上 下
41 / 141
第四章:深淵より来たる水曜日

040

しおりを挟む
「ラムダサード、君はボクの起動命令無しに稼働状態になっていた形跡がある。これについて、記録があれば音声で報告せよ」
 緒方いおりが、計測器のモニタを注視しながら、作業台上のラムダに命令する。
 ラムダを井ノ頭邸に持ち込んだ酒井と蒲田、興味津々でかぶりつきの信仁は、作業台手前の最前列で様子を見ている。柾木と玲子はその少し後ろに、さらに玲子の後ろに時田と袴田が控える。巴と馨はイマイチ興味がないのか、人混みから少し離れて作業台の頭側に、菊子は自分を計測器のサポートに使っているのか、自身も首の後ろに接触型コネクタを貼り付けた状態で作業台のいおりサイドの頭側にいる。
 ラムダが、エータを経由して答え始める。
「5月18日から、セキュリティシステムに不正規入力による制御中枢への干渉が記録されています。セキュリティは不正規入力に対する対応として、スタンバイ状態であった制御中枢をシャットダウンし、以降ラムダ3は約30秒前のマスターからの起動命令まで、セキュリティの監視機能及びログ機能以外は機能停止を維持しました」
 エータの話す声は、当然のように柾木の声そのものだ。
「よろしい、ラムダ3、次の命令まで待機」
「はい」
 いおりは視線を聴衆に向けた。
「詳しい事はセキュリティのログを解析しないと分かりませんが、ラムダ3の言っている事に間違いはないようです。ラムダ3はあの日、強奪された時は試運転後のパーツレベルでの作動検証の為に分解状態にあり、制御系はスタンバイ状態でしたから、言っている事と整合します。不正規入力というのは、何者かが呪的な方法で無理矢理ラムダ3をコントロールしようとしたのだと考えられます」
「よく分からないのですが……つまり、スイッチ切っておいたのに、誰かが魔法だかなんだかで勝手に動かしたって事ですか?」
 酒井がいおりに聞く。いおりは頷くと、
「さっきも言いましたが、ボクのオートマータは構造的には人間に近いので、人間を使役する呪術で動いてしまった可能性が高いです。その場合、本来の制御系が死んでいても、外部からコントロール出来ちゃったんだと思います……ああ、これだ」
 いおりは、計測器のトラックパッドを操作して、何か手がかりとなるログの記述を見つけたらしい。
「ボクの知っている錬金術や魔法の系統じゃないですね、シャーマニズム系の何かかな?菊子さん、該当する記録を検索出来ますか?」
「ちょっと待って下さいね……」
 いおりが菊子に尋ねると、菊子の返事と共に実験室の隅の棚にいくつもの小さな明かりが灯り、めまぐるしく瞬く。
「……うわ、あれ全部NASかなんかだったのか」
 信仁が呟く。瞬く明かりに照らされたそれは、大きな本棚くらいの大きさの、しかし本ではなく、びっしりとガラス瓶が並んでおり、ガラス瓶の中はしわくちゃなスポンジ状の何かが詰まっている。
「ああ、記憶専用のポジトロン大脳皮質です、USロボット社から試作品を分けてもらいました。ボクのオートマータ達の制御中枢もみんなこれです」
「USロボット社て……」
 何でもないことのように答えたいおりの台詞に信仁が絶句しているが、酒井も蒲田もその意味がわからない。やはり分かっていない柾木は、そんなに凄いんですか、と玲子に聞こうと横を見て、玲子も信仁と同じように絶句している事に気付く。
「……はい、このあたりがヒット率高いですね」
 ややあって、菊子が言う。モニタに検索結果が表示されているらしく、いおりがモニタをのぞき込む。
「あー、これはボクも知らないわけだ、なるほど……これなら確かに動くかも」
 何事か納得した様子のいおりは、聴衆に向き直ると、皆に聞く。
「皆さん、殭屍キョンシーって知ってます?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

レベルアップしない呪い持ち元神童、実は【全スキル契約済み】 ~実家を追放されるも呪いが無効な世界に召喚され、爆速レベルアップで無双する~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 代々宮廷魔術師を務める名家に庶子として生まれたリーノ、世界に存在する全ての”スキル”を契約し、一躍神童と持ち上げられたがレベルアップ出来ない呪いが 発覚し、速攻で実家を追放されてしまう。 「”スキル辞典”のリーノさん、自慢の魔術を使ってみろよ!」 転がり込んだ冒険者ギルドでも馬鹿にされる日々……めげないリーノは気のいい親友と真面目な冒険者生活を続けていたのだが。 ある日、召喚獣として別世界に召喚されてしまう。 召喚獣らしく目の前のモンスターを倒したところ、突然リーノはレベルアップし、今まで使えなかったスキルが使えるようになる。 可愛いモフモフ召喚士が言うには、”こちらの世界”ではリーノの呪いは無効になるという……あれ、コレってレベルアップし放題じゃ? 「凄いですっ! リーノさんはわたしたちの救世主ですっ!」 「頼りにしてるぜ、リーノ……ふたりで最強になろうぜ!」 こっちの世界でも向こうの世界でも、レベルアップしたリーノの最強スキルが大活躍! 最強の冒険者として成り上がっていく。 ……嫉妬に狂った元実家は、リーノを始末しようととんでもない陰謀を巡らせるが……。 訪れた世界の危機をリーノの秘儀が救う? 「これは……神の御業、NEWAZAですねっ!」 「キミを押さえ込みたいんだけど、いいかな?」 「せ、せくはらですっ!」 これは、神童と呼ばれた青年が、呪いの枷から解き放たれ……無数のスキルを駆使して世界を救う物語。 ※他サイトでも掲載しています。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
【完結】ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。 その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。 その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。 さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。 様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。 ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。 そして、旅立ちの日。 母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。 まだ六歳という幼さで。 ※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。  上記サイト以外では連載しておりません。

処理中です...