ー「協会」事件簿 その1ー 「親の仇は旦那様」

二式大型七面鳥

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「で?何か聞き出せやしたか?」
 公園の、隣のベンチに座った雲水坊主が、コンビニで買ってきた助六弁当をつまみながら聞く。
「昔話を教えてもらったわ、このあたりが沼だった頃の事と、奥さんとのなれそめ話」
 同じく、コンビニのおにぎりを頬張りながら、蘭鰍あららぎ かじかが答える。
 日暮れの近づいた、マンション建設現場に隣接した公園。さっき、梅野松蔵がリハビリがてらに一周歩いた池の畔のベンチに、鰍と河の市かわのいちは隣り合ったベンチに腰掛けて、夕食にまだ少々早い弁当を詰め込んでいた。
「終戦直後の食糧事情の悪いとき、ここの沼の魚を捕って食べ繋いでいて、ある時大鯰があがった。喜んでみんなで食べたけど、余りにも大きいからぬしだったんじゃないかって。で、沼のほとりに石を積んで供養した、そんな話ね」
「その話なら、あたしも奥方から聞きやしたがね。その石ってのが、どうやら肝のようでさ」
 目を合わせる事もなく、二人は話を続ける。もとより殆ど人気のない公園、端から見れば、デイケア職員と托鉢坊主が、それぞれ別個に弁当を食べているようにしか見えない。
「石?動かされたとか、砕かれたとか?」
 状況と、過去の事例と経験から考えて、「主が化けて出る」ありそうな原因を鰍が挙げる。
「いやね、奥方が言うには、マンション建てるんで祠ごと石を移したってんですがね。移した先に、祠はあるけど石ってのが見当たらないんでさ」
 河の市は、梅野なずなから供養を頼まれた後、移した先の祠と、工事現場に無理を言って、その祠が元あった場所を確認し、ちゃんと経も読んで来ていた。こう見えても、歴とした高野聖ではあるのだ。
「あっちゃー……それかー……」
「奥方か旦那か、頼んではおいたんでしょうが、現場は祠しか目に入ってなかったんでしょうや。ま、よくある話ってヤツで」
「こないだアンタが戻した石は?」
「ありゃ別ですな、湧き水の水源の置き石、それなりに謂われはあるようでやしたが。もう一度潜って確かめたいところだが、まっ昼間っから人前じゃあどうにも。それに、曲がりなりにも、仮にも五十年は供養されたんだ、今更石が退かされたからってああも祟るってのも解せねえ」
 言って、河の市は助六の稲荷を口に放り込む。それを、ペットボトルの緑茶で飲み下し、
「奥方の物言いも気になりやす。お気づきでしょうが……」
「……あのおばあちゃんは、何れいずれの魚の眷属。話から察するに、鯰の化生けしょうね?」
「ご名答で。あたしの正体も気付いた様子で。まあ、気づかせたんでやすがね」
「にしても、主の仇討ちにしては気の長い話ね」
「最近の言葉で言う、スリーパーってヤツですかな?」
「どうかしらね……まあ、時間もない事だし、手っ取り早く今夜、潜ってみましょ」
「したら、あたしはこっちを見張りやしょう。どうにもこっちもそろそろヤバそうだ」
「二面作戦ね。OK」
 最後の一つ、梅干しのお握りを口に放り込んだ鰍に、最後に残しておいたカッパ巻を飲み込んだ河の市が頷いた。
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