的の場所ではないと頭の片隅でか細く警鐘を鳴らす、本能の教えを押し殺して。
「どうかされました?」
その様子を訝しんだドルマが、ペーター少尉に声をかける。
「いえ、悪霊が封じられているなら、どれほど深く埋めれば良いのだろうかと思いまして」
「……」
ドルマは、しばし『井戸』を見つめて、ぼそりと呟く。
「……悪霊を封じたのでなくて、ここに身を投げたものが、悪霊になるのかもしれませんね……」
「え?」
ドルマは、思わず聞き返したペーター少尉に、取り繕うような笑顔で言った。
「なんでもありません。さあ、こちらへ」
「先ほどモーセス師範方が入られた入り口は、王子や女王のおわします宮殿に繋がっています。これからご案内するのは外来者の宿泊施設に通じる入り口です」
「7つの入り口がそれぞれ別の施設に続くのですね。それぞれの施設は地下では繋がっていないのですか?」
「そうではありませんが」
少しだけ前を歩くドルマは、ペーター少尉に振り返って答える。
「先ほどの『井戸』ですが、中央にあれがあります関係で、それそれを繋ぐ回廊は大きく迂回しています。地上からであれば、直接目的地に繋がる階段を降りられますから、わざわざ地下で回廊を迂回して遠回りする必要は無いと言う事です」
「ああ、なるほど……他の入り口は、どこに繋がっているのですか」
「寺院に、居住区に、倉庫に……」
指折り数えつつ、ドルマはちょっとだけ肩をすくめて、ペーター少尉に目を戻す。
「……私も、知識としては知っているのですが、全ての施設に行ったことはないんです。むしろ、行った事のある場所の方が少ないくらいで」
ドルマは、苦笑する。つられて、ペーター少尉も肩の力を抜きながら、
「知識があるだけ、何も知らない私よりマシです。まずは、腰を下ろせるところに案内していただけますか?」
「はい。足下にお気を付けて」
先導するドルマにそう言われて、ペーター少尉は地下への階段を下り始めた。
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