116 / 141
第七章:決戦は土曜0時
115
しおりを挟む
……嘘でしょ……
蘭円は、その姿を見て、その正体に気付いて、流石に驚愕した。
……あんなものを、手下にしてたのか、その張果とかいう道教の道士は。とんでもない奴も居たもんだわね……
自分なら、それでも、楽勝とは言わないが負ける気はしない。だが、孫達だけでは、ちょっとわからない。ましてや……
そんな事を考え、円は両手に朱と黒の一対の鉄扇を持ち、既に呪文詠唱の準備に入って動けない鰍の前に出る。
「……あんたは気にせず封陣の上書きに集中しなさい」
振り向かずに鰍に命ずる円に、鰍は、答える代わりに、己のイメージ力をベースにした、まばゆく光る魔法円を展開した。
「な、なんです?これ……」
蒲田は、倉庫の事務棟二階の外階段からその光景を見て、誰にともなく説明を求めた。
……光景としては、そう、火曜日に鰍さんがやった魔法、あの時の、呪いの人形を浄化する時に東雲の倉庫の床に描いた奴、あれにそっくりです、はい。でも……大きさがけた違いだし、第一、あの時は僕たちも「おまじない」してもらってますが、今は何もしてないのに、見えてます、はい……
思わず横に居る西条玲子を見た蒲田は、玲子が、その床の魔法円を見て、外廊下の手すりを握りしめて凍り付いたようになっている事に気付く。
……なんて、なんて大きくて、力強い法円……
玲子は、鰍の法円は何度か見ている。最初は、井ノ頭邸で最初に会った時。毒蛇の矢で射られた時田を救うために鰍が魔法を使った時。それ以降も、井ノ頭邸で柾木の肉体を修復する作業の手伝いの過程で、割とちょくちょく鰍は魔法を使っており、最低でも週一で様子を見に行っていた玲子はたびたびその光景を目撃している。
だから、玲子にとって、鰍の魔法円自体は別に珍しいものではない。しかし。
この規模と、その光の強さは、想像を絶していた。
「姉貴!」
「おう!」
破れたシャッターのギリギリ内側で、鰍の展開する魔法円を踏み、馨と巴はそれぞれの獲物、トンファーと木刀を構え直し、念をこらす。
巴の黒い木刀「ゆぐどらしる」が、金属光沢すら感じる鈍色の念を纏う。馨のトンファーも、ほのかな鈍色の光を帯びる。
「やっぱすげーや、あたし達の妹さんは!」
馨が、嬉しそうに言う。
「あったり前よ、あたし達の妹だぜ?」
巴も、頷いて同意する。
なんたって、あの子が一番苦労してるんだから……
その思いは、姉二人に共通のものだった。
「なんだこりゃ……」
青葉五月を横抱きにしたまま、倉庫のコンクリの床に膝をついていた酒井は、呆けた声を出す。
「……すごい……」
薄目を開けた五月が、呟く。
「五月さん、気が付いたのか?」
五月の呟きに気付いた酒井が、その顔をのぞき込む。
「はい……「気」が換わったから、目が覚めました」
言って、五月は酒井の肩に手を置く。置いてから、逡巡する。どうしよう、立ち上がるか、それとも。
折角だから、このままもう少し、源三郎さんに抱っこしていてもらおうか。この「気」は、とっても気持ちいいし……
「……どうかした?」
自分を見て動きを止めた五月に、特に今はデリカシーというものをどっかにぶん投げている酒井が無神経に聞く。
「いえ、別に……」
五月は、視線を下げて酒井の顔から目を逸らすと、酒井の肩に置いた手も引っ込めた。
「っててて……」
柾木は、目を醒まして体を起こす。最初の着地の時に擦った足の裏だけでなく、さっき着地に失敗した時に打ったり擦ったりした体中が痛む。とはいえ、そこはエータの体だから、痛覚は遮断出来る。一通り体が「故障」してないことを確かめて、柾木は痛覚を遮断し、立ち上がる。
「大丈夫ですか?すっごい落ち方してましたけど……」
その時初めて、柾木は自分の傍らに、散弾銃を下向きに構えた信仁が居たことに気付く。
「え!ああ、大丈夫です。この体、生身よりかなり丈夫なんで……」
「そりゃよかった、まだ終りじゃないですからね、気ぃ抜かないで下さい」
前を、破れたシャッターの向こうに見える、葉法善だったものを見つめながら、顔は微笑んでいるが目はまるで笑ってない信仁が、柾木に忠告し、ついでのように、聞く。
「……見えてます?」
「何が?」
葉法善のことか?柾木は、即座に真剣に聞き返す。
「……あー、いえ、何でもないです、そっか……」
信仁は、何事か納得したようだった。
蘭円は、その姿を見て、その正体に気付いて、流石に驚愕した。
……あんなものを、手下にしてたのか、その張果とかいう道教の道士は。とんでもない奴も居たもんだわね……
自分なら、それでも、楽勝とは言わないが負ける気はしない。だが、孫達だけでは、ちょっとわからない。ましてや……
そんな事を考え、円は両手に朱と黒の一対の鉄扇を持ち、既に呪文詠唱の準備に入って動けない鰍の前に出る。
「……あんたは気にせず封陣の上書きに集中しなさい」
振り向かずに鰍に命ずる円に、鰍は、答える代わりに、己のイメージ力をベースにした、まばゆく光る魔法円を展開した。
「な、なんです?これ……」
蒲田は、倉庫の事務棟二階の外階段からその光景を見て、誰にともなく説明を求めた。
……光景としては、そう、火曜日に鰍さんがやった魔法、あの時の、呪いの人形を浄化する時に東雲の倉庫の床に描いた奴、あれにそっくりです、はい。でも……大きさがけた違いだし、第一、あの時は僕たちも「おまじない」してもらってますが、今は何もしてないのに、見えてます、はい……
思わず横に居る西条玲子を見た蒲田は、玲子が、その床の魔法円を見て、外廊下の手すりを握りしめて凍り付いたようになっている事に気付く。
……なんて、なんて大きくて、力強い法円……
玲子は、鰍の法円は何度か見ている。最初は、井ノ頭邸で最初に会った時。毒蛇の矢で射られた時田を救うために鰍が魔法を使った時。それ以降も、井ノ頭邸で柾木の肉体を修復する作業の手伝いの過程で、割とちょくちょく鰍は魔法を使っており、最低でも週一で様子を見に行っていた玲子はたびたびその光景を目撃している。
だから、玲子にとって、鰍の魔法円自体は別に珍しいものではない。しかし。
この規模と、その光の強さは、想像を絶していた。
「姉貴!」
「おう!」
破れたシャッターのギリギリ内側で、鰍の展開する魔法円を踏み、馨と巴はそれぞれの獲物、トンファーと木刀を構え直し、念をこらす。
巴の黒い木刀「ゆぐどらしる」が、金属光沢すら感じる鈍色の念を纏う。馨のトンファーも、ほのかな鈍色の光を帯びる。
「やっぱすげーや、あたし達の妹さんは!」
馨が、嬉しそうに言う。
「あったり前よ、あたし達の妹だぜ?」
巴も、頷いて同意する。
なんたって、あの子が一番苦労してるんだから……
その思いは、姉二人に共通のものだった。
「なんだこりゃ……」
青葉五月を横抱きにしたまま、倉庫のコンクリの床に膝をついていた酒井は、呆けた声を出す。
「……すごい……」
薄目を開けた五月が、呟く。
「五月さん、気が付いたのか?」
五月の呟きに気付いた酒井が、その顔をのぞき込む。
「はい……「気」が換わったから、目が覚めました」
言って、五月は酒井の肩に手を置く。置いてから、逡巡する。どうしよう、立ち上がるか、それとも。
折角だから、このままもう少し、源三郎さんに抱っこしていてもらおうか。この「気」は、とっても気持ちいいし……
「……どうかした?」
自分を見て動きを止めた五月に、特に今はデリカシーというものをどっかにぶん投げている酒井が無神経に聞く。
「いえ、別に……」
五月は、視線を下げて酒井の顔から目を逸らすと、酒井の肩に置いた手も引っ込めた。
「っててて……」
柾木は、目を醒まして体を起こす。最初の着地の時に擦った足の裏だけでなく、さっき着地に失敗した時に打ったり擦ったりした体中が痛む。とはいえ、そこはエータの体だから、痛覚は遮断出来る。一通り体が「故障」してないことを確かめて、柾木は痛覚を遮断し、立ち上がる。
「大丈夫ですか?すっごい落ち方してましたけど……」
その時初めて、柾木は自分の傍らに、散弾銃を下向きに構えた信仁が居たことに気付く。
「え!ああ、大丈夫です。この体、生身よりかなり丈夫なんで……」
「そりゃよかった、まだ終りじゃないですからね、気ぃ抜かないで下さい」
前を、破れたシャッターの向こうに見える、葉法善だったものを見つめながら、顔は微笑んでいるが目はまるで笑ってない信仁が、柾木に忠告し、ついでのように、聞く。
「……見えてます?」
「何が?」
葉法善のことか?柾木は、即座に真剣に聞き返す。
「……あー、いえ、何でもないです、そっか……」
信仁は、何事か納得したようだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる