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シャッター横のドアの鍵が、外から解錠される。乱暴にドアが引き開けられ、どやどやと複数の人影が入ってくる。
「おい、電気」
その人影の中央やや後方から声がかかる。一人が、配電盤の方に行こうとした、その時。
「ヘイ!お兄さん方!」
人影の背後、シャッターの脇から、声がかかる。
人影が揃って振り向いた、その時。
信仁が、マグライトを点灯した。
3WのパワーLEDを3個、計算上は1000ルーメンを余裕で超えるパワーを半値角30度のコリメータで集光した光束が、ヤクザ者の集団を照らし出した。って言ってもあたしには何のことだかさっぱりなんだけど。メチャクチャ明るい、って事だけ伝わればいいって、あとで信仁が言ってた。
あっ、とかぎゃっ、とか声がするのを聞いて、あたしは隠れていた柱の陰から跳び出す。同時に光は消え、暗闇が戻って来る。瞼を閉じていたあたしの目は闇に慣れたまま。遠くの常夜灯の薄明かりだけで、充分に人影が判別出来る。
相手は、七人。まず、手近な一人の鳩尾に突きを入れる。そいつが床に倒れる前に、もう一人。一瞬だけ視線を流すと、信仁も一人伸して二人目にかかっている。あたしも、手近な三人目に向かうが、どうもこの三人目はある程度目が見えているらしく、拳をこちらに突き出してくる。
まあ、それはそうか。咄嗟の機転の目潰しだったが、その瞬間の顔向きや人影の重なりがあるから、後ろの方ほど効果は薄くてもおかしくない。そう思いつつ、あたしが三人目の拳をいなして鳩尾を突くタイミングを計っていた時。
ばしん。音と共に一瞬、工場内全体が薄明るくなった。
一瞬だけ明るくなり、続いて薄明るい状態から徐々に明度を上げていく、グラウンドのナイター照明なんかで使う水銀灯の特徴的な点灯。チンピラの中の気の利いたのが、配電盤のスイッチを入れたのだ。
「……クソが!」
言い捨てて、チンピラの中の一人、見覚えのある趣味のよくないスーツを着た男が、事務所に向かって走り出す。
「あ!アニキ!」
それを見た、配電盤のスイッチを入れた男も、スーツの男を追って走り出す。
「姐さん頼む!」
二人目に取りかかろうとしていた信仁が振り向き、三人目にかかっていた分だけ壁際から離れている、つまりアニキとやらにそれだけ近いあたしに言う。
あたしはそれを聞き、同時に、明るくなった事で相対するあたしが木刀を持っている事に気付いて腰が退けた三人目の鳩尾に突きを叩き込んで、振り向かずに言い返す。
「任せな!」
言い返すなり、あたしは走り出す。アニキと呼ばれたスーツの男まで5メートル程、任せなと言ったものの、事務所までに追いつくのはちょっと苦しいか。ましてや、3メートルほど先にもチンピラがもう一人。あたしは、走り出しながら右手でポケットのコインを探る。そのあたしの目の前を、低く、回転しながら、黒い棒状の何かがよぎり、アニキの後を追うチンピラの脚に絡みつく。もんどり打って倒れるチンピラの脚から跳ねたそれは、信仁のマグライトンファーだった。
やるじゃん。目の隅でそれを確認したあたしは素直にそう思い、しかし脇目はくれず、アニキと呼ばれた男の後を全力で追う。
そのアニキは、事務所のドアの前で一旦立ち止まり、スーツの懐から黒い何かを抜き、あたしに向けようとする。その右手がスーツから出た瞬間、あたしが指弾で放ったコインが、狙い違わずその右手の甲を穿つ。
「っあ!」
痛みで顔を歪め、黒い何かを取り落としたアニキの鳩尾に、走り込んだ勢いのまま、あたしの木刀の切っ先がめり込んだ。
「おい、電気」
その人影の中央やや後方から声がかかる。一人が、配電盤の方に行こうとした、その時。
「ヘイ!お兄さん方!」
人影の背後、シャッターの脇から、声がかかる。
人影が揃って振り向いた、その時。
信仁が、マグライトを点灯した。
3WのパワーLEDを3個、計算上は1000ルーメンを余裕で超えるパワーを半値角30度のコリメータで集光した光束が、ヤクザ者の集団を照らし出した。って言ってもあたしには何のことだかさっぱりなんだけど。メチャクチャ明るい、って事だけ伝わればいいって、あとで信仁が言ってた。
あっ、とかぎゃっ、とか声がするのを聞いて、あたしは隠れていた柱の陰から跳び出す。同時に光は消え、暗闇が戻って来る。瞼を閉じていたあたしの目は闇に慣れたまま。遠くの常夜灯の薄明かりだけで、充分に人影が判別出来る。
相手は、七人。まず、手近な一人の鳩尾に突きを入れる。そいつが床に倒れる前に、もう一人。一瞬だけ視線を流すと、信仁も一人伸して二人目にかかっている。あたしも、手近な三人目に向かうが、どうもこの三人目はある程度目が見えているらしく、拳をこちらに突き出してくる。
まあ、それはそうか。咄嗟の機転の目潰しだったが、その瞬間の顔向きや人影の重なりがあるから、後ろの方ほど効果は薄くてもおかしくない。そう思いつつ、あたしが三人目の拳をいなして鳩尾を突くタイミングを計っていた時。
ばしん。音と共に一瞬、工場内全体が薄明るくなった。
一瞬だけ明るくなり、続いて薄明るい状態から徐々に明度を上げていく、グラウンドのナイター照明なんかで使う水銀灯の特徴的な点灯。チンピラの中の気の利いたのが、配電盤のスイッチを入れたのだ。
「……クソが!」
言い捨てて、チンピラの中の一人、見覚えのある趣味のよくないスーツを着た男が、事務所に向かって走り出す。
「あ!アニキ!」
それを見た、配電盤のスイッチを入れた男も、スーツの男を追って走り出す。
「姐さん頼む!」
二人目に取りかかろうとしていた信仁が振り向き、三人目にかかっていた分だけ壁際から離れている、つまりアニキとやらにそれだけ近いあたしに言う。
あたしはそれを聞き、同時に、明るくなった事で相対するあたしが木刀を持っている事に気付いて腰が退けた三人目の鳩尾に突きを叩き込んで、振り向かずに言い返す。
「任せな!」
言い返すなり、あたしは走り出す。アニキと呼ばれたスーツの男まで5メートル程、任せなと言ったものの、事務所までに追いつくのはちょっと苦しいか。ましてや、3メートルほど先にもチンピラがもう一人。あたしは、走り出しながら右手でポケットのコインを探る。そのあたしの目の前を、低く、回転しながら、黒い棒状の何かがよぎり、アニキの後を追うチンピラの脚に絡みつく。もんどり打って倒れるチンピラの脚から跳ねたそれは、信仁のマグライトンファーだった。
やるじゃん。目の隅でそれを確認したあたしは素直にそう思い、しかし脇目はくれず、アニキと呼ばれた男の後を全力で追う。
そのアニキは、事務所のドアの前で一旦立ち止まり、スーツの懐から黒い何かを抜き、あたしに向けようとする。その右手がスーツから出た瞬間、あたしが指弾で放ったコインが、狙い違わずその右手の甲を穿つ。
「っあ!」
痛みで顔を歪め、黒い何かを取り落としたアニキの鳩尾に、走り込んだ勢いのまま、あたしの木刀の切っ先がめり込んだ。
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