8 / 108
第一章-月齢24.5-
第1章 第7話
しおりを挟む
10名程の分隊が四つ、さらに小隊長であるペーター・メークヴーディヒリーベ少尉を含めて総勢45名で構成する先遣調査小隊にあって、片言とはいえ曲がりなりにも現地語を使えるのはペーター少尉だけであった。
突然飛び込んできた当番兵の報告に、ペーター少尉は気まずいところを見られた風でもなく返事をした。
「……分かりました、すぐ行きましょう。容態は?」
「は、健康状態に問題はなさそうですが、言葉の問題もあり、怯えているようであります」
「了解しました。ユモさん、ユキさん、すみませんが、少々お時間をいただけますでしょうか?」
「……よろしければ、少尉さん、ご一緒させてくれません?」
ユモは、腰を上げながらペーター少尉に言う。言葉とは裏腹に、その態度には絶対に行くという熱意、断られることなど考えていない意思が明らかであった。
「……いいでしょう、あなた方は第一発見者でもあります。ご一緒においで下さい」
一瞬、何かを考えたペーター少尉は、二人の少女の同行を許可した。
「こんにちは。お名前は何ですか?」
苦労してチベット語の発音を駆使しつつ、ペーター少尉が、ベッドの上で半身を起こす現地人の少年に笑顔で尋ねる。
「……白人……が……増えた……」
しかし、その笑顔のかいなく、むしろ禁忌とされる白人が増えた事で、その少年はさらに身をかたくしてしまう。
「ずっとこの調子で……どうしたものか」
「困りましたね、私もチベット語は片言ですし、ましてや方言となるとどうにも……」
困惑している当番兵に、ペーター少尉も顎に手を当てて考え込んでしまう。
チベット語は、地域により方言が多い事に加え、ラマ僧の教えによって一般チベット人は外国人、特に白人に警戒感を抱いている事はペーター少尉は知っていたし、その為に一般人との無用な接触は避けるようチベット中央政府からの要請があったことも確かだった。だが、西洋文化の常識で考えるペーター少尉にして、排他的、閉鎖的な異文化の常識を持つ少年を、どう扱うべきか、即座に答えが出なかった。
「……大丈夫よ、安心なさい」
そのペーター少尉の横で、鈴の音のような少女の声がした。
「確かにあたし達は白人だけど、悪霊でも何でもない、あんたと同じただの人間よ」
少しだけ驚いて、ペーター少尉は声の主を探し、視線を自分の左横やや下方に下げる。そこには、腰に手を当てて胸を張り、自信満々の笑顔で、しかし優しい視線を少年に向けるユモの姿があった。
「……同じ?」
「そう。同じよ。手が二本足が二本で目が二つ、どう?あたしとあんた、何が違う?」
そう言って、ユモは笑う。
「……肌の色と髪の色……」
「そりゃそうよ。国が違えば、住むところが違えばそれくらいは違うわよ?それとも何?違う国の人間を見るのは初めて?」
おずおずと、ゆっくり首を縦に振ろうとした少年は、急にはっと目を開き、強く首を横に振り直した。
「……初めてじゃない。思い出した。俺は、前に一度、白人に会ったことがある」
「なら、その白人は『悪霊』だった?」
「違う。その白人は、とても賢くて、ラマ僧に聞いたのとはまるで違った」
「ふうん……あたしたちがその白人と同じくらい賢いかは知らないけど、多分、あたし達もそのラマ僧とやらが言ったのとは違ってると思うわ。あんた、どう思う?」
「それは……うん、違う気がする。酷い匂いでも、酷く醜くもない。肌の色も髪の色も、着ている服も変だけど」
「そりゃそうよ、あんたの家族は、みんなあんたと同じ顔?ちがうでしょ?なら、家族でも違うなら、国が違えばもっと違う。違って当たり前。そうでしょ?」
「ああ……そりゃそうだ。あんたの言うとおりだ」
「理解が早くて結構よ。あたしは、ユモ。あんた、名前は?」
「……ケシュカル」
少年が緊張を解き、名乗ったのを聞いて、ユモはペーター少尉に振り向いた。ちょっとばかりドヤ顔で。
「……奇蹟だ……」
ペーター少尉はしかし、想像以上に感極まった様子で呟いた。
「ユモさん、あなたは母国語で少年に問いかけ、少年はチベット語でユモさんに答えた。私の拙いチベット語ですらなく。一体どうして言葉が通じたのか……」
「どうしてって、そりゃ……え?あ!」
はっとして口を手で押さえたユモに、状況が理解出来ていない雪風が聞いた。
「え?何?どうかしてた?」
「えっと……どうしてでしょうね?真心が、伝わったのか、な?あはは……」
何某か、自分が犯したミスに気付き笑ってごまかそうとするユモに、かぶりをふってペーター少尉は答えた。
うっとりとした表情、潤んだ瞳をユモと、ユモの後ろに控える雪風に向けて。
「いいえ。それこそ、これこそが、神がお示しになった奇蹟なのでしょう……」
「……見落としてたわ……」
自分達専用に仕立ててもらったテントの中で、特別に沸かしてもらったタライの湯で体を拭きつつ、ユモが口惜しげに愚痴る。
チベット人の少年、ケシュカルの名前を聞き出した後、ペーター少尉とユモ、雪風はそのテントを退出した。
地味に興奮し、もっと話をしたそうなペーター少尉の頭を冷やすためもあり、ユモと雪風は風呂かシャワーを浴びられないかペーター少尉に質問し、シャワーは無理だがお湯を用意する位なら何とかなる、との回答を得た。
年端もいかない少女とはいえ、いやむしろだからこそ女っ気のない調査小隊の男衆の間で問題があっても困るという事で、調査部隊が帰還する前に事を済ませてしまおう、ユモと雪風はそう強く主張し、ペーター少尉も異を唱えるものではなかったために突貫工事で比較的綺麗で空間にも余裕のある資材テントの一つの片隅を開放し、タライにお湯も用意してもらった。
タオルや石鹸も予備資材を借用し、これまで複数回の『時空跳躍』の中では比較的マシな環境で体を清めつつ、ユモは先ほど気付いた失敗、『言葉通じせしむ呪い』の欠点について語った。
「あの呪い、基本的には一対一で使う前提だから、こういう、複雑な状況だと上手くないのね……盲点だったわ」
そもそも『言葉通じせしむ呪い』は、ヨーロッパ言語は大体なんとかなるがアジア言語はからっきしなユモが、日本語話者で英語ですらおぼつかない雪風と会話するために互いにかけた呪いである。
『言葉通じせしむ』の名の通り、異言語間での会話を成立させるのがこの呪いの本質だが、実はこの呪いは言語を翻訳しているわけではない。あくまで互いの言語はそのまま耳に入るが、『伝えたい意図』が『会話したい相手』に『直接伝わる』為、相手はそれを自分の母国語として聞いていると錯覚するというものだ。
なので、相手が理解出来ない、対応する概念や語彙を持たない意図は伝わらず、発声側の言葉がそのまま伝わるという問題点がある事は、早い段階でユモも分かっていた。
今回新たに、それだけではなく「複数同時に、呪いのかかっていない別個の言語話者が存在する場合、その話者同士は意思疎通出来ない」という、考えてみれば当たり前の現象が起こることが判明した。
具体的には、ユモの発話は呪いの効力でケシュカルとペーター少尉にはそれぞれ互いの母国語として聞こえた――そもそもユモとペーター少尉は同じ母国語、ドイツ語話者だが――が、ケシュカルの発話はペーター少尉にはチベット語として聞こえていた。つまり、ペーター少尉からするとユモとケシュカルは違う言語、ドイツ語とチベット語で会話が成立していたように聞こえていたのだ。
ペーター少尉がチベット語を理解出来なければ、ユモとケシュカルは互いに母国語で言い合っていただけに聞こえていただろうが、曲がりなりにもペーター少尉がチベット語を習得していた為、会話が成立していたのを理解出来てしまった事が事態をより複雑にした。要するに、違う言語での会話を成立させる『見えざる神の手』が働いたのだと、ペーター少尉が誤解してしまったのだ。
「かつて、世界で言葉は共通でした」
その時、ペーター少尉は言った。
「しかし、驕れる人を戒める為、神は言葉を乱し、通じないようにしました……『エホバ降臨りて彼人衆の建る邑と塔を觀たまへり……去來我等降り彼處にて彼等の言語を淆し互に言語を通ずることを得ざらしめん』。御存知、創世記11章、いわゆるバベルです……今、私の目の前でユモ・タンク嬢が起こしたこの光景は、全くもってその逆です……これを奇蹟と言わずして、何としましょう」
「まさか、バベルの塔を持ち出してくるとはね……」
覗かれるのも困るが、聞き耳立てられるのはもっと困る為、ユモが『言葉乱しせしむ呪い』をかけたテントの中で、ユモの濡れ髪を拭いてあげながら、雪風が呟く。
「知っているのね雪風」
「一応ね、オタク知識の一環としてね……ああいう言い方されると、反論出来ないわよね」
「まさか、あたしが魔法かけました、なんて言えるわけないし」
「……なるほど、いやはや宗教、いや信仰というのは難儀なものですな」
それまでだんまりを決め込んでいたニーマントが、ユモの胸元から感想を述べた。
「難儀の塊みたいなニーマントさんが、他人事みたいに言わないで欲しいんですけど」
「そうよ、まあ、ずっと黙ってたのは有り難かったけど」
少女二人に八つ当たり気味に抗議され、しかし、ニーマントは歯牙にもかけない。
「それで、これからどうされるおつもりですか?ミスタ・メークヴーディヒリーベはいよいよお二人を歓待こそすれ手放す気はなさそうですが」
「……そうね。日蝕まで、行くとこあるわけじゃないし、歓待してくれるのは有り難いけど……申し訳ないけど、日蝕が起きたら有無を言わさずお暇させてもらうわよ」
髪を拭いて貰いながら、ユモは細い体についた水滴を拭いつつ、ニーマントに答える。
「あたしたちの最優先は帰る事。でもまあ、礼を失しないようにはしないとね……はい、こんなもんかしら?」
「ありがと。そうね、礼儀は大事よね」
ユモの長い髪を拭き終えた雪風に礼を言いつつ、ユモも独りごちる。
「あたしたちは、お嬢様なんですもの」
突然飛び込んできた当番兵の報告に、ペーター少尉は気まずいところを見られた風でもなく返事をした。
「……分かりました、すぐ行きましょう。容態は?」
「は、健康状態に問題はなさそうですが、言葉の問題もあり、怯えているようであります」
「了解しました。ユモさん、ユキさん、すみませんが、少々お時間をいただけますでしょうか?」
「……よろしければ、少尉さん、ご一緒させてくれません?」
ユモは、腰を上げながらペーター少尉に言う。言葉とは裏腹に、その態度には絶対に行くという熱意、断られることなど考えていない意思が明らかであった。
「……いいでしょう、あなた方は第一発見者でもあります。ご一緒においで下さい」
一瞬、何かを考えたペーター少尉は、二人の少女の同行を許可した。
「こんにちは。お名前は何ですか?」
苦労してチベット語の発音を駆使しつつ、ペーター少尉が、ベッドの上で半身を起こす現地人の少年に笑顔で尋ねる。
「……白人……が……増えた……」
しかし、その笑顔のかいなく、むしろ禁忌とされる白人が増えた事で、その少年はさらに身をかたくしてしまう。
「ずっとこの調子で……どうしたものか」
「困りましたね、私もチベット語は片言ですし、ましてや方言となるとどうにも……」
困惑している当番兵に、ペーター少尉も顎に手を当てて考え込んでしまう。
チベット語は、地域により方言が多い事に加え、ラマ僧の教えによって一般チベット人は外国人、特に白人に警戒感を抱いている事はペーター少尉は知っていたし、その為に一般人との無用な接触は避けるようチベット中央政府からの要請があったことも確かだった。だが、西洋文化の常識で考えるペーター少尉にして、排他的、閉鎖的な異文化の常識を持つ少年を、どう扱うべきか、即座に答えが出なかった。
「……大丈夫よ、安心なさい」
そのペーター少尉の横で、鈴の音のような少女の声がした。
「確かにあたし達は白人だけど、悪霊でも何でもない、あんたと同じただの人間よ」
少しだけ驚いて、ペーター少尉は声の主を探し、視線を自分の左横やや下方に下げる。そこには、腰に手を当てて胸を張り、自信満々の笑顔で、しかし優しい視線を少年に向けるユモの姿があった。
「……同じ?」
「そう。同じよ。手が二本足が二本で目が二つ、どう?あたしとあんた、何が違う?」
そう言って、ユモは笑う。
「……肌の色と髪の色……」
「そりゃそうよ。国が違えば、住むところが違えばそれくらいは違うわよ?それとも何?違う国の人間を見るのは初めて?」
おずおずと、ゆっくり首を縦に振ろうとした少年は、急にはっと目を開き、強く首を横に振り直した。
「……初めてじゃない。思い出した。俺は、前に一度、白人に会ったことがある」
「なら、その白人は『悪霊』だった?」
「違う。その白人は、とても賢くて、ラマ僧に聞いたのとはまるで違った」
「ふうん……あたしたちがその白人と同じくらい賢いかは知らないけど、多分、あたし達もそのラマ僧とやらが言ったのとは違ってると思うわ。あんた、どう思う?」
「それは……うん、違う気がする。酷い匂いでも、酷く醜くもない。肌の色も髪の色も、着ている服も変だけど」
「そりゃそうよ、あんたの家族は、みんなあんたと同じ顔?ちがうでしょ?なら、家族でも違うなら、国が違えばもっと違う。違って当たり前。そうでしょ?」
「ああ……そりゃそうだ。あんたの言うとおりだ」
「理解が早くて結構よ。あたしは、ユモ。あんた、名前は?」
「……ケシュカル」
少年が緊張を解き、名乗ったのを聞いて、ユモはペーター少尉に振り向いた。ちょっとばかりドヤ顔で。
「……奇蹟だ……」
ペーター少尉はしかし、想像以上に感極まった様子で呟いた。
「ユモさん、あなたは母国語で少年に問いかけ、少年はチベット語でユモさんに答えた。私の拙いチベット語ですらなく。一体どうして言葉が通じたのか……」
「どうしてって、そりゃ……え?あ!」
はっとして口を手で押さえたユモに、状況が理解出来ていない雪風が聞いた。
「え?何?どうかしてた?」
「えっと……どうしてでしょうね?真心が、伝わったのか、な?あはは……」
何某か、自分が犯したミスに気付き笑ってごまかそうとするユモに、かぶりをふってペーター少尉は答えた。
うっとりとした表情、潤んだ瞳をユモと、ユモの後ろに控える雪風に向けて。
「いいえ。それこそ、これこそが、神がお示しになった奇蹟なのでしょう……」
「……見落としてたわ……」
自分達専用に仕立ててもらったテントの中で、特別に沸かしてもらったタライの湯で体を拭きつつ、ユモが口惜しげに愚痴る。
チベット人の少年、ケシュカルの名前を聞き出した後、ペーター少尉とユモ、雪風はそのテントを退出した。
地味に興奮し、もっと話をしたそうなペーター少尉の頭を冷やすためもあり、ユモと雪風は風呂かシャワーを浴びられないかペーター少尉に質問し、シャワーは無理だがお湯を用意する位なら何とかなる、との回答を得た。
年端もいかない少女とはいえ、いやむしろだからこそ女っ気のない調査小隊の男衆の間で問題があっても困るという事で、調査部隊が帰還する前に事を済ませてしまおう、ユモと雪風はそう強く主張し、ペーター少尉も異を唱えるものではなかったために突貫工事で比較的綺麗で空間にも余裕のある資材テントの一つの片隅を開放し、タライにお湯も用意してもらった。
タオルや石鹸も予備資材を借用し、これまで複数回の『時空跳躍』の中では比較的マシな環境で体を清めつつ、ユモは先ほど気付いた失敗、『言葉通じせしむ呪い』の欠点について語った。
「あの呪い、基本的には一対一で使う前提だから、こういう、複雑な状況だと上手くないのね……盲点だったわ」
そもそも『言葉通じせしむ呪い』は、ヨーロッパ言語は大体なんとかなるがアジア言語はからっきしなユモが、日本語話者で英語ですらおぼつかない雪風と会話するために互いにかけた呪いである。
『言葉通じせしむ』の名の通り、異言語間での会話を成立させるのがこの呪いの本質だが、実はこの呪いは言語を翻訳しているわけではない。あくまで互いの言語はそのまま耳に入るが、『伝えたい意図』が『会話したい相手』に『直接伝わる』為、相手はそれを自分の母国語として聞いていると錯覚するというものだ。
なので、相手が理解出来ない、対応する概念や語彙を持たない意図は伝わらず、発声側の言葉がそのまま伝わるという問題点がある事は、早い段階でユモも分かっていた。
今回新たに、それだけではなく「複数同時に、呪いのかかっていない別個の言語話者が存在する場合、その話者同士は意思疎通出来ない」という、考えてみれば当たり前の現象が起こることが判明した。
具体的には、ユモの発話は呪いの効力でケシュカルとペーター少尉にはそれぞれ互いの母国語として聞こえた――そもそもユモとペーター少尉は同じ母国語、ドイツ語話者だが――が、ケシュカルの発話はペーター少尉にはチベット語として聞こえていた。つまり、ペーター少尉からするとユモとケシュカルは違う言語、ドイツ語とチベット語で会話が成立していたように聞こえていたのだ。
ペーター少尉がチベット語を理解出来なければ、ユモとケシュカルは互いに母国語で言い合っていただけに聞こえていただろうが、曲がりなりにもペーター少尉がチベット語を習得していた為、会話が成立していたのを理解出来てしまった事が事態をより複雑にした。要するに、違う言語での会話を成立させる『見えざる神の手』が働いたのだと、ペーター少尉が誤解してしまったのだ。
「かつて、世界で言葉は共通でした」
その時、ペーター少尉は言った。
「しかし、驕れる人を戒める為、神は言葉を乱し、通じないようにしました……『エホバ降臨りて彼人衆の建る邑と塔を觀たまへり……去來我等降り彼處にて彼等の言語を淆し互に言語を通ずることを得ざらしめん』。御存知、創世記11章、いわゆるバベルです……今、私の目の前でユモ・タンク嬢が起こしたこの光景は、全くもってその逆です……これを奇蹟と言わずして、何としましょう」
「まさか、バベルの塔を持ち出してくるとはね……」
覗かれるのも困るが、聞き耳立てられるのはもっと困る為、ユモが『言葉乱しせしむ呪い』をかけたテントの中で、ユモの濡れ髪を拭いてあげながら、雪風が呟く。
「知っているのね雪風」
「一応ね、オタク知識の一環としてね……ああいう言い方されると、反論出来ないわよね」
「まさか、あたしが魔法かけました、なんて言えるわけないし」
「……なるほど、いやはや宗教、いや信仰というのは難儀なものですな」
それまでだんまりを決め込んでいたニーマントが、ユモの胸元から感想を述べた。
「難儀の塊みたいなニーマントさんが、他人事みたいに言わないで欲しいんですけど」
「そうよ、まあ、ずっと黙ってたのは有り難かったけど」
少女二人に八つ当たり気味に抗議され、しかし、ニーマントは歯牙にもかけない。
「それで、これからどうされるおつもりですか?ミスタ・メークヴーディヒリーベはいよいよお二人を歓待こそすれ手放す気はなさそうですが」
「……そうね。日蝕まで、行くとこあるわけじゃないし、歓待してくれるのは有り難いけど……申し訳ないけど、日蝕が起きたら有無を言わさずお暇させてもらうわよ」
髪を拭いて貰いながら、ユモは細い体についた水滴を拭いつつ、ニーマントに答える。
「あたしたちの最優先は帰る事。でもまあ、礼を失しないようにはしないとね……はい、こんなもんかしら?」
「ありがと。そうね、礼儀は大事よね」
ユモの長い髪を拭き終えた雪風に礼を言いつつ、ユモも独りごちる。
「あたしたちは、お嬢様なんですもの」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
現代に帰還した"元"邪悪な魔女は平穏に暮らしたいけど、駄目そうなので周到に準備して立ち回りながら無双します
忘八
ファンタジー
地球とは異なる魔法ありし世界で『疫病』『空から死を与える魔女』『紅蓮の魔女』『死を司る魔女』等の幾つもの悪名を馳せる魔女が居た。
だが、そんな悪名高き邪悪なる魔女は忽然と姿を消し、永い年月を経て歴史の中へと埋もれて次第に人々から忘れ去られていった。
しかし、そんな邪悪なる魔女は故郷である地球で薬師寺 涼子と言う一人の善良なる少女として身に付けた魔導と血塗られた過去を棄て、平穏に生きていた。
コレは平穏に暮らしたい彼女がトラブルに巻き込まれて辟易としながらも、やって来るトラブルを叩き潰して捻じ伏せる物語。
11月8日0427時現在
1話目から22話目まで改稿完了
カクヨムと小説家になろうでも投稿しております
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!
昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。
ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。
この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。
------------------------------------
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる