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第七章:決戦は土曜0時

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 突然、軽い地震のような揺れを伴って、金属が何かにぶち当たり、ひしゃげるような轟音が轟いた。
「ぅあっ?」
「何だぁ?」
 眠りの浅かった北条柾木ほうじょうまさきはその轟音がするなり目を覚まし、暗がりの中で背後に横になっているはずの西条玲子さいじょうれいこの安否を確かめる。すぐさま、柾木より一瞬早く目を開け、即座に行動を起こした酒井源三郎さかいげんざぶろうが電気のスイッチを入れる。
 柾木は、急な眩しさに目をしばたかせる。玲子は、ソファベッドの上に半身を起こし、まん丸お目々で掛け布団代わりの柾木のスタジアムコートを口元まで抱き寄せている。まずはその無事を確認して安堵した柾木だが、その愛らしい姿に見とれている余裕はない。
「何ですか酒井さん、今の音は?」
「わからん、あっちの方からだったと思うが……事故か?」
 酒井は、ドアの向こうを顎でしゃくって示す。
「どうなんでしょうね?……大丈夫ですか?玲子さん?」
 柾木は、ガラステーブルの上の玲子のボンネットを渡しながら、玲子に聞く。
「は、はい、 びっくりしましたが……はい、平気です」
 渡されたボンネットをあわてて着けながら、玲子が答える。
「……もしかしたら、こりゃあ、チャンスって奴かもしれんな……」
 酒井は、頭の上が妙に騒がしくなったことに気付き、言った。

 ここは、幅二十メートル、奥行き三十メートル程はあるリサイクル企業の倉庫件再処理施設、その倉庫に入ってすぐ右側、壁二面に接するプレハブ構造二階建ての事務棟、その事務棟入って左奥の仮眠室らしい六畳間である、というのが、隣の事務所に入るまで目隠しされていた柾木と、事務棟に入るなり殴られて昏倒した酒井の断片的な記憶に、ここまで全部見ている玲子の記憶を足して整理して得た結論だった。
 今、柾木、酒井、玲子が居るその仮眠室は、トイレを挟んで五メートル四方ほどの事務所に廊下で接しており、共にプレハブの一階部分である。二階部分の内部は分からないが、酒井の感触で言えば、外階段で上がるそこは宿舎棟ではないか、という事だった。実際、今日も夕方の終業以降はどやどやとそれなりの人数が上の階に入る足音が響いていた。食堂や風呂があるとは思えないので、あくまで泊まり込み専用の部屋だろうが、二十人か、詰めればもう少し入るのではないか、というのが酒井の見立てだった。
 その二階部分が、先ほどの轟音から以降急に、蜂の巣をつついたように足音がし始め、何人かが外階段の鉄のステップを駆け下りていくのが聞こえた。
「……チャンスって、そういう意味ですか?」
「まあ、そういう事なんだが……」
 一応、盗聴を警戒して直接的な言い回しを避けた柾木に、酒井が答える。とはいえ。
 ……正直な話、俺一人なら、このドアくらいぶち破るのはわけないだろうし、そこから力ずくで外まで強行突破も出来る気がする。だが、北条君だけならともかく、西条さんを連れてとなると、そういう危険は冒せないな……
「……まだ、迂闊に行動を起こすタイミングじゃあなさそうだな。様子が分からなすぎる」
「……ですね」
 似たような想定と結論を得たのだろう、柾木も同意する。
 ……とはいえ、何が起きているかは分からないが、千載一遇のチャンスだろう事は間違いないんだよな……
 酒井は行くべきか待つべきか葛藤し、葛藤しつつ判断する材料が圧倒的に足りないことに苦悩した。

 葛藤しているのは、柾木も同様だった。張果ちょうかのさっきの様子、それに予定外、想定外だったろう玲子さんや酒井さんの出現、どう考えても向こうにとってはトラブルだろう。そうなると、映画でもドラマでも犯人グループは刹那的になりがちだから、今この状況だってそうなる可能性は高い、そうならない保証は無い。もしかしたらあの人達・・・・が助けに来てくれたのかも知れないけれど、そうなると犯人グループは俺たちを人質に脅す、逃げる、なんて最終手段もあり得る。そうなる前に何とかした方がいいよな、これは……
 そうは思うのだが、一介の会社員であり、ましてや生身の体の柾木にとって、この状態から出来る事など何一つ思いつかない。

 ドアの外を見つめて歯噛みしている酒井と、何か考えて腕組みしてしまった柾木を交互に見ていた玲子は、だから唯一、この状況で窓の方から聞こえた微かな物音に気付き、音源の方向を見た。
 その音源、ガラスが黒く塗りつぶされているアルミサッシのクレセント錠付近で、玲子の見つめる中、再び微かな音が響き、二つ目のひび割れがガラス面に走った。
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