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「まあ、サーバの中身そのものは、まだ抜けてないんすけどね」
 信仁しんじが、あっけにとられているあたしに、言った。
「なんで、これから行って、直接抜いてやろうかと」
「ファイル自体を抜く必要はないから、まあリストとログくらいありゃ充分だろうけどな」
 信仁に続けて、平然と寿三郎じゅざぶろうも言う。
 あたしは、開いた口が塞がらない、を通り越して、空恐ろしくすら感じた。あんたたち、ヤクザ舐めすぎてないか、と。
 それと同時に、ここまでのお膳立てをやってのけてしまっているこの二人なら、本当にやっちまいかねない、少なくとも、今あたしが止めたとしても、近い将来必ず絶対間違いなくやらかしやがるに違いない、そうも思った。
 だから、その時、あたしは言ったんだ。
「……わかった。あんた達が規格外の大馬鹿野郎、本気でイカレてるってのはよくわかったわよ。それに、どうせ止めたって、今は大人しく引き下がって、また隙を見て行くんだろうし」
 二人は、黙って肩をすくめる。
「だから、あたしもついて行く。その条件なら、見逃してやるよ」
 さすがにこれは予想外だったらしい。二人は、顔を見合わせた。
「……ちょっと、予想が外れたな」
「ああ、もっと説得に手こずる想定だったんだが……姐さん、ホントにそれで良いんすね?」
 ……あたしがOKする所までは想定内だったんかい……こいつら、本当に世間舐めてるだけなんじゃないの?あたしは、半ば本気でそう思いつつ、信仁の質問に答える。
「そのかわり、あたしが引けって言ったら引きな。あんた達はあたしの預かりなんだ、何かあったらあたしの面子が立たないんだよ」
「だ、そうです」
「って俺か?」
「そりゃ、俺はあねさんの尻に敷かれてるからな」
「ったく、わぁーった、大人しく言う事聞くさ」
 寿三郎を信仁が丸め込んだ所で、あたしは革ジャン――カドヤのゴッドスピード――の内ポケットから折りたたんだ紙を取り出す。
「じゃあ、ここにサインしな」
「サイン?」
「万が一の用心だよ、しっかり書きなよ、外泊申請なんだから」
 実を言うと、うちの寮は門限も外泊もそれほど厳しくはない。門限後であっても、書式さえ揃っていれば外泊申請が通るし、24時間有効の寮玄関と正面寮門用のカードキーが発行される。当然のことながら、あたしは既に申請済みだ。
「明日の朝、出し損なったって事であたしが代わりに出しといてやるから」
 寮からの出入りに関してはあたしと一緒にという事にして、書類だけ格好つけとけば、あとはどうにでも言い逃れできる。
「外泊申請ねぇ……用紙でかくね?」
「どっかの傭兵契約書じゃねーの?」
 ミニマグライトを咥えてサインしながら、二人はよくわからない事をぶつくさ言っていた。

「っとに……なんで揃いも揃ってあんた達2ストなのよ!」
 目的地の少し手前でバイクのエンジンを切り、メットを脱いだところであたしは二人に文句を言った。
 あたしの妹達も2スト乗りだし、あたしも借りて乗った事もあるから、あの吹け上がる感じが病み付きになるってのはわかる。けど、特にこいつらの、MVXにNSなんてどっから拾って来たんだっていう旧式2ストクォーターの後ろなんか走った日にはもう、煙いわ臭いわオイル飛んで来るわで最低最悪極まりない。それでも、目的地を知らないあたしは、白煙吐きまくりのロートル2ストクォーターの後ろを走るしかなかった。
 ……まあ、あたしのCBX-SC06も旧式という意味では全く引けを取らないんだけど……
「あんた達、明日洗車と洗濯手伝いなさいよ!」
「へーい」
 低い声の返事がハモった。

「……で?」
 寮からバイクで走る事三十分ほど。キューポラのある街だったり、オートレース場があったりする、都心からは荒川を渡ってすぐのベッドタウンであり歓楽街でもある川口の一角に、あたし達は居た。
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