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第七章:決戦は土曜0時
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「問題は、場所がどこか、って事ですね、はい」
蒲田が、もっともな意見を出す。
「……すみません、俺、そこは分からなくて……」
「いやいや、北条君の情報は充分役に立ってる、場所が分からないのは君のせいじゃないさ。それに……」
酒井が、済まなそうにする柾木の背中を軽く叩いて励ましつつ、足下の鼻骨と前歯を損傷して昏倒しているらしい若頭を見下ろし、
「……こいつが教えてくれるさ」
アンモニアの入った小瓶を鼻先で嗅がされ、若頭は意識を取り戻す。
「……なんでそんなものまで持ってるんですか?」
「え?いや、ミリオタのたしなみです」
思わず聞いた蒲田に、信仁はいやあ照れるなあとか言いつつ答える。
そんな外野のやりとりを無視して、酒井は、若頭に聞く。
「答えろ。あの車の男二人と、別の若い女一人。この近くの別の場所に居るな?どこだ?」
若頭の口から、血の泡が少し吹き出す。若頭は何か言おうとしたらしい。
「正直に答えるなら、ちょっとだけ治してあげるわよ」
言いながら、鰍が酒井の横からしゃがみ込んで、ダガーの鎬で若頭の鼻と口をちょんちょんと叩く。途端に、血の泡が吹き出さなくなる。
「もう少し治して欲しいなら、答えなさい?」
慈母のように微笑みながら、鰍は若頭を促した。
「……あった、ここです、はい」
キザシの運転席で、若頭が言った「グリーン興業金沢営業所」の名前でナビ情報を検索していた蒲田は、ヒット結果を目的地に、現在地を出発地に設定して経路検索結果を表示させる。
「……近いな、所要時間は十分未満?」
助手席からのぞき込んでいた酒井が唸る。
なるほど、北条君の見たコンビニ弁当からの推理は正しかったわけだ。酒井は、北条柾木の観察眼に素直に感心する。販社の営業マンにしとくにゃ惜しいかもな。
「ガセの可能性もありますけど、はい。この状況では、その可能性は低いでしょう、はい」
酒井に向き直った蒲田は、言い切る。その目は、行くべきだと語っている。
「決まりね。じゃあ、あたしはここの連中を一旦眠らしとくわ」
開きっぱなしの助手席ドアから上半身を突っ込んで酒井と一緒にナビ画面を見ていた円が、体を引いて、言う。円が上体を引いた軌跡に、殺伐とした場にそぐわないほのかに甘い残り香が漂う。官能的な、高級な香水の匂い。
「……お願いします。熊川警部補」
思わずその匂いで放心しそうになった酒井は、気を取り直して熊川を呼ぶ。
「はい?」
「八課に連絡して、この住所と名前で令状取ってくれ。それと、令状取れ次第それ持ってここに応援に来るよう頼んでくれ」
「え、い、今からですか?」
時計の針は土曜の午前零時を既に回っている。
「そうだ。待ってられないから俺たちは先行する。君はここで応援の到着を待って、来たら案内してくれ」
「え、いやしかし、こんな時間に誰か居るかな……」
「八課に誰も居なきゃ、刑事部の他の課員に頼みたまえ」
「しかし……あんまりよそに借りを作るなってキャップが」
「警察庁分調班の酒井の依頼だって言えば良い。後で酒井が粗品持って挨拶に行きますってな」
そこまで言って、酒井はキザシの助手席から出る。キザシとブルーバードは既に現在地、有限会社グリーンリサイクル興業の駐車エリアに回してある。信仁はブルのトランクに銃を仕舞っている。円は、鰍が封じたこの敷地の、その封印の魔法陣に立ってなにやら祝詞を唱え、丁度今、勢いよく腕を振って指をパチンと鳴らした所だった。防犯灯の薄明かりの中、夜空より黒い無数の何かが円の周りに集い、散る。
「頼めるか?」
「は、はい」
助手席ドアより少し左前輪側に居る熊川に視線を戻して聞いた酒井に、熊川も肯定の返事を返す。
「よし……北条君、西条さん、乗って下さい。蘭さん、準備はよろしいですか?」
睡魔、と言うらしいその小さな黒い何かを解き放ったらしい円が、小走りにブルに近づき、
「お待たせ!やって頂戴!」
後席右ドアを閉めながら、酒井達と、ブルの運転席の信仁の両方に言う。
「よし、行こう」
「出します、ベルトして下さい」
「は、はい」
キザシの助手席に戻り、ドアを閉めながら言った酒井に蒲田はいつも通りに返し、後席の玲子が慌ててベルトを締めながら返事をする。普段と少し勝手の違う車、違うシートベルトに少し手間取る玲子を、柾木は無意識に手伝っている。
フットブレーキを踏んでサイドブレーキを落とし、セレクタをドライブに入れて横を一瞥した蒲田は、ブルの運転席で信仁が親指を上げたのを見て、フットブレーキを離した。
蒲田が、もっともな意見を出す。
「……すみません、俺、そこは分からなくて……」
「いやいや、北条君の情報は充分役に立ってる、場所が分からないのは君のせいじゃないさ。それに……」
酒井が、済まなそうにする柾木の背中を軽く叩いて励ましつつ、足下の鼻骨と前歯を損傷して昏倒しているらしい若頭を見下ろし、
「……こいつが教えてくれるさ」
アンモニアの入った小瓶を鼻先で嗅がされ、若頭は意識を取り戻す。
「……なんでそんなものまで持ってるんですか?」
「え?いや、ミリオタのたしなみです」
思わず聞いた蒲田に、信仁はいやあ照れるなあとか言いつつ答える。
そんな外野のやりとりを無視して、酒井は、若頭に聞く。
「答えろ。あの車の男二人と、別の若い女一人。この近くの別の場所に居るな?どこだ?」
若頭の口から、血の泡が少し吹き出す。若頭は何か言おうとしたらしい。
「正直に答えるなら、ちょっとだけ治してあげるわよ」
言いながら、鰍が酒井の横からしゃがみ込んで、ダガーの鎬で若頭の鼻と口をちょんちょんと叩く。途端に、血の泡が吹き出さなくなる。
「もう少し治して欲しいなら、答えなさい?」
慈母のように微笑みながら、鰍は若頭を促した。
「……あった、ここです、はい」
キザシの運転席で、若頭が言った「グリーン興業金沢営業所」の名前でナビ情報を検索していた蒲田は、ヒット結果を目的地に、現在地を出発地に設定して経路検索結果を表示させる。
「……近いな、所要時間は十分未満?」
助手席からのぞき込んでいた酒井が唸る。
なるほど、北条君の見たコンビニ弁当からの推理は正しかったわけだ。酒井は、北条柾木の観察眼に素直に感心する。販社の営業マンにしとくにゃ惜しいかもな。
「ガセの可能性もありますけど、はい。この状況では、その可能性は低いでしょう、はい」
酒井に向き直った蒲田は、言い切る。その目は、行くべきだと語っている。
「決まりね。じゃあ、あたしはここの連中を一旦眠らしとくわ」
開きっぱなしの助手席ドアから上半身を突っ込んで酒井と一緒にナビ画面を見ていた円が、体を引いて、言う。円が上体を引いた軌跡に、殺伐とした場にそぐわないほのかに甘い残り香が漂う。官能的な、高級な香水の匂い。
「……お願いします。熊川警部補」
思わずその匂いで放心しそうになった酒井は、気を取り直して熊川を呼ぶ。
「はい?」
「八課に連絡して、この住所と名前で令状取ってくれ。それと、令状取れ次第それ持ってここに応援に来るよう頼んでくれ」
「え、い、今からですか?」
時計の針は土曜の午前零時を既に回っている。
「そうだ。待ってられないから俺たちは先行する。君はここで応援の到着を待って、来たら案内してくれ」
「え、いやしかし、こんな時間に誰か居るかな……」
「八課に誰も居なきゃ、刑事部の他の課員に頼みたまえ」
「しかし……あんまりよそに借りを作るなってキャップが」
「警察庁分調班の酒井の依頼だって言えば良い。後で酒井が粗品持って挨拶に行きますってな」
そこまで言って、酒井はキザシの助手席から出る。キザシとブルーバードは既に現在地、有限会社グリーンリサイクル興業の駐車エリアに回してある。信仁はブルのトランクに銃を仕舞っている。円は、鰍が封じたこの敷地の、その封印の魔法陣に立ってなにやら祝詞を唱え、丁度今、勢いよく腕を振って指をパチンと鳴らした所だった。防犯灯の薄明かりの中、夜空より黒い無数の何かが円の周りに集い、散る。
「頼めるか?」
「は、はい」
助手席ドアより少し左前輪側に居る熊川に視線を戻して聞いた酒井に、熊川も肯定の返事を返す。
「よし……北条君、西条さん、乗って下さい。蘭さん、準備はよろしいですか?」
睡魔、と言うらしいその小さな黒い何かを解き放ったらしい円が、小走りにブルに近づき、
「お待たせ!やって頂戴!」
後席右ドアを閉めながら、酒井達と、ブルの運転席の信仁の両方に言う。
「よし、行こう」
「出します、ベルトして下さい」
「は、はい」
キザシの助手席に戻り、ドアを閉めながら言った酒井に蒲田はいつも通りに返し、後席の玲子が慌ててベルトを締めながら返事をする。普段と少し勝手の違う車、違うシートベルトに少し手間取る玲子を、柾木は無意識に手伝っている。
フットブレーキを踏んでサイドブレーキを落とし、セレクタをドライブに入れて横を一瞥した蒲田は、ブルの運転席で信仁が親指を上げたのを見て、フットブレーキを離した。
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